君のような勘の良い漫画家は嫌いだよ

 ネオジャンプに引き続いてゲームチャンピオンとホワイトを発行した時空監理局
 現状どうにも問題はないが何があってもおかしくないと警戒しつつも発行部数や人気ランキングを確認する。

「今ネオジャンプってどれくらい刷ってるの?」

「今は500万くらいだよ」

「500万!?少なすぎるだろ時空規模だぞ!?」

「無理もない……これまでのこともあるしミスったらその分ゴミも増えるんだ、最近は木以外からも紙を加工できるようになったとはいえな」

「サンデーの時空進出やファンタジー、ギャラクシーも発売したから人気ランキングが作成されたよ……現在トップはファンタジーだ、キーホルダーブームまで作ってる」

「男の子ってあの変な竜のキーホルダー好きだからな……肝心なネオジャンプの順位は?」

 たくっちスノーはネオジャンプのランクを探してみるとそこは4位、上でも下でもなんともまあ微妙な順位でありシェア数ランキングなども見るとどれもまあぱっとしない……時空の漫画業界独占という目標を考えると鼻で笑われる代物である。
 ちなみに人気度で言えば時空規模で言うと十分の一くらい。

「時空市場独占も夢のまた夢だな……」

「当たり前だよなぁ、お前少年ジャンプすら1つの世界を支配してるわけでもないのに無理あるでしょ」

「んーーでも俺達その無理を通さないといけないからな、いやトップになっても終わりじゃないし……このままトップのまま続けられるのか?全部黒影局長に押し付けたい」

「ダメ、あの人に押し付けたら多分最終的に何かしらの会社が爆発する」

「比喩表現とかじゃなくてマジで1回吹っ飛ばしたからなあのバカ黒影……」

 時空一番という血を吐きながら続ける悲しいマラソンが幕を開けた、1抜けたというかトンネル越えて別の道を独走した黒影に代わりこのマラソンを走り続けなくてはならないバカ5人。
 おかしい、ネオジャンプといえば他の事業で疲れ果てた5人の唯一の安らぎだったはずだが……ポチはゲームチャンピオンが新たな安らぎになったと思って読んでいる。

「ふざけんな!俺ゲームとか興味ないから楽しくねえんだけど!」

「ないよりはいい、コレ以外だとホワイトしかないが?お前向こうで女の子説とかあるんだろう」

「お前悪意なくそういうこと言うからぶち殺したくなるんスよ裸族ハリネズミ野郎」

「ポチ、ゲームチャンピオンって今なんのゲーム特集してるの?時空規模なのに」

「今はゲームソフトの方は時空共通のものはないけど大会とかやってるからね、任天堂だってリアルワールド以外にも沢山あるからマリオとか新作出したらカネがめちゃくちゃ動くよ?」

 ゲームチャンピオンをポチから見せてもらうとリアルワールドでも発表されていた新ハードの制作、カービィやドラクエといったリアルワールドでも有名な作品の新作、次に流行りそうなゲームの見所に制作陣インタビューと黒影の手が込められてるにしては中々の出来栄えだったがたくっちスノーは気に入らない顔。

「なんだよこのカービィの新作ゲーム!!なんでリアルワールドでも発売してくんねーんだよバカ野郎!!」

「世界規模でもおま環ってあるんだ……」

「マリオオデッセイも世界によっては2年遅く発売されたとか聞いたゾ」

 ゲームチャンピオンを眺めてあれやこれや言いながらゲームの攻略ページを開いたとき、ポチが突然口を開いて深刻そうな目つきになる。
 一旦メモ帳を開いたかと思えば何かを描き殴ったり確認したりして、ハガキまで取り出して何かを描く。
 あまりにも突然の奇行なのでたくっちスノーは触手を使ってまで止める。
「おいどうしたポチ!怖いから説明入れろ」

「……これ間違ってるよ、デンジャードラゴンズの攻略記事」

「うん、その本当にヤバい雰囲気がするゲームソフトはおいといて報告の勢いが尋常じゃねぇデバッカーかおどれは」

 「実際何が違うの?」

 「ここはバグ使わないと実質不可能、ここは数値と入手アイテムが間違ってる……1ページで2個誤情報があるといってもいいけど」

 「まあ攻略本とは別なんだしちょっとのミスは仕方ないんじゃないのか?」

 「それは構わないんだがどうにも見当外れなことばかり書いてるような……?このポケモン図鑑とかそのポケモンが覚えない技覚えてるのにオススメに載ってるよ」

 「それに関してはまずくないか?黒影にポチからTELしなよ」

 「そうする」

 ポチがたくっちスノーにゲームチャンピオンを渡して電話を入れる、仕事じゃない時は直接話せないのでマガフォンを経由する謎ルールによるものである。
 他にもたくっちスノーは引っかかる所が何個かあった。
 なんとゲームチャンピオンにコードが載っていたのだ、一通りの……!

 「たくっちスノー、コードって何?」

 「昔風に言うならプロアクションリプレイって言うと伝わるか?要はゲームソフトのデータを弄って所持金9999とかアイテムMAXとかにしちゃう物だよ」

 「ええ!?おい、チートコードなんて雑誌に載せて大丈夫なのか!?」

 「それが当たり前のようにこういうの載ってた本とか道具とか売られてたりしてたんスよ、まあ今も昔も危ないと言えばそうだよ」

 チートコードを載せるからこれで突破しろなんて描き方してる攻略ページは前代未聞だ、ウィキサイトでもここまで開き直った返答なんか出来るわけない。
 ゲーム攻略というか身も蓋もない、更に電話を終えたポチが通話を切りチートコードを見てため息を吐く。

「部下とポケモン対戦した時使ってた技構成なんだってさ」

「まさかそのイジってたのか!?」

「いや色違いのものを海外でトレードしたとか」

「それ改造産貰ってんだよ!人工的な色違いで海外名で技まで変えてたとか役満だよ!」
※海外から交換した色違いは危ないものが紛れてることもあります。

 ポケモンに関しては知らなかったで済まされるし黒影もある意味では被害者なのだがチートコードに関してはポチも苦い顔をする、勝手にゲームキャラを非公式の範囲内でエロく改変したり妄想で卑猥なモノを描き殴るポチも論外だが、ある意味では黒影を良く表していると思う。

「ゲームで行き詰まったときミリィはどうする?RPGの場合なら」

「うーん……コツコツとレベル上げるとか?モンスターをひたすら狩って、そのお金で武器も強くして新しいスキルも試してみるな」

「普通ならそうだね、俺もそうする……でも黒影は行き詰まるなら経験値MAXにしてあげるよって言うんだ、何があってもクリアできるように……黒影にとっての善意ってこういうことなんだよ、もちろん個人でチートして無双する事自体は悪いことじゃないしその力で他人を脅かすどころか人助けをする」

 黒影は生きるチートコードだ、一人でやる分には勝手にすればいいし見せかけのカンストステータスで普通のプレイヤーをねじ伏せていない。
 だが黒影は『自分がやってほしかったこと』を他人に叶えているのがひっかかっている。

「そんな生きるチートみたいなメイが最初からチートで楽すること前提で、それでも尚果たされなかった思いとはなんだ?オレ達も長いことこの仕事をしているが……奴はどこまで深い欲望を隠しているのかわからない」

「黒影でも無理だったことだ、それ以下の自分達には理解なんて無理だよEXE……ただ自分も思うことはあるんだ」

『チートを使っても満足できない、チート以上の事をやってみたいって、それはもうどうしようもないとしか言えなくない?』

 全員思った。
 それマガイモノのたくっちスノーが一番チートなくせにそんなこと言っていいのか?と


「ぽぽりんエックス先生、そっちは順調っぽいね」

「あっ……前よりは大変ですけど、はい!たくっちスノーさんに言われた通り部屋は綺麗にしてます」

「ちゃんといい飯食ってる?またカップ麺生活してたら……なーんて心配すらでもないよね、毎日自分に飯届けてくるぐらいだもん」

 ぽぽりんエックスやリヴァイアサンといったネオジャンプで馴染み深い漫画家もジェリーフィッシュやギョーテンが完結してからはファンタジーに移籍したが、現在もポチ達とは仲良くやっている。
 ぽぽりんはファンタジーでグルメ漫画を始めたらしいが、実際に美味しいのか試してほしいとたくっちスノーに持ってきて感想を聞かせてほしいと頼み込んでくるのだ。
 最初こそ向こうの編集に頼めば良いのにと思ったが、熱意に負けてドラゴンファンタジー風の料理を食べている。
 ちなみに今日のメニューはグリフォン南蛮だ。

「しかしまぁ、リヴァイアサン先生もだけどこうして付き合いがのこるのはありがたいことだなぁ……」

「……貴方分かってるのぽぽりんちゃんがなんの為に貴方にメニュー提供してるのか」

「グリフォンの肉って思ったより鶏肉っぽくないな、タルタルソースには合うんだけどこの感触ならカリッと揚げるのがいいかも……」

「ごまかさないで、私分かるのよ女の子の想いなんだから」

「知ってるよ舐めんな、ミリィみたいに鈍感じゃない……けどぽぽりんエックス先生は自分より3倍は性格がいい奴と付き合ってほしい、ちょっと掃除してメシ作って仕事手伝っただけで惚れられちゃ不安になるよ」

「普通そこまでやんないのよ」

 1人では感想が正確になりにくいのでフィルトナも誘っている……というよりは1人だけ食べるなんてズルいとゴネたからだ。
 ぽぽりんエックスと付き合うように催促してくるが、たくっちスノーは付き合えば世間からどう思われてるか理解しているつもりなので誰かと結婚しようと思ったことはない。
 その上で彼女の好意にも理解はあるので複雑な気持ちだった。

「フィルトナ、もう8巻も描いてるだけに今更なんだけど……ジャンプのパクリしか描いてなかったアンタが、なんであの漫画を描こうってなった?」

「……漫画の通り、漫画みたいに立派なお姉ちゃんになれるか頑張ってたら心身になれるまで8巻もかかっちゃって……私ちゃんと出来てる?」

「え?実際に弟が居たのか、それってマガイモノってことだよな」

「弟だけじゃないわ、兄さんや姉さん、弟に妹も本来ならたくさん存在してる、全員貴方みたいに知能があるわ」

「え!?ま……待て!マガイモノがそんなにいるのか!?自分は時空最悪の時空犯罪者と言われていたが、知能があるマガイモノなんてEXEと田所しか見てなかった!ミリィだって元々秘匿されてたんだぞ!」

「いつか話す時が来ると想っていた、元々私はこの為に貴方に近付いたんだし……」

 たくっちスノーも自ずと言いたいことが理解できた。
 他に存在しえない知能のあるマガイモノ、数々の兄弟……この中で自分だけが例外なんてあり得るのか?そうだとしたほうが逆に異常だ。

「まさか僕とアンタは……!!」

「そう……貴方の思ってるとおりよ、たくっちスノー……貴方は私と同じ存在に作られた姉弟同然、私は本当に貴方のお姉ちゃんなの」

「フィルトナが……僕の姉さんだと……!?」

 衝撃的すぎる事実、自分に兄弟がいるかなんて想いもしなかったし孤独に生きてきたので家族という実感がない。
 さすがのたくっちスノーも理解が追い付かなくて数々の質問を投げかける。
 誰が作ったのか知らないのは嘘なのか、他の兄弟たちはどこだ、自分は何番目なのか……。
 フィルトナもこうなることは予測していたのか冷静に少しずつ答える。

「私達がどこから生まれたのか分からないのは本当、でもマガイモノの兄弟達にはナンバーが振ってあるの、そこから兄弟を判別する……見て」

 フィルトナは服を少しはだけて首を見せる、念じると番号が出てきた……どうやら製造番号はあるらしい。
 たくっちスノーには首が無い、元にしたみぃ先輩がそうだったから頭を固定させる必要も無くて首を生やしてなかった。
 フィルトナに首の番号を見てもらうとなんとゼロが首筋をぐるっと一周しているという。

「あ、貴方番号……1京!?マガイモノってこんなに造られてたの!?」

 自分でも念じて鏡を見てみると確かに数字があった、彼女の嘘ではないと理解した上で話を進める。

「おおかた自分は末っ子というわけか、どうして分かった?」

「どうしても何も……私達みたいなの他に居る?」

「いないな……でもそれだと田所はともかくエグゼまで自分の兄貴ってことになっちまうなぁ……他の兄弟は?」

 「まだ分からないわ、私以外には誰が居るか……」

 しかしフィルトナもたくっちスノーもお互いに初めてあった兄弟が自分達で良かったと心から思う。
 自分が昔そうだったように見つけた家族が善良とは限らないが、見つけやすい環境として今は時空監理局のコネは実に都合がいい。
 ……思い出したことがあった、黒影。

「会ったばかりの頃言ってたな?黒影は信用できないって、あれはなんでだ?確かに厄介なところはあるが……」

「だってアイツは……わからないの?見下してるのよ、私たちマガイモノのことを」

「そりゃまあ下に見られることはあるが……世間的には犯罪者だったんだから自分としては否の付け所がないし、どちらかと言うとアンタら兄弟達に余計な風評被害与えたことになって申し訳ないというか……」

「いいえそれよりも前からよ、貴方は生まれる番号がだいぶ遅いから知らないはずだけどマガイモノは大昔から居たの、それこそ100年前には私の兄さんが……」

「マジかよ……その頃から扱いが酷かったのか」

 たくっちスノー1人が抱えるにはこの課題は大きすぎた、時空を守るだの善人になるだのどんどん積み重なっていく物が増えていくが、時空を変えていくにはこれくらい必要だろう。
 誰かに話して構わないのか聞いてみると黒影以外なら任せると言う。

「……そうだなフィルトナ、EXEとポチにだけ話す」

「あの2人だけ?ミリィ君という人は?」

「EXEは優秀なボディーガードだ、ポチも変態だがエロというデリケートな物を扱い慣れて口が硬い……反面田所はこういうところで裏切ったときまずいしミリィは真面目すぎてしくじったときに却って危ない……これが安牌だ」

 マガフォンで連絡を入れてEXEとポチにフィルトナが話したこと、これはまだ内密にするように告げた。
 当然EXEは驚いたがポチは意外と冷静に話を聞き入れてくれた。

「なんてことだ……ティーに兄弟が居たとはな、しかし1京とはどれくらいだ?」

「数字の単位で言えば兆の次だよ……人間だけても世界数個分だ、みんな生きてればの話だけどね」

「ポチは驚かないんだな……」

「まあ俺もマガイモノじゃないとはいえ博士に作られた存在だからね、それに1万とかなら俺も驚いたと思うけど数が多すぎてもう笑うしかないって感じ」

 どう考えてもポチからしたら流れ作業でマガイモノが生み出されてるとしか思えない、当然ポチも引きこもっていたとはいえ博士の所に居た為ミリィと同じ情報を得ている……つまり、たくっちスノーの親が黒影であることを知っている上に兄弟ということはフィルトナ含めて全てのマガイモノが黒影由来であるということ。

(これ多分近い内に気付くだろうなぁ……たくっちスノーの父親が黒影って、そういう時俺どうすればいいんだろ、博士に聞いてみると……いやでもそれだとミリィが気にするか?俺の方からこっそり話してみるか)

「仕事じゃない、頭に入れておくだけでいい……もし今後知能があるマガイモノを見つけたら兄弟かもしれないって思うんだ」

「了解」

 電話を切った後、ポチはたくっちスノーには悪いと思いながらもミリィに連絡を入れてたくっちスノーとフィルトナと話を伝えた。
 これで野獣先輩だけこの情報を知らないことになる。

「なんでたくっちスノーは俺に伝えなかったんだ?」

「君は真面目過ぎるから無理をかけるかもしれないってことだよ、気を遣っただけさ」

「そうか……フィルトナのことだけど、それは間違いなくリメンバー・ツルギ・プロジェクトの失敗作達だよ、仲間に引き入れたら有利になると思う」

「うん、ミリィの方から博士や松山さんに連絡入れてマガイモノを探すように頼んでくれるかな?」

「それはいいけど……ポチの方から伝えてもいいんじゃないの?」

「俺が向こうでどんな扱いか忘れたの?自業自得なのは分かってるし俺は今でもサイテーのケダモノのままだよ」

「……分かった、黒影にはバレないようにね」

「もちろん、奴隷生活とコンテンツ隠蔽生活でセキュリティはガチガチよ」

 ポチとミリィは通信を切り、ただのオタクだったはずなのに気がつけば自分も大きな物を背負っているんだなと背伸びする。
 しかしあの時偶然たくっちスノーと出会い、時空監理局に拾ってもらったことも今では悪くないとまで思っている。
 改めて仕事に入るが……ポチは目が点になる。

「え?時空出版局から……監理局へ……警告……?」

 目を疑いたかったがところがどっこい現実……時空監理局に対して警告とか重要とか書いてある物が出てきた。
 明らかに開いたら何かがある、絶望的な何かが……こんなものならウイルスでも踏んでくれた方がまだマシかもしれない。
 たくっちスノー達に緊急連絡ボタンでスクランブル、ポチが思いつきで取り付けたものだがまさか使う機会が訪れるとは思わなかった、即座に来たたくっちスノー達も状況を理解してメールを見る。

「これでしょうもないメールだったら金玉蹴るゾ」

「こ……こんなメールでしょうもないわけないだろ!?」

 たくっちスノーは恐る恐るメールを開くとそこには……。

「う……嘘やろ こ、こんな事が、こんなことが許されていいのか」
最終更新:2025年02月25日 19:16