「これが例の編集長が選んだ漫画?確かに光る所あるわねぇ魚だけに」
「やかましい、言っとくが自分はもう何週間も原稿を催促してるんだぞ」
ネオジャンプ作成プロジェクトから一ヶ月、
たくっちスノーは
フィルトナの元に上がり込んで徹底的に新作を作らせるように監視していた。
もういつまで立ってもちゃんとした漫画が完成しないのに時間は経つのでミリィの新技、一時的な拠点を作る『ブラックハウス』に閉じ込めてそばにいるのだ。
「お前ドラゴンボールやワンピース描きたいんだろ?だったら頑張れ!漫画作りたいって思いを見せろ!」
「そんなの私は……私は……」
フィルトナは熱い思いに押されてペンを動かしていくが手が止まり俯く。
「……確かに私にとって漫画はただの手段よ、貴方に会いたかった……
時空監理局に近づく手段が欲しかったのよ、たまたま私の中にあるジャンプが題材だから上手くやれば
マガイモノの貴方に会えると思った」
「そういえばはっきりしてなかったな、アンタはなんか怪しいと思ってた……なんなの?フィルトナ」
フィルトナはたくっちスノーの問いに答えるつもりでペンに自分の腕を刺して引き抜く、身体を通したペンは真っ赤な血ではくインクのように黒い物を吸い取っている。
たくっちスノーはコレを良く知っている……というより覚えしかなさすぎるが驚く。
「そう……私は知能のあるマガイモノ、貴方と同じで……」
「お前自分の成分で漫画描いてたの!?そりゃパクリみたいな話にしかならんわけだ!!」
「えっ驚くところそっち!?」
たくっちスノーはフィルトナが所有していたインクを取り上げて市販のインクにして描かせる。
わかったことはフィルトナは漫画を描くフリをしてマガイモノ成分を塗って原稿を作成していたこと……ジャンプのパクリになるのはそれだけ彼女の成分がジャンプ作品寄りということだろう。
そうなるとド素人みたいな出来でも黒影が読み切りを見ただけで載せようと言い出したのも納得がいく。
「黒影はフィルトナに気がついてたのかな?」
「マガイモノのことが分からないはずがないわ、でもこうしてたくっちスノーに会えたから良かっ……」
言い終えるまでもなくたくっちスノーはフィルトナにビンタする、フィルトナの目的なんてどうでもいい。
だが選ばれたにも関わらず真剣さもない様子に嫌気が差していた、何故ここまで食い違うのか……ようやく分かった。
「フィルトナの中ではもう目的を達成しているけど僕達はこれからなんだ、僕の顔を見れて充分なんだろ?」
「あっ……待ってたくっちスノー!このままじゃ」
「じゃあ原稿頑張って、頑張る気があるなら」
◇
「おーいたくっちスノー、暇っすか?」
「暇なわけないだろ、今ジャンプラにネオジャンプの優秀な読み切り作品掲載するように頼んでるところだよ」
戻って直ぐにまた別の作業、あれやこれやとやっているが結局の所ネオジャンプが完成しているわけではない。
いつまでも足を進められない停滞感は遂に爆発しそうになっていたことを
野獣先輩は伝える。
「さっきクレームみたいなの来てたっすよ、いつになったらネオジャンプは作られるんだって」
「無理もない、発表してから1ヶ月……最初当たりに決まった人からすればもう何週間も待たせている」
しかし未だに連載作品は集まっていない……それも残っているのは後3作品。
全部たくっちスノーが担当する予定の漫画だ、野獣先輩が言いたいことも分かるしたくっちスノーが一番その責任というものをよく分かっている為焦りが顔に出る。
「……黒影に何本か抜いた状態で初版を売ることは出来ないか?」
「ないです、アイツなにがなんでも20本で通すらしいっすよ」
「くっ……もう後がない、アレが気になるとか言ってらんないな……あと3本も残ってるのに」
「……あのバカ扱いしてた作者の様子どうなんスか?」
「フィルトナは……あいつは……期待……出来るかは分からない」
あそこまでガッカリしてもまだ信じてしまうのがたくっちスノーの悪いところである、ここまで話した以上黙っておけないとまず身内に話すことにする。
口が軽い野獣先輩に話すなんて普段なら避けるが今はそうこう言ってられない。
「ふーん、まあ良かったんじゃないスか、アンタずっと知能のあるマガイモノに会いたがってたし……やる気ないって分かっただけでも万々歳スよ、捨てられるし」
「ま……待って!!たくっちスノー!!出来たから!!ちゃんと作ったから!!」
ボタンも押してないのに
マガフォンから連絡が来て漫画が画面から出てくる、マガフォンに物を送り込む機能は無かったはずなのでフィルトナの力かもしれない。
送られてきた漫画はと言うと急激に絵が汚くなったが……たくっちスノーは最後まで読んだ、読んだ末に原稿へ力を加える。
たくっちスノーは絵柄を模倣してそれを描きなぞり始めた。
「ポチだって連載持ってるんだ、自分もこれくらいやってやる……原作はあいつ、作画は自分……あいつやっと文句の言いようもない作品を作れたな」
「アンタやっぱ知人に甘くないスか」
「……おだまり」
◇
そこからはトントン拍子に話が進み異世界系に連載が入る。
その作者は心からこのネタを通したいと思っている、EXEは本当に描きたいネタなら導いて出来る限り尊重したいと言っていた、ボディーガードがここまでの心構えを持っているのに自分がこの始末では笑われるだろう。
「『スキル』交通標識……本当にこれでやりたいんだな?」
「はい」
「お前の魂にかける!」
たくっちスノーのこれまでの苦労はなんだったのかあっという間に連載3本目。
なんとかすればネオジャンプ実行も夢じゃないところまで来た、思い返せば長かったがようやくここまで進められた……あと1つ、1つだけでいいという安心感がたくっちスノーを動かす。
久々に心が安らいでいると黒影が顔を見せてくる、言いたいことは分かっているので目は合わせない。
その代わりとしてちょっと待ってくれのハンドサインは送る。
「うん待ってられない、あと一作品くらいなら俺が何とかするよ」
「何?まさか没にした漫画持ってくるとかいうんじゃないだろうね」
「大丈夫!ちゃんとしたオリジナル!俺だってちゃんと働いているんだから」
黒影はそのまま疲れてるたくっちスノーの頭に原稿を乗せるが文字が読めない。
どこの世界の物かは分からないが独自の言語を使っているらしい、この手のやつは大体ノーサンライト世界の古代文明系だ。
読む以前の問題なのでそのまま呆れたように返却した。
「持ってくるのは良いけどせめて翻訳してくれる?それかその世界の単語マニュアルでもさ」
「ああごめん今作り直すから」
「しっかりしてくれ……ん?今アンタ作り直すって言っ」
たくっちスノーが言い終えるまでもなく黒影は原稿を光の粒に変えて片手で新しい原稿を取り出す……というか作り出した。
ジャパニーズの言語になっているが全く別の内容になっており、話も大分別物だ。
「おい黒影、この漫画一体何なんだ?」
「ポチでもマンガを作れるんだろ?だから俺もやってみたくてさ……作った!」
「いや作ったのはいいんだよ!その手段は一体何なんだ!?」
「魔法だけど、魔法でマンガを作っちゃいかんのか?」
「魔法!?」
黒影は創造魔法を駆使して一度に数十ページの原稿を絵から文字まで一通り作り上げてしまった、つまりこの漫画は黒影連載……とても断れるものではない。
内容としてはつまらなくはないがどうにも違和感が残る、人の手がどうとか言うつもりはないが作品内に引っかかる表現があるのだ。
「黒影……これ連載に回すのはまずいんじゃないのか?いや趣味でやる分には構わないんだけど魔法で作るものを売るのは大丈夫なのか?
リアルワールドでもAIで作られた作品は物議を醸しているよ」
「AIはツールだけど魔法はちゃんと自分の力だよ?」
「……ってかそれ出来るなら最初から自分達に漫画探させなくても良かったんじゃあないのか!?」
「細かいことは気にするな!これで20作品揃ったんだ、ネオジャンプを発行する準備を整えるんだ!これ局長命令ね!」
黒影は能天気にたくっちスノーに対して指差し指示を行う、言われなくてもネオジャンプを作りたかったので迅速に作業に取り掛かろうとするが気になることがあったので黒影を制止した。
「揃ったのはいいんだが順番はどうする?漫画の掲載順だよ……まだアンケートはやってないとはいえ出来に関係なく後ろだったりすると作者の気力にも関わるんじゃないか」
「ちゃんと考えてあるよ……ネオジャンプの試作品はまず監理局全域つまり俺達の部下に読ませる、この場所も各地から様々な世界の奴らが集まった独自の空間だからな、時空全てで売るにはちょうどいいってわけ」
「なるほど」
こうして全ての漫画が揃った黒影の
週刊少年ネオジャンプ。
4つの連載作品を抱える編集者でありバカ五人は仕上げと言わんばかりのデスクで大作業。
「おいこれ表紙ってどうデザインするんだ!?」
「おいEXEこ↑こ↓誤植ゾ」
「ページ抜けとかあったら殺されるぞ……」
「ていうか作者コラムって何聞けばいいんだ!?」
それぞれの思いと汗と怒号が交差して……漫画を全て混ぜ込んで遂に週刊少年ネオジャンプの初版が完成した!
長い時間をかけて自ら選び抜いただけに一同は感無量、様々なジャンルを取り入れた自分たちの傑作……!
ミリィは居ても立っても居られなくなりネオジャンプの後ろにある目次を確認する。
「す……凄い!これが俺達が選んだ……俺達のネオジャンプなのか!!」
【週刊少年ネオジャンプ】
- 超絶断絶ザンザザーン メノン・タケグチ
- 前回までのシオンさん ピーナッツ広島
- ギョ―テン リヴァイアサン
- バイソン・ダーク 漫画家56号
- 氷点下の帝王 浜城武海
- ミリオンポイント 佐沼郷地
- 骸学園 忽忽兀兀
- 配神者 サラマン太
- アリアとマリア 華水樹
- ブランフェット 山田グレン
- キリ義理ス ままま
- フラッシュモブ 火村七五三
- エメラルドゲーム ヒューリーまさよし
- ジェリーフィッシュ ぷるりんエックス
- マジ・マージンタイム 徹
- スキル『交通標識』の安全冒険紀行 新剛鬼
- 出汁取り最強勇者 ナーフィス・オンチェーン
- お姉ちゃんって呼ばせてよ。原作フィルトナ 作画たくっちスノー
- カブトウォーズ 大和丸
- 槍たいほうだい ポチ山黒羽(黒影もどき)
一通り並んだ連載陣を見て色んな感想が止まらなくなる編集者達。
今一番この雑誌を見て盛り上がっていたのは彼らだった。
集めてきた作者の欄を見て自分たちの努力の結晶を称え合い語り合う。
「ははは!お前の切り捨てる予定の漫画大ヒットしてんじゃん!」
「え!?エメラルドゲーム低ッ!俺好きだったのにこの設定!」
「じゃあ俺達でもアンケ入れれば良いんだよ!俺ポチの推薦したアリマリ良いなって思ったからさ!」
「おっ早速略称まで決めちゃって〜」
「はいはい皆!楽しむのはそこまで!」
黒影が回し読みしているネオジャンプを取り上げて回収する、黒影がやったことと言えば企画の発案とデザインのパクリ……あと一応ブランフェットの作者。
まだ完成しただけで売るところまでは考えてない、ここからだ、皆我に返る。
「そうだよ問題は売ってからだな……ジャンプって300
ジーカくらいだし、同じ値段にするか?」
「いや時空のどこにでも売ってるんだし値上げだ、500ジーカで売ろう……そしてポチ!同人誌作ってたんだし印刷を君に任せるんだけどさ……一億だ、ウチの印刷機貸すから一億冊刷って各本屋にばらまいてこい」
「は……はぁ!!?い、一億!?」
一億部……時空のありとあらゆる世界で売るとなるとこれくらいは欲しくなるのかもしれない、しれないが……その判断に応えるためには常軌を逸するボリュームサイズであった。
「ちょ……ちょっと待てよ黒影!!一億だと!?監理局の負担も考えろ!!雑誌作るのもタダじゃないんだ!50万ジーカの連載準備金が20人分で千万!!ただでさえ値上げしてる上にその数で売れなかったら……!!」
「売れなかったら……何?」
黒影の目は笑っていない、まさかここまでやっといて誰も買わないなんてことはあり得ないとでも言いたいのか?あり得るんだよ普通に、少年ジャンプより高いのに面白いかも分からない雑誌に手を出すチャレンジャーがどこまで現れる、新人まみれのマンガでどこまでファンが増やせる?
たくっちスノーは時空全土と言っても『少しずつ』を想定していた、いきなり全部の世界まとめてなんて……。
「俺たちの時空監理局の雑誌だ、買わないなんてあり得ないし許さない……でもバックアップは考えてあるよ心配せずとも、売り方は考えてあるし」
「……メイ、オレがこんな事を言うのもなんだがアンタは商売がヘタクソだ、事業をオレ達が広めてもアンタのせいで滅茶苦茶になることはティーを通して分かっている」
「俺達はアンタの114514倍苦労している、バカ局長に聞きたいことは1つ……もし売れなかったら俺達部下はどんな苦労をする?」
「やだなぁそんな怖い顔をしないでよ、ちょっと局長の特権を利用して……監理局全員の給料から差し引きしてネオジャンプを購入し全員の手元に送り毎週読破してもらう、もちろんアンケートには答えてもらうしその部署の業績によってはファンレターも書いてもらう」
時空監理局全域に抱え込ませて無理矢理購入……現在たくっちスノーでも全て把握しきれてないが人員は局長、副局長、局長アシスタント、副局長補佐含めて約五千万人……。
一応半分はストックを埋められるわけだが残り半分は?
「マンガは……無理矢理読ませるものじゃないでしょ……?」
「無理矢理とは失礼だな、要は売れれば良いんだ毎週一億。」
「俺とたくっちスノーならやれるよ、なんてったって時空一番の漫画雑誌だから!」
◇
「は〜〜〜マジ頭に来ますよ!アイツ3年峠に頭からダイブして欲しいっすよマジで」
「でも実際どうするよ……仕事が済んだと思ったら5本漫画抱えながら毎週一億のノルマだぜ?」
「とても人間の発想とは思えないな、あそこまで自信を持てるのが不思議で仕方ない」
思うところがあったバカ5人は印刷に寄った後に安い蕎麦屋『しののめ』でセルフ打ち上げを行っていた。
ここはうまい掻き揚げが自慢でミリィの憩いの場所、そのまま副局長達の打ち上げの定番となっていた。
「もうこれ匿名掲示板でニュース風にして愚痴言わないとやってらんねえわ、黒影はやることは良いんだけど経営が雑!」
「まぁ実を言えば自分らもさ……好き勝手自分の好きなことを仕事と言い張って、自分らみたいな後始末や尻拭いなんて考えてない奴らがちょっと痛い目見るのも……ざまぁないねと思っちゃうのが嫌になる」
「それは考えるだけ無駄になるって何回も結論付けなかった?たくっちスノー」
自分達が押し付けられている事業のほぼ全てが自分達が動かなくてもその仕事専門の部署に話せば秒で片付く。
何回こう思っては諦めただろうか、監理局という世界は自分達以外にとって好きなように生きていける場所であり真の意味での『与えられた役割』をやりたがらない連中ということを。
そしてそんな責任を自分達が負う必要はなくバックレても良いのに何故やらないのか?
「時空が自分達がサボったせいで滅ぶことになるのは嫌だし……これが発展になるのなら続けたい」
「見事に調教された犬なんスよ、アンタも……それに従ってる俺等も」
「……そうだね、噛みついたところで人間の性根は変わらないしね」
今更文句を言っても仕方ない、今自分達は数々の作者の連載と仕事……並びにネオジャンプという商売道具を抱えている。
監理局が倒産でもしたならその時はその時だ。
何が何でも売り続けてやる……ポチはというと1人で串カツを少しずつ齧りながらパソコンを眺めていた。
「連載は無理だけどジャンプラに勧めた作者も何人か居るんだ、電子版ネオジャンプも発売したかったけど……あの在庫の山をさばくことを考えると用意したくない、グラフでちょっとずつ確認しているんだ」
「うん……というかネオジャンプ、ちゃんと店頭に並ぶのかな不安だよ、黒影の事だからゴリ押して全ての本屋に載せようとするのかな」
「……奴隷の俺がこんな事言うのもなんだけどさ、たくっちスノー……黒影が時空の全てを対象にして誰よりも優れたビジネスを何回も繰り返してそれを俺等に押し付けるって流れさ」
『本当に自尊心と部下が役立たずってだけなのかな?』
ポチの一言で蕎麦をすする手が止まるが、黒影は他に何を考えているのか……そもそも黒影の考えなんて全く読めない。
黒影に何の意図がある?たくっちスノーも考えたりするが結論はいつも決まって『あいつは世界の救い方がおかしいだけの英雄』で思考放棄する。
だがグラフを見ていたポチも串カツを食べる手が止まるほど引き込まれていく……異常なほど。
「売れてる……!?めっちゃ売れてるぞネオジャンプ!?とんでもない勢いでグラフが伸びていく!?」
わけがわからない、一億あった在庫の山がすぐに溶けていく。
動画配信者がバズらせたのか、転売されたのか?
1つ言えることはこれは黒影の力だ、EXEが言っていた商売がヘタクソで滅茶苦茶になるというのは売れないということではない。
最初はあまりにも都合良く順調に成功するので関わっている側からすれば尋常ではないほど怖い。
何の理屈も無い完璧な成功なんてものに安らぎはない。
最終更新:2025年02月25日 19:15