暗雲ってレベルじゃない

 ネオジャンプを開発してどれだけ経っただろうか。
 久しぶりにフィルトナと話しながら近況について話す……こんな姉弟らしいことをやったのもいつ以来だろうか。
 何せ5人はネオジャンプ以外でも分身装置を活用して増殖してしまうほど様々な事業に手を出して大忙しであり、猫の手が何本あっても借りきれないくらいの債務を抱えている。
 誰か一人が休憩しないと精神的にもやってられないのだ。

「ってことは……貴方と同じ見た目のたくっちスノーがあちこちにいるってこと?」

「そうだよ、パーマンのコピーロボットみたいに終わった時に何があったのか共有するけどこれもまぁ大変な作業でさ〜、どいつもこいつもめちゃくちゃやっちゃうのよこれが!」

「でも楽しそう」

「まあ、色んな奴らに出会えて馬鹿騒ぎして……楽しい時もあるさ、嫌な思い出も沢山出来ちまうのが難点だが」

 頭を掻きながらも楽しそうに答えるたくっちスノー、事業を広げる旅にフィルトナのような話し相手が出来ていく……EXE達もまたそうだと考えると悪い気はしなかった。
 他のたくっちスノー達も現地で出来た仲間と談笑出来ているだろうか?向こうの自分は空気を読めているだろうか?迷惑かけてないか?
 とはいえ……今は自分のことを考えなくては、フィルトナと話したかったことは結構ある。

「ミリィが教えてくれたけどさ、時空出版局に僕達の兄貴がいるんだってさ」

「僕たちって……私の兄さんなのは確かなの?」

「ミリィもときめきジャンプの編集しながらそこら辺しっかりやってたらしくてな……ナンバーが1200辺りまでってのは掴めたらしい」

「千ぐらいって相当古参じゃない……」

 自分達マガイモノが全員生きているかはともかくとして、最終的なナンバーがたくっちスノーの1京と考えるととんでもないほどの最古参である。
 ちなみにフィルトナでも5億以上という数値である、その中で千というのは生きているだけでも奇跡みたいなもの……フィルトナも今すぐ会いたいと迫る。

「そ……それで誰なの?編集部の誰?どこの雑誌?」

「……いや、それがさ……名前言うよ、ブンゴ……ブンゴ・ノート……時空出版局の局長だ。」

「えっ!?」

 時空出版局局長、立場的には黒影と同等であるが影響力なら上かもしれない。
 時空の出版雑誌の最終的な決定権を持ち時空の情報を全て掴んでいる新聞王、デスクに座りながら武器になり得る情報を逃さず自分の手に収めることで有名だ。
 実のところたくっちスノーも本当かどうか信用しきれない、ミリィからの又聞きだが彼は嘘を付くようには見えない。
 そもそもブンゴ・ノート自体会ったことがある者は出版局でも少なく、どんな生物かも分からない。
 こんなことを大っぴらに話せるのはミリィと同じくフィルトナも黒影を信用していないからだ。

「私がこんな事を言える立場じゃないのは分かってるけど……ミリィくんって一体どんな勢力なの?ホワイトも預かってるそうね?」

「分かっているのはドクター・ジルトーという凄い優秀な科学者がバックに付いているってことだ、黒影の昔からのライバルらしくて……ミリィとポチを作ったのも多分その人だろう」

「他に仲間は?」

「ミリィ達は隠しているが多分いる、僕にも明かさないのはなるべく黒影にバレたくないからだと推測するとして……問題は何をする気なのかだよね」

 ミリィ達の真意がどうであれ立場上は黒影を襲えば副局長として敵対しなくてはならない。
 話して分かるものではないし本当なら止めたいところだがその頃には手遅れだし今から考え直すように言えないことは分かっている。

「姉さんどうする?ブンゴに会いに行く?」

「……私はどっち信用すればいいのか分からないわ、暫くは貴方に合わせたい……たくっちスノーはどうするの?」

「しばらくはこの新事業ラッシュに便乗して仲間や知り合いを増やしていきたい……というかさ、もしミリィが襲撃してきた時監理局が残ってる保証あるのかなって思ってさ」

 来る運命のとき時空監理局がどうなっているか考えることがある。
 最近の問題やニュース、主に黒影がやらかしたあれこれにそれ以外の組織の台頭。
 はっきり言って現在から見ても監理局はあまり必要ないのではないかと思うことも増えてきた、実際向こうから見れば我々はどう思われているのだろうか?1つ言えることはもしも時空監理局が無くなってしまえば自分はまたクズに逆戻りだ、その為にも働き先になりそうな仕事を見つけたい。
 元時空犯罪者の異名は消えないので頼りになるのは人情だけだ。

「出来ればあいつらボディーガードもまとめて雇ってくれる所を見つけておきたい、顔はアレだが本当に便利だからな……ジルトー博士には科学力で完全に負けてるから頼りにくいところがあるしさ」

「それで心当たりは?」

「おかげさまで何人か……フィルトナ姉さんはどうする?監理局無くなったら多分ネオジャンプ無くなるかもしれないけど」

「え?そもそもネオジャンプは今の時点でわりと危ないでしょ、編集部なのに気づかないの?」

「……すまん、その話ちょっと詳しく?」


「ミリィ――ッ!!」

「何かな騒々しい」

「お、お前!!ネオジャンプの売れ行きが落ちてるってなんで言わなかったんだ!?」

 久しぶりに監理局に戻ってきてたミリィはたくっちスノーに貸してもらったゲームをEXEとプレイして楽しんでいた。
 別の分身が見たらどう思うかとかは考えないほうが良いが、たくっちスノーが非常事態っぽいので今はそれに応えることにする。

「あれ、編集者なのに気づかなかったの?」

「それさっきフィルトナにも言われた!というか自分ついこの間までゲームチャンピオンであれこれ苦労してたの!!」

ついさっき自分の後のことを考えようという時に現在進行系で大ピンチ、こんなことではいけないと思いつつ冷静に対処しようと原因を聞こうとしたが聞かずとも理由が分かってしまう。
 少年ジャンプやサンデー、マガジンにコロコロコミックと既存の漫画雑誌がネオジャンプなどを売っている間にも時空規模とはいかずともどんどん販売先を増やしていたので需要が高まっていき、雑誌ランキングは大きく塗り替えられていた。
 なんなら当時の時空トップシェアランキングもあくまで時空規模雑誌限定基準、実際の売り上げや人気ランキングで言えば変わらずジャンプなどが維持している。
 ということをたくっちスノーは知らなかった……それによって事件の数々で評判が微妙な時空監理局監修は隅に追いやられているのだ。

「あーっやべ……今からでも求人とか次雇ってくれそうな所探すか?」

「何の話だティー」

「なんか新事業色々やってるけど却って立場が悪化してないか……監理局なくなったらどうしようって新しい仕事探し……というかお前も他人事じゃないぞ?」

「オレはデンジャードッグ屋台始める」

「ホットドッグ屋台舐めてんのか、つーかその料理って衛生面で不安とか言われてるやつだからな!?」

 たくっちスノーが意外と進路について考えている事に驚くミリィだが、たくっちスノーの場合はメイドウィンも仕事なのに何を悩むのかと首を傾げるが、たくっちスノーにとってメイドウィンはドラクエの戦士や魔法使いのようなタイプの職業であり金を稼ぐものとは別と考えている。
 毎日あくせくと働くような仕事をどうにかコネで貰いたいので、自分の他の分身たちが頑張ってくれることを祈るしかない。

 「たくっちスノーってさぁ色んな事研究してるんでしょ、特許取ったら?」

 「研究と言ってもマガイモノ作る時の副産物だぞ?MIXにanchorシステム、フィフティ・シリーズやドクロ丸……あと分身三人衆に……この事業の中でも色々作ったけど金になりそうなものが浮かばないな」

「……改めて色々作りすぎじゃない」

「あっ、でも金になりそうなの思いついた!G-rokシステム!」

「じ……G-rok?なにそれ?」

「ナタから譲り受けたリアルワールドメイドウィンブラストあるだろ?その人のパラレルワールドを見れるってやつ……あれをちょっと上手く使えないか改造したら出来た」

Global・Lockon・keyword…略してG-lok。
 適当な単語を打ち込んでメイドウィンブラストを打ち込むとその希望通りのパラレルワールドから来るキャラクターを呼び出せるという、名前の由来はリアルワールドにも存在するAIとか。
 しかもどんな想定でもいい感じに近いものを呼び出せるという、簡潔に言うとグランドジオウのアレと同じ。
 たしかにこれなら試行錯誤や新たな可能性として使えるし、もしもボックスみたいな使い方も出来るのでこれまでの研究では充分使えるのだが……。

「ティー、お前は過去に何を呼んだ?」

「軽はずみなものだよ、もしも〇〇とか……もしもあの作品に〇〇が居た場合……とか誰でも考えるようなもの、でも実際に出てくるんだよ……問題はさ、出てきた奴らがいつ帰ってくれるのか自分にも分からないんだよね」

「……え?まさかお前」

「あー!!待て待て!!テスト運用で呼び出した奴は既にちゃんと帰ってるから!しかも完璧じゃないんだよ!」

 曰く、出てきたキャラクター達は好きに活動するがたくっちスノーの視界に入らない場合、攻撃や破壊活動などを行っても何の被害もならない。
 なので観賞用として周囲が楽しむ分には問題ない、いつ帰ってくれるかヒヤヒヤしたこともあるらしいが……。

「あとこのシステムこの手のAIにしては結構頭良いほうだからアニメ見ながらちょっと気になったこと話すだけで真面目に答えてくれるんだよな」

「それGlokの方じゃない?」

「こっちも同じくらいの凄い機能があんの……でもこれ特許取れるかなぁ?どれもこれも金のためじゃなくて自分の為に作ったものだし……」

 たくっちスノーはぶつくさ言いながらも新しい研究を始める。
 ゲームプレイは相変わらず行っているが発明によって文字を書く所は全自動で行ってくれるようになった、G-lokを作成していたらついでに生まれたものらしくこの売れ行きが無ければネオジャンプにも導入しようと考えていたとか。
 しかしそれだけのテコ入れでは足りないのでその場で机を作り、マジで頭をフル回転させる。
 編集者として追われている時はそんな暇なかったが、元々たくっちスノーは発明家系のキャラである。
 何故か副局長として前線に駆り出されることも多いけど。

「ティーは全自動漫画売り上げアップマシーンとか作ってそうなものかと思っていたが」

「楽をする為の開発は自分の美学に反する、自分は作ったもので更に実験を行ってどこまでやりたい放題出来るかを考えたいんだよ」

「あー、漫画編集者とかなんだかんだ一番やる気出してたのもたくっちスノーだもんな」

「ミリィこそどうなん?ときめきジャンプ順調ってのは聞いたぞ」

「まあね、皆が凄いんだよ?とくにデッサンマンとかさ……」


「完成した!!」

「うおっ!?」

 たくっちスノーはときめきジャンプの話をしながらも手を休めなかったので研究品を完成させていた、それは巨大だがレトロ感のあるアーケードゲーム筐体のような見た目をしており、コイン投入口の代わりに大きな穴があった。

「コミカライズゲームシミュレーター!原稿を送ると内容を読み取ってゲーム化!プレイしながら漫画の展開を予想していく!」

「こういうの特許取れよ!それ普通に時空出版局にも負けないポテンシャルしてるよ!?」

「自分だって初めて利益のために発明作ったんだからそういうのわかんねえよ!!」

「というか……実際にコレは使えるのか?」

AIのべりすとを参考にして数々の名作や名場面のデータ、更には打ち切り漫画の失敗した原因や要素まで学習させたから……まぁ全部考えてくれるとはいかないだろつな、アドバイス程度かもしれん」

 これだけは心許ないとして引き続き別の発明品を考えにいくたくっちスノー。
 ミリィとしてはあれだけのことが出来るのに何故自分はジルトーには遠く及ばないと思っているのか不思議で仕方ないが、この情報も松山に報告しておこうと思った。

「そういえば、時空犯罪者時代のたくっちスノーって他に何作ってたの?MIXやAnkerシステムってマガイモノを作るための技術だよね?」

「そうだな……意外かもしれないが奴はマガイモノを悪用する気はなかったぞ、時空犯罪の為に作ったことは一度もない」

「えっそうなの!?」

 EXEが言うにはたくっちスノーの当時の模索していたマガイモノ研究は二通り、MIXやAnkerシステム現在のGlokなどマガイモノを効率よく様々なパターンで作成する為の手段、そしてもう一つはフィフティ・シリーズやドクロ丸のような成分の応用や自身の変身能力を用いた設定の付与の研究、これもGlokシステムが『もしも』という形で別の設定を持ったキャラクターを召喚しているの。
 Glokシステムは過去の自分の集大成であり先ほどの自信ありげな姿も頷ける。
 作ったマガイモノを部下として仕向けることもあるが、時空犯罪は基本的にたくっちスノーの単独で行っていた、黒影への対抗心もあるが……基本的にあの3人のみで生きていたという。

「だからティーは今の環境の維持に拘るんだろう、現在こそ遅れを取っているが監理局の設備は放浪時の手探りの頃より遥かに優れている……」

「ああ、働き先ってそういう贅沢も許してくれそうな場所も考えてってことなのかな?別に博士も気にしないと思うけどなぁ……」

「博士と言えばお前もだ、お前やその科学者が所属しているムゲンダイ研究所……メイとの関係を思えば秘匿するのも当然だが実態は何も掴めない、メイの模倣としてポチもいるくらいだ、勢力は今のオレ達にも匹敵するぐらいだろう……」

「……やっぱり信用できない?」

「ティーはメイと戦うことになる場合立場上お前と戦うことになるかもしれないことを危惧している、気を遣ってると思ってくれ……」

「というよりは詐欺だったらどうしようって感じかな!」

「また何か作ったの!?」


「こうして黒影二人で話す機会もなかなか無かったよね、本物」

「そういう言い方はちょっと癪に障るけど、まあそうだね」

 そして同じ頃ポチは珍しく1人でメイドウィンに誘われて高そうな店で食事に誘われていた。
 これまで見てきた中で黒影はこういうようなことをする人物ではないと知っている、わざわざ高い店で凄い人みたいに振る舞いたい時は相手を出し抜こうとしているわけだ。

「俺、高い店慣れてなくてマナーで恥晒したくないからさ……早く用件言って終わらせてくれると嬉しいな」

「そうだね、俺も和食はやってるがそこら辺はさっぱりだ……分かったよ、簡潔に言うとスパイとしての仕事の話」

「ああそれも勿論やってるよ、何が聞きたい?」

「時空出版局局長、ブンゴ・ノートについて……君のプロファイリング能力は監理局随一だからね」

「おっと……踏み込むね、個人的にも気になってたから調べてあるよ」

 メイドウィンはブンゴが自分が作ったマガイモノだと知っているのか?仮に知っていたとして傾向としては創造主の威光を振りかざすことになるのだろうか。
 ポチは頭の中で渡していい情報のラインを考えて、問題なさそうな部分へ再調整してメイドウィンに提供した。
 実際の調査内容の三分の一にも満たない内容だが、世間から見た情報からすれば充分な量だ。

「うん、上出来って感じ……それでポチ、出版局みたいな俺達以外の時空規模組織ってどれだけある?」

「結構あるでしょ?特盟とかそうだし、諜報局にオブリビオンハンターのいる鎮圧局……テレビ番組の放送局、後は時空最大規模の巨大デパート黄金天国……ざっと思いつくだけでもこれくらいあるし、実際はまだあるよ」

「ポチ、全部のトップの弱みとか握れたりしない?」

「握れる可能性は高いけど、脅しだけじゃ崩せないと思うよ?一枚岩じゃないし……」

「なんでもいい、監理局がこのまま舐められっぱなしでいいの?ネオジャンプの今の評判、君も理解しているはずだ」

ポチは街を歩いている時の市民のネオジャンプの評価を思い出す、漫画の出来はいいがジャンプを名乗れるほどじゃない。リスペクトが足りない。
 酷いものだとジャンプの看板を被っているだけの寄生虫とアンチに叩かれたこともある。

「酷いと思わないか?皆頑張って作っているのにそれを……『寄生虫』なんて、それじゃまるで俺達が少年ジャンプよりも立場が下って判定になっちゃうじゃないか……許せないよこの表現は」

「どっちかというとカッコウの雛って感じだよね」

「何か言った?」

「いやなんでも……たくっちスノーには言えないよねーこの本音、最近はなんかまた発明する余裕が出来たからってネオジャンプに役立ちそうな道具作るの頑張ってるらしい、監理局のドラえもんだね彼は」

「え?発明?……詳しく聞かせて」


「……とりあえず思いつくだけ開発したなぁ」

「もしもしたくっちスノー」

「うおっ」

 帰ったメイドウィンは副局長室に訪れ、彼から見ればガラクタにしか見えない物の山に紛れているたくっちスノーを発見して発明について聞いてみる事に、時空犯罪者としての彼をよく見て来たので何かしらをつくる才能があることは把握していたが時空監理局に入ってからもマガイモノ以外を作っているとは思わなかった。

 「まさか時空最悪の男が監理局にここまで尽くすとはねぇ」

 「勘違いするなよ黒影、自分はこの地位と設備を維持したいだけだ……その為にも監理局は二人で頑張らないとダメだろ」
最終更新:2025年03月23日 20:46