マゼンタ色の景色

「何も殺すわけじゃない、あの世界のマジアベーゼに私の世界のマジアベーゼと同じ傷を残す……それだけでいいのよ、何を躊躇う必要があるの?私達はこれまで人の形をしていないだけで多くの怪物を死なせてきたはずじゃないの?」

「合理的だがやる人のメンタルのことを考えてないなこの作戦は」

「まさに無慈悲だが誠実な正義だ、ロード団だった頃にもあそこまで骨のある奴は居なかったな」

「骨のあるどころか狂ってる、あれは生き物じゃなくて魔法少女という兵器だ……いかにも黒影が好きそうな正義の味方

「副局長には皮肉も伝わらないか?」

 一方イミタシオ陣営はポチにこっそり盗聴器を取り付けて小夜達の作戦会議を聞いていた、みち子もトレスマジアの正体を知ることになるがうてな以外は興味がないしバラす理由もないので黙っていた。
 傍観者のたくっちスノーに直接止める権限はないが黒影のやることを考えると今でも気になって仕方ない。
 ポチから吠を通していた……ガリュートは黒影が自分やはるかを嫌っているので手段を選ばないと言っていたと。

「実は他の分身達の意見なんだが、他の世界でもそういう事例を見せていたらしいんだ」

「どういうことだ?遠野吠とマジアマゼンタ、更にそれらの関連性が掴めない」

「……ごめん、ソレに関してはメイドウィンとしての管轄になるから義務として答えられない」

「まあいい、何かあったら私にも話しておけ……作り置きは必要か」

「え?」

「なんだ前にも言ったはずだ、お前と私がどれだけの付き合いと思っている……お前が私に近付いたのは要は許せないやつをしばき倒しに行くんだろ、なら私と目的は同じだ、少しはお前の見込んだ魔法少女イミタシオを頼ってみろ」

「ミッチー……」

 たくっちスノーと田中みち子は単なる打算で組み、あくまで共通の目的で協力しているにすぎない。
 だがポチは言っていた、仲良しこよしも良いが目的の為に不純になってみるのも悪くないと。
 いつまでこうして居られるのかも分からないとグッズを眺める、イミタシオの商品化なんて好きにやらせればいいと思っていたがこうして並べてみると悪くなかった。

「ただ1つ約束しろ、お前と違って私は死んだら終わりだ、死にたくない」

「ずいぶん真剣に弱気な事を言うね、元悪の総帥ともあろうお方が」

「当然だ、今の私はロードエノルメでもありイミタシオのプロデューサーだからな……」


 元の世界のはるかは暴食小夜の作戦に納得出来ず悩んでいた、既に決定事項となりつつありつつある中自分達はどうすればいいのか……こんなやり方でいいのか?
 エノルミータは無くなるべきではある、悪を滅ぼすのが自分達魔法少女の役割である、間違っていると思いたいのに心の中でもやもやしていたものが残り続ける。
 そんなはるかを励ますように元の世界の小夜と薫子が隣にいてくれる。

「あまり一人で抱え込まないで、正直な所私も……あれが本当に私なのか疑いたくなるわ」

「あいつは心が無いんや、ウチもアイツの思いついたことが悪いとは思わん、だが実行する側も無理するってことを分かっとらん、けどあいつはそうせんと生きていけんのやろな」

「…………あたしに出来ることってなんだろう、あの小夜ちゃんを止めたら足手まといになるのかな?」

「なんだ、はるかそんな所に居たのか?」

「えっあっ、遠野さん!」

 悩んでいると遠野兄弟の姿が、久光は気さくに手を振ってさりげなく隣に座ってくる。
 その姿が小夜と薫子には胡散臭く見えてしまう。

「お兄さんに会えたんですね、よかった」

「ああ、お前はもう会ったけど改めて紹介するよ、俺の兄ちゃんだ」

「はるかちゃんの友達かな?君達にも吠がお世話になったみたいだね」

「私達はそんなにって感じだけど……」

 小夜と薫子は久光の存在を今でも怪しんでいる、時空広しで会うのが困難だったとしてもあまりにもタイミングが近すぎる。
 パラレルワールドの騒ぎの中で唐突に現れる兄なんてどう考えても不審者にしか見えないし、何故はるかのことを知っているのだろうか?下手したらトレスマジアほことも……。
 しかし小夜達もこんな喜んだ姿の吠は見たことないので何も言えない、テガソードの里でもこんな様子を見せたことはなかったので本当に初めての様子だろう、ゴジュウジャー以外にも……。

「あの……久光さんだったわね、その……」

「お前は本当にこいつの兄貴か?」

「ちょっ……」

「こういうのはストレートに聞いたほうがええ、ただ今のは言い方も悪かった……お前ももしかしてパラレルワールドから来たんやないかと思ってな」

 久光はそれを聞かれると不機嫌な顔の吠を片手で制止して、何かを悟ったようにポケットから吠や真銀の物とは違う白銀のテガソードと赤黒いリングを見せてくる、これまでのユニバース戦士とも大きく異なる異質な存在だ。

「実は君の並行世界の存在にはすぐ気付かれた……やっぱり隠し事は出来ないみたいだね、トレスマジア」

「兄ちゃん……?」

「すまない吠、本当は黙っておきたかった……お前の為にも」

「まあええて、タイミング怪しすぎてあのアホ黒影の仲間やないかと思っていたからな」

シャドー・メイドウィン・黒影が妙な動きをしていたのはそうだね、僕もそれにタイミングを合わせた形になるし」


 久光は改めてテガソードの里に向かい、トレスマジアにポチまで含めて話をする。
 パラレルトレスマジアの面々もこっそりと盗聴しているが中身が年相応の少女なのでバレバレである。
 久光もそれを理解した上で話をする。

「僕は君で言うg-lokシステムの力を借りて呼び出された、久光ではあるが異なる存在……わかりやすく言うと指輪の戦いに選ばれたのが吠ではなく僕だった世界から現れた」

「そのシステムを組んだのは誰?自発的には呼べないし黒影局長ではないんだよね?」

「ミリィという少年だよ、君も馴染み深いと聞いてる……吠に危機が迫っているから守ってほしいとね」

「例のアホ5人のうちの1人か」

 まず黒影がまだマジアベーゼを大物の時空犯罪者にしてライバル扱い……かどうかは分からないが執着していることは変わらない上に吠やはるかを敵視していることが分かったミリィは吠が唯一信用する兄を並行世界から呼び出すことにした。
 更に一人では戦力に問題があると判断してマジアベーゼの並行世界と同じところからトレスマジアを呼び出したという経緯らしい。
 つまり6人増えたマジアベーゼは黒影、久光が後から連動してトレスマジアを呼び出したということだ。
 常夏熱海がたくっちスノーに協力していたのも更に吠が信用できる存在として手を貸してもらったのだろう。
 だが猛次郎が疑問を上げる。

「この世界の吠っちのお兄さんの力を借りるんじゃダメだったの?こんなに優しいなら快く手を貸してくれると思うけど」

「……いや、まさかあるいは奴が?」

 竜儀は心当たりがあった、前々から吠に詳しくて執着してゴジュウジャーどころかトレスマジアにも協力して黒影も出し抜き暗躍していた……そんな該当例が1つ存在した。
 吠も気付かないほど馬鹿じゃない、この世界の遠野久光は……。

「ガリュート……!!」

「その通りだ、同じ僕だからこそ理解できる……お前の兄はガリュートという名前でリング狩りを行い……お前とはるかちゃんを殺そうとしている」

「そ……そんな……」


 ポチは聞いた限りの情報をたくっちスノーにも送り、黒影の情報を探ってみるが黒影の場所は掴めない。
 その間に常夏は真銀を招いてイミタシオと共に黒影とガリュート対策を行っていた。

「田所に今度はゴジュウジャーのはじまりの書を解析してもらっているが……確かにガリュートが吠の兄で間違いない、それも相当執着しているらしく本の流れだとネチネチと吠を追い込んでる」

 ガリュート……またの名をクオン。
 何故そいつが黒影と組んで仲良くしているような素振りをしているのかは分からない、だが今回の事件で一番警戒しなくてはならないのは彼であることは分かった。
 恐らくマジアベーゼ達もパラレルのトレスマジア達も全員ガリュートを警戒していることだろう。
 たくっちスノーやポチとしては一度薫子を死にかけさせてしまった以上、これ以上余計な危害を加えさせてほしくないのだが……。

「そのガリュートとやらはどこに行ったのだろうか?サンシャインフレンドにとって害になる以上芽は摘んでおいたほうがいいだろう」

「傍観しておきたいんだろうて、マジアベーゼをライバルしたてあげたいのが黒影……それに便乗しているのがアイツだ……そしてガリュートの発言……」

 ガリュートの発言から次に行うことはマゼンタを追い詰めてマジアベーゼの逆鱗に触れるようなこと、前のこともありマジアベーゼを怒らせて乗らせることを再び狙ってくることだろう、無論彼女達もそれを想定していないわけがない。
 マゼンタを追い詰めて……闇堕ち?

「はっそうか!!何もマジアベーゼに拘る必要はない!!これはまずいことになるぞ!!」


 ガリュートの事はゴジュウジャーに任せて暴食小夜の作戦決行の時、まだ意見がバラバラになりつつも柊うてなに傷を付けようとしている。
 花菱はるかにはまだ迷いがあった、もしこんな形で傷を付けてマジアベーゼの正体を知ってしまったら……もしも身近な人間だったら自分の心にも傷が付いてしまう。
 そんな躊躇いの中で暴食小夜が剣を振りかざしてマジアベーゼに傷を付けようと近寄る、咄嗟に声を出したことで手元が狂い剣が彼女の両目を切り裂いた。

「あっ……」

「う"ああああ!!痛いっ!!痛い!!何も……何も見えない!!どこだ!どこだ魔法少女!!」

「ち……違う、あたしは、あたしはそんなつもりで、止めなければあたしは……」

「あの子は目を狙うつもりなんてなかったよ?君の余計な迷いが彼女の人生を壊したんだ」

「嫌……違う!嫌!!」

「ねえ、よく見なよ……君が一体何をしたのか」

 目から血が止まらず彷徨っている、肩を掴まれて眼球に指を突っ込まれて声が響く。

「ねえ、魔法少女がそんな顔しないでくださいよ」

「いやっあっ、あっあああ!!!」

 はるかは夜中に目が覚める、最近は時空絡みで心が落ち着く暇もなかった為かこんな夢を見るようになっていたらしい。
 夢なのに妙にリアリティを感じてしまったのは気疲れによるものだろうか……実際に作戦に移してもらうのはガリュートの件が落ち着いてからということでまとまったものの、あの夢は気になることが多すぎる。
 ……どうしてあの時のマジアベーゼは、うてなちゃんと重なって見えたのだろう。


 だがはるかの悪夢はこれだけで終わらなかった。

 朝起きてすぐにはマンションからマジアアズールが落ちてきて血飛沫の音と共に目覚める、また家から出たかと思えば家が炎に包まれて飛び込んでいきまた布団の中。
 まるで海外のホラーゲームのように雑だが不条理な地獄が視界に襲い掛かりはるかの精神を追い込んでいく。
 何故突然こんなことが起きたのか?これは現実なのか幻覚なのか……それさえも分からないまま、だが大丈夫だと乗り越えて小夜達に会いに行こうとした。

「これは……これは多分遠野さんが言っていたガリュートの……だとしたら狙いはあたしだから、皆の迷惑にならないところで」

「別世界人のくせに気安く吠の名前を呼ぶなよ……」

「へ」

 ガリュートに頭を撃ち抜かれてまた目が覚める。
 花菱はるかこれで通算20回目の夢オチ、どんなに過酷な事が襲い掛かっても決して折れない魔法少女。
 ここで壊れてしまったら黒影に命がけで立ち向かっただの二人の想いはどうなるのか?まだ真化は出来ないが少しでも二人に追いつくためにもはるかは足掻いた。
 そして……全てを振り切って懐かしい姿を見た。

「シャドー・メイドウィン・黒影……!」

 例の局長が堂々と目の前を歩いていた、せめてあれさえなんとかできれば……はるかは駆け出す、吠が前に言っていた通り変身は出来なくなっていたが自然と動き出す。
 罠かもしれないが突破しなくては止められない。
 それに何故自分がこうなっているのかは理解できる、相手は全てを超越した神だ……たくっちスノーから前に聞いたはじまりの書、アレを直接改変して何かを企んでいる。
 そしえ花菱はるかは本当にヤバい時に素直に助けてと頼れるタイプだった。


「お願い!!サルファ」

「あいよ!!」

 後ろから従雷天使のサルファが現れて地面を叩き割ると周囲がノイズのように乱れていき本当の景色が露わになる。
 マジアマゼンタの状態で両手両足を拘束されており、研究室のような怪しい雰囲気の場所……どうやら自分はあの夢の時点で捕まっていたらしい。
 その直ぐ側にはガリュートと仮面を付けた白髪の男が立っていた。
 最初は黒影かと思っていたが魔力の反応や振る舞いが一致しない、本能がアレを黒影とは違うと反応している。

「貴方は何……?あの人と違う」

「俺は彼のともだちさ、彼の望みを果たすためならどんな手段でも選ばず実行する、結末の無い物語の為に君達は彼に尽くしてもらう、何者という質問には答えない、俺は既にこの時空ではいないものとなっているから」

 その『男』は拘束したマゼンタの顎を撫でて様子を確認している、まるで実験体を観察しているかのように眺めている……マジアベーゼの色欲溢れた物とは違う、本当に無関心に見下しているように相手をしている。

「うん、人らしさはバッチリ残ってる、それでいて生命反応も安定……君でしっかり試行錯誤した甲斐があったよ、クオン」

「勘違いしないでもらいたい、俺がバケモノになったのは吠を……いや、今はどうでもいいか」

「相変わらず帯電してないときはナーバスだ、ジンオウガの力がそんな風になるとは、まだまだ実験が必要たまね」

「実験……久光さんに何を?」

「さっき夢の中で言ったよね?今の僕はクオンだ、そう呼べ……あんな情けないバカだった頃の名前を……」

「こら、だからってここで帯電しない……うん、成功した君には知る権利があるか、簡潔に言うと……君をマガイジンにさせてもらった」

「ま、マガイジン……?」

「黒影が考えたメイドウィンでありながらマガイモノの性質を持つサラブレッド!食事も睡眠も必要としないが夢を見たり生物を超越した力を得る、神でもあり獣でもある新世代の存在!……そして俺はどこかの映画の悪役と同じでね、ヒーローのお話だったらそうなる前に阻止するんだろうが昔からそういう空気を読めないタイプでね」

マジアマゼンタ……花菱はるかはマガイジンである。
 はじまりの書を解体して作り出した世界の情報を遺伝子に加え、更に少しずつマガイモノ成分を肉体に注入していくことで人の体ながらマガイモノの性質を持ち神の如き力を得る。
 彼女を改造した謎の男はただ黒影の役に立ちたいからと黒影も失敗したマガイジンの安定した作り方を発見し、遠野久光と花菱はるかを完全なマガイジンした。
 それはメイドウィンにマガイモノにするのではなく、どちらでもない存在を無理矢理両方に当てはめるというコロンブスの卵的発想であった。
 だがはるかにとっては、あの偽物のマジアベーゼと同じような形に……。

「あたしは……マガイモノ……?」

「君が偽物というわけではない、同じに変えたから人間としてはもう死んだみたいなものだけどね、それに気を付けたほうがいい……安定するマガイモノ成分として『二つ名』の異名を持つ特別な生物を使用した為その要素が強くなってる、ガリュートの場合は『金雷公』ジンオウガだったかな、そして君の場合は『鏖魔』ディアブロス」

 その生物は一度憤怒に呑み込まれたら理性を失い、見境なく全てを殺戮する破壊の権化。
 自分は魔法少女や正義の味方から外れた兵器、それが今の……。

「マジアサルファがともだちに勝ったから勘違いしているかもしれないけど物語を作り出す俺とともだちと、その為に生かされている君達の上下関係は本来深い、抵抗とか藻掻きなんてものは俺達を楽しませるスパイスでしかないのだよ」

「今更落ち込んでも仕方ないでしょ、ある意味では君も僕の妹みたいなものだね……」

 だがこの『男』もまた甘い。
 化物になっても神を超越しても運命が狂うわけではないし、彼らの玩具でもない。
 これまでの戦い、弄ばれた遠野吠の運命、そして時空監理局や巻き込まれたマジアベーゼ達……矛先を見失わない、前もって知っておいて良かった。
 許せない、こんな事の為に幻影とはいえあんな物を見せてきたのが……鏖魔の力か分からないが生まれて初めてこれだけの怒りがこみ上げてくる。
 マジアベーゼがここまで監理局や時空に嫌悪を感じていた気持ちが……少し分かってきた気がする。

「認めるしかないんだね、あたしはもう人じゃない……いつからコレを狙っていたのか分からないけどね」

 凄まじい腕力で鎖を破壊して拳を振り上げるがガリュートに止められる、パンチなんてやり慣れていないのであっさりいなされるが強引に腕力でこじ開ける。
 頭痛がしたかと思えば額から禍々しく大きな角が生えてきたことで改めてもう自分は人から離れたことを実感する。

「よし、そろそろ外部実験だ……外に出してみよう、そして友だちの計画通りマジアベーゼ7人を皆殺しにして本当のA級時空犯罪者というものを公開しよう」

「使えないからマジアベーゼを切り捨てるんだ、黒影ってやつも飽き性なんだね」

「あのさ、俺の大事な友達を愚弄していいって誰が言った?殺すよ」
最終更新:2025年05月11日 07:11