「ときめきジャンプ……ミリィめずいぶん絶好調みたいだね」
「アイツら下手したら俺たち追い抜くっスよ、別勢力だってこと忘れてる……忘れてない?」
「いずれはオレたち3人も食い潰されるわけか、意外な所に脅威は居たものだな」
たくっちスノーとボディーガード2人はおでん屋で水で飲み明かしながらときめきジャンプの大躍進を聞く。
ネオジャンプも実際は両者の味方であるメイドウィンを次々と増やすためのオークションをコントロールして連載に合わせて売買を支配しているが、漫画の良し悪しには影響してくれない。
たくっちスノーもゲームチャンピオンで1大企画を始めたはいいが、いい感じのゲームになれるのか今でも不安が残る。
「……フィクションの扱いには困ってる、こうして自分達が連載する漫画も
はじまりの書が作られて、実際に生きて……物語でもキャラクターでもなくその世界で生きた人々の足掻きなんだ」
酒代わりにスポーツドリンクを飲みながら漫画として作られた実際の世界について考える、たくっちスノーは昔からアニメやゲームとして作られたものが実際に生きていることを知っていた、昔は気にしていなかったが今では……ゲームをやってもテレビを観てもそれが頭に入る。
「たとえばアニメで胸糞悪い展開があったとする、ストーリーなら後から全部解決するし暗いままで終わるのもそういうのが好きな人がいたりする……でも本当に画面の向こうで苦しんだままだったり実際に起きていると考えると、どんな気持ちなんだろうね」
「そうだな、旅をしていたら嫌な気分をしたときもあった、腹立たしいと……それがフィクションではなくリアルだと分かると見ていられなくなった」
「アンタも大概そんな境遇っスからね……なんかほら、3人で因習村乗り込んで好き放題しようとした時もそんなこと言ってたゾお前……確か」
「ゲゲ郎と水木……あそこに居たやつはそんな風に呼ばれてたっけなぁ」
大昔、ある世界に哭倉村という場所があった。
時空犯罪者だったたくっちスノーはEXEと
野獣先輩を連れてここに来たことがある。
たくっちスノーの目的は骨の妖怪や使い魔のようなものに興味を持ち、当時に自作
マガイモノのプロトタイプとして用意していたMIXと呼ばれる複合生命体サイクロスケルトンを駆り出して奪い取ろうとしたが、そこに待ち受けていたのは当時の彼からしても地獄のような惨状だった。
あれから数年、
リアルワールドであの時の光景が『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』という映画として公開され、アレが幻でも偶像でも無いことを知った人間はどれだけ増えていくのだろうか。
「アレを見たのがミリィじゃなくてよかったと思う、自分でもどうしようもなんないだろって思ったし……MIX、懐かしいものも思い出したな、これ何かに使えないかな?」
「お前、あれから本当に変わったな」
「ありがとう、褒め言葉だ」
◇
「ワンコくん、これ見て!!」
「どしたん?ネオジャンプに何かあったの?」
ミリィが今回発売されたネオジャンプを見てると、漫画に何やら妙なものを感じてポチに見せる。
話を聞いてすぐに野獣先輩はMIXを反映させて作品に出させてみた、多少はゴリ押しが効くのが編集だしヘイトなど慣れたものである。
ミリィはラグナロクの頃からたくっちスノーのマガイモノについて調べていたので当然MIXについても把握している、サイクロスケルトン、ブルドラシャーク……同じ世界の似たような性質の生物を融合させて新しく作り替える、マガイモノ製造が安定する前のたくっちスノーの切り札。
「まさかこれを漫画に転用してくるとは……忘れてるものかと思ってたよたくっちスノー」
「使えるものはなんでも使うってことか……最強無敵舐めてた」
ときめきジャンプは好調だが今はネオジャンプの勢いが急な人員削減で混乱した影響に過ぎない、こちらも大きな結果を残さなければ有象無象の作品のまま終わってしまう、その為には……。
「5ミリくん、俺達編集者も恋愛経験がないのはまずいんじゃない?」
「え?そうかな、わんこくんは豊富でしょ」
「2次元の方はね……1つ次元超えたら悲惨なものだよ俺……そういうキミこそ年頃なんだから好きな女の子くらい居ないの?たくっちスノーにもいるよ」
「うーん、俺はそういうの想像できないんだよね結婚とか……酷いことなんだけど全員を救いたいから誰か1人を選べないかな現状は」
「まぁそういう年頃さ、出版局の皆さんはどんな感じなのかな?」
ポチはプロフィールをどんどん広げていくから知ってるくせにこの言い草。
しかしポチはこういう話が好きなので何とも言えないが、デッサンマンは気さくに答えてくれた。
「俺は1次元の恋愛をしてる、ロドリゲスは確かドッグコンテストで仲良くなった子がいたっけ?ブルースカイ菊竹は石活中、ヤバメと松代さんは既婚者だよ」
「え!?松代さんは分かるけどあの人結婚してたの!?」
「ほえ?俺しっかりヤバメちゃんの事書いたでしょ?結婚1年目のホヤホヤで旦那さんとアツアツのうげーっ!!」
「余計なことまで口を挟むんじゃねえ……殺すぞ」
「まあワンコくんだしいいか」
「いいですよね恋愛、私も恋とかしてみたいのです」
「自動販売機の恋ってなんなの?」
なんだかんだいつもの扱いとはいえ出版局にも馴染んできた2人。
読み切りから連載に入り、ようやく各自で漫画家に会いに行くのだがポチはミリィに同行を頼みに行く。
なぜならその漫画家は……。
◇
現場に向かうミリィとポチ、その作者は異質であり海を越えて居る、オーシャンブルー系世界出身と聞いていたが海賊というわけでもなさそうだ。
船に乗って作者に会いに行くが、一体こんなところでどんな漫画を描いているのか……待ち合わせ場所の海域に到着したが船らしきものは見えない。
「どうだミリィ、海賊船は?難破船でもいいけど」
「うーん見たところ海しか……海!?ねえポチ見てよ!!」
ミリィは信じられないものを見てポチに双眼鏡を渡す、ポチもまたすぐに異常性の正体に気付く。
目的地周辺で女性が海面に立ち……いや座り込み、海原を染めて何かを描いているではないか。
飛び上がって空から見てみると、それは四角に覆われた白黒の……漫画である。
「海に……マンガを描いてる……!?」
◇
「ルーシア・オオワンダー……今も掛け持ちで週刊猟兵ファングという雑誌で描いてるわ……」
「ファング……?猟兵向けの雑誌知ってる?」
「いや……監理局から見ても猟兵の情報はトップシークレットだからさ、たくっちスノーにも報告しづらいな……」
『猟兵』、それは時空が生まれる前から存在している
オブリビオン共通の敵。
どんな生物でも職業でも素質があり、後天的に覚醒するものも多いが時空ではその存在がほとんど秘匿されている。
猟兵達は隠しているつもりはないがカーレッジの原点といえるイティハーサが猟兵の敵と考えると当然、時空全てが骸の海である以上普通に猟兵達のテリトリーなのだ。
ルーシアはポチ達と海賊のパーキングエリアでルーシアと話をしながら打ち合わせを行う、まさか持ち込みに来ていたのが……それも恋愛漫画専門で来たのがこんな海賊王になりそうなマンガ描いてそうな人だったとは思わなかった。
「ふむこの子どう見る?スタイルはいいし顔もいい感じだよね」
「いやでも猟兵だよ?オブリビオンハンターとは別で何してるのか分かんないし、どんな組織に属してるのかも……」
「……別に猟兵はなんらかの組織に入ってるわけじゃないのよ、人によってはチームとか組んでたりするけど私は違う……」
「あっ、そうなんですか……それじゃあどうしてときめきジャンプに参加してくれたんですか?恋愛経験が豊富とか……」
「逆、恋愛したいから恋愛漫画を始めた……それと、時空規模なら……もっと読者の層が……広……うっ」
ルーシアが悶えていると胸の谷間に挟まっていた黒い本がガタガタと揺れて、ミリィが咄嗟に抜き取ると触れただけで邪気を感じて冷や汗が流れる。
この中にはとてつもないほどの負の感情が抑えられている、一体どんなオブリビオンが封印されているんだと考えるがルーシアの答えは違った。
「私は……漫画を描く為に承認欲求を封印している……この中には私が切り離した感情が詰め込まれている……恋愛すれば、恋をすればまた承認欲求を抑えられると……」
「でも恋ってめちゃくちゃ承認欲求溢れてくるんじゃ」
「こらミリィ……それで、なんで承認欲求を封印なんて、創作している立場的に気持ちは分かるけど、軽いものなら見てもらいたいという気持ちは悪いことではないような?」
「…………私の場合は、呑み込まれたら自分自身を見失う、だからそれを克服するために漫画という形で解消して……私は、ちゃんとしないといけないのに……不安に……」
ここまでの話を聞いてきたミリィは猟兵という貴重な人材のことを知りたいが彼女は精神的に不安定な所が強くこのまま仲間に引き入れて大丈夫そうなのか気になって仕方ないが、ポチは面白かったのでときめきジャンプでちょっと描かせてみようと決めた。
「それで新連載にあたってどんな作品にしていく予定で……?」
◇
「まだダメだな」
「えっ?」
ミリィとポチはルーシアの連絡先と原稿を受け取りながらせっかくなので生きのいいエビを食べていたが、ポチはまだまだ不安な様子。
ときめきジャンプは好調だがまだ看板級が見当たらない、ネオジャンプの時とは勝手が違うのでプロや大御所も好きに雇えるが、ベテランでも神のような作品が絶対出来るとは限らない……ネオジャンプの時にはミリィがダイヤモンドの原石のような傑作も持ってこれたが都合のいいことは二度起きることはない。
このままではときめきジャンプは雑誌として盛り上がり所が出てくる感じがしない。
「ときめきジャンプは恋愛要素が濃いとはいえジャンプだ、ルーちゃんはファングも少年誌っぽいから大丈夫だけど……恋愛に絡める必要がある分普通のジャンプよりハードだよ」
「そうか……個性出してその上で面白いってネオジャンプよりハードモードだよね」
「でもまぁ!今の俺達には他の編集者さん達だっているんだ!各自で頑張っていこう!」
「よっしゃ!ヤマエビフライ美味しいし店主さんかわいいからなぁ……テンション上げて描いていくぞ!」
「でもあのバーリーのヤマエビフライ、変な感じするんだよなぁ」
◇
そしてネオジャンプはというと!
「ああファック!たくっちスノーは月刊誌なんだからこっち手伝えやボケ!」
相変わらずのハードワーク!
野獣先輩とEXEがヒーヒー言いながら漫画の誤植確認や展開の指摘を行い合計20作品ものの作品と作者の気遣いをコントロール!
たくっちスノーはというとゲーム計画ならびに毎日のプレイによって魂が死にかけ!愚痴ったところで全くと言っていいほど役に立たない!
何故黒影は人員補充をしてくれないのか!編集大好きな奴も好きにやってるくせにネオジャンプはお構い無しなのか!野獣先輩の不満は本社爆発寸前であった!!
「どんだけ俺たちの事どうでもいいと思ってんだ……色んな仕事俺等がやってんゾ」
「オレ達の世界にもコピーロボットが欲しくなるな……オレ達の1日ってちゃんと24時間だよな?」
「こうなったらもう24時間テレビ愛は時空を救うとかやってほしいけどな〜俺もな〜」
野獣先輩達は仕事を切り上げて時空ニュースを観ていると月刊ギャラクシーで問題発生と一面で取り上げられていた。
敵の不幸は最高の娯楽だとたくっちスノーも黒影もいないことを良いことに最高に見下すがEXEは他人事に見えないので冷たい目で見る。
なにせニュースの内容は炎上騒ぎからの連載終了なのだ、しかも作者には全く非がないイレギュラーで
時空新時代ならではのもの。
ギャラクシーで連載されている作品出身のキャラクターが時空犯罪を行っていたと晒されてしまったのだ。
リアルワールドでも問題を起こしテレビから降ろされる芸能人の作品が封印される事例のように、問題が起きればその作品はアニメやゲームとして周囲から認識することが出来なくなってしまい、最悪の場合孤立するか作品そのモノを
リセットしなくてはならない。
新時代になってもリアルワールドで全ての作品が認識されていない理由の2割はこれが理由と言われている。
「清楚設定のキャラクターで不倫騒動か、作者の思想とは無関係に動き出して予想できないことをしでかすからオレ達も警戒しなくてはならないな……おい野獣、ネオジャンプも他人事ではないのだぞ」
「大丈夫だって安心しろよ〜、オレ達の世界はメイドウィンが決まって世界になってから連載終了してるから、ネオジャンプに居る間は不祥事もクソもないっすよ……」
「野獣先輩くん、今日のニュース見たかい?」
「おっ黒影からそんなこと言うってことは出しちゃっていいですか?」
「うん」
黒影がぬっと現れて野獣先輩に良くない提案をしている気がするのでEXEは止める、たくっちスノーでもここまでやらないというか設定マニアの彼にとっては死活問題、設定がどうかでモヤモヤしたばかりなのになんというかそれは流石に人としてダメだろと化け物が心配する構図。
「おまっ、お前それは……本当にダメだろメイ!まさかライバルを落とすためにわざとそれって下手したら監理局の尊厳にも!」
「大丈夫本当にやばくなったらはじまりの書いじれば挽回は効くんだし雑誌に載らないだけだから!ネオジャンプがトップになるためにこんな方法があるなんてもうてんだったよ!」
「こんな地獄から解放されるなら他人を犠牲にするくらいやりますねえ!」
「ダメだコイツ過労で頭がイッてしまった!こんな時はティーを頼るしかない!」
EXEはマッハで副局長室に到着してリアルワールドにもないポケモンを徹夜でやり込みながら大人気ソシャゲの新キャラ性能を確認して目が4つあるのに充血してるヤバい状況のたくっちスノーを引っ張り出して水を飲ませる。
「とりあえず何が起こったのか説明しろ、この気分最悪な自分でも駆り出さないといけないほどの事件か?」
「田所とメイの気が狂ってライバル雑誌の作品元の世界でヤマザキ春のでっちあげ祭りで世界ごと漫画潰そうとしてる」
「いやそれはダメだろ!!時空犯罪者だった僕でもそこまでやらんわ!!」
たくっちスノーも素が漏れて我に返るレベルの一大事、事の重大さを理解して直ぐに自分に話をつけようとしたEXEに感謝して黒影の所に走り出そうとするがゲームのために座りっぱなしだったので痺れてずっこけた。
「あ……あのバカ……!!ここまでド直球に時空出版局にケンカ売ったらマジでどっちか滅ぶぞ……こうなったらこっちも情報バラして田所をまとめてムショに送るしか……」
「しっかりしろティー!お前もゲーム疲れで正常な判断ができていないぞ!」
「と……とにかくこの事をミリィに伝えろ!!世界の不祥事なんて避けられないが時空犯罪者に付け狙われるリスクに警戒しろってぼかすように出版局に伝えさせるんだ!!」
◇
「うわ……なんというかイカれてるな監理局。うん……報告してくれてありがとう」
「何があったの監理局」
「……わざと事件起こして連載作品を外部から潰そうとしてた」
「それってホビーアニメの悪の企業とかがやるような姑息な手では?」
「いや……実際あそこワンマン経営で好き放題の悪の企業扱いでしょ」
「うぬぬ……なんてこったいもう、報告はありがたいけどこういう時出版局にも話せないしどうしたものかね」
電話で惨状を伝えられたミリィは苦笑いしながらEXEか、又聞きした情報をさりげなく作者達やニュースの記事という形で編集者に報告。
スパイ活動ということは自分達にもこの責任をおっ被せられることになりえると他人事ではないのでなんとしてもこの騒動を根本から断ち切るに限る。
前もってNGぶちまけてやってるやつはバカって言いふらしておけば黒影もやろうとは思わないだろう。
「ったく……改めて監理局ってやばいところだよなぁ」
「そんなところで社畜になってる俺たちも俺たちだけどね」
こうして騒動ありながらも月刊ギャラクシーの出来事も沈静化していくことだろう。
一筋縄ではいかないスパイ活動というなのときめきジャンプバトル。
ひとまず坂口にだけは真相を話して謝っておいたが、先行きが不安になっていく……。
「あ、そういえばルーシア先生の新作見ました?」
「うん見た、ミリィもファング見ておいたほうがいいよ、猟兵がどんな考え方してるか分かるしコネ得になるから」
刻一刻とミリィとポチは時空の為になる情報を掴んでいるが、出版局のときめきジャンプ編集部は坂口の紹介とはいえ監理局出身であるこの二人を信用していいか怪しかった。
「おい、監理局と言ったら自分のしたいことしかしたくないようなイカれ集団じゃなかったのか?」
「ある意味ではあの新人2人はイカれてるがな、アレで監理局よりマシってんだから察するものはあるよ」
「今度あの人お食事に誘いましょうかね〜私自動販売機ですけど」
「私の世界の様子どうなってるんだろ?リアルワールドだとまだやってるのよねワンピース……」
「……実際あいつらここで何する気だ?ときめきジャンプ作るの手伝って終わりなんてあるわけねえだろ?」
「スパイ活動してるとは聞いたけど、自分達監理局に流されて困るようなことはされてないよね、ネタの横流しもされてないし……」
最終更新:2025年03月23日 20:40