ラノロワ・オルタレイション @ ウィキ

無題

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無題 ◆DYeQxgMVjs



 わたくし上条当麻は現在冷たく固いコンクリートの床に寝転がっていた。
 もちろん、こんなところで寝る習慣もないし、寝た記憶もない。
 どう考えてもいつも寝ている自宅のバスルームではない。
 何故こんなところに自分は寝転がっているのか?

 いつもどおり学校に通い、青ピと土御門とバカ話で盛り上がり、小萌先生に叱られ。
 帰りにビリビリに喧嘩を売られ、家ではインデックスに噛み付かれる。
 いつもどおりの日常だったはずだ。

「…………不幸だ」

 もはや口癖となってしまった言葉が口から零れた。
 いろいろと慣れてしまったが、また何か厄介ごとに巻き込まれたようだ。
 もう開き直って、拉致られたのはいいとして、体に異常がないか確かめてみる。
 これといった傷はないし拘束されているわけでもないようだ。

「つか、そもそも何処なんだよここは」

 頭を掻きながら身を起こし、辺りを見渡してみるが状況は一向につかめない。
 というか、そもそも目に入るのは暗闇ばかりで何も見えない。
 朧気に人影らしきものが見えるが定かではなく、距離感すら捕らえられない。
 なんとも奇妙な空間だった。

 ひとまず現状を掴むため足を踏み出そうとした瞬間、暗闇に異変が起きた。
 恐ろしいまでの存在感を持って、暗闇がが蠢き形を成す。
 闇から溶け出すように黒衣の男が現れた。
 それは賢者のようでもあり、仏僧のようでもあった。
 苦悶の表情を浮かべる男の眉間には永遠に取れることのないように深く刻まれた皺が見える。
 これほどの暗闇の中で男の姿だけが明確なのが返って不気味だった。

 この場において明確な形を持っているのは男だけなのだ、当然の流れのようにこの場にある全ての視線が男へと集約する。
 部屋の構造も広さも一切把握できない。
 だが、間違いなく男が立っている場所がこの舞台の中心であるという妙な確信があった。
 舞台の中心に立った男が重々しく口を開く。

「私は魔術師、荒耶宗蓮。
 ここに諸君らを集めた者だ」

 全てを押し潰すような厳かな声で、男は自らを魔術師と名乗った。
 魔術師ということは、またインデックスがらみだろうか?
 インデックスはその脳内に10万3000冊の魔道書を記憶している魔道図書館である。
 魔道書ってのは一冊で世界の法則を捻じ曲げられる代物らしい。
 それが10万3000冊ともなれば、これを利用しようとインデックスを付け狙う魔術師は後を絶たない。
 となると、目の前の魔術師も10万3000冊を利用しようとする輩である可能性は高いだろう。

「まずは諸君らを集めた目的を明かそう。
 これより君らを使い、あらゆる死の蒐集を行う。
 わかりやすく告げるならば、これより君らには殺し合いをしてもらうこととなる」

 だが、告げられた言葉は予想外のものであり、予測以上に不穏な響きのものであった。
 波のようにざわつきが広がり、辺りから身を強張らせる気配が伝わってくる。
 動揺と混乱が加速し、場の空気が目の前の男に飲み込まれようとした時。
 それを切り裂くように、暗闇から分離するように一つの影が一歩、中心へと踏み出した。

 小柄な影が踏み出たとたん、そのシルエットに色が付く。
 まるで出来の悪いミュージカルでも見てる気分だった。
 見るからに上等な着物の上にド派手な赤い革ジャンを着るというなんとも奇抜すぎるファッションが目に映る。
 ざっくりと切りそろえた黒髪。その面構えは見ようによっては美少年のようにも見えるし、見ようによっては美少女のようにも見えた。

「なんで生きてるんだ、なんてくだらないことは聞かないさ。
 いいぜ。死に損なったってんなら何度でも殺してやるよ、魔術師」

 そう言った少女は堂々とした態度で魔術師をにらみ付ける。
 その視線を黒衣の魔術師は真正面から受け止めながら、威厳を含んだ口を開く。

「止めておけ両儀式
 あの時ならばいざ知らず、素手では貴様に勝ち目はなかろう」
「へぇ、なら試してみるか?」

 そう言って少女は薄く笑う。
 退く素振りすら見せない不敵なその態度に魔術師は息を漏らした。

「試すまでもない。
 まず己の首を確認してみろ」
「何?」

 魔術師の言葉に、少女のみならずその場にいた全員が己の首に手を触れる。
 そこにはなにやら硬く冷たい感触があった。
 ぴたりと首に張り付くこれは……首輪だろうか。

「それは爆弾だ」

 その一言に背筋に戦慄が走る。
 もう一度右ゆっくりと首もとの冷たいラインをなぞってみる。
 これが爆弾などと、冗談にしても笑えない。

「外面には魔眼殺しを使用している。
 いかに貴様とてそれの死を見るのは容易くあるまい」
「ちっ。つまんない仕掛けをしやがって」

 そうつまらなさげに吐き捨てて、突撃するような無策はせずに少女は引き下がる。
 状況の不利を読み取れないほど愚かではないようだ。
 だが、引き下がる少女と入れ替わるように真紅のコートが翻る。

「どういうことだアラヤ!
 なぜこの私にまでこんなものが嵌められている!?」

 暗く輝く長い金髪にコートと同じ真紅のシルクハット。
 整った顔をした外国人は怒りを不満を露にしながら、魔術師を睨み付けていた。

「何故? 愚問だな。魔術師である貴様がそれを問うか?
 我ら魔術師の目的など「」への到達以外にありえまい」
「違う! そんなことを聞いているのではない!
 貴様が「」への到達のためにどのような儀式を行おうが知ったことではない!
 なぜ、そんなものに私が巻き込まれなければならないんだといっているんだ!」

 男の言い分に魔術師は失望を通り越して呆れたように息を吐いた。
 猛る赤い男とは対照的に、黒い魔術師は眉一つ動かさない。

「……そのようなもの、か。まあいい。
 蒼崎橙子に殺され滅び行くはずの貴様にわざわざ新しい肉体を用意してやったのだ。
 この程度は役に立ってもらわねば困る」

「ッ! どこまでも私をコケにするつもりか、アラヤ!!!」

 赤い魔術師の雄叫び。
 魔術師は何かを呪文のような言葉を唱え始めた。
 いや、呪文のようなものではなく、それはまさしく魔術を発動するための呪文なのだろう。
 不本意ながらも、魔術師と幾度かの戦闘経験を持っている自分ですら聞いたことのないほどの高速詠唱。
 おそらくは2秒とたたず破壊が生み出され、その一撃は黒衣の魔術師へと襲い掛かることだろう。
 だが、その魔術が発動するよりも早く。

 詠唱を続ける男の首が勢いよく吹き飛んだ。

 残された胴体から赤い噴水が噴出した。
 胴と泣き別れた、男の頭部が魔術師の足元へと転がってゆく。

「…………あ、らや……きさ………ま」

 生首の眼球がギロリと恨めしそうに魔術師を睨んだ。
 驚いたことに男は首だけになっても、まだ生きていた。
 それを驚くでもなく、ただ俗物を見下すような冷ややかな視線と共に、ゆっくりと魔術師は踵を踏み下ろす。
 スイカでも割るような軽い音。
 周囲から小さな悲鳴が漏れる。
 鮮やかなまでの赤い飛沫と共に、ピンク色のぶよぶよしたものが辺りに飛び散った。

「さて、ではルールの説明と移ろう。
 ルールといっても事は単純だ。
 ここにいる私を除いた60名が最後の一人になるまで殺し合いを続ければいいだけの話だ」

 その結末を気にするでもなく魔術師はこちらに向き直ると淡々と説明を始めた。

「今しがた爆発した首輪だが、威力は見ての通りだ。だが心配は無用だ。
『首輪を解除しようとした場合』『6時間の間に死者が出なかった場合』『指定された禁止エリアに侵入し30秒経過した場合』
 これが爆発する条件は以上の三つの場合のみだ。これを侵さぬ限りは首輪が爆発することはない」
「……ふ、」
「禁止エリアに関しては6時間ごとに行われる放送によって発表される。
 放送では禁止エリアの他にそれまでに死亡した者の名を告げることになっている。
 なんにせよ聞き逃さぬようにすることだ。
 そして、最後まで生き残った者は首輪を解除し、」

「――――ふざけんなぁ!!!」

 気づけば喉を震わせ叫んでいた。
 説明を遮られた魔術師がこちらを怪訝そうな瞳で見つめているが知ったことではない。

「殺し合い? 死の収集だぁ?
 ふざけんな! そんなわけのわかんねぇ事のために、人の命で遊んでんじゃねえ!!」

 後先を考えた行動ではなった。
 簡単に命を踏みにじるその態度に、恐怖よりも先に怒りのほうが振り切れた。

「テメェのそのふざけた幻想をぶち殺す――――!!」

 目の前のクソ野郎をぶっ飛ばすために、右腕を振りかぶりながら叫び駆ける。
 現れてから一度も変わることのない苦悩するような表情はそのままに。
 魔術師は怒りの声を上げ駆ける、こちらの足を止めるべく手のひらを突き出した。
 首輪を爆破されなかったのは、自分にしては珍しいくらいの幸運だろう。

「―――粛」

 言葉と共に魔術師が手のひらを握り締め、空間が捻じ曲がる。
 怯むことなく、その空間めがけて拳を思い切り突き出した。

 その攻撃がなんであるかや、原理なんてものは知らない。
 知らずとも、それが異能の力であるならば、問答無用で打ち消す。
 それがこの右手に宿った”幻想殺し(イマジンブレイカー)”の力だ。

 何かがぶち当たる感覚。
 魔術が右手に打ち消される。

「蛇蝎」

 魔術師の声。
 再び駆け出そうとした体に蛇のような何かが絡みついた。
 光の蛇はご丁寧にも右腕を避けながら全身を拘束してゆく。

「ぐっ…………!」

 締め付けの強さに肺から息が漏れ骨が軋む。
 遠くから心配げに自分の名を呼ぶ声が聞こえた気がしたが、痛みでよくわからない。
 そんな指一本動かすとすらできない姿を見て、完全にこちらに対する興味を失ったのか、魔術師は視線を外し周囲で蠢く影たちへと向き直った。

「……さて、どこまで説明したか。たしか勝者の権利についてだったか。
 最後まで生き残った者には帰還と一つだけ願いをかなえる権利を約束する。
 もちろん私の手で叶えられる願いに限るが、ある程度ならば何とかしよう。
 そして、君らには最低限必要な一日分の物資と君らより没収した道具をランダムに支給する。
 説明は以上だ。
 それではこれより君らを会場に転送する」

 そう告げ魔術師が念をこめた。
 足元が泥沼のように変化し、周囲から戸惑いの声が上がる。
 この場所自体が魔術的に作り上げられた異界なのか、あたり全体が泥沼と化し周囲の影が沈んでゆく。
 当然自分も拘束されてる状態では抵抗のしようもなく、両足が飲み込まれるように地面に沈んでゆく。

「貴様らはこれより極限の果てに、己が起源を知るだろう」

 肩口まで沈んだ体に魔術師の声が纏わり付く。
 泥のように。
 影のように。
 闇のように。
 その奥底まで。
 深く。
 深く。


「――――その闇を見ろ。そして己が名を思い出せ」



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