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香月舞&ランサー」(2015/03/01 (日) 02:00:08) の最新版変更点

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 彼女のサーヴァントは、人混みの中から現れた。  丁度、踏切の向こう側で、何人もの人が黄色と黒のバーが上がるのを待っていた時の事である。  その人の群れの中に、彼はいた。  彼はシャドーボクシングをしながら、体を左右に揺らして歩いていた。その姿は、彼女──香月舞に、ある人を想起させた。  それだけでも何か目を惹く所があったのだが、電車が通りかかり、バーが上がった後、二人はすれ違った時、ようやく本格的にお互いの正体に気づいたようである。 /  ────彼が、私のサーヴァントだ。 \  ────彼女が、僕のマスターだ。  線路を超えた向こうで、二人だけが静止し、振り向いた。  人々がもう、向こう側の踏切を渡り終えた頃だった。  残った二人の内、先に歩きだしたのは、サーヴァントの方であった。  マスターの方へと歩み寄る。ハンサムな笑顔の似合う、ごく普通の青年であった。  そう、人々に紛れた彼の姿は、一目見てそれが英霊だと気づかないほど、「人間」であった。  舞は安心すると同時に、何故彼がそんなにまで人間であるのか、少し不審にも思った。  しかし。  実際のところ、英霊と呼ばれる者に出会ったのは舞も初めてである。  他の英霊も、みんなこういう物なのかもしれない。  ────彼の名は、東光太郎。  かつて、ウルトラマンタロウとも呼ばれた男であった。 ◇  それから。  香月舞は、肩より上で腕を組んでいた。  それというのも、11歳の彼女の身長ではまだ腕を置くには少し高い手すりに手を乗っけていたからだ。  それだけ無理して、橋から真下を見下ろしていた。  真下には水面がある。絶えず、新しい水が流れ続けている。浅瀬の川だ。中では稚魚が泳ぎ、石が削られ、小さなゴミが流れている。それらは、さらさらと小さな水音だけを立てている。  水面には、舞ともう一人分の影が映っていた。 「ねえ、光太郎さん。聖杯戦争って、やめる事できるのかなあ……」  表情も変えず、水面に映る光太郎の方だけを見て、舞は言った。  真名の「東光太郎」の名を平然と呼ぶ事には、些かの抵抗もあるが、それでも「ランサー」などという明らかに不相応な俗称で呼ばれるよりはずっと良い。  実際のところ、戦闘効率よりも、自分という一人の人間の尊厳の方が光太郎にとっては重要な物である。  東光太郎として生きると決めたその日から、それは一層確かな物になっている。 「……できないだろうね。聖杯の方が僕らを閉じ込めていくつもりなんだ。まるで、聖杯の方が願いを叶えて貰いたがってるみたいだ」 「でもさ、聖杯なんて貰ったってつまんないよ。こっちから願い下げだなっ」  舞は、ちょん、と、小石とも言えないような──アスファルトから抜け出した小さな砂のような石を舞は蹴とばした。  それは、音も立てずに川の中に落ち、どこかへ消えてしまった。  この川は、さらさらと流れているようであるが、その流れは、やはり、間違いなく早い。  一秒にどれほどの物が遠くへ行ってしまうのだろう。川は一方的に進むので、こちらに舞い戻る事はない。  今の小石も、一瞬で遠くへ消えてしまったと思う。  もう二度と、今の小石と舞が巡り合う事はないだろう。  時の流れも同じだ。  いつか、様々な人や物との今生の別れが来る。  ──だからこそ。  だからこそ、人は失ってしまった何かを求め、過ぎ去っていく物を振り返る。あるいは、己がこの川の先で大海に在る事を望む。  聖杯は川の流れを戻す事も、流れた先に安全な未来を齎す事も出来るらしい。  それが人を惑わせる。それが人を戦わせる。  きっと、少年、少女にはまだ本当のところはわからないはずの事だろう。  世間の小学生の多くは、いつまでも年に三度の長い休みがいつまでも終わらないと、心のどこかで信じて生きている。  世情が悪くなり、子供たちが夢に対してやや斜に構えたシビアな思いを馳せるようになっても、それでも、多くはどこかでまだ安心のある未来を見据えているだろう。  しかし。  それでも。  少なくとも、舞は、もう少しだけ、違った。  季節が移り変わっていく姿をその瞳で見つめてきた彼女の観察眼は、既に年相応の感性を超えた物差しで世界を見ている。  彼女は不思議な体験をする事が多かった。  そして、些細な日常の積み重ねの意味を、心のどこかで既に実感していた。 「────だって、願いなんて、自分の持ってる力で叶えなきゃ、意味ないよ」  その結論が、「これ」だった。  昨日も、今日も、明日も、「香月舞」として生きる彼女は、その結論を出すだろう。  光太郎は、そんな舞の言葉に感心すると共に、自分の見解を示して見せる事にした。 「……人によっては、そんな事もないのだろう。子を亡くした親、親のない子、やり直したい過ちを持つ者、地位や名誉の欲しい者、大きな夢のある者、世の中にはたくさんいる」 「でも……」 「──しかし、僕は舞ちゃんの言う事は全く持って正しい事だと思う。間違ってなんかないよ」  光太郎もまた、便利な力を自ら捨てた者である。  誰もが羨むスーパーヒーローであるのをやめ、それからはただの人間として生きてきた。  だから、英霊の座は、今の光太郎にとって最も不要な物であった。  光太郎は、水面に移った陽光に少しだけ目をやり、思いを馳せる。 「人間ってのはね、舞ちゃん。やっぱり、便利な力や発達した物があると、ついついそれに頼ってしまって、努力する事を怠ってしまうんだ。  しかし、それではいけない。聖杯なんかに頼らなくても、人間はいくらでもやり直す機会を持っているし、無限の可能性を秘めているんだ」 「……わかってるよ。私だって、楽できる方法を持ってた事はあるよ。でも、そんな方法は、もう捨てたんだ」  ふと──。  その言葉を聞いた時、光太郎は、言いようのない親近感を覚えた。  それと、光太郎が先ほどから少し光太郎が感じていた物の正体を知った気がする。  少女に残存する、ごくごく微量な魔力と、あらゆる怪異を惹きつける素養のような物。  サーヴァントとしての光太郎ならば、それを自らの胸中で実感できる。  確かに、幼少期、少女期には、魔の物と触れ合う力が高まる性質があるが、舞はおそらく、同年代と比べてもまだ、素養が高い。  いや、まるで、かつてまで膨大な魔力を持っていたような予感さえする。  もしかすると、彼女が捨てたのは、────「魔力」ではないか。  それは、ほとんど、確信めいていた。 「わかったぞ、舞ちゃん。さては、君は、……魔法を捨てた魔法使いだな?」  ──光太郎がそう言った時、舞の時間が、少し止まった。  舞が振り返り、光太郎の表情を見る。  光太郎は、ごく真面目な顔をしていたが、しかし、そんな表情を見てこそ、舞はあえてまた真実と違った回答を示そうとしていた。  ひとまずは、「騙」そう。  魔法使いと偽って、人を騙して見せる職業──それが彼女の夢なのだから。 「……捨ててなんかないもん。ほら、見て、光太郎さん」  舞は、そう言って、両手を大きく開いて見せた。  光太郎が見るが、その手には、何も握られていない。  しかし、光太郎の視界と舞の右手との間が、舞の左手で不意に遮断される。右手を覆い隠す左手のカーテン。 「はいっ」  右手を隠していた左手が退かされると、舞の右手には四つの赤い小さなボールが挟まっていた。  紅いボールは、いつの間にそこに出てきたのかはわからない。  どこから現れたのか──、少なくとも、光太郎の目には追えなかった。  ジャブのような素早く巧みな手の動きによる物だという確信はあった。  ……そう、これは、「魔法」ではなく、「マジック」だ。  しかし、魔法と言い張って人を楽しませる手段である。  彼女はマジシャンを目指していた。 「ほらっ、これが私の魔法。……あっ」  指と指の間に挟んだ赤い玉が、一つ地面に落ちて転がってしまった。それを拾おうとして、今度は袖口からまた一個ボールが落ちた。  彼女はマジックの披露の為に袖口にボールを常備していたのである。タネが見えてしまったので、これは「魔法」ではなく、完全なる「手品」になってしまった。  舞は不器用なのである。本来的に、マジシャンに向いているタイプとは言えず、素の才能でいえば幼稚園児の弟の方に分があるくらいだ。  光太郎が、しばし呆気に取られていたが、我を思い出し、少し笑いながらボールの一個を拾い、舞に手渡す。もう片方は既に舞の手にあった。  舞は、ありがとう、と一言言ったが、やはりどこか暗い面持ちだった。  本来、マジシャンに失敗は許されない。一度タネが明かされてしまった時点で、もう二度と同じトリックをショーで使う事は出来なくなってしまう。  とはいえ。  基本動作の練習として、まだこのボールは手放せないが。  そんな落ち込む舞の頭に、光太郎は手を乗せて撫でた。 「ほう、なるほど、手品か。凄いね。でも、まだまだ修業が足りないみたいだな」 「そうなの。しかも、これでもまだ基本中の基本なんだ。  だから、大きなマジックをやるには、もっと、うんとたくさん練習しなきゃいけないし、これを失敗するようじゃまだまだ駄目だって」  練習にこれだけ時間を費やすのは舞だけである。  仮に同年代の人間が舞と同じ練習量をこなしていれば、もっと何ステップも上に行っているかもしれない。 「……でも、私、魔法にも聖杯にも頼らないよ。魔法を使えば簡単だけど、それでも、つまんないもん」  「そうか、だとすると、先は長いかもしれないね。でも、それを何にも頼らずに自分でやると決めた想いがあれば、いつか、きっと出来るさ」 「私もそう信じてるよ。だから、私、いつか……何年かかっても、エミリーみたいな立派なマジシャンになる。  本当の魔法なんか使わなくたって、私が自分で編み出した、もっと凄い魔法でみんなを驚かせるんだから」  そのマジックが、いつか、どこか遠い世界にいる友達にも、憧れの人たちにも届くように──立派なマジシャンになる。  それが舞の願いだが、喩えどんな甘言を聞いても、舞は二度と、便利な力には頼らないだろう。 「ねえ、じゃあ、光太郎さんは? 光太郎さんは、何か夢がある?」 「え? 僕かい? ははは。僕はね、そうだな、ボクサーになるのが夢なんだ。今の階級で、きっと世界チャンピオンになってやるぞ!」  また、突然シャドーボクシングを始めて、光太郎は言った。  彼の拳は風を切る音を鳴らす。ジャブ、ジャブ、ストレート。  その為に落とした小さな袋には、おそらくグローブのが入っているのだろう。出会った時もシャドーボクシングをしていた。  あの時は、趣味の範疇でボクシングが好きな程度かと思ったが、どうやらそんな程度ではない大きな夢を持っているらしい。  ──ボクシング。  そんな競技で夢を追っている人を、舞は一人身近に知っていた。  幼馴染の、もう少し年上の男の、熱心な夢である。 「ボクシングか。……私、ボクシングって嫌いだな。どうしてわざわざ痛い思いをしなきゃならないの?」 「じゃあ僕も、マジックって嫌いだな。見てる方がどうやってもタネがわからないんだから」 「もうっ、だから面白いんだよっ!」 「ははは。僕もね。だからボクシングは楽しいと思うんだ。お互いに痛い思いをして、自分の全てをぶつけ合って、それで仮に負けたとしても相手を讃える。  次にやるぞっていうエネルギーになる。……戦う時もね、常に全力で、最後まであきらめないようにするんだ。  スポーツって全部そういう物なんだよ。女の子にはわからないかな?」  それは、舞もわかっている。  リングにいる時のボクサーが、いかに輝いているかは、何度でも見つめてきた。  ……「彼」がいなければ、舞は「魔法を捨てる」に至らなかったかもしれない。あるいは、もっと遅れていたのは確実だろう。  仲間が夢を追って努力している最中で、魔法を使って賞を取った自分がひどく惨めで──世界から隔絶されたような気分になった。  あの時の事が脳裏を過る。  しかし、それでも、舞は何度でも、ボクシングを嫌う言葉を告げるだろう。舞には一生、同じ回答しか出ないかもしれない。 「女の子だって、夢を追うのに必死な男の人の気持ち、少しはわかるもん。それに、女の子だってスポーツはやるよ」 「はは、ごめんね、舞ちゃん。きっと、僕も、これからはたくさんの女性がスポーツで活躍すると思うよ。そうだな、……サッカー、柔道、それに、ボクシングもか」  光太郎は言ったが、舞が言いたいのはただそういう事ではなかった。そこまではわかってくれなかったらしい。  舞も、ボクシングをやっている人の気持ちはわかる。  それは、舞がマジックをやるのと同じ気持ちなのだろう、と。  しかし。 「でも、やっぱり私、ボクシングって嫌だな。好きな人が殴られてるの見て、楽しいわけないよ……」 ◇  ……夕方の公園で、舞はブランコを遊ばせていた。  足をついて、小刻みに、キコキコと揺らしている。隣のブランコは光太郎が座って、公園で遊ぶ子供たちの姿を微笑ましそうに眺めている。  前々から思っていたが、やはりこの光太郎という青年は子供好きな性格らしい。  先ほど、この公園に来た時は子供たちと元気に遊んでいた。子供にも好かれる明るい性格で、すぐに子供と仲良くなっている。  舞も、子供たちに先ほどと同じ手品を見せていたのだが、これがまた、好評で、多少の失敗は寛容に見てくれたので舞としても小さなファンが出来て嬉しい気持ちだった。  ──光太郎さんって、子供みたいな人だね  ──そうかな?  ──……ううん、やっぱり違うかも……大人って、子供が思ってるより子供だったりするもん  ──ははは、それは違いないね  ──小さい頃の初恋の子が懐かしくなったり、いつまでも好き嫌いをしていたり、嬉しい時は大はしゃぎしたり……するもん、大人だって  ──……ああ、そうだね、そういう意味では、僕も、子供の頃からずっと変わらないかもしれない、こうして見てると急に懐かしくなるんだ…………俺が、子供の頃が……  しかし、やはり夕刻が近づくにつれ、だんだんと子供たちの数が減っていた。  時間が時間なので、そろそろ帰るのだろう。そんな子供たちに光太郎は笑顔で手を振って見送る。  遂には、公園には一人も子供がいなくなってしまった。  そんな公園は寂しかった。  しかし、だからこそ二人だけで話す事もできた。  二人しか出来ない会話を交わす事ができた。 「そうか。……舞ちゃんも僕と同じか」  そう、全てを、光太郎に話した。  舞がかつて、マジカルエミという全く別の姿で、魔法を使ってマジックをしていた事である。  舞は、本当に魔法を持っていた子供だったのだ。  誰にも話した事はない。だが、誤魔化そうにも、やはり光太郎にはどこか近い物を感じ始めていたので、いずれわかる事だろうと思ったのだ。  どうせなら、早い方がいい。  そして、光太郎もまた同じだった。  光太郎はある世界でウルトラマンタロウという戦士として、人間離れした力を持って怪獣や宇宙人と戦ってきたのである。  防衛組織ZATの隊員でもあったらしい。  舞にとっては弟が見ているテレビ番組のような話だったが、彼女は信じた。  光太郎の冗談ではなく、英霊として呼ばれるに相応しい頃の彼がそう思っていたと思って──。 「そして、やっぱり君も、自分が自分である事を選んだんだね」  ……しかし、異能の力を持った二人の最終的な決断は共通していた。  その力を捨て、人間として、自分の力だけで生きていく決意を固めたのである。  その決意は、今振り返れば本当に一時の感情による物であったとも思う。だが、その決意こそが二人を普通の人間と同じにした。  絶対的な力を得てしまった故の孤独はなくなり、二人は本当の意味で周囲に溶け込める人間になれたのだ。  だからこその楽しみを得られているし、だからこその困難が降りかかるようにもなっている。  それでも。  人間は、やはり特別である事も、便利である事も求めてしまう──二人とて、そんな性質は何度も振り返ってくるのだった。 「光太郎さんは後悔はしてないの? ウルトラマンタロウをやめて……」 「……きっと、君と同じだよ。今でもウルトラマンタロウの力があったら、どれだけ便利かって思う事が何度もある。自分で捨てた物を、自分で後悔するのが人間さ」  舞の漕ぐブランコの音はもう少し抑えられた。  そして、完全に制止して、舞は真横を向いた。 「光太郎さんでも、そう思うの?」 「勿論さ。……でも、それは僕が僕になったからそう思うようになったっていう事でもあるんだ。  タロウで居続けて後悔するより、東光太郎として後悔した方がずっと良いって、そう思ったんだよ。  それだけは、絶対に間違っていないと今でも思っている。僕はウルトラマンタロウじゃない、東光太郎である事に誇りを持つべきなんだ、ってね。  ……まあ、それでも後悔してしまうんだから、世話がないと言えばその通りだが」  光太郎は正直な所を吐露した。  わざわざ後悔をしたかしてないかと問うからには、舞にも後悔の念は僅かにあるだろう。  強がる事もできるはずだが、人間というのは思った以上に小心者で、まだ誰かや何かに頼ろうと思う気持ちが変わらない。  しかし、そんな弱さが見えなければ、人は強くも優しくもなれない存在であったりもする。  また、舞は俯いてブランコを漕ぎ始めた。  キコキコ、と音が耳元に鳴った。  舞の目元には、光の結晶が煌めいているように見えた。  光太郎も同じ気分だった。 「光太郎さん」 「なんだい?」 「……たまにね。どうやっても、マジックの練習がうまくいかなくて、一日練習しても全然うまくなった気がしない時があるの。私って、本当に不器用なんだなぁ、って」 「僕もだよ。きっと、タロウがいたら、もっと多くの人を助けられるんじゃないかって思う時があるよ。旅先では、僕がタロウだったら助けられた命もあったからね……」 「魔法がなくなった時、お別れも言えずにいなくなった友達がいるんだ。……もう一度会いたいよ、トポ」 「……本当の事を言うとね、タロウとして、ZATの一員として怪獣と戦っていた頃の事が懐かしくなる時もある。あの時が人生で一番楽しかったと思う事がね……」 「せめてもう一度だけ、マジカルエミになれたらって、たまに思うんだ」 「せめてもう一度だけ、ウルトラマンタロウに戻れたら、またあの楽しい日々が巡って来るんだろうか」  それは既に、会話ではなく、個々の郷愁になっていた。  お互いが自分の想いだけを自然と口走った。しかし、それが言えれば、たとえ相手が聞いてなくてもいいような気がした。  きっと、おそらく、相手はその気持ちを分かってくれている。  ある一時期だけの夢や幻、青春を振り返り、回顧し始めていた──。  ほんの少しの間だけ、楽を覚え、特別になった彼らも。  それを自分で捨て去り、一人の人間になった彼らにも。  今では、月日が流れた事で、その時代を懐かしく思い、そして悲しくなる時がある。  たった一度でも良いから、取り戻したい物だと。  夕空には、星が輝き始めていた。  一番星、二番星、三番星、四番星……。  今もまた、新しい星が灯を見せている。  このまま、死ぬまで、時は流れていく……。それは恐ろしい事にも感じられる。  マジシャンになれるかわからない舞にも、あてのない旅を続ける光太郎にも、どんな未来があるかはわからない。  幸福であればいいが、決してそうとは言えないかもしれない。  あの時が一生続いていれば、と思う事は何度あるだろう。 「「それでもさ」」 「夢っていうのは、やっぱり、いつか……そう、いつか必ず終わってしまう物なんだ。  聖杯なんていう物に囚われていて、自分の力を信じられない人や、過去の過ちに縛られる人がいるのなら、僕はそれに立ち向かう。勿論、東光太郎として!」 「そうだよ、聖杯で叶えた願いなんて、きっといつか、自分の手で捨てる事になっちゃうよ。  そんな少しの夢の為に戦うなんて、やっぱりおかしいと思う」  だが、彼らは知っている。  魔法も。  超能力も。  それは、決して、普通に生きる人間にとって、良い影響だけを与える物ではないと。  二人とも、それは自分たちの手に余る物であり、自分たちの可能性を縮める物だと結論づけ、手放したのである。  その決断に後悔があるというのに、間違っているとは思わなかった。  だから、聖杯はあってはならない──、この星の人の前に姿を現してはならない物だと確信を持って言える。  サーヴァントとマスターは、お互いの姿を見つめ合った。 「聖杯なんかに頼る限り、人はいつまで経っても一人前にはなれないんだ」 【クラス】 ランサー 【真名】 東光太郎@ウルトラマンT(タロウ) 【パラメータ】 筋力:C 耐久:B 敏捷:D 魔力:E 幸運:A+ 宝具:A 【属性】 秩序・善 【クラス別スキル】 対魔力:D  魔術への耐性。  一工程の魔術なら無効化できる、魔力避けのアミュレット程度のもの。 【保有スキル】 母の加護:A  ウルトラの母の加護により、危機的な局面において優先的に幸運を呼び寄せる事ができる能力。  その発動は、太陽の下、自分の力で何かを成し遂げようとしている場合のみに限定される。 対怪獣:B  怪獣や宇宙人、超能力者への耐性。  通常の地球人の身体能力、技術結晶以外の攻撃の影響を緩和する事ができる。  魔力への耐性は上記の通り、Dランクである。 気配遮断:B  サーヴァントとしての気配を遮断する事ができる。  本来はアサシンなどのスキルであるが、彼は自分の意思で人である事を望んだ為、人間の中に溶け込む事が出来るのである。  とはいえ、あまりに察しの良いサーヴァントやマスターを相手にした場合、流石に読まれるかもしれない。  当人も、むやみに霊体化せず、普段通り過ごし、「東光太郎」の名で呼び合う方が好みらしい。 ヒトの可能性:A+  ウルトラマンではなく、人間の力で怪獣や星人に立ち向かう勇気や身体能力。  彼らの世界の人間が持ち、怪獣戦で人間離れした能力を発揮する。  彼の場合は、数十メートルの高さから落下しても「いてえなあ」で済ませ、何十メートルの高さや幅を飛び移り、竹槍一つで怪獣を攻撃する……といった能力を駆使しているのが見られる。  一応言っておくが、普通の人間にここまでの可能性はない。彼らの世界の人間にはこのくらいの力があるという事である。 【宝具】 『胸に輝くウルトラの星(ウルトラバッジ)』 ランク:A 種別:対怪獣宝具・対星人宝具 レンジ:300万光年 最大捕捉:∞  東光太郎をウルトラマンタロウへと変身させる宝具。  この宝具を翳し、「タロウ」の名を呼ぶ事で、身長53メートル、体重5万5千トンという巨大な戦士として再現される。しかし、このサイズでの召喚には膨大な魔力を消費してしまうため、魔力消費を抑える等身大の姿にも変身可能である。  便利な宝具であるが、光太郎は自ら使用に制限をかけ、現在は自分の意思で封印している(本来は返還したが、英霊となった為呼び出す事が可能)。パラメータは現在不明で、再現された時にそれは露わになるだろう。  宝具の力は絶大であるが、光太郎はあくまで人間としての自分の力で困難を乗り切る硬い決意を持っているので、その決意を破るのは困難。加えて、マスターも望んでいない。  ちなみに、タロウなる存在の正体は不明であるが、「ウルトラマンタロウが人間・東光太郎と一体化している」という説が有力視され、それがほとんど正史とも言われるが、一方で「光太郎自身がウルトラの命を授かった姿=タロウである」という説もある。  ある時空では前者の説の通り、光太郎と分離したタロウがウルトラマンのルーキーを指導しており、また別の時空では、この宝具を再び使ってしまった光太郎が、タロウとして地球を去ってしまった事があると言う。 『ウルトラの星は太陽のように』 ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:300万光年 最大捕捉:1  東光太郎を支える加護である。スキルにあるやつとは違う。  かつて共に戦ったウルトラ兄弟や、彼を見守るウルトラの母や父の力、そしてウルトラマンタロウが、太陽のように彼を見守っているその姿が宝具である。  光太郎が挫けそうになった時、自然と彼らの言葉や戦いが光太郎に届く、そんな不思議な力を持つ。  しかし、言葉や想いが届いた後は、別に助けてくれるわけではないので、光太郎が自分で頑張るしかない。  かつてのように光太郎の代わりに戦ってくれる仲間はいないが、それでも、彼らはいつまでも光太郎を励ますだろう。  この宝具の最大捕捉は「東光太郎」限定の「1」であるが、同じようにウルトラの星から力や勇気を授かっている人間はこの地球にもたくさんいるはずだ。 『其処に住まう民による、青き星すべての防御壁(ザリバ・オブ・オール・テリトリー=ZAT)』 ランク:B 種別:対怪獣・対星人宝具 レンジ:地球上  最大捕捉:1~99(相手が怪獣の場合)  東光太郎がかつて所属していた地球防衛組織・ZAT。既に光太郎自身は退任しているが、かつて光太郎がいた世界ではZATは継続して怪獣退治に専念していると思われる。  多彩な装備を持ち、(一応)優秀な人材による、対怪獣用の作戦を発動する事ができる。  この宝具により、光太郎自身もZATに所属していた時代の装備をその場に再現可能。隊員服、ZATヘルメット、ZATガンなどの基本装備はすぐに発動できるだろう。  ただし、スカイホエールは勿論の事、ウルフ777級の宝具でも魔力消費は大きくなる他、明らかに悪目立ちするなどの欠点がある。  光太郎もこの宝具の運用に関しては、『胸に輝くウルトラの星(ウルトラバッジ)』ほど硬く封印しているわけではないが、やはりZATを退任した以上、使わないに越した事はないと思っているだろう。 【weapon】 「ボクシンググローブ」  東光太郎は元々、プロボクサーを目指していた青年である。序盤はZATをやりながらボクシングをしていた描写もある。  その為、これはもう彼の命みたいな物であろう。初期だけの設定だが、最終回の後、彼が何をしているのかよくわからないので一応、まあ…。 「竹槍」  申し訳程度のランサー要素。宝具ですらない。作中でも一度しか使ってない。  しかし、多少なりとも怪獣にダメージを与える事が出来る凄い竹槍(というか、光太郎が凄い)。  普段からこんな物を持ち歩いているわけではないが、一応ランサーなのでその辺はまあ、自由に召喚できるという事で…。 【人物背景】  かつてウルトラマンタロウであり、ZATの隊員であった22歳の青年。  今は、タロウに変身する為のウルトラバッジを返還し、一人の人間・東光太郎として生きている。  光太郎は一人の人間として銀座の雑踏に消えてから、彼は特別な人間ではなくなった。  彼がその後何をしているのかはわからない。  プロボクサー、というのはあくまで当初の夢の一つであり、最終的に彼がそれを目指しているのかは不明。  人間の平和の為に頑張っているのかもしれない。  勿論、英霊の器でもないし、本人も特別な存在である事は望んでいない。  だからこそ、この聖杯戦争を破綻させ、聖杯を解体、もしくはどこか人間の手の届かぬ場所に返し、自らも英霊の座を返還しなければならないという目標を持つ。 【サーヴァントとしての願い】  聖杯の力に頼ってはいけない。頼ったとしても新たな後悔が生まれ、一人前の人間になる機会も失うからである。  もし、聖杯を狙う者がいたなら、その事を教えなければならない。  宝具も使うつもりはない。魔法、超能力などではなく、東光太郎としての自分の力で戦うのが彼の方針。 【マスター】 香月舞@魔法のスター マジカルエミ 【マスターとしての願い】  エミリー・ハウエルのような立派なマジシャンになる。  しかし、それはこれから自分の力で叶える願いであって、魔法や聖杯に頼る願いではない。 【weapon】 「マジックアイテム」  手品に必要な道具。小さな赤いボールを指の間に出現させる手品を練習している。  他には、トランプなども基礎練習の為に所持しているかもしれない。 「ももんがのぬいぐるみ」  かつて、トポという妖精が依代に使っていたぬいぐるみ。  エミが魔法を捨て去った事から、既に人間界去っており、このぬいぐるみはもう喋らず、動かない。  それでも彼がそこにいた思い出の証として残している。 「マジカルミラー」  鏡の精を呼び出したミラーであるが、もう彼は人間界には来ないだろう。これはただのハート型の鏡になってしまった。  トポが立ち去った後もこの鏡は舞の元に残り続けている。  しかし、元々、使用頻度が極端に少なく、出てきてもストーリーに一切関わらないという、スポンサーの都合上、嫌々出しているような可哀想な玩具だったりする。 【能力・技能】  マジックは好きだが、不器用で、基礎しかできない(とはいえ、勿論マジックを一切やらない人間に比べれば十分マジックができる)。練習中の身。  マジカルエミとしてではなく、香月舞としても魔力素養を持っているのか、妖精と出会う事が多く、作中では鏡の精以外にも様々な妖精と出会い、何度も別れを告げている(これは弟の岬なども同様)。  やたら地味な作風のせいで、11歳という年齢に見合った性格の反面、終盤ごろは殆ど大人のような感性を持ち始めている。 【人物背景】  魔法を捨てた魔法使い。  「マジカラット」という魔術団を経営している祖父母を持ち、母も元々はマジシャンだった背景から、一人前のマジシャンを夢見ている。  1920年-1930年代に活躍したエミリー・ハウエルというマジシャンに憧れているが、父譲りの不器用さでマジックが上手くできないので四苦八苦している。  かつて、鏡の精から授かった魔法により、「マジカルエミ」としてアイドル兼マジシャンをやっていた事があるが、努力で夢を叶えようとする周囲の人間を見て考えを改め、遂に魔法を捨て、香月舞として自分の力で夢を追う決意をした。  それからは、マジカルエミではなく、マジカルマイとしてステージに立つ日を夢見て、引退した祖父にマジックを教わる日々を過ごしている。  家庭科の成績が「2」と、持ち前の不器用さゆえにあまり良い感じではないが、それでも後半に差し掛かるにつれ成長して先生には頑張りを褒められるようになっていった。  ちなみにそんなに好きではないものの、勉強が全くできないというわけではないらしい。  まだ子供なので、やや純粋で、「初恋なんてどうせ忘れる」と一笑していた周囲の大人に食ってかかるような側面も見られる。というか、正直周囲の大人が大人げない。  作風上、彼女は自分の感情を一切吐露せず、それをはっきり表す台詞もなく、風景や演出、行動によって心境の変化が見えてくる事が多い。  その回の話の結末が描かれない事がザラにある。一つのストーリーとして何の動きもない場合もある。前二作(クリィミーマミ、ペルシャ)にたまにあったドタバタエピソードですらない郷愁的な話がやたらと多い。  つまるところ、当初から、「マジカルエミ」には「ドラマ」は一切なく、ただ日常を過ごしていく中でひっそりと成長していく少女や、その周囲の人々の姿が描かれるのみなのである。  下手すると、この聖杯戦争でも聖杯とも戦いとも何とも関係のない普通の日々や日常風景だけが延々描写される可能性がある(どうせ落ちるけど)。 【方針】  マスター、サーヴァント共に、魔法や特殊能力を自ら捨てた人間である。  その動機は、自分の力で何かを成す事の意味を知ったからに違いない。  異常に便利な力を突然に手にしてしまった時、果たしてそれは本当に自分の望むべくして手に入る物ではないと二人は考えている。  基本的に、相手に交渉し、願いの為に聖杯戦争に乗る事を引き留めるのが彼らの方針であるが、それで相手が選択した方針を必ずしも折る事はできないだろう。  もし、聖杯の為に向かってくるならば、光太郎はそれを撃ち倒す手段を行使するしかない。  舞は一切戦闘能力がないため、補助にあたるしかない。微量の魔力はあるので、それで何とか持ちこたえていこう。
 彼女のサーヴァントは、人混みの中から現れた。  丁度、踏切の向こう側で、何人もの人が黄色と黒のバーが上がるのを待っていた時の事である。  その人の群れの中に、彼はいた。  彼はシャドーボクシングをしながら、体を左右に揺らして歩いていた。その姿は、彼女──香月舞に、ある人を想起させた。  それだけでも何か目を惹く所があったのだが、電車が通りかかり、バーが上がった後、二人はすれ違った時、ようやく本格的にお互いの正体に気づいたようである。 /  ────彼が、私のサーヴァントだ。 \  ────彼女が、僕のマスターだ。  線路を超えた向こうで、二人だけが静止し、振り向いた。  人々がもう、向こう側の踏切を渡り終え、それぞれの用事へと急いていた頃だった。  残った二人の内、先に相手の方に歩きだしたのは、サーヴァントの方であった。  マスターの方へと歩み寄る。ハンサムな笑顔の似合う、ごく普通の青年であった。  そう、人々に紛れた彼の姿は、一目見てそれが英霊だと気づかないほど、「人間」であった。  舞は安心すると同時に、何故彼がそんなにまで人間であるのか、少し不審にも思った。  しかし。  実際のところ、英霊と呼ばれる者に出会ったのは舞も初めてである。  他の英霊も、みんなこういう物なのかもしれない。  ────彼の名は、東光太郎。  かつて、ウルトラマンタロウとも呼ばれた男であった。 ◇  それから。  香月舞は、肩より上で腕を組んでいた。  それというのも、11歳の彼女の身長ではまだ腕を置くには少し高い手すりに手を乗っけていたからだ。  それだけ無理して、橋から真下を見下ろしていた。  真下には水面がある。絶えず、新しい水が流れ続けている。浅瀬の川だ。中では稚魚が泳ぎ、石が削られ、小さなゴミが流れている。それらは、さらさらと小さな水音だけを立てている。  水面には、舞ともう一人分の影が映っていた。 「ねえ、光太郎さん。聖杯戦争って、やめる事できるのかなあ……」  表情も変えず、水面に映る光太郎の方だけを見て、舞は言った。  真名の「東光太郎」の名を平然と呼ぶ事には、些かの抵抗もあるが、それでも「ランサー」などという明らかに不相応な俗称で呼ばれるよりはずっと良い。  実際のところ、戦闘効率よりも、自分という一人の人間の尊厳の方が光太郎にとっては重要な物である。  東光太郎として生きると決めたその日から、それは一層確かな物になっている。 「……できないだろうね。聖杯の方が僕らを閉じ込めていくつもりなんだ。まるで、聖杯の方が願いを叶えて貰いたがってるみたいだ」 「でもさ、聖杯なんて貰ったってつまんないよ。こっちから願い下げだなっ」  舞は、ちょん、と、小石とも言えないような──アスファルトから抜け出した小さな砂のような石を舞は蹴とばした。  それは、音も立てずに川の中に落ち、どこかへ消えてしまった。  この川は、さらさらと流れているようであるが、その流れは、やはり、間違いなく早い。  一秒にどれほどの物が遠くへ行ってしまうのだろう。川は一方的に進むので、こちらに舞い戻る事はない。  今の小石も、一瞬で遠くへ消えてしまったと思う。  もう二度と、今の小石と舞が巡り合う事はないだろう。  時の流れも同じだ。  いつか、様々な人や物との今生の別れが来る。  ──だからこそ。  だからこそ、人は失ってしまった何かを求め、過ぎ去っていく物を振り返る。あるいは、己がこの川の先で大海に在る事を望む。  聖杯は川の流れを戻す事も、流れた先に安全な未来を齎す事も出来るらしい。  それが人を惑わせる。それが人を戦わせる。  きっと、少年、少女にはまだ本当のところはわからないはずの事だろう。  世間の小学生の多くは、いつまでも年に三度の長い休みがいつまでも終わらないと、心のどこかで信じて生きている。  世情が悪くなり、子供たちが夢に対してやや斜に構えたシビアな思いを馳せるようになっても、それでも、多くはどこかでまだ安心のある未来を見据えているだろう。  しかし。  それでも。  少なくとも、舞は、もう少しだけ、違った。  季節が移り変わっていく姿をその瞳で見つめてきた彼女の観察眼は、既に年相応の感性を超えた物差しで世界を見ている。  彼女は不思議な体験をする事が多かった。  そして、些細な日常の積み重ねの意味を、心のどこかで既に実感していた。 「────だって、願いなんて、自分の持ってる力で叶えなきゃ、意味ないよ」  その結論が、「これ」だった。  昨日も、今日も、明日も、「香月舞」として生きる彼女は、その結論を出すだろう。  光太郎は、そんな舞の言葉に感心すると共に、自分の見解を示して見せる事にした。 「……人によっては、そんな事もないのだろう。子を亡くした親、親のない子、やり直したい過ちを持つ者、地位や名誉の欲しい者、大きな夢のある者、世の中にはたくさんいる」 「でも……」 「──しかし、僕は舞ちゃんの言う事は全く持って正しい事だと思う。間違ってなんかないよ」  光太郎もまた、便利な力を自ら捨てた者である。  誰もが羨むスーパーヒーローであるのをやめ、それからはただの人間として生きてきた。  だから、英霊の座は、今の光太郎にとって最も不要な物であった。  光太郎は、水面に移った陽光に少しだけ目をやり、思いを馳せる。 「人間ってのはね、舞ちゃん。やっぱり、便利な力や発達した物があると、ついついそれに頼ってしまって、努力する事を怠ってしまうんだ。  しかし、それではいけない。聖杯なんかに頼らなくても、人間はいくらでもやり直す機会を持っているし、無限の可能性を秘めているんだ」 「……わかってるよ。私だって、楽できる方法を持ってた事はあるよ。でも、そんな方法は、もう捨てたんだ」  ふと──。  その言葉を聞いた時、光太郎は、言いようのない親近感を覚えた。  それと、光太郎が先ほどから少し光太郎が感じていた物の正体を知った気がする。  少女に残存する、ごくごく微量な魔力と、あらゆる怪異を惹きつける素養のような物。  サーヴァントとしての光太郎ならば、それを自らの胸中で実感できる。  確かに、幼少期、少女期には、魔の物と触れ合う力が高まる性質があるが、舞はおそらく、同年代と比べてもまだ、素養が高い。  いや、まるで、かつてまで膨大な魔力を持っていたような予感さえする。  もしかすると、彼女が捨てたのは、────「魔力」ではないか。  それは、ほとんど、確信めいていた。 「わかったぞ、舞ちゃん。さては、君は、……魔法を捨てた魔法使いだな?」  ──光太郎がそう言った時、舞の時間が、少し止まった。  舞が振り返り、光太郎の表情を見る。  光太郎は、ごく真面目な顔をしていたが、しかし、そんな表情を見てこそ、舞はあえてまた真実と違った回答を示そうとしていた。  ひとまずは、「騙」そう。  魔法使いと偽って、人を騙して見せる職業──それが彼女の夢なのだから。 「……捨ててなんかないもん。ほら、見て、光太郎さん」  舞は、そう言って、両手を大きく開いて見せた。  光太郎が見るが、その手には、何も握られていない。  しかし、光太郎の視界と舞の右手との間が、舞の左手で不意に遮断される。右手を覆い隠す左手のカーテン。 「はいっ」  右手を隠していた左手が退かされると、舞の右手には四つの赤い小さなボールが挟まっていた。  紅いボールは、いつの間にそこに出てきたのかはわからない。  どこから現れたのか──、少なくとも、光太郎の目には追えなかった。  ジャブのような素早く巧みな手の動きによる物だという確信はあった。  ……そう、これは、「魔法」ではなく、「マジック」だ。  しかし、魔法と言い張って人を楽しませる手段である。  彼女はマジシャンを目指していた。 「ほらっ、これが私の魔法。……あっ」  指と指の間に挟んだ赤い玉が、一つ地面に落ちて転がってしまった。それを拾おうとして、今度は袖口からまた一個ボールが落ちた。  彼女はマジックの披露の為に袖口にボールを常備していたのである。タネが見えてしまったので、これは「魔法」ではなく、完全なる「手品」になってしまった。  舞は不器用なのである。本来的に、マジシャンに向いているタイプとは言えず、素の才能でいえば幼稚園児の弟の方に分があるくらいだ。  光太郎が、しばし呆気に取られていたが、我を思い出し、少し笑いながらボールの一個を拾い、舞に手渡す。もう片方は既に舞の手にあった。  舞は、ありがとう、と一言言ったが、やはりどこか暗い面持ちだった。  本来、マジシャンに失敗は許されない。一度タネが明かされてしまった時点で、もう二度と同じトリックをショーで使う事は出来なくなってしまう。  とはいえ。  基本動作の練習として、まだこのボールは手放せないが。  そんな落ち込む舞の頭に、光太郎は手を乗せて撫でた。 「ほう、なるほど、手品か。凄いね。でも、まだまだ修業が足りないみたいだな」 「そうなの。しかも、これでもまだ基本中の基本なんだ。  だから、大きなマジックをやるには、もっと、うんとたくさん練習しなきゃいけないし、これを失敗するようじゃまだまだ駄目だって」  練習にこれだけ時間を費やすのは舞だけである。  仮に同年代の人間が舞と同じ練習量をこなしていれば、もっと何ステップも上に行っているかもしれない。 「……でも、私、魔法にも聖杯にも頼らないよ。魔法を使えば簡単だけど、それでも、つまんないもん」  「そうか、だとすると、先は長いかもしれないね。でも、それを何にも頼らずに自分でやると決めた想いがあれば、いつか、きっと出来るさ」 「私もそう信じてるよ。だから、私、いつか……何年かかっても、エミリーみたいな立派なマジシャンになる。  本当の魔法なんか使わなくたって、私が自分で編み出した、もっと凄い魔法でみんなを驚かせるんだから」  そのマジックが、いつか、どこか遠い世界にいる友達にも、憧れの人たちにも届くように──立派なマジシャンになる。  それが舞の願いだが、喩えどんな甘言を聞いても、舞は二度と、便利な力には頼らないだろう。 「ねえ、じゃあ、光太郎さんは? 光太郎さんは、何か夢がある?」 「え? 僕かい? ははは。僕はね、そうだな、ボクサーになるのが夢なんだ。今の階級で、きっと世界チャンピオンになってやるぞ!」  また、突然シャドーボクシングを始めて、光太郎は言った。  彼の拳は風を切る音を鳴らす。ジャブ、ジャブ、ストレート。  その為に落とした小さな袋には、おそらくグローブのが入っているのだろう。出会った時もシャドーボクシングをしていた。  あの時は、趣味の範疇でボクシングが好きな程度かと思ったが、どうやらそんな程度ではない大きな夢を持っているらしい。  ──ボクシング。  そんな競技で夢を追っている人を、舞は一人身近に知っていた。  幼馴染の、もう少し年上の男の、熱心な夢である。 「ボクシングか。……私、ボクシングって嫌いだな。どうしてわざわざ痛い思いをしなきゃならないの?」 「じゃあ僕も、マジックって嫌いだな。見てる方がどうやってもタネがわからないんだから」 「もうっ、だから面白いんだよっ!」 「ははは。僕もね。だからボクシングは楽しいと思うんだ。お互いに痛い思いをして、自分の全てをぶつけ合って、それで仮に負けたとしても相手を讃える。  次にやるぞっていうエネルギーになる。……戦う時もね、常に全力で、最後まであきらめないようにするんだ。  スポーツって全部そういう物なんだよ。女の子にはわからないかな?」  それは、舞もわかっている。  リングにいる時のボクサーが、いかに輝いているかは、何度でも見つめてきた。  ……「彼」がいなければ、舞は「魔法を捨てる」に至らなかったかもしれない。あるいは、もっと遅れていたのは確実だろう。  仲間が夢を追って努力している最中で、魔法を使って賞を取った自分がひどく惨めで──世界から隔絶されたような気分になった。  あの時の事が脳裏を過る。  しかし、それでも、舞は何度でも、ボクシングを嫌う言葉を告げるだろう。舞には一生、同じ回答しか出ないかもしれない。 「女の子だって、夢を追うのに必死な男の人の気持ち、少しはわかるもん。それに、女の子だってスポーツはやるよ」 「はは、ごめんね、舞ちゃん。きっと、僕も、これからはたくさんの女性がスポーツで活躍すると思うよ。そうだな、……サッカー、柔道、それに、ボクシングもか」  光太郎は言ったが、舞が言いたいのはただそういう事ではなかった。そこまではわかってくれなかったらしい。  舞も、ボクシングをやっている人の気持ちはわかる。  それは、舞がマジックをやるのと同じ気持ちなのだろう、と。  しかし。 「でも、やっぱり私、ボクシングって嫌だな。好きな人が殴られてるの見て、楽しいわけないよ……」 ◇  ……夕方の公園で、舞はブランコを遊ばせていた。  足をついて、小刻みに、キコキコと揺らしている。隣のブランコは光太郎が座って、公園で遊ぶ子供たちの姿を微笑ましそうに眺めている。  前々から思っていたが、やはりこの光太郎という青年は子供好きな性格らしい。  先ほど、この公園に来た時は子供たちと元気に遊んでいた。子供にも好かれる明るい性格で、すぐに子供と仲良くなっている。  舞も、子供たちに先ほどと同じ手品を見せていたのだが、これがまた、好評で、多少の失敗は寛容に見てくれたので舞としても小さなファンが出来て嬉しい気持ちだった。  ──光太郎さんって、子供みたいな人だね  ──そうかな?  ──……ううん、やっぱり違うかも……大人って、子供が思ってるより子供だったりするもん  ──ははは、それは違いないね  ──小さい頃の初恋の子が懐かしくなったり、いつまでも好き嫌いをしていたり、嬉しい時は大はしゃぎしたり……するもん、大人だって  ──……ああ、そうだね、そういう意味では、僕も、子供の頃からずっと変わらないかもしれない、こうして見てると急に懐かしくなるんだ…………俺が、子供の頃が……  しかし、やはり夕刻が近づくにつれ、だんだんと子供たちの数が減っていた。  時間が時間なので、そろそろ帰るのだろう。そんな子供たちに光太郎は笑顔で手を振って見送る。  遂には、公園には一人も子供がいなくなってしまった。  そんな公園は寂しかった。  しかし、だからこそ二人だけで話す事もできた。  二人しか出来ない会話を交わす事ができた。 「そうか。……舞ちゃんも僕と同じか」  そう、全てを、光太郎に話した。  舞がかつて、マジカルエミという全く別の姿で、魔法を使ってマジックをしていた事である。  舞は、本当に魔法を持っていた子供だったのだ。  誰にも話した事はない。だが、誤魔化そうにも、やはり光太郎にはどこか近い物を感じ始めていたので、いずれわかる事だろうと思ったのだ。  どうせなら、早い方がいい。  そして、光太郎もまた同じだった。  光太郎はある世界でウルトラマンタロウという戦士として、人間離れした力を持って怪獣や宇宙人と戦ってきたのである。  防衛組織ZATの隊員でもあったらしい。  舞にとっては弟が見ているテレビ番組のような話だったが、彼女は信じた。  光太郎の冗談ではなく、英霊として呼ばれるに相応しい頃の彼がそう思っていたと思って──。 「そして、やっぱり君も、自分が自分である事を選んだんだね」  ……しかし、異能の力を持った二人の最終的な決断は共通していた。  その力を捨て、人間として、自分の力だけで生きていく決意を固めたのである。  その決意は、今振り返れば本当に一時の感情による物であったとも思う。だが、その決意こそが二人を普通の人間と同じにした。  絶対的な力を得てしまった故の孤独はなくなり、二人は本当の意味で周囲に溶け込める人間になれたのだ。  だからこその楽しみを得られているし、だからこその困難が降りかかるようにもなっている。  それでも。  人間は、やはり特別である事も、便利である事も求めてしまう──二人とて、そんな性質は何度も振り返ってくるのだった。 「光太郎さんは後悔はしてないの? ウルトラマンタロウをやめて……」 「……きっと、君と同じだよ。今でもウルトラマンタロウの力があったら、どれだけ便利かって思う事が何度もある。自分で捨てた物を、自分で後悔するのが人間さ」  舞の漕ぐブランコの音はもう少し抑えられた。  そして、完全に制止して、舞は真横を向いた。 「光太郎さんでも、そう思うの?」 「勿論さ。……でも、それは僕が僕になったからそう思うようになったっていう事でもあるんだ。  タロウで居続けて後悔するより、東光太郎として後悔した方がずっと良いって、そう思ったんだよ。  それだけは、絶対に間違っていないと今でも思っている。僕はウルトラマンタロウじゃない、東光太郎である事に誇りを持つべきなんだ、ってね。  ……まあ、それでも後悔してしまうんだから、世話がないと言えばその通りだが」  光太郎は正直な所を吐露した。  わざわざ後悔をしたかしてないかと問うからには、舞にも後悔の念は僅かにあるだろう。  強がる事もできるはずだが、人間というのは思った以上に小心者で、まだ誰かや何かに頼ろうと思う気持ちが変わらない。  しかし、そんな弱さが見えなければ、人は強くも優しくもなれない存在であったりもする。  また、舞は俯いてブランコを漕ぎ始めた。  キコキコ、と音が耳元に鳴った。  舞の目元には、光の結晶が煌めいているように見えた。  光太郎も同じ気分だった。 「光太郎さん」 「なんだい?」 「……たまにね。どうやっても、マジックの練習がうまくいかなくて、一日練習しても全然うまくなった気がしない時があるの。私って、本当に不器用なんだなぁ、って」 「僕もだよ。きっと、タロウがいたら、もっと多くの人を助けられるんじゃないかって思う時があるよ。旅先では、僕がタロウだったら助けられた命もあったからね……」 「魔法がなくなった時、お別れも言えずにいなくなった友達がいるんだ。……もう一度会いたいよ、トポ」 「……本当の事を言うとね、タロウとして、ZATの一員として怪獣と戦っていた頃の事が懐かしくなる時もある。あの時が人生で一番楽しかったと思う事がね……」 「せめてもう一度だけ、マジカルエミになれたらって、たまに思うんだ」 「せめてもう一度だけ、ウルトラマンタロウに戻れたら、またあの楽しい日々が巡って来るんだろうか」  それは既に、会話ではなく、個々の郷愁になっていた。  お互いが自分の想いだけを自然と口走った。しかし、それが言えれば、たとえ相手が聞いてなくてもいいような気がした。  きっと、おそらく、相手はその気持ちを分かってくれている。  ある一時期だけの夢や幻、青春を振り返り、回顧し始めていた──。  ほんの少しの間だけ、楽を覚え、特別になった彼らも。  それを自分で捨て去り、一人の人間になった彼らにも。  今では、月日が流れた事で、その時代を懐かしく思い、そして悲しくなる時がある。  たった一度でも良いから、取り戻したい物だと。  夕空には、星が輝き始めていた。  一番星、二番星、三番星、四番星……。  今もまた、新しい星が灯を見せている。  このまま、死ぬまで、時は流れていく……。それは恐ろしい事にも感じられる。  マジシャンになれるかわからない舞にも、あてのない旅を続ける光太郎にも、どんな未来があるかはわからない。  幸福であればいいが、決してそうとは言えないかもしれない。  あの時が一生続いていれば、と思う事は何度あるだろう。 「「それでもさ」」 「夢っていうのは、やっぱり、いつか……そう、いつか必ず終わってしまう物なんだ。  聖杯なんていう物に囚われていて、自分の力を信じられない人や、過去の過ちに縛られる人がいるのなら、僕はそれに立ち向かう。勿論、東光太郎として!」 「そうだよ、聖杯で叶えた願いなんて、きっといつか、自分の手で捨てる事になっちゃうよ。  そんな少しの夢の為に戦うなんて、やっぱりおかしいと思う」  だが、彼らは知っている。  魔法も。  超能力も。  それは、決して、普通に生きる人間にとって、良い影響だけを与える物ではないと。  二人とも、それは自分たちの手に余る物であり、自分たちの可能性を縮める物だと結論づけ、手放したのである。  その決断に後悔があるというのに、間違っているとは思わなかった。  だから、聖杯はあってはならない──、この星の人の前に姿を現してはならない物だと確信を持って言える。  サーヴァントとマスターは、お互いの姿を見つめ合った。 「聖杯なんかに頼る限り、人はいつまで経っても一人前にはなれないんだ」 【クラス】 ランサー 【真名】 東光太郎@ウルトラマンT(タロウ) 【パラメータ】 筋力:C 耐久:B 敏捷:D 魔力:E 幸運:A+ 宝具:A 【属性】 秩序・善 【クラス別スキル】 対魔力:D  魔術への耐性。  一工程の魔術なら無効化できる、魔力避けのアミュレット程度のもの。 【保有スキル】 母の加護:A  ウルトラの母の加護により、危機的な局面において優先的に幸運を呼び寄せる事ができる能力。  その発動は、太陽の下、自分の力で何かを成し遂げようとしている場合のみに限定される。 対怪獣:B  怪獣や宇宙人、超能力者への耐性。  通常の地球人の身体能力、技術結晶以外の攻撃の影響を緩和する事ができる。  魔力への耐性は上記の通り、Dランクである。 気配遮断:B  サーヴァントとしての気配を遮断する事ができる。  本来はアサシンなどのスキルであるが、彼は自分の意思で人である事を望んだ為、人間の中に溶け込む事が出来るのである。  とはいえ、あまりに察しの良いサーヴァントやマスターを相手にした場合、流石に読まれるかもしれない。  当人も、むやみに霊体化せず、普段通り過ごし、「東光太郎」の名で呼び合う方が好みらしい。 ヒトの可能性:A+  ウルトラマンではなく、人間の力で怪獣や星人に立ち向かう勇気や身体能力。  彼らの世界の人間が持ち、怪獣戦で人間離れした能力を発揮する。  彼の場合は、数十メートルの高さから落下しても「いてえなあ」で済ませ、何十メートルの高さや幅を飛び移り、竹槍一つで怪獣を攻撃する……といった能力を駆使しているのが見られる。  一応言っておくが、普通の人間にここまでの可能性はない。彼らの世界の人間にはこのくらいの力があるという事である。 【宝具】 『胸に輝くウルトラの星(ウルトラバッジ)』 ランク:A 種別:対怪獣宝具・対星人宝具 レンジ:300万光年 最大捕捉:∞  東光太郎をウルトラマンタロウへと変身させる宝具。  この宝具を翳し、「タロウ」の名を呼ぶ事で、身長53メートル、体重5万5千トンという巨大な戦士として再現される。しかし、このサイズでの召喚には膨大な魔力を消費してしまうため、魔力消費を抑える等身大の姿にも変身可能である。  便利な宝具であるが、光太郎は自ら使用に制限をかけ、現在は自分の意思で封印している(本来は返還したが、英霊となった為呼び出す事が可能)。パラメータは現在不明で、再現された時にそれは露わになるだろう。  宝具の力は絶大であるが、光太郎はあくまで人間としての自分の力で困難を乗り切る硬い決意を持っているので、その決意を破るのは困難。加えて、マスターも望んでいない。  ちなみに、タロウなる存在の正体は不明であるが、「ウルトラマンタロウが人間・東光太郎と一体化している」という説が有力視され、それがほとんど正史とも言われるが、一方で「光太郎自身がウルトラの命を授かった姿=タロウである」という説もある。  ある時空では前者の説の通り、光太郎と分離したタロウがウルトラマンのルーキーを指導しており、また別の時空では、この宝具を再び使ってしまった光太郎が、タロウとして地球を去ってしまった事があると言う。 『ウルトラの星は太陽のように』 ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:300万光年 最大捕捉:1  東光太郎を支える加護である。スキルにあるやつとは違う。  かつて共に戦ったウルトラ兄弟や、彼を見守るウルトラの母や父の力、そしてウルトラマンタロウが、太陽のように彼を見守っているその姿が宝具である。  光太郎が挫けそうになった時、自然と彼らの言葉や戦いが光太郎に届く、そんな不思議な力を持つ。  しかし、言葉や想いが届いた後は、別に助けてくれるわけではないので、光太郎が自分で頑張るしかない。  かつてのように光太郎の代わりに戦ってくれる仲間はいないが、それでも、彼らはいつまでも光太郎を励ますだろう。  この宝具の最大捕捉は「東光太郎」限定の「1」であるが、同じようにウルトラの星から力や勇気を授かっている人間はこの地球にもたくさんいるはずだ。 『其処に住まう民による、青き星すべての防御壁(ザリバ・オブ・オール・テリトリー=ZAT)』 ランク:B 種別:対怪獣・対星人宝具 レンジ:地球上  最大捕捉:1~99(相手が怪獣の場合)  東光太郎がかつて所属していた地球防衛組織・ZAT。既に光太郎自身は退任しているが、かつて光太郎がいた世界ではZATは継続して怪獣退治に専念していると思われる。  多彩な装備を持ち、(一応)優秀な人材による、対怪獣用の作戦を発動する事ができる。  この宝具により、光太郎自身もZATに所属していた時代の装備をその場に再現可能。隊員服、ZATヘルメット、ZATガンなどの基本装備はすぐに発動できるだろう。  ただし、スカイホエールは勿論の事、ウルフ777級の宝具でも魔力消費は大きくなる他、明らかに悪目立ちするなどの欠点がある。  光太郎もこの宝具の運用に関しては、『胸に輝くウルトラの星(ウルトラバッジ)』ほど硬く封印しているわけではないが、やはりZATを退任した以上、使わないに越した事はないと思っているだろう。 【weapon】 「ボクシンググローブ」  東光太郎は元々、プロボクサーを目指していた青年である。序盤はZATをやりながらボクシングをしていた描写もある。  その為、これはもう彼の命みたいな物であろう。初期だけの設定だが、最終回の後、彼が何をしているのかよくわからないので一応、まあ…。 「竹槍」  申し訳程度のランサー要素。宝具ですらない。作中でも一度しか使ってない。  しかし、多少なりとも怪獣にダメージを与える事が出来る凄い竹槍(というか、光太郎が凄い)。  普段からこんな物を持ち歩いているわけではないが、一応ランサーなのでその辺はまあ、自由に召喚できるという事で…。 【人物背景】  かつてウルトラマンタロウであり、ZATの隊員であった22歳の青年。  今は、タロウに変身する為のウルトラバッジを返還し、一人の人間・東光太郎として生きている。  光太郎は一人の人間として銀座の雑踏に消えてから、彼は特別な人間ではなくなった。  彼がその後何をしているのかはわからない。  プロボクサー、というのはあくまで当初の夢の一つであり、最終的に彼がそれを目指しているのかは不明。  人間の平和の為に頑張っているのかもしれない。  勿論、英霊の器でもないし、本人も特別な存在である事は望んでいない。  だからこそ、この聖杯戦争を破綻させ、聖杯を解体、もしくはどこか人間の手の届かぬ場所に返し、自らも英霊の座を返還しなければならないという目標を持つ。 【サーヴァントとしての願い】  聖杯の力に頼ってはいけない。頼ったとしても新たな後悔が生まれ、一人前の人間になる機会も失うからである。  もし、聖杯を狙う者がいたなら、その事を教えなければならない。  宝具も使うつもりはない。魔法、超能力などではなく、東光太郎としての自分の力で戦うのが彼の方針。 【マスター】 香月舞@魔法のスター マジカルエミ 【マスターとしての願い】  エミリー・ハウエルのような立派なマジシャンになる。  しかし、それはこれから自分の力で叶える願いであって、魔法や聖杯に頼る願いではない。 【weapon】 「マジックアイテム」  手品に必要な道具。小さな赤いボールを指の間に出現させる手品を練習している。  他には、トランプなども基礎練習の為に所持しているかもしれない。 「ももんがのぬいぐるみ」  かつて、トポという妖精が依代に使っていたぬいぐるみ。  エミが魔法を捨て去った事から、既に人間界去っており、このぬいぐるみはもう喋らず、動かない。  それでも彼がそこにいた思い出の証として残している。 「マジカルミラー」  鏡の精を呼び出したミラーであるが、もう彼は人間界には来ないだろう。これはただのハート型の鏡になってしまった。  トポが立ち去った後もこの鏡は舞の元に残り続けている。  しかし、元々、使用頻度が極端に少なく、出てきてもストーリーに一切関わらないという、スポンサーの都合上、嫌々出しているような可哀想な玩具だったりする。 【能力・技能】  マジックは好きだが、不器用で、基礎しかできない(とはいえ、勿論マジックを一切やらない人間に比べれば十分マジックができる)。練習中の身。  マジカルエミとしてではなく、香月舞としても魔力素養を持っているのか、妖精と出会う事が多く、作中では鏡の精以外にも様々な妖精と出会い、何度も別れを告げている(これは弟の岬なども同様)。  やたら地味な作風のせいで、11歳という年齢に見合った性格の反面、終盤ごろは殆ど大人のような感性を持ち始めている。 【人物背景】  魔法を捨てた魔法使い。  「マジカラット」という魔術団を経営している祖父母を持ち、母も元々はマジシャンだった背景から、一人前のマジシャンを夢見ている。  1920年-1930年代に活躍したエミリー・ハウエルというマジシャンに憧れているが、父譲りの不器用さでマジックが上手くできないので四苦八苦している。  かつて、鏡の精から授かった魔法により、「マジカルエミ」としてアイドル兼マジシャンをやっていた事があるが、努力で夢を叶えようとする周囲の人間を見て考えを改め、遂に魔法を捨て、香月舞として自分の力で夢を追う決意をした。  それからは、マジカルエミではなく、マジカルマイとしてステージに立つ日を夢見て、引退した祖父にマジックを教わる日々を過ごしている。  家庭科の成績が「2」と、持ち前の不器用さゆえにあまり良い感じではないが、それでも後半に差し掛かるにつれ成長して先生には頑張りを褒められるようになっていった。  ちなみにそんなに好きではないものの、勉強が全くできないというわけではないらしい。  まだ子供なので、やや純粋で、「初恋なんてどうせ忘れる」と一笑していた周囲の大人に食ってかかるような側面も見られる。というか、正直周囲の大人が大人げない。  作風上、彼女は自分の感情を一切吐露せず、それをはっきり表す台詞もなく、風景や演出、行動によって心境の変化が見えてくる事が多い。  その回の話の結末が描かれない事がザラにある。一つのストーリーとして何の動きもない場合もある。前二作(クリィミーマミ、ペルシャ)にたまにあったドタバタエピソードですらない郷愁的な話がやたらと多い。  つまるところ、当初から、「マジカルエミ」には「ドラマ」は一切なく、ただ日常を過ごしていく中でひっそりと成長していく少女や、その周囲の人々の姿が描かれるのみなのである。  下手すると、この聖杯戦争でも聖杯とも戦いとも何とも関係のない普通の日々や日常風景だけが延々描写される可能性がある(どうせ落ちるけど)。 【方針】  マスター、サーヴァント共に、魔法や特殊能力を自ら捨てた人間である。  その動機は、自分の力で何かを成す事の意味を知ったからに違いない。  異常に便利な力を突然に手にしてしまった時、果たしてそれは本当に自分の望むべくして手に入る物ではないと二人は考えている。  基本的に、相手に交渉し、願いの為に聖杯戦争に乗る事を引き留めるのが彼らの方針であるが、それで相手が選択した方針を必ずしも折る事はできないだろう。  もし、聖杯の為に向かってくるならば、光太郎はそれを撃ち倒す手段を行使するしかない。  舞は一切戦闘能力がないため、補助にあたるしかない。微量の魔力はあるので、それで何とか持ちこたえていこう。

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