ルールのないカードゲーム

 トムの地下室の都市伝説資料をまとめている中、ミリィの気持ちはそんなに明るくなかった。
 今回の調査にどうにも引っかかるところがある、都市伝説のことより自分たちの振る舞いに何か問題があったのではないかと思っていた。

たくっちスノー、あのやり方は良くなかったんじゃないのか?死なないからって堂々と突撃して、メイドウィンまで巻き込んで……やってることとしては炎上系の配信者みたいだったよ」

「そうか?まあ確かにこんな無茶が出来るのもお前と自分だけで何のリスクもなかったからな……」

 都市伝説とは手順を間違えたら呪われるとか、軽はずみに手を出して命を奪われるとかそういう危険なものであるべきというこだわりを実感したのであまりにもチートすぎることはなるべくしないようにしようとミリィとたくっちスノーの中で約束事項を作ることにした、ならば次はおつまみ感覚でスケールの低い都市伝説でも相手にしようと薄めのファイルを取り出した。

『FILE2 ルール自在のカードゲーム』

「それ都市伝説じゃないよね!?ただの人為的なミスだよね!?」

 ミリィはツッコミを入れてファイルでたくっちスノーの頭を飛ばす、都市伝説というにはあまりにもしょうもないというかネットで検索すればすぐに出てくるようなネタである。
 たくっちスノーがこんなものを堂々と公開して残しておいたのがビックリである。

「まだ決めつけるには早くない?」

「だって俺それ知ってるもん遊戯王のやつだろ!?大会でジャッジがルールを全然把握できないから外部の人間が作成したwikiを参考にして!それで選手が裁定を自分に都合良く書き換えてたって疑惑のやつ!!」

「あっ今都市伝説でもなんでもないだろって思ったろ!結構奥が深いんだからな!裁定をコントロールしてゲームを有利に働かせるなんてロマンあるだろ!」

「都市伝説っていうかただのバカだよね!?」

 カードゲームのルールを操っていた……真意はともかくなんとなく面白いなと感じてしまった、そもそも遊戯王は一万種類のカードに専用の裁定もありルールがめちゃくちゃ複雑なのは語るまでもない、ジャッジがユーザーの作成したwikiサイトを頼りにして裁定を行っていたというのもありえない話ではないのかもしれない。
 ただしChannelで扱うようなガチのやつではないだろとツッコミが止まらない、そもそも今はデータベースがあるので確かめようがない……それはあくまで遊戯王の話、時空規模までいくと……。

「遊戯王の奴に似ているがルールを自由自在に決められる謎のカードゲームが存在しているという、遊んだ方があるやつは極稀、ルールは無法だからどんなゲームかも説明できない」

「え?ま、まさか……オレタチカードバトルのこと?」

「オレタカ?いやそんな名前じゃなかったような……ていうかお前、一回記憶共有したのか」

 マガイモノである5人はたくっちスノーの開発した分身ハンマーによって何十、何百と分かれて事業に取り組んでいるが何かあった時のためにおでこに指を当てるだけで現在他の分身達はどうなっているのか瞬時に理解できるようにしている。
 どうやら別の分身達がモンスターを自在に作れるカードゲームを作っているらしい。

「都市伝説はそんな昨日今日の話じゃない、このゲームの話は5年くらい前から聞いているからな」

 結構最近に感じるのかもしれないがカードゲームで5年というのは相当長い歴史らしい、ソシャゲみたいに1年や2年そこらで消えることも珍しくない……とたくっちスノーが言うが詳しくないのでエビデンスは感じられなかった。

「……それってどんなゲームなんだ?って聞かれてもよく分からないのな」

「ゲームそのものは分からないがどういうカードを使うのかは突き止めた、こういうデザインらしい」

 たくっちスノーが描いたカードは裏面部分が青色の炎のような一見すると普通の絵柄、表側もデザイン面は普通っぽいがどこかにルールを操作する秘密があるらしい。
 ちなみに既に時空通販局やコレクターに見せてみたりもしたがこのようなゲームは取り扱ってないと返されたらしい。
 そうなると怪しいのはダークウェブであると、ミリィは腹をパソコンに変化させて解析を行う、ダークウェブのリスクを考えてあまり深掘りしないように経過してキーワードを打ち込んでいくと謎の古臭いサイトにたどり着く。
 なお、ミリィはパソコンなので見えない。

「……これもしかしてデジタルカードゲームか」

「デジタル?それってゴッドフィールドみたいな全部ネットでできるやつ?」

 全てが電子で解決するデジタルカードゲーム、どこにも売ってないし見つからないはずである。
 ゲームをしてれば自慢をしたくなるものでスクショなどが上がって来て謎のカードとして都市伝説になったのだろう。
 しかし、試合画面は見れるもののログイン方法もわからないしアカウント登録も出来ない、そのまま居座り続けても危険なので一旦試合だけ見ることにして始めたてのものを探す。

「同接10万人くらい居るぞ、時空規模と考えるとそこそこ話題になってるゲームらしいな」

「全時空のうちの10万だから少ない方ではあるのかな……?試合の方はどんな感じだ?ルールを自在に決められるカードゲームって一体どんな感じなんだろうか……」

 実際に試合が始まった、アカウント名はそれぞれ『yuna』と『mari』であり一対一のの勝負、手札は豪勢に10枚も配られていくが効果の一つ一つがさっぱり読めない。
 ルールが自在になる前に基本ルールを知らなくては意味がないとそれっぽいページを探すが見つからない、ここでミリィは嫌な予感を感じ取る。

「まさかとは思うがボーボボの5メガネみたいに適当に変なこと言ってるだけなのをルール自在って言ってるだけのごっこ遊びじゃあねえよな……?」

「い、いやさすがにダークウェブでその程度のお遊びするわけねえでしょ……」

 そんなたくっちスノーの期待を裏切らないように本棚のようなボタンを押してみると一通りのルールが載っていた。
 ずばり基本ルールはというとカードを使用した『城作り』である。
 最初に用意された10枚の手札と山札で建築材や人間を表現して、各自のフィールドで城を形成していく……これはデジタルならではの要素である。
 肝心なのはただ素材を消費して城を作ればいいわけでもなく、作り方や出来るものによって終わる条件が異なっていく……これがルール自在の真相か?

「でもそれだとおかしくない?ルールを城を作ることで自分に有利な形にしていくっていうのが広まって都市伝説になったとしても……普通のカードゲームにしか見えない、ダークウェブでやるようなことか?」

「確かに時空の規模がでかくなったとはいえダークウェブって普通にやべーところだからな、監理局も定期的に監視してる」

時空監理局も真面目に仕事してるんだな……おっ、試合多分佳境じゃないのか?」

 このカードゲームにはターンの概念は無いらしく手札を消費したそばから山札から補充されていく、よほど手慣れているのか出てきたそばから使われていくので効果が全然見えない。
 yunaは和風の城を、mariは城というか宇宙船みたいなものを作っていく。
 そして試合開始から5分も経たずに両者お城が完成するが、そこで画面が止まってしまったので何も分からない、バグではなく城が完成したら休憩時間みたいなものが挟まれるらしい。

「だ、ダメださっぱりわからん……結局どっちが有利かも分からないぞ」

「勝利条件が各自で決められたから処理してるってことでいいのか?他の試合見てみるか?」

 だが、ここでこのゲームがダークウェブに公開されているような妙な物であると実感する。
 リアルタイムで進行されているうちの5つの試合が城が完成したところで止まっているのだ、物によっては試合開始から既に3時間も経っている。
 今のうちにたくっちスノーが複製の力でカードリストを元にして印刷したので試しにやってみることにした。

「えーと……読めないぞたくっちスノー」

「テキストが未知の言語で作られてるな……まずはコレを解読しろってわけじゃないから安心しろ」

 ミリィに仮想試合をシミュレーションさせながら、たくっちスノーは覚えた内容を元にネットで情報を集めることにした。
 城の建設の法則性や勝利条件、アカウント登録の条件まで隅々までSNSサイトを探ってみたが確信を得られるというかしっくりくるような考察はないが、とりあえずちゃんと勝つことは出来るらしい。
 ……そんな中で何やら妙なものを見た、掲示板に建ててみたら興味深いレスを見つけたのだ。

『実はアレってカードゲームサイトにカモフラージュされた闇ショッピングサイトだったりして』

「なんか急に方向性が変わったな……一応保存しておくか、そっちはどうだ?」

「カードゲームである以上汎用性の高いカードがあることは分かったんだけどなぁ、これを闇ショッピングって?」

「都市伝説調査チームとしてはそっちのほうが面白そうだからその方向性で考えてみるぞ」

 闇ショッピングということはダークウェブでしか取り扱われてないような商品……普通の人でもイメージしやすいもので言うと麻薬や拳銃といった違法な商品の取引をカードの受け渡しで済ませている?しかし何の証拠もない。
 しかしそうしてこじつけてみるとカードも怪しく見えてくるのだから都市伝説の怪しさは凄い。
 ただの建築材や職人だと思っていた物が方向性を変えてみると怪しく見えてくるが普通に気の所為の可能性もあるにはあるが……そうなると謎の待ち時間が気になる。
 まずはカードゲームのような闇通販説の裏取りを確かめるためにこれを呟いたアカウントの特定を行うことにした。
 たくっちスノーが時空犯罪者時代に作った道具を使えばIPの個人情報どころかどの世界で書き込まれて種族まで丸わかりだが、下手にやりすぎたら先に自分達が特盟に捕まりそうだ。

「こんな踏み込むような話してたら消されるんじゃないのか」

「自分の発明品でなんでもすり抜けて確認できるとはいえ、これ余程の大物だろうな……この人物よほど大物と見え……いやこいつ、とんでもねえほどの大物だぞ、ココ・ヘクマティアル!!?」

「えっ誰それ……凄い人なの?」

「じ……時空犯罪者だった頃に色々あってな……世界平和の為だとかなんだとか言って武器を売る商人だよ、でも時空犯罪者ではないんだよな、黒影のお気に入りだから」

「局長が?……ああ、武器を売るから戦乱をまいてくれるってことね」

「ココお嬢は内心黒影にファッキューで心臓ぶち抜きたいくらいには大嫌いだろうけどな……でもメイドウィンがなぁ……ランキング8位なんだよ」

「トップテン!?マジかよ……そんな大物となるとダークウェブやこういうサイトの行き方くらい知っててもおかしくねえか、接触するのか?」

「バカ!ココお嬢のことだ中身が自分達なことも特定されてることも想定してるに決まってるだろ!今は都市伝説調査チームでも一応時空監理局!武器商人とお話なんてしたら洒落になんないって!!」

 そもそも本当にそういう説なのか、ココのことだから自分達を茶化しているだけとも本気でこういうサイトに入ったことがあるとも取れる、もちろん本人ではなくIPアドレスを模倣した別の存在というのもありえるだろう、自分達にこんな事言う理由が分からない。
 もしカードを利用した取引だった場合には……と思考を張り巡らせて、試合内容を録画して巻き戻してスローモーション再生を行う。
 消費されたカードもしくは現在の手札を一通り確認して法則性を確認していく。
 その際に脳が混乱しないようにミリィとたくっちスノーは敢えて雑談を挟む。

「ところでたくっちスノーはなんでそのお嬢さんと知り合ったの?」

「好きで出会ったわけじゃない、ちょっと殺し屋に絡まれてさ……その時偶然出会ったわけ」

「その殺し屋って?」

「『オーケストラ』と『いばら姫』とニコラス・L・ウルフフッドとデストロイマン」

「何その殺し屋のアベンジャーズ、というかその頃まだ時空新時代じゃなかっただろがい」

「バレたか……実際はオーケストラに揶揄われたんだよ、どっかのバカが不死身の自分を殺すように依頼する嫌がらせ、その時は同情したな……」

 もしかしたら完成した城にも意味があるのかもしれない、ホワイトボードまで用意して何個も仮説を立てる。
 念の為闇通販サイト以外でも……というところで一つ試合が終わったのを確認する、例の自分達が見ていた試合だ。

「……なんか逆に怪しくない?動きが露骨すぎるぞ」

「もしかして何から何までお嬢にからかわれてるんじゃねえかと思ってきたがそれこそ杞憂だよな……?」

 掲示板の方もだいぶ盛り上がってきたのでカードの法則性や城なども考察してもらうために投稿してみた後、再度サイトの方へとアプローチをかけてみる。
 アカウント登録ボタンはないがログイン機能はある、つまりアカウントを作る手段は外部にあるわけだがその辺も聞いてみることにした……。

「ココお嬢のIPアドレスは?」

「あれから1レスもしてないな……」

「マジで何がしたいんだよあの人はァ!」

(まずいな……それは別でヨルムンガンドのメイドウィンがカーレッジ派って分かったのが余計にショック)

 詰まりまくったたくっちスノーは最後の手段としてサイトへのハッキングを試みる、ミリィとたくっちスノーの合体技『ブラックテンペスト』でパソコンに成分を流し込んでどんなセキュリティでも突破できる、良い子は真似しないでね!
 解析してみると数々のスクリプトが現れるが成分で木っ端微塵に破壊、これを突破した選ばれた人間があの同接なのだろうか。
 ログイン画面をこじ開けて他の人物のアカウント情報のハッキングを行うが、ダークウェブのゲームなだけはあり難航を極めていたがついにその内の一つに到達する。
 直前のログイン履歴は3年前だったので問題ないとしてデータを確認する。

「やりこんでたら嬉しいんだけど」

「カードパックは10枚で5万円か……やっぱり胡散臭いけど買っとく?」

「さすがに他所のアカウントで課金したらライン越えちゃうだろ、カードリスト確認しておこう」

 そんなに遊んでいないのか所持しているカードはデッキ2つ分、カードを確認して即座に印刷し効果を確認する。
 まさか『ルールを自在に好きに出来るカードゲーム』の都市伝説からここまでになるとは……。
 念の為ログアウトして関連性を見る。

「こうしてみると一時期のマガジンのアレが隙あらばノストラダムスとか世界の破滅とかねじ込む気持ちも分かってくるな、考えれば考えるほど底に落ちていく感じ……癖になるな」

「都市伝説調査チームとしてどうなのかって思うけどな」

「まあ自分達はその手のプロと違う、解体センターみたいに都市伝説にまつわる犯罪とか追ってるわけしゃ……いや説が正しければこれも違法取引なんだよなぁ……」

 デッキから前の試合の人が使っていたものと確認して残された手札、消費されたカードを並べて共通点を確認する。
 両者のデッキに建築材にしては色鮮やかな宝石のようにも延べ棒にも見えるが、これを仮にマイクラのインゴッド的なものとすると通貨代わりとも取れる。
 職人は人材?そうなると完成する城は要求するものだろうか……?
 試合を見ていくと単に城が作られているわけではなさそうだ、城にしても何パターンも種類があるので深掘りしていくと時空ならではの考えに行き着く。

「もしかして完成される城って世界の分類を表してるんじゃ……和風の城は侍横丁で宇宙船はスペースオペラ!」

「あ……ありえなくもねえ、とするとドラゴンファンタジーやジャパニーズ、マスクドヒーローとかバリエーションが多くて当然だ!」

 各世界の武器や道具を密輸して提供しているとなるととんでもないサイトだ、こんな事が実際に起きていれば大変なことになる……これはもう時空監理局として見過ごせないというところでメールが来る。

「アングルボッサからだ……ほら、さっきのココお嬢の世界のメイドウィンからだよ」

『これ以上関わるなら君の冗談を事実にする』

「……これ冗談だと思うか?」

「思わない」

 深掘りしすぎたのだろうか、真実を突き止める前に強引に特定のメイドウィンによって調査を打ち切られてしまった都市伝説調査チーム『Channel』
 しかしたくっちスノーも頑張りすぎた、掲示板サイトでこの件を聞いてみたせいでこの都市伝説はまた違う形で広がっていくことだろう、カードゲームのような闇オークションサイト、少なくともルールを好きなように書き換えられるゲームよりは盛り上がることになるだろう。
 そして結果的には古い都市伝説は消えていく形になるのだろう。

「……たくっちスノーさ、もしかしなくても俺たちだいぶまずい物に足突っ込んでるんじゃない?」

「分かったかミリィ、都市伝説調べるってそういうことなんだからな……自分達がイレギュラーなんだよ」

「イレギュラーっていうか不死身とチートスキル持った上でこの結果しか出せないことを咎められそうだと思う」

 だが都市伝説に関してはある程度掘り下げられたのでこれはこれで良かったとしてファイルを切り上げることにする。
 まだまだ知りたい都市伝説は山ほどある、こんなところでChannelを潰されるわけにはいかないのだ。
 そういうことにして、今回の都市伝説は切り上げることにする。
 決して、ココお譲やアングルボッサとガチでやりあうのがめんどくさいと感じたというわけではないことを理解してほしい。
最終更新:2025年05月23日 06:52