『イミタシオ』

 はじまりの書曰く……ヴェナリータはマジアベーゼの魔力を極限まで高めて蜘蛛のような怪物に変貌した暴走形態に変える予定があった。
 ロードエノルメに対する膨大な怒りはそのトリガーになり得たのかもしれないがそこそこ理性が残っていたベーゼは狂わずに確実にロードエノルメだけで他の世界に迷惑をかけない存在を作ろうとしてエノルメの魔物を利用し自制心の鎧である世反獣キルロードを作り出した。
 後の事に関しては問題ない、こんな歪んだ願いによって生まれた怪物は魔法少女によって倒されると相場が決まっているのだから。
 キルロードはエアプベーゼを掴み、そのまま別世界へと抜け出していく。
 行き先は何もない廃墟のような世界、ロストメイドウィンを待つのみとなったいつ滅んでもおかしくない世界。
 キルロードはエアプベーゼをタコ殴りにしながらビーコンを流す、今マジアベーゼに見えているものは幻覚だが本物の魔法少女が来てくれるように。
 キルロードは主人であるマジアベーゼに忠実なオブリビオンであった、彼女の性癖を満たすことは出来ないが邪魔するものをつぶすことは出来る。
 ビーコンをききつけてエノルミータも次々合流するが、その姿はどうにも……腑に落ちないものだった。
 キルロードは指でサインを送り、同じオブリビオンであるキスマークがその内容を理解出来た。

「こいつは半殺しにしておくから確実にロードエノルメを捕まえろ……だそうです」

「んなこと言われたってこんなの……」

「うっ……あっ!?」

 しかしキルロードは途中で動きが止まり糸が切れたようにがっくりと項垂れてしまい、その隙を見てエアプベーゼが時空の渦を作り出そうとするがレオパルト達の総攻撃によって行き先がめちゃくちゃになってしまう。

「待ってくださいロード様〜!!」

 レオパルトがマジアベーゼに駆け寄ると……変身が解けて柊うてなに戻ってしまう、キルロードの出力が強すぎて高ぶって異常に増殖していたはずの魔力を即座に吸い尽くしてしまったのだ。
 キルロードはうてなに戻ったことを確認するとレオパルトに身体を託し、本体である鎧だけになって追いかけていった。
 うてなも正気に戻り、キルロードに手を伸ばして意識を失った。

「……どうしてこうなったんだ?どうして!!こんなことになってんだよ!!」

「ああ、おかげさまで僕のシナリオもぐちゃぐちゃだよ……いや僕だけじゃないか、でもここからが本番なんだよ……シャドー・メイドウィン・黒影の大きな反応を掴んだ、はっきり言ってこれはもう善だとか悪だとかそういうスケールの話じゃなくなった、そういう意味ではうてなが倒れてくれたのは都合がよかったかもしれない」

 エノルミータVSシャドー・メイドウィン・黒影VSシン・ロード団。
 時空を巻き込んだ盛大な茶番に異議を唱える為トレスマジア達が追いかける……。


 キルロードが生まれる少し前、ゴジュウジャーとトレスマジアは地図に描かれた場所に到着するが……バツ印の場所は一見するとただの一軒家にしか見えない、看板には『田中』と貼ってあり本当にただの家だ。
 だがポチ曰くめちゃくちゃ厳重にトレスマジアのような結界が張り巡らされており、何があっても戦闘に巻き込まれないように対策されているという。
 ここまで極端な事をするのはたくっちスノーぐらいなのでここに居ると見て間違いないそうだ、同期が言うくらいだし。

「もし間違っていたら?」

「俺が恥かくだけだからちょっと離れてて」

 インターホンを押してよく分からない言語を話したらマンホールが浮いて後頭部にぶつけられて失神するが1秒で立ち上がり無理矢理にでもこじ開けると、そこには……顔が女で身体つきが男、境界線のように首が存在しないまさに人間のまがい物のような歪つな生物が立っていた。

「おいポチ相変わらず解読に困難な言語喋るのやめろ」

「マンホールで殴らなくてもいいじゃん!」

「当然の処置だ!!解読したらえげつないほどの下ネタだったぞ!」

「あ、あのー……」

「あっそれどころじゃなかったな」

 中にトレスマジア達を招いて、ポチが念の為用意した全てのセンタイリングをたくっちスノーに渡す。
 元々こういったアイテムの受け渡しは彼の方が適任と考えておりいずれは渡す予定だったという。

「改めて自分が時空監理局副局長たくっちスノーです、といっても活動している分身のうちの一つだけど」

「アンタに言いたいことがある、お前の上にいるやつがバカみたいなことをしている」

「シン・ロード団やマジアベーゼのことは把握してる、アレは自分やポチと同じマガイモノだな……精神面を犠牲にして完全な擬態を再現したが、作ったやつは相当な手慣れだな」

「それだけじゃないの、実は」

 マゼンタは黒影がこの世界やヒーロー絡みで起こしたこと、ゴジュウジャーをこの世界に無理矢理送り込んだこと、直接自分達に会いに来て話したことやその直後にシン・ロード団が顕現したこと。
 ……はっきり言ってマジアベーゼを新しい時空の悪の象徴として利用して現在進行形で自分の力を誇示しようと振る舞っているようにしか見えないことを話すと、たくっちスノーも頭を直接掴んで抱え込む。

「……田所が言っていたのってこういうことだったのか、確かにそれ一大事だわあのバカ!監理局売り出すのヘタクソか!!自分まで出撃したことになっただろうが!てかなんだよシン・ロード団!あんな下手な芝居じゃ賢い奴らには速攻でマッチポンプ疑うって!!」

「えーと上司と部下なんだよね?」

「それ以前に元A級時空犯罪者

「……自分の話はまた後だ、今はコレなんとかしないとな」

「私達もシン・ロード団を止めたくて、でもどこに現れるか」

「その辺に関しては大丈夫だ、こういう時黒影は直接出向いてくる、そしてシン・ロード団と戦闘して自らをアピールするだろ、自分が時空犯罪者として戦ってた時も同じパターンだった」

 たくっちスノーは何かあった時のために発明した黒影の所に直接ワープする装置を貸す、これでシン・ロード団と黒影を直接叩いてしまえば今回の騒動は鎮められて状況も説明出来るという。
 更にサルファには作戦があったので黒影に直接会えるのは好都合だという。

「じゃあ早速行ってきます!」

「まあ待てよ同行するから準備させて」

「たくっちスノーも行くの?」

「なんていうかさ……ちょっと明かすとポチとは別で自分も魔法少女をプロデュースしたんだよね、タイアップ商品も検討中」

「エッまじで!?どうして言ってくれなかったの!!」

「自分にも自分の事情があるの、ほら準備して!今回は自分達にとっても無関係な話じゃないから!」

 たくっちスノーが呼びかけると襖を開き、小さな女の子が姿を現して荷物を用意する……マゼンタ達も知らない初めて見た魔法少女である。

「改めて紹介しよう、この子が僕が専属で教育して時空にプロデュースする予定の新人魔法少女、名前はイミタシオだ」

「シン・ロード団とアホ上司をまとめてぶっ潰しちゃうぞ♡」

 渦に入って時空間で作戦会議を行う、ただ世界を超えるとしても距離によっては作戦会議をする為の余裕が出来る。
 シン・ロード団のメンバーや作り出される怪物がマガイモノだとすると対抗手段は少ないので直接騒ぎを鎮圧させるしかない。

「ってことでこの面々で黒影に抗議してついでにしばくか……イミタシオがシン・ロード団を狙いたいっていうから自分が黒影を行く」

「なら俺がコイツと行く……あのガリュードという奴、なんか知らねえが嫌な予感がする」

「では僕も、魔法少女といえどまだ小さな子供だし!」

「お守りとかはいらんぞ♡」

「ただシン・ロード団と戦うとしても役割分担が必要でしょ、ねえ……マガイモノの殺し方ぐらい知らないの?」

「それを知られたら自分まで命の危機に陥るから企業秘密だよ、ただ冷えるのは勘弁とだけ」

「なんや局長に喧嘩売るやつはウチとこいつだけか?」

「いや黒影と喧嘩するなら人は少ないほうがいい、マジで人じゃなくて天災を相手にしてるようなものだ」

 特に魔法少女は戦闘よりも人命救助を優先させておきたい、ただでさえ金の問題でヒーローは駆けつけるのに躊躇いもあるし少し移動するにもジーカは馬鹿にならない。
 今は少しでも人を守り安心させる存在が必要なのだ。
 マゼンタ、陸王、ポチ、猛次郎が救助を行いアズール、爆神、角乃、イミタシオ、そして吠でシン・ロード団に攻撃。
 シャドー・メイドウィン・黒影の方に挑むのはサルファとたくっちスノーだけだった。
 たくっちスノーから言えるのはとりあえず世界が一つ火の海になること、謝罪は一緒に付き合うことだった。

「一つ聞いてええか、あのイミタシオという魔法少女はウチのところの管轄にも見覚えがなかった……どこであんなん拾ってきた?それと能力」

「この件が無事に終わったらざっと説明するよ、イミタシオの能力?君等も味わったでしょ、毒だよ毒、君等のわがままボディを直したのもイミタシオだけどアレ自分が上手く調合して脂肪だけ消したからね、脂肪が死亡ってか!ははは!」

 正直な所時空監理局副局長も信用できるか怪しい。
 黒影に最も近く、マジアベーゼより前からA級時空犯罪者として振る舞い……そして異質だが不気味なイミタシオを何故か育成して無関係なはずのポチの仕事に協力している。
 下手すれば時空のツートップに喧嘩売ることになるがサルファに不思議と恐怖はなかった、スケールが大きすぎて頭が動かないからだ。

「そろそろ黒影の反応が強くなってくる、各自気をつけろよ、何せ死なないのは自分とポチだけなんだから……イミタシオはやばくなったらそいつ盾にしていいから」

「言われなくてもそのつもり♡」

「ひどない?」


 同じ頃、主人のいないキルロードは時空の渦を越えてガリュードに狙いを定める。
 うてなの感情が込められたこの鎧には様々な機能がもたらされており、ロコムジカの音波、レオパルトの火薬兵器、ルベルブルーメの影掴みなど様々な武装を使うがガリュードは全ていなす。

「はあ……こんな無駄な戦いをする気はないけど、仕事の為だからエノルミータには死んでもらうよ」

 ガリュードはロードエノルメがそばに居た時と違う素の態度で銃を構えてキルロードに撃ち込み互いに一進一退。
 しかしマジアベーゼの魔力供給も失った今ろくに動けるはずもなくキルロードはガリュードに一撃与えただけで止まってしまい、渦をあちこち潜り抜けてロードエノルメとエアプベーゼも合流する。

「あの化け物は止まったのか?」

「はい、よほど我を失っていたのか魔力を使い切るのも早かった様子です」

「愚かなマジアベーゼめ……我が臣下に下れば少しは良い思いをしてやったというのに……」

「ろ、ロード様!とんでもない反応の数々です!時空監理局、ゴジュウジャー、あとトレスマジアまで!!」

「やはり来たか……総力をかけて時空監理局を殲滅せよ!!時空征服の壁となる一番の脅威だ!」

「ロード様、ゴジュウジャーは僕におまかせを……特に遠野吠にはちょっとした因縁が……」

「いいだろう、シャドー・メイドウィン・黒影は私がやる、お前はロード軍団を連れてトレスマジアを殲滅し……」

「い、いやそれが副局長たくっちスノーまで来ているんです!!」

「構うものか!奴が来ることくらい想定に入れてある!」

 ロードエノルメ達は時空の渦に弾丸を放ち時空間に直接攻撃を行った後に別世界に避難する。
 たくっちスノーもこれは想定の内でブレる時空間も多少はコントロール可能、むしろ行き先を作って派生ルートを作成する時空犯罪者時代によくやった手法だ。

「エノルメは黒影とやるはずだから金髪ちゃんはこっち!見たことない反応が真ん中だからガリュードはそっちだ!」

「よし行くぞお前ら!」

 時空間を越えてトレスマジアにとっては初めての別世界戦闘。
 各自問題なくそれぞれの勢力へと辿り着き、たくっちスノーはサルファと共に砂漠に辿り着く。

「あっつ!これちゃんと成功してるんやろな」

「してるよ、あいつはカッコつけるとき邪魔なものが少ないからって砂漠で戦うことを好むからね」

「あれ?たくっちスノーじゃん、といってもどこでも会うんだけど」

 たくっちスノーの言う通り時空の渦から黒影が現れ……狙い澄ましたかのようにというよりは先回りされてるような振る舞いでロードエノルメが現れる。
 なんともくだらない三文芝居、既に作戦を決行する気のサルファからすればそう見える。
 遂にその時が来た、時空監理局の存在を知ったときからずっとこうしてやりかった。

「おっと敵さんや……ああ、間違えてしもた……かっ!!」

 サルファは勢いよく敵を殴ろうとして黒影の頬をぶん殴った。

「うわーやってしもたわ、大事な局長さん殴ってしもた、これは専属魔法少女も解任されるやろなぁ、こりゃまずいわー」

 一応あちゃーみたいな顔をしながら棒読みで喋るサルファ。
 戦闘中にうっかりという形で黒影を攻撃することで専属魔法少女をクビになる、これがサルファの考えた作戦だった。
 勢いよく吹っ飛ばしたのでやるだけやったから消化試合とばかりにロードエノルメの方へ向く。

「こっから先、もちろん覚悟してるで」

「……イカれてるねお前、正直クビにするのがもったいないくらいだよ、でもまあこれは責任問題だからきっちり自分の方から辞令出しておくからね!」

 ノリノリでたくっちスノーも応じてそういえばいたね、のノリでロードエノルメと戦闘に入る。


「やあ、待ってたよ吠……」

「誰だお前、俺にそんな知り合いは居ねえ」

「……なんだ気付かないのか、時空に出てから随分余計な事を知ったみたいだけど改めて僕がこの手で……ね」

 ガリュードは吠を誘い出して一対一の勝負に持ち込む、そしてエアプベーゼはというと……。

「爆神さん例のやつ!!一発頼みます!」

「何故私がこのような事を……仕方あるまい一球入魂!!」

「ホームランッッッ!!!!♡♡♡によってみなぎる真化!!愛のアヴァランチ〜暴れた数だけ強くなれる〜」

 正義の名を今汚すのはアズールだ、爆神に勢いよくケツバットされることで一気にみなぎって真化してカウンター技を叩き込みエアプベーゼをぶっ飛ばす。
 とりあえずせっかくのトレスマジアとゴジュウジャーの合体技がこんなのってどうなんだとポチは思っていた、あとめちゃくちゃ爆竜戦隊アバレンジャーへの風評被害。
 しかしエアプベーゼからすれば不死身でもたまらない破壊力であり吹っ飛んだ所に黒い影が堕ちてくる。
 レオパルトが本気モードを解放して軍人姿から一変、豹のような荒々しいスタイルへと変化。
 更にネロアリスがセンタイリングの玩具からリオとロードガルザを召喚して袋叩き、追いついた所にゴジュウユニコーンが突き刺してエアプベーゼだけか苦しんでいる。

「ああもうなんで私だけがこんな目に……ロード様!!少しは私に手を貸してくださいよ!ガリュードも何をしてるんですか!!」

「どうしてお前がこんな目に遭うが分かるか……何故ならお前がマジアベーゼだからだ!」

 レオパルトにそのままキャッチされてぶん投げられたエアプベーゼ。
 トレスマジアやゴジュウジャーからすればエノルミータはロードエノルメの部下と伝えられているので内乱にしか見えないが事情を聞こうとはしない。
 ポチが止めた、悪と正義が馴れ合うことはマジアベーゼが話していた美学に反する。
 あくまでアレは敵、エノルミータが敵その2であるべしと考えてそのままにしておくことにしたがとりあえず今回のニュースで出てきた物は偽物であることが確定的となった。

「もう一発!」

「色んな意味で体が持たないから頻発させるものではないだろう!」

「竜儀があんなにたじろぐ姿僕初めて見たよ」


「ぎえああああ!!」

 ポチがたくっちスノーと連携して時空の渦でアクセス、怒涛の攻撃で吹っ飛んだエアプベーゼがそのままたくっちスノー達の所まで突っ込まれていく。

「思ったよりガチバトルみたいやな」

「強いね君の同僚」

「ロード様助けて!!私だけ分が悪すぎます!」

「ガリュートはどうした!」

「遠野吠とタイマンして繋がりません!」

 シン・ロード団がわーわー揉めている中エアプベーゼと戦闘していた者も合流、ガリュードと戦う吠はどちらも合流してこないので問題はなさそうだったがあの無関係な人間にそこまで期待しているのはエノルミータとしては理解に苦しむ。

「随分と余裕が崩れてるみたいだねシン・ロード団、すっごい無様♡」

 ここに来てずっと毒薬を調合していたイミタシオも合流、イメージに反するような自分と同じくらい大きな剣を振り回して近付き、シン・ロード団はその姿に驚くが様子がおかしい。

「い、イミタシオ!?なんで!?だってイミタシオは……」

「ベーゼ!!余計な事を言うな!!」

「……あれ?なんで君等イミタシオのこと知ってるの?デビューしたばかりなのに……それにその言い方、まるでイミタシオがここにいるというより存在してることがおかしいみたいな言いか」

 言い終えるまでもなく、あまりにも良すぎるタイミングで黒影が戻ってきてたくっちスノーにパンチする。
 その直後にこれまた大きな包丁を構えてイミタシオの背後へ……というところでサルファが白刃取りで受け止める。
 慣れているのかたくっちスノーも即座に戻ってきた。

「あかんやんか……あまりにも短絡的すぎるで局長さん……そんなことしたら何かあるってのがバレバレやで……たくっちスノー!これ終わったら説明してもらおか!!イミタシオとは何者なのか!!」
最終更新:2025年04月30日 20:42