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NINJA GAIDEN

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NINJA GAIDEN ◆MjBTB/MO3I



死んでも死なぬ忍、薬師寺天膳
彼は思う。


此は何事、と。


       ◇       ◇       ◇


さて、謎の短筒使いに殺されてしまった天膳。
彼はさほど時間もかけず復活し、既に下山を完了させていた。
短筒使いを追いかけるという手も是ではあっただろうが、何しろ自分は簡単に殺された身である。
いくら自分が忍と言えど油断は出来ない。元々知らぬ土地かつしかも森の中だ。
そんな中での追跡戦は正しく無謀。何が自分を待っているのか予想をつけ辛い状況なのだ。
罠が仕掛けられていても、そしてなおかつそれに律儀に引っかかっても、何の文句も言えぬ。
故に、彼は暗い闇を駆ける事はひとまず避け、山を下っていったのである。
――――だが、後悔した。

「此は……何事……?」

天膳本人としては、それこそ人里にふらりと下る程度の考えであった。
仕方あるまい。彼の生きた時代が時代だ。仕方があるまい。
だが。

「俺は、何を見ている……?」

だが。だが、だが!
その様な綿埃程度の軽い気持ちで下山に当たったのは失敗であったと、天膳は確信せざるを得ない!

「此処は何処なのだ……!」

いや、その質問は愚であろう。正しくは"こう"だ。

「"此処は何"だ!?」

死んでも死なぬ忍、薬師寺天膳。
その彼の目の前には、所謂"都会"の光景が広がっていた。


       ◇       ◇       ◇


「ふぅ……」

さて、先程はああして忍にはあるまじき声量で疑問をぶちまけていた天膳。
本人も一時はどうなることかと思ったものだが、しばらくそうした後には逆に静かになっていた。
何も面妖なことではない。単純に絶頂点は既に過ぎ去っただけの事だ。山は登りきれば後は下るのみ。
俗っぽい言い方――つまり天膳の知らぬ言葉――で表現するならば、"テンションが下がった"という事である。
だからといって完全に落ち着きを取り戻したわけではないのだが。

「……さて」

整理する。
天膳の目の前に広がるは、謎の物質で出来た数々の箱、箱、箱(ちなみにそれは、現代語訳すれば「ビル」という)。
参った。これを見た他の者に「天膳よ、これは何ぞ?」と問われようとも、彼は答えを示すことは出来ないだろう。
この巨大な体。規則正しく並べられた、四角く大きな矢狭間らしきもの。木材では有り得ぬ程の硬度。
隠れ里の――――否、幕府の人間を全て使役しようともこの様な面妖な物体は作る事など到底不可能だ。
ではその様なモノがぞろぞろと列を成しているこのセカイは一体"何"なのだ。全く説明が付かないではないか。
自分は今まさに恐ろしい体験をしている。それを実感した天膳は、このセカイ自体に対して驚愕するばかりだった。

「俺が言うのも可笑しな話だが……最早有り得ぬな」

だがこのセカイで語るべきものはその巨大な箱のみでは無い事には、天膳も薄々感付いていた。
何せまず大地が硬い。更にその自然では有り得ぬ程の硬さからは、生命の息吹の一切が感じられないと来た。
それだけは無い。鍛えられた視力を活かして遠く向こうを眺めれば、見慣れぬものも沢山見つかる。
まず発見したのは橋だ。通常、川を渡る為に設置されている"あの"橋だ。
だがそれも木材を使用した物ではないが故に、最早天膳の見知った形状ではない。
橋というには異常すぎる程に太く、大きく、硬かったのだから。

とりあえず、辺りを警戒しながら素早く渡ってみた。

無事渡りきった。何も異常は無い。揺れもせずに雄々しいままだ。
脚より伝わる感触は普段渡っている橋と全く違っているが、その分丈夫なのか。
ともかく、この里の橋と大地はそういうモノであるらしい。

そうしていると、天膳の眼前に再び巨大な箱(以下、ビルと呼称)が姿を現した。
そのビルは先程と同じように数多く立ち並んでおり、圧迫感がえらく激しい。
一応存外背が高くない事も"先程と同じ"である為、この先に待つ大都会程の騒ぎではないのだが。
しかしそんな事を今の天膳は知る由も無い。

「……ふむ」

ビルを触診し、樹木よりも遥かに硬いことをもう一度確認する天膳。
夜空に居座る月が発する光と街灯からの人工的な光が、そんな彼の姿を照らす。
ここでその光を頼りにした何者かが天膳の姿を目撃すれば、皆「何をしているのだろう」と不審がるだろう。
何故ならば、天膳は黒い暗い空を呆ける様に眺めていたのだ。
そして。

「ッッ!」

突如天膳は常人の眼では到底捕らえられぬで速度で跳んだ!
そうすれば後はコンクリートの大地とはおさらば。用があるのはビルの壁のみである。
たん、たん、たん、と向かい同士になったビルの壁を蹴りながら上昇していく。
三角跳びの応酬。天膳は月にのみその曲芸を惜しみなく見せ、そのまま彼はビルの屋上へと華麗に着地した。

「ほう。これは……いやはや、なかなかに捨てたものではないな」

天膳は屋上から元いた大地を見下ろしながら、感嘆の意を込めて呟いた。
彼の視界に、数多くの街灯や電光板等で彩られた街の姿が映し出されていたが故にだ。
色鮮やかなそれらは、例えるならば地上に降りた星のようにも思える。宝石と言っても問題あるまい。
少しどぎついのが難だが、里では決して見られぬようなこの光景には正直惹かれるものがある。
この様な摩訶不思議で面妖で明るく美しい世界に、朧は、そして他の忍も紛れ込んでいるのだろう。
「この様な煌びやかな里、我々忍には全く似合わないというに」。天膳はそう言って微かに嗤う。
闇夜に解けるべき存在が、何故この様な場所に呼ばれたのか。そもそも何故自分はこんな場所にいるのやら。
疑問は尽きない。だがこの様な光り輝くセカイを見下ろしている自分がなんだか面白く思えて。
死んでも死なぬ忍、薬師寺天膳は再び"笑"った。


       ◇       ◇       ◇


ビルの屋上から屋上へ。あれから天膳は跳躍に跳躍を重ねて街を移動していた。
地図が無いままに異形の里を動き回っているので、現在地はおろか方角すらも危ういのだが、本人はそれを気にしてはいない。
その事自体には今や文句の一つも言わずに、煌びやかな大地を見下ろしながら闇夜を跳び、駆けるだけだ。
その理由は二つ。まず一つは朧を探しながら脱出の糸口を探し当てるという、自分の使命を全うする為。

そして二つ目は、ただの"興味"。
初めて見る人里。大地に散らばる宝石。それをもっと見たくなった。
そんな可笑しな自己満足だ。

最初はただのカルチャーショックであった。
"ただの"と言うには少々刺激も衝撃も強すぎたものであったが、最初はその一点だけであった。
ここに来る前には絶対に見ることは無かったであろう、この人里。このセカイ。
それらに対峙した彼が多大なショックを受けたまでの事だ。

だがそのショックは、今はある種の快感へと変わっていた。
隠れ里では正しく自分はほぼ最強であった。自分に勝利する者など、あの朧を除いては存在しないだろうと確信している。
故に自分の世界は、既に頂点から見下ろし尽くし、全てを見通してしまっていた。
勿論四季折々で様々な一面を見せてくれるその世界に飽き飽きしたというわけではない。ない、のだが。
今までで知り尽くした世界とは全く違うこの面妖なセカイに触れたその刹那、何とも言えぬ"何か"が体中を巡ったのだ。
言葉にする事は難儀。これを他人に伝えるには若干の時間を要する事は必至。
だがとにかく、自分の心に新たな感情が生まれ、産声を上げたのは確かなのである。
何故なのだろう。脱出が最優先だというのに、寄り道などしている筈は無いというに。
だがそれでもこう思う。似合わぬ程の煌びやかさ、望むところと!

「旅行者でもあるまいに……我ながら暢気な事よ」

理性を具現化させるように口を開いてみるが、やはり自分はそれでも止まりそうにはない。
やはり自分の欲は誤魔化せそうに無い。他人を騙した事は何度もあると言うのに、だらしの無い話だ。
ならば、良いだろう、こうなったら欲のままに動いてやろうではないか。
"朧を護る"。"セカイに触れる"。"脱出する"。これら全てを成し遂げてみせる。
決意を新たに「人類最悪とやらよ、私を焚きつけた事を後悔するが良い」と呟き、天膳は再び何度目かの跳躍を敢行した。
目指すは遠くに見える白い建物。赤い十字が目印の、これまた奇妙な建物へ。

跳ぶ、跳ぶ。忍は跳ぶ。
笑う、笑う。忍は笑う。

このセカイの全てを知り尽くすには、きっと命が一つだけでは足りないのだろう。




【B-4/建物の屋上を飛び移って移動中/一日目・黎明】

【薬師寺天膳@甲賀忍法帖】
[状態]:健康、高揚感
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本:朧を護り、脱出。道中このセカイに触れる。
1:病院を目指す。
2:朧を探しつつ、情報収集。
[備考]
※室賀豹馬に『殺害』される前後よりの参戦。



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