ラノロワ・オルタレイション @ ウィキ
CROSS†POINT――(交語点) 前編
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CROSS†POINT――(交語点) 前編 ◆EchanS1zhg
【0】
――情報が多ければ判断が楽というものではない。
【1】
「これでよし、と」
ショーウィンドウに写る自分の姿に満足すると島田美波は「うん」とひとつ頷いた。
あわせるように黄色いリボンとくくりなおしたポニーテールの髪の毛も頷くように揺れる。
あわせるように黄色いリボンとくくりなおしたポニーテールの髪の毛も頷くように揺れる。
先刻、水前寺と激闘を繰り広げたために髪は見るも無惨に、リボンもいずこへと飛んでいっていたのだが今はもう元通りだ。
右斜め45度から見ても、左斜め45度から見ても、もちろん正面から見ても。
どの角度から見てもこれまでの――まぁ、多少は激闘のなごりも残るものの――可愛い島田美波の姿である。
背筋をピンとのばし、ジャージにほつれた部分がないかを確認すると、短く息を吸って美波は皆の方へと振り返った。
右斜め45度から見ても、左斜め45度から見ても、もちろん正面から見ても。
どの角度から見てもこれまでの――まぁ、多少は激闘のなごりも残るものの――可愛い島田美波の姿である。
背筋をピンとのばし、ジャージにほつれた部分がないかを確認すると、短く息を吸って美波は皆の方へと振り返った。
「ん?」
美波の頭の上に“?マーク”が浮かび上がる。振り返ってみれば、どうしてかまた水前寺がぼうっとしているのだ。
まさか、またらしくもない虚無感やアンニュイに囚われているのだろうか?
叩く回数が足りなかったのか。ならばと拳を握ると、美波はアスファルトを踏んでつかつかと水前寺に歩み寄る。
まさか、またらしくもない虚無感やアンニュイに囚われているのだろうか?
叩く回数が足りなかったのか。ならばと拳を握ると、美波はアスファルトを踏んでつかつかと水前寺に歩み寄る。
「ちょっと水前寺。なにまたぼーっとしてるのよ?」
「……うむ、島田特派員か。
呆けているなどとはひどい言いがかりだな。が、しかし今はそんなことで言い争うつもりはないのだよ」
「……うむ、島田特派員か。
呆けているなどとはひどい言いがかりだな。が、しかし今はそんなことで言い争うつもりはないのだよ」
少しばかり静かにしてくれたまへと、水前寺は目の前へと掌を突き出してきた。
どうやらぼうっとしていたのではなく考え事をしていたらしい。では、その考え事とはいったいなんなのだろうか?
どうやらぼうっとしていたのではなく考え事をしていたらしい。では、その考え事とはいったいなんなのだろうか?
「ねぇ、一体なんなのよ。また一人で抱え込んで、なんて許さないわよ」
「いや、そういった感情的な問題ではない。今、俺が脳内で行っているのはシミュレーションだ」
「……シミュレーション?」
「うむ」
「いや、そういった感情的な問題ではない。今、俺が脳内で行っているのはシミュレーションだ」
「……シミュレーション?」
「うむ」
集中することは諦めたのか、水前寺は美波の方へと向き直ると腕を組んで大きく頷いた。
「シミュレーションって、何のシミュレーション?」
「我々が今帰りを待ちわびている浅羽特派員の行動シミュレーションだ。今現在、彼はどのように行動しているのか? とね」
「こっちに向かって戻ってきてるんじゃないの? だからここで待っているんだし」
「我々が今帰りを待ちわびている浅羽特派員の行動シミュレーションだ。今現在、彼はどのように行動しているのか? とね」
「こっちに向かって戻ってきてるんじゃないの? だからここで待っているんだし」
手を広げ美波があたりを示してみると、水前寺は「然り」と頷いた。
美波とシャナ、水前寺と悠二、この4人がここで合流して以降、ここに留まっているのは何もなくなったリボンを探すためではない。
そのうち“戻ってくるはず”の浅羽直之の帰りを待つためなのだ。だがしかし、そこに水前寺は疑問を呈した。
美波とシャナ、水前寺と悠二、この4人がここで合流して以降、ここに留まっているのは何もなくなったリボンを探すためではない。
そのうち“戻ってくるはず”の浅羽直之の帰りを待つためなのだ。だがしかし、そこに水前寺は疑問を呈した。
「確かに、じきに帰ってくるのではないかと踏んでいたのだが、よくよく考えるとそうならないのでは? と思い至ったのだ」
「え……、それはどういうことなのよ?」
「実を言うと、浅羽特派員に対してはトーチに関する“ほんとうのこと”を一切伝えておらん」
「アンタ、それって――」
「え……、それはどういうことなのよ?」
「実を言うと、浅羽特派員に対してはトーチに関する“ほんとうのこと”を一切伝えておらん」
「アンタ、それって――」
絶句する。が、水前寺はまたも掌を突きつけて美波のリアクションを押しとどめた。
「まぁ、このこと自体の是非については今は置いておこう。答えの出ない議論に時間を費やす暇はないからな。
問題は、伊里野特派員が消失した後、彼は素直にこちらへと戻ってくるのか? ということだ」
「えっと、それは…………」
問題は、伊里野特派員が消失した後、彼は素直にこちらへと戻ってくるのか? ということだ」
「えっと、それは…………」
美波も水前寺と同じように腕を組んで頭をひねった。
伊里野加奈の消失。これは間違いない。なので今現在、浅羽直之はひとりだけでいるはずだ。
そして彼女の消失にともない彼が映画館へと向かう理由は失われる。ならばその時点で引き返してくる。……はずだが。
伊里野加奈の消失。これは間違いない。なので今現在、浅羽直之はひとりだけでいるはずだ。
そして彼女の消失にともない彼が映画館へと向かう理由は失われる。ならばその時点で引き返してくる。……はずだが。
「映画館に向かってたんでしょ。それで、途中で隣にいる伊里野さんが消えた――」
「――そう。そしてその時、その伊里野クンが消えたことすら浅羽特派員が意識しないのだとすれば?」
「――そう。そしてその時、その伊里野クンが消えたことすら浅羽特派員が意識しないのだとすれば?」
しかし彼は“ほんとうのこと”を知らないらしい。じゃあ、どうなるのか?
確かシャナから話を聞いた時に、“周りの人間は存在の消失から発生する矛盾には気づかない”と教わったはずだ。
その空恐ろしさに驚いたので美波はそのことについてはよく覚えている。ならば、だとすれば――。
確かシャナから話を聞いた時に、“周りの人間は存在の消失から発生する矛盾には気づかない”と教わったはずだ。
その空恐ろしさに驚いたので美波はそのことについてはよく覚えている。ならば、だとすれば――。
「……もしかして、浅羽くんはそのまま今も映画館に向かってるわけなの?」
「では、専門家に意見を伺ってみようではないか」
「では、専門家に意見を伺ってみようではないか」
互いに冷や汗を一滴たらすと、美波は水前寺と揃ってシャナと悠二の方へと足を向ける。
彼女らは彼女らで何か相談でもしていたらしいが、こちらが近づいていることに気づくとそれを中断して振り向いてくれた。
彼女らは彼女らで何か相談でもしていたらしいが、こちらが近づいていることに気づくとそれを中断して振り向いてくれた。
「坂井特派員とシャナクンにひとつ尋ねたいことがあるのだが――」
悠二を特派員と呼ぶことにシャナがまた目じりを吊り上げたが、水前寺はそれを無視して二人に事情を話した。
浅羽直之には“ほんとうのこと”を一切伝えていないこと。そして彼と伊里野加奈が映画館へと向かうことになった経緯。
更にその上で、現在に彼が状況をどう認識しどう行動しているのか? それを専門家たる二人に問いかける。
答えたのは、悠二とシャナのどちらでもなく、シャナの首から下がったペンダントから響く声――アラストールだった。
浅羽直之には“ほんとうのこと”を一切伝えていないこと。そして彼と伊里野加奈が映画館へと向かうことになった経緯。
更にその上で、現在に彼が状況をどう認識しどう行動しているのか? それを専門家たる二人に問いかける。
答えたのは、悠二とシャナのどちらでもなく、シャナの首から下がったペンダントから響く声――アラストールだった。
「伊里野加奈が消失するまでに心変わりしていないのだとすれば、彼は今も映画館を目指しているのだろう」
彼の厳しい声は、重大な真実を伝えるにはあまりにも効果的だった。
それまではあまり関心なさげだったシャナの顔もわずかに強張る。美波の胸にもざわざわとした不安が湧き上がっていた。
それまではあまり関心なさげだったシャナの顔もわずかに強張る。美波の胸にもざわざわとした不安が湧き上がっていた。
「……で、でも、そうだったとしても一度映画館まで行ったらここまで戻ってくるんじゃない?」
「それを待つ猶予は我々には――いや、我々よりも浅羽特派員にはあるまい。
あの満身創痍の身体では何かあった時逃げることもままならんぞ。いや、そもそも戻ってくる体力があるかどうか」
「じゃあアンタ、なんでそんな状態で行かせちゃったのよ!?」
「彼らには時間がなかったのだからそれについては仕方あるまい! と、言い争っている場合ではない――」
「それを待つ猶予は我々には――いや、我々よりも浅羽特派員にはあるまい。
あの満身創痍の身体では何かあった時逃げることもままならんぞ。いや、そもそも戻ってくる体力があるかどうか」
「じゃあアンタ、なんでそんな状態で行かせちゃったのよ!?」
「彼らには時間がなかったのだからそれについては仕方あるまい! と、言い争っている場合ではない――」
言うが早いか、水前寺は踵を返して駆け出した。
その先には一台の救急車が停めてある。どうやら、映画館に向かっているはずの浅羽を追いかけようということらしい。
時間が経てばいずれは浅羽もここに戻ってくるかもしれない。だがそれまで無事であるという保障はないのだ。
ならば確かに急いで彼を追いかけないといけないだろう。車を使うというのならそれはきっと最良の手段だ。
そう、少なくとも宙吊りで空を飛ぶよりかは大分ましなはずである。
その先には一台の救急車が停めてある。どうやら、映画館に向かっているはずの浅羽を追いかけようということらしい。
時間が経てばいずれは浅羽もここに戻ってくるかもしれない。だがそれまで無事であるという保障はないのだ。
ならば確かに急いで彼を追いかけないといけないだろう。車を使うというのならそれはきっと最良の手段だ。
そう、少なくとも宙吊りで空を飛ぶよりかは大分ましなはずである。
「ねぇ、美波」
ん? と、美波は水前寺を追っていた視線をシャナの方へと戻した。何か彼女から話があるらしい。
一瞬、心の中を覗かれたかと思ったがそんなはずがあるわけもなく、美波は彼女の口元へと注目して次の言葉を待つ。
思い返せば彼女は先ほどなにやら二人で相談していた。
彼女の第一目的は坂井悠二との合流だったわけで、ならばそのことに関することかもしれない。
神妙なシャナの顔。その小さな口が開き――しかし、次に聞こえてきたのはあの“人類最悪”の声だった。
一瞬、心の中を覗かれたかと思ったがそんなはずがあるわけもなく、美波は彼女の口元へと注目して次の言葉を待つ。
思い返せば彼女は先ほどなにやら二人で相談していた。
彼女の第一目的は坂井悠二との合流だったわけで、ならばそのことに関することかもしれない。
神妙なシャナの顔。その小さな口が開き――しかし、次に聞こえてきたのはあの“人類最悪”の声だった。
数えて3回目になる定時放送が流れ始める。そして――
救急車のエンジン音が静かな夕暮れの中に大きく響き渡った。まるで、これから加速する物語を暗示するかのように。
【2】
人類最悪の放送を聞き終え、一応とその内容をメモに記すと朝倉涼子はくすりと笑みを漏らした。
「もし古泉くんが死んでなかったらこちらが優位に立つための材料になったと思うのに、残念だわ」
言いつつもそうは感じさせない表情を顔に浮かべ、朝倉は滞在しているファミレスの中を滑らかな動作で進んでゆく。
浅上藤乃が眠る席を通り過ぎ、ひとつ、ふたつめのテーブル。そこまで行くと、そこであるものを手に取った。
浅上藤乃が眠る席を通り過ぎ、ひとつ、ふたつめのテーブル。そこまで行くと、そこであるものを手に取った。
「電池の残りが少ないけど問題はないかな。御坂さんじゃなても、充電くらいなら“私”でもできるし」
朝倉の手の中にあったのはピンク色をした二つ折りの携帯電話であった。
おそらくはこのファミレスに食事に来た客がテーブルの上に出して、そのままだったのだろうと推測できるものである。
どうして客はいなくなったのか。それはいつからなのかは依然として不明なままであるが、
ともかくとして、携帯電話自体は使用にあたって特に問題はないものだった。
彼女の言葉通りに電池の残量は乏しかったが、この程度の電量であれば情報改変を用いて充電することはわけもない。
おそらくはこのファミレスに食事に来た客がテーブルの上に出して、そのままだったのだろうと推測できるものである。
どうして客はいなくなったのか。それはいつからなのかは依然として不明なままであるが、
ともかくとして、携帯電話自体は使用にあたって特に問題はないものだった。
彼女の言葉通りに電池の残量は乏しかったが、この程度の電量であれば情報改変を用いて充電することはわけもない。
「さてと、浅上さんはいったい誰に電話したのかしら。今もまだ生きている人だといいんだけど――」
あらかじめ聞いておいた電話番号をすばやく入力すると朝倉は電話を耳に当て、相手が出るのを待とうとした。だが、
「あれ?」
しかし聞こえてきたのは“通話中”を知らせる電子音のみであった。
【3】
物語の舞台の中央に位置する城。その城を囲む堀を右側に一台の救急車がややゆっくりとした速度で南下していた。
運転席にはハンドルを握る水前寺がおり、隣の助手席には悠二が、シャナと美波は後部の患者を収容するスペースの中にいた。
病人を搬送するという目的上、この車の乗り心地は決して悪いものではないが、
よくわからない医療機器などが犇いているからか、シャナや美波の表情を見るに居心地はあまりよくないらしい。
運転席にはハンドルを握る水前寺がおり、隣の助手席には悠二が、シャナと美波は後部の患者を収容するスペースの中にいた。
病人を搬送するという目的上、この車の乗り心地は決して悪いものではないが、
よくわからない医療機器などが犇いているからか、シャナや美波の表情を見るに居心地はあまりよくないらしい。
浅羽直之を追い越したり見逃さないよう徐行運転で進む中、悠二は携帯電話を耳に当て、ヴィルヘルミナと連絡を取り合っていた。
シャナと無事に合流できたこと。伊里野加奈がトーチとして消失したこと。病院で発見した凶行の証拠など、報告することは多い。
また御坂美琴と古泉一樹の死亡の報を聞き、キョンの安否が気にかかったこともあった。
元はと言えば、警察署に行こうとしていたのは自分なのだ。そのせいで犠牲が出てるのだとしたら悔やんでも悔やみきれない。
シャナと無事に合流できたこと。伊里野加奈がトーチとして消失したこと。病院で発見した凶行の証拠など、報告することは多い。
また御坂美琴と古泉一樹の死亡の報を聞き、キョンの安否が気にかかったこともあった。
元はと言えば、警察署に行こうとしていたのは自分なのだ。そのせいで犠牲が出てるのだとしたら悔やんでも悔やみきれない。
「――それで、キョンはまだ戻ってないんですね」
しかしキョンは未だ神社には帰還しておらず、警察署で何があったのかということも不明ということだった。
ヴェルヘルミナの声に悠二は自分がここでこうしててもよいものだろうかと、僅かな焦燥を募らせる。
ヴェルヘルミナの声に悠二は自分がここでこうしててもよいものだろうかと、僅かな焦燥を募らせる。
『御坂美琴及びキョンなる者が順調に帰還を果たしたならば、次に上条当麻の捜索を開始する予定でありました。
ですが、今はそうもいかなくなってしまったのであります』
ですが、今はそうもいかなくなってしまったのであります』
常に冷静を務める彼女の声の中にも僅かな焦燥があるように思えた。
警察署の捜索は悠二捜索の足掛かりになるはずで、古泉一樹を捕らえれば貴重な情報源にもなるはずだったのだ。
そして、彼らが帰還すればシャナが出会ったという上条当麻なる“全ての異能を破壊する男”を探す予定でもあったのだ。
だがそれらは警察署で起こったなんらかのトラブルによりご破算となり、計画は大きく後退することとなってしまっている。
警察署の捜索は悠二捜索の足掛かりになるはずで、古泉一樹を捕らえれば貴重な情報源にもなるはずだったのだ。
そして、彼らが帰還すればシャナが出会ったという上条当麻なる“全ての異能を破壊する男”を探す予定でもあったのだ。
だがそれらは警察署で起こったなんらかのトラブルによりご破算となり、計画は大きく後退することとなってしまっている。
『炎髪灼眼の討ち手の早急なる帰還を要請するのであります』
『即時実行』
『即時実行』
ヴィルヘルミナの声に彼女の冠するティアマトーの声が重なる。
御坂美琴という人員が失われた以上、その空白を埋めるためにシャナを帰還させるというのは当然の道理だろう。
悠二と合流するという当座の目的は達したのだ。
ならば、次に優先すべきはキョンの捜索と警察署で起きた事実の確認に他ならない。
御坂美琴という人員が失われた以上、その空白を埋めるためにシャナを帰還させるというのは当然の道理だろう。
悠二と合流するという当座の目的は達したのだ。
ならば、次に優先すべきはキョンの捜索と警察署で起きた事実の確認に他ならない。
フリアグネの名前を聞き、電話の向こうにいるヴィルヘルミナの気配が変わったように悠二は感じた。
『詳細を』
「うん。直接フリアグネを見たというわけじゃないんだけど――」
「うん。直接フリアグネを見たというわけじゃないんだけど――」
悠二は、シャナが百貨店の屋上でフリアグネの燐子を発見したという事実を伝え、
また悠二自身も付近で燐子に遭遇したことから、フリアグネが百貨店を拠点にしているだろうという推測を語った。
そして、水前寺や美波の避難をシャナに任せた後、単独で百貨店に潜入。そこで少佐なる者の狙いやフリアグネとの関係を突きとめ、
その後にまたシャナと合流して二人でフリアグネの討滅に当たる予定だったと。
また悠二自身も付近で燐子に遭遇したことから、フリアグネが百貨店を拠点にしているだろうという推測を語った。
そして、水前寺や美波の避難をシャナに任せた後、単独で百貨店に潜入。そこで少佐なる者の狙いやフリアグネとの関係を突きとめ、
その後にまたシャナと合流して二人でフリアグネの討滅に当たる予定だったと。
「アラストールは再び《都喰らい》が行われるかもと言ってるんだ。だからここは早く手を打たないと――」
『待つのであります』
『待つのであります』
悠二は事の緊急性をアピールしたが、ヴィルヘルミナはそれを遮り加えてその計画に問題が多すぎることを指摘した。
『フリアグネは“狩人”の通り名が示す通りに強者として名高き紅世の王。
尋ねるのでありますが、今現在あの王と合間見えたとして再び勝利を得ることが可能だと考えているのでありますか?』
尋ねるのでありますが、今現在あの王と合間見えたとして再び勝利を得ることが可能だと考えているのでありますか?』
それは……と、悠二は口ごもる。
シャナはあれ以来、戦闘の経験を重ね確実に強くなっている。悠二にしても“存在の力”を制御するに至った。
二人の実力は大きく高まっていると言えるだろう。だがしかし、そもそもとしてあの王に勝てた一回が偶然と幸運の産物でしかない。
フリアグネはヴィルヘルミナが言う通り、幾多のフレイムヘイズを狩ってきた最強の王の一人。
冷静に指摘されてしまうと、悠二としてもまた勝てるとは断言できなかった。
シャナはあれ以来、戦闘の経験を重ね確実に強くなっている。悠二にしても“存在の力”を制御するに至った。
二人の実力は大きく高まっていると言えるだろう。だがしかし、そもそもとしてあの王に勝てた一回が偶然と幸運の産物でしかない。
フリアグネはヴィルヘルミナが言う通り、幾多のフレイムヘイズを狩ってきた最強の王の一人。
冷静に指摘されてしまうと、悠二としてもまた勝てるとは断言できなかった。
『加えて、今は“少佐”なる不確定要素が存在するとのこと。ならば事を起こすにはより慎重であるべきでありましょう』
『早計』
『早計』
そして、万条の仕手なるフレイムヘイズがここにいるのにも関わらず、そちらだけで決めるとは何事かとも悠二は怒られた。
確かにそれはその通りで、そう言われてしまうと悠二としても返す言葉がない。
相手は紅世の王なのである。ならば、その討滅にあたってヴィルヘルミナも参戦するのが当然なのだ。
だが、悠二もそれらについてまったく考えていなかったわけではない。それを踏まえても今回は緊急性が高いと判断したのだ。
確かにそれはその通りで、そう言われてしまうと悠二としても返す言葉がない。
相手は紅世の王なのである。ならば、その討滅にあたってヴィルヘルミナも参戦するのが当然なのだ。
だが、悠二もそれらについてまったく考えていなかったわけではない。それを踏まえても今回は緊急性が高いと判断したのだ。
「けど、もしフリアグネが再び《都喰らい》を企てているのだとしたら――」
周辺の物質をすべて存在の力へと還元してしまう《都喰らい》。もしこれが実行されればこの狭い世界は跡形もなく消えてしまうだろう。
その後に生きていられるのは恐らくフリアグネ本人のみ。だとすれば、これだけはどれだけ犠牲を強いても回避しなくてはならないのだ。
打倒は無理だとしても計画の阻止だけは、と――だがそれについてもヴィルヘルミナは疑問を呈した。
その後に生きていられるのは恐らくフリアグネ本人のみ。だとすれば、これだけはどれだけ犠牲を強いても回避しなくてはならないのだ。
打倒は無理だとしても計画の阻止だけは、と――だがそれについてもヴィルヘルミナは疑問を呈した。
『《都喰らい》……それを想定するに至ったトーチの存在についてでありますが、
伊里野加奈は自然消滅したと、それで間違いないのでありましょうか?』
「その瞬間は見ていないけど、おそらくは……、存在の力も希薄だったし、間違いないと思う――」
伊里野加奈は自然消滅したと、それで間違いないのでありましょうか?』
「その瞬間は見ていないけど、おそらくは……、存在の力も希薄だったし、間違いないと思う――」
自分で発言し、その瞬間に悠二はこの事態における根本的な矛盾に気がついた。
ヴィルヘルミナが疑問を感じるのも当たり前だ。
フリアグネが真に《都喰らい》を画策しているのだとすれば、用意したトーチが“自在法が発動する前に消滅してしまう”のはおかしい。
《都喰らい》の要は、同じ場所に多くのトーチを同時に存在させることにある。これではこの条件が満たされない。
ヴィルヘルミナが疑問を感じるのも当たり前だ。
フリアグネが真に《都喰らい》を画策しているのだとすれば、用意したトーチが“自在法が発動する前に消滅してしまう”のはおかしい。
《都喰らい》の要は、同じ場所に多くのトーチを同時に存在させることにある。これではこの条件が満たされない。
『どうやら理解された模様』
『単純明快』
「うん、確かにフリアグネが《都喰らい》を狙っていると決めつけのは早かったよ。けど、何も狙いがないとも思えないんだ」
『同感でありますが、現状では情報が不足しているのであります。それについては後々に』
『単純明快』
「うん、確かにフリアグネが《都喰らい》を狙っていると決めつけのは早かったよ。けど、何も狙いがないとも思えないんだ」
『同感でありますが、現状では情報が不足しているのであります。それについては後々に』
悠二は食い下がるも、ヴィルヘルミナはあっさりと話を切り上げてしまうとシャナと電話を代わるように命じた。
シャナから話を聞いてやってきたというトーチが今神社にいるらしく、詳しく事情を聞きたいらしい。
逡巡し、返す言葉がないことに気づき悠二はおとなしく従うことにした。
シャナから話を聞いてやってきたというトーチが今神社にいるらしく、詳しく事情を聞きたいらしい。
逡巡し、返す言葉がないことに気づき悠二はおとなしく従うことにした。
「シャナ。カルメルさんが聞きたいことがあるって」
「うん、わかった」
「うん、わかった」
後ろで待機しているシャナに声をかけて携帯電話を渡すと、悠二は前に向き直り座席に深く身を預けて大きな溜息をついた。
相変わらずヴィルヘルミナ相手だと緊張するということもあるが、
それよりもフリアグネに対峙する為に決めた覚悟が肩透かしに終わってしまったからという部分が大きい。
決死の覚悟であり、また存在の力を扱えるようになった自身が紅世の王と対峙することに対する高揚も少なからずあったのだ。
ヴィルヘルミナの言うことはもっともで、今ここでフリアグネに接触することが必ずしも得策ではないことは理解できている。
けれども、機会を逃したことが惜しいという気持ちが離れないでいた。
相変わらずヴィルヘルミナ相手だと緊張するということもあるが、
それよりもフリアグネに対峙する為に決めた覚悟が肩透かしに終わってしまったからという部分が大きい。
決死の覚悟であり、また存在の力を扱えるようになった自身が紅世の王と対峙することに対する高揚も少なからずあったのだ。
ヴィルヘルミナの言うことはもっともで、今ここでフリアグネに接触することが必ずしも得策ではないことは理解できている。
けれども、機会を逃したことが惜しいという気持ちが離れないでいた。
「(……もしかすると、僕はただシャナと一緒に戦いたかっただけなんだろうか)」
シャナがヴィルヘルミナと話している内容をそれとなく聞きながら窓の外の景色を眺める。
ゆっくりと流れる風景の中にはなんら剣呑なところはなく、そしてまた浅羽直之の姿もそこにはなかった。
ゆっくりと流れる風景の中にはなんら剣呑なところはなく、そしてまた浅羽直之の姿もそこにはなかった。
【4】
物語の舞台の中央に位置する城。その城を囲む堀を左側に一台のパトカーがゆっくりとした速度で東進していた。
その運転席には師匠と呼ばれる妙齢の女性がハンドルを握っており、隣の助手席には携帯電話を片手にした朝倉涼子が座っている。
そして後部座席では浅上藤乃が横になってすやすやと静かな寝息を立てていた。
その運転席には師匠と呼ばれる妙齢の女性がハンドルを握っており、隣の助手席には携帯電話を片手にした朝倉涼子が座っている。
そして後部座席では浅上藤乃が横になってすやすやと静かな寝息を立てていた。
「あなたの見込みどおりであればいいのですが」
「そんなこと言って、師匠ったら乗り気な癖に」
「そんなこと言って、師匠ったら乗り気な癖に」
朝倉は携帯電話を耳に当てる。だがまだ相手は通話中のようだった。
そして、この通話中であるという事実が彼女と師匠にある可能性を想像させ動かしているのであった。
そして、この通話中であるという事実が彼女と師匠にある可能性を想像させ動かしているのであった。
【5】
「――うん、だから私の存在の力を注いであげた。ステイルはインデックスが言ってた仲間だから」
水前寺と一緒に浅羽がいないか窓の外を眺めながら、悠二は時折バックミラーに視線を移してはシャナの様子を窺った。
聞いたとおり、ヴィルヘルミナがシャナに確認したかったこととはもう一人のトーチであるステイルのことであるらしい。
聞いたとおり、ヴィルヘルミナがシャナに確認したかったこととはもう一人のトーチであるステイルのことであるらしい。
「わかった。とにかく一度そっちに戻るから」
バックミラーの中のシャナは携帯電話を耳から離すと眉根を寄せた。どうやら彼女もヴィルヘルミナにやり込められたらしい。
シャナは電話を切ろうとする――と、そこで悠二はまだ報告していないことがあったのに気づいてシャナに声をかけた。
シャナは電話を切ろうとする――と、そこで悠二はまだ報告していないことがあったのに気づいてシャナに声をかけた。
「シャナ。まだカルメルさんに報告しないといけないことがあるんだ。電話をかしてくれるかな」
「ヴィルヘルミナちょっと待って。悠二がまだ話すことがあるって」
「ヴィルヘルミナちょっと待って。悠二がまだ話すことがあるって」
シャナから携帯電話を受け取ると、悠二はもう一度バックミラーへと目をやって今度は美波の様子を窺った。
どうやら今彼女は救急車の中にあるものを色々チェックしているらしい。箱を開けてみたり、何かのボンベを持ち上げてみたり、
とにかく彼女がこちらに気を払っていないことを確認すると、悠二は彼女に聞こえないよう小さな声で喋り始めた。
どうやら今彼女は救急車の中にあるものを色々チェックしているらしい。箱を開けてみたり、何かのボンベを持ち上げてみたり、
とにかく彼女がこちらに気を払っていないことを確認すると、悠二は彼女に聞こえないよう小さな声で喋り始めた。
「……病院で死体を見つけたって前に報告したけど、その犯人がわかったんだ」
その内容は、あの録画機能付きの眼鏡に残されていた映像に写っていた人物についてだ。
つまり、病院での4人殺しの犯人であり、美波の友人である吉井明久や土屋康太を殺害した人物のことである。
いつかは知らせるべきだろうし、彼女が彼らの遺体と対面したいと言えばそうさせるべきだろう。
しかし今は浅羽直之を探している最中でもあるし、彼女の心を悪戯に乱す必要はないと悠二は判断した。
つまり、病院での4人殺しの犯人であり、美波の友人である吉井明久や土屋康太を殺害した人物のことである。
いつかは知らせるべきだろうし、彼女が彼らの遺体と対面したいと言えばそうさせるべきだろう。
しかし今は浅羽直之を探している最中でもあるし、彼女の心を悪戯に乱す必要はないと悠二は判断した。
『なにか証拠を見つけたということであるのですか?』
「うん。その場面を写した映像がそこに残っていたんだよ」
『ではその人物とは?』
「“キノ”と呼ばれていたよ。本当の名前かはわからないけど、コートを着た背の低くて僕くらいの年齢の人物だ」
『その人物なら、先ほど面会したのであります』
「うん。その場面を写した映像がそこに残っていたんだよ」
『ではその人物とは?』
「“キノ”と呼ばれていたよ。本当の名前かはわからないけど、コートを着た背の低くて僕くらいの年齢の人物だ」
『その人物なら、先ほど面会したのであります』
思わぬ反応に、悠二の口から驚きの声が小さく漏れた。
相手はあの冷酷な殺人鬼である。一体二人の間に何があったのか。いや、神社にいた面々は大丈夫だったのか?
相手はあの冷酷な殺人鬼である。一体二人の間に何があったのか。いや、神社にいた面々は大丈夫だったのか?
『物腰は柔らかなれど剣呑なるところも感じられた故に退去を願いましたが、なるほど殺しを行う人間でありましたか』
『不審人物』
「うん。どうやら集団の中に潜伏して、油断したところを一網打尽に……という戦略らしいんだ」
『納得したのであります。あの時、キノなる者は「手伝えることはないか?」と我々に接触してきたのでありますから』
『常套手段』
『間違いなく我らに対しても同じことを行おうとし狙っていたのでありましょう』
「でも無事ならなによりだよ、こちらも気をつけるからそっちも気をつけて」
『不審人物』
「うん。どうやら集団の中に潜伏して、油断したところを一網打尽に……という戦略らしいんだ」
『納得したのであります。あの時、キノなる者は「手伝えることはないか?」と我々に接触してきたのでありますから』
『常套手段』
『間違いなく我らに対しても同じことを行おうとし狙っていたのでありましょう』
「でも無事ならなによりだよ、こちらも気をつけるからそっちも気をつけて」
どうやらヴィルヘルミナが追い返してくれたおかげで特に被害はなかったと知り、悠二はほっと胸を撫で下ろした。
あのモニターの中に見た光景を思い出すと、本当に何事もなくてよかったと思える。
あのモニターの中に見た光景を思い出すと、本当に何事もなくてよかったと思える。
『して、その殺しの手段はいかに?』
「見た限りでは銃と刀を使っていたよ。自在法のようなものを使っているようには見えなかった。
それと……、これはシズさんが前に言ってたんだけど死体を見る限りかなりの手練だって」
『なるほど。そしてシズでありますか。味方になる可能性があったとしたら彼もまた惜しいことをしたものであります』
「うん……」
「見た限りでは銃と刀を使っていたよ。自在法のようなものを使っているようには見えなかった。
それと……、これはシズさんが前に言ってたんだけど死体を見る限りかなりの手練だって」
『なるほど。そしてシズでありますか。味方になる可能性があったとしたら彼もまた惜しいことをしたものであります』
「うん……」
先程の放送で名前を呼ばれたのは御坂美琴と古泉一樹だけではなかった。シズの名も一緒に呼ばれたのだ。
悠二も彼の死は惜しいと思う。贄殿遮那を返してもらった時の感触から彼の本質は悪人ではないと感じていたからだ。
もし少しでも出会うタイミングが異なれば一緒に協力できたかもと、そう思うととても残念だった。
悠二も彼の死は惜しいと思う。贄殿遮那を返してもらった時の感触から彼の本質は悪人ではないと感じていたからだ。
もし少しでも出会うタイミングが異なれば一緒に協力できたかもと、そう思うととても残念だった。
『しかし、この報告により新しい問題が浮かび上がってきたのであります』
「え?」
『キノなる者に我々が神社を拠点としていることが把握されているのであります。
不審者の接近は警戒してるとはいえ、これでは拠点としての機能は半減したも同然。移動の必要がありましょう』
「じゃあ、今度はどこに?」
『天文台なのであります。
現在、テッサとインデックスが先行し、更に天体観測中の警備として人員を送る予定でありましたが、
もはやそれも難しいとなれば、全員が一度天文台へと集結し今晩を乗り切るというのが最善の選択であります』
「なるほど了解したよ。こちらのみんなにも伝えておく」
『ではこちらは移動の準備を開始し、炎髪灼眼の討ち手の帰還を待って天文台へと移動を開始するのであります。
そちらも浅羽直之を確保次第こちらへと帰還することを改めて要請するのであります。
フレイムヘイズはともかくとして、人間はちょうど疲労のピークを迎える頃合。
寝て夜を越すにしても固まっていたほうが警備は行いやすいのでありますから』
「わかった。浅羽くんを保護できたらこっちも一度そちらと合流するよ」
「え?」
『キノなる者に我々が神社を拠点としていることが把握されているのであります。
不審者の接近は警戒してるとはいえ、これでは拠点としての機能は半減したも同然。移動の必要がありましょう』
「じゃあ、今度はどこに?」
『天文台なのであります。
現在、テッサとインデックスが先行し、更に天体観測中の警備として人員を送る予定でありましたが、
もはやそれも難しいとなれば、全員が一度天文台へと集結し今晩を乗り切るというのが最善の選択であります』
「なるほど了解したよ。こちらのみんなにも伝えておく」
『ではこちらは移動の準備を開始し、炎髪灼眼の討ち手の帰還を待って天文台へと移動を開始するのであります。
そちらも浅羽直之を確保次第こちらへと帰還することを改めて要請するのであります。
フレイムヘイズはともかくとして、人間はちょうど疲労のピークを迎える頃合。
寝て夜を越すにしても固まっていたほうが警備は行いやすいのでありますから』
「わかった。浅羽くんを保護できたらこっちも一度そちらと合流するよ」
ではこちらの者にも説明が必要なので、という言葉を最後にヴィルヘルミナとの通話は終わった。
悠二は携帯電話を握り締めながらまた溜息を漏らすと、隣の水前寺に車を止めるように声をかけた。
悠二は携帯電話を握り締めながらまた溜息を漏らすと、隣の水前寺に車を止めるように声をかけた。
【6】
「この電話が鳴るたびに問題が増えるような気がするのであります」
「轗軻数奇」
「轗軻数奇」
溜息こそつかないが、傍から見ればそうしそうだと思うような台詞を吐いてヴィルヘルミナは受話器を置いた。
電話のせいかはともかくとして、言葉の通りに問題は増えるばかりだ。
しかし彼女がそこで止まってしまうことはなく、衣擦れの音をさせることなく身を翻すと他の人間が待つ部屋へと戻った。
電話のせいかはともかくとして、言葉の通りに問題は増えるばかりだ。
しかし彼女がそこで止まってしまうことはなく、衣擦れの音をさせることなく身を翻すと他の人間が待つ部屋へと戻った。
日焼けした畳敷きの狭い和室に揃っていたのは、ステイル、大河、晶穂――つまりここ残っているうちの全員だった。
半日前はこの倍以上の人間がいたが、しかし今はヴィルヘルミナ自身を数えてもたったの4人しかいない。
そして、御坂美琴や零崎人識などもう戻ってこない者や、行方の知れない者もいる。
半日前はこの倍以上の人間がいたが、しかし今はヴィルヘルミナ自身を数えてもたったの4人しかいない。
そして、御坂美琴や零崎人識などもう戻ってこない者や、行方の知れない者もいる。
「長かったね。なにか重要な情報でも得たのか、それとも話が弾む相手だったのかな?」
「前半分は肯定。後ろ半分は否定なのであります」
「前半分は肯定。後ろ半分は否定なのであります」
詳しい事情を把握してないせいか、それともトーチなのでそうなのか、緊張感がない風にステイルが聞いてくる。
それを軽くあしらうとヴィルヘルミナはスカートの裾を折りたたみ、上品に畳みの上へと腰を下ろした。
それを軽くあしらうとヴィルヘルミナはスカートの裾を折りたたみ、上品に畳みの上へと腰を下ろした。
「また悠二ってやつからの電話? だったらシャナと美波はちゃんと合流できたの?」
「大きな問題はなく坂井悠二の発見と合流は行われたのであります」
「大きな問題はなく坂井悠二の発見と合流は行われたのであります」
次に発言したのはいつもなにかに怒っている風に見える大河だった。
リハビリのつもりなのだろうか、彼女はずっと鋼鉄の義手の掌を閉じたり開いてガチガチと音を鳴らしている。
リハビリのつもりなのだろうか、彼女はずっと鋼鉄の義手の掌を閉じたり開いてガチガチと音を鳴らしている。
「炎髪灼眼の討ち手は速やかに戻ってくる手はずであり、また水前寺他の面々も浅羽直之を保護次第戻ってくる予定であります」
「浅羽が見つかったのッ?」
「浅羽が見つかったのッ?」
伏せていた顔を上げ驚くように声を上げたのは晶穂だ。
その顔は少し青ざめている。見知った人物の名前が続けて挙げられるのはかなり堪えるらしい。
その顔は少し青ざめている。見知った人物の名前が続けて挙げられるのはかなり堪えるらしい。
「一度は合流し、その後“事情”により僅かに離れはぐれてしまったとのことであります」
「何やってんのよ部長も、浅羽も……」
「何やってんのよ部長も、浅羽も……」
再びうなだれる晶穂。彼女に対してヴィルヘルミナは“事情”については話さなかった。
彼女は伊里野加奈のことを忘れ去っている。話したところで理解できるはずもなく、逆に混乱し不安を煽ってしまうだけだろう。
そして、話さない、知らせないことがフレイムヘイズの常で、ヴィルヘルミナは常にフレイムヘイズであった。
彼女は伊里野加奈のことを忘れ去っている。話したところで理解できるはずもなく、逆に混乱し不安を煽ってしまうだけだろう。
そして、話さない、知らせないことがフレイムヘイズの常で、ヴィルヘルミナは常にフレイムヘイズであった。
「ともかくとして、今晩を乗り切るに当たって再び全員を集合させることになったのであります」
ヴィルヘルミナは3人にこれからの予定を説明する。
シャナは悠二と合流し、水前寺も当初の目的であった浅羽を保護しつつある。
美波の友人である姫路瑞希の捜索や、悠二が提案した人類最悪の居場所を探ることなど、他の案件もあるが
そのどちらも具体的な手がかりもなく、いつ達成できるのかも定かではない。
なのでひとまず仲間を集結し、できることからひとつずつ潰していこうというのがヴィルヘルミナの方針だった。
シャナは悠二と合流し、水前寺も当初の目的であった浅羽を保護しつつある。
美波の友人である姫路瑞希の捜索や、悠二が提案した人類最悪の居場所を探ることなど、他の案件もあるが
そのどちらも具体的な手がかりもなく、いつ達成できるのかも定かではない。
なのでひとまず仲間を集結し、できることからひとつずつ潰していこうというのがヴィルヘルミナの方針だった。
「じゃあ、インデックスもこちらに呼んでくれるのかい?」
「いえ逆なのであります。我々が現在インデックスとテッサが滞在する天文台へと移動するのであります」
「いえ逆なのであります。我々が現在インデックスとテッサが滞在する天文台へと移動するのであります」
なるほど。と、ステイルは頷いた。インデックスが天文台にいるというのは彼からするととても自然なことらしい。
同じ魔術師だけに相通じ理解できるところがあるのだろう。
居場所を知ればいてもいられなくなったのか、今にでも立ち上がりそうなステイルだったが、晶穂の発言がそれを制した。
同じ魔術師だけに相通じ理解できるところがあるのだろう。
居場所を知ればいてもいられなくなったのか、今にでも立ち上がりそうなステイルだったが、晶穂の発言がそれを制した。
「あの、キョンさんはどうするんですか? 帰ってくるかも、しれないのに」
「それについては案があるのであります」
「用意周到」
「それについては案があるのであります」
「用意周到」
御坂美琴と一緒に警察署へと出向いたキョンは現在行方不明だ。
定時放送で名前が呼ばれなかった以上生きてはいるはずだが、どこでどうしているのかはわからない。
今まさにここへと戻っている最中かもしれないし、逆に怪我を負ってどこかで動けなくなっているかもしれない。
待つか探すかしたいが、残念ながら今はどちらも難しい。なのでヴィルヘルミナは次善の策を用意していた。
定時放送で名前が呼ばれなかった以上生きてはいるはずだが、どこでどうしているのかはわからない。
今まさにここへと戻っている最中かもしれないし、逆に怪我を負ってどこかで動けなくなっているかもしれない。
待つか探すかしたいが、残念ながら今はどちらも難しい。なのでヴィルヘルミナは次善の策を用意していた。
「ここに書置きを残すのであります」
「書置き?」
「“後に迎に行くのでここで待たれたし”と記した紙を発見しやすい場所に置いておくのであります」
「天文台にいるって書けばいいんじゃないの?」
「書置き?」
「“後に迎に行くのでここで待たれたし”と記した紙を発見しやすい場所に置いておくのであります」
「天文台にいるって書けばいいんじゃないの?」
思いのほか単純で原始的な回答に晶穂はきょとんとし、大河は義手をガチガチと鳴らしながら疑問点を挙げた。
言葉の通りに、天文台へと誘導する旨を書いてもいいと思える。
しかしヴィルヘルミナはそれは問題があると、大河と残りの2人にその理由を説明した。
言葉の通りに、天文台へと誘導する旨を書いてもいいと思える。
しかしヴィルヘルミナはそれは問題があると、大河と残りの2人にその理由を説明した。
「先刻、ここを尋ねてきたキノなる人物が坂井悠二の報告により、集団に入り込み殺人を行う者だと判明したのであります」
晶穂の口から小さな悲鳴が上がり、大河の義手がガチッと音を立て、ステイルの目が剣呑に細められた。
「幸い、前回は追い返したのでありますが、再び訪問する可能性もなきにしもあらず、
また我々がここを拠点としていることを相手に知られてしまっているのは看過できない問題なのであります」
「夜襲警戒」
「故に拠点を移動するに当たって次の移動場所を書き残すことは、その危険性から考えてできないのであります」
また我々がここを拠点としていることを相手に知られてしまっているのは看過できない問題なのであります」
「夜襲警戒」
「故に拠点を移動するに当たって次の移動場所を書き残すことは、その危険性から考えてできないのであります」
仮にキノが神社の面々に接触、または奇襲することを諦めていたとしても、来訪する危険人物はキノだけとは限らない。
逆に、キョンをはじめ行方の知れない上条当麻や姫路瑞希などの歓迎したい人間も来訪するかもしれない。
しかし前者を呼び込むことだけは絶対に避けたい――故に、待機を命じる書置きであった。
逆に、キョンをはじめ行方の知れない上条当麻や姫路瑞希などの歓迎したい人間も来訪するかもしれない。
しかし前者を呼び込むことだけは絶対に避けたい――故に、待機を命じる書置きであった。
「天文台に拠点を移した後、定期的に神社へと偵察へ赴き、害のない人間がそこにいれば迎えるとするのであります」
そして、以上であります。とヴィルヘルミナは説明を終えた。
■
「……キョンさん大丈夫かなぁ」
晶穂がテーブルの上の“待たれたし”とだけ書かれた――いや、それだけしか書いてない紙を見て溜息をついている。
誰がとも、誰にとも、何時とも書かれてないのは期待してない何者かがこれを見た時、余計な情報を与えないためだという。
本当に大丈夫なんだろうかと、大河もそう思いながら鞄の中に自分の荷物を詰め込んでいた。
誰がとも、誰にとも、何時とも書かれてないのは期待してない何者かがこれを見た時、余計な情報を与えないためだという。
本当に大丈夫なんだろうかと、大河もそう思いながら鞄の中に自分の荷物を詰め込んでいた。
これもあの几帳面すぎるメイドが言うには、歓迎しない来訪者に余計な情報を与えないためらしい。
自分達がいた痕跡すら残さずに――というのはけっこう本格的っぽい。まるでスパイ映画のようだった。
そして冗談でも笑い事でもない。うきうきしたりなんてしない。本当に人が死んでいるのだから。
自分達がいた痕跡すら残さずに――というのはけっこう本格的っぽい。まるでスパイ映画のようだった。
そして冗談でも笑い事でもない。うきうきしたりなんてしない。本当に人が死んでいるのだから。
「ムカつく……」
右手をぎゅっと握り締めるとガチッと固い音がした。今置かれているこの状況が嘘でないという正真正銘の証拠だ。
結局つけることを諦めたブラジャーを乱暴につっこみながら舌打ちをする。
晶穂が肩をビクっと震わせ(ちょっとゴメン)、紙バックしか荷物のないステイルがクスっと笑った。
結局つけることを諦めたブラジャーを乱暴につっこみながら舌打ちをする。
晶穂が肩をビクっと震わせ(ちょっとゴメン)、紙バックしか荷物のないステイルがクスっと笑った。
「あんたさっきからなんかおかしーの?」
「……あぁ、いやなんだろうね。どこかで君みたいなのを見たことが、いや聞いたことがあるような気がしてね」
「……あぁ、いやなんだろうね。どこかで君みたいなのを見たことが、いや聞いたことがあるような気がしてね」
ゴシックパンク野郎の言うことは時々、意味不明だった。
神父で、魔術師で、巨人みたいな身長なのに年下。どんな面白存在だと、ツッコまざるをえない。
神父で、魔術師で、巨人みたいな身長なのに年下。どんな面白存在だと、ツッコまざるをえない。
ゴミも残していかないほうがいいらしいので台所へとゴミ袋を取りに来たら、そこでヴィルヘルミナがシンクを洗っていた。
メイドがキッチンで洗い物をしているなんて当たり前のようでいて、ひどく奇異な光景。
呆れ半分、ピカピカのシンクを見て「洗いすぎ」と――そして不意にモヤモヤとムカムカが心に湧きあがってくる。
メイドがキッチンで洗い物をしているなんて当たり前のようでいて、ひどく奇異な光景。
呆れ半分、ピカピカのシンクを見て「洗いすぎ」と――そして不意にモヤモヤとムカムカが心に湧きあがってくる。
ゴミ袋をひったくるように取って部屋に戻ると、もう晶穂とステイルは準備を終えているようで部屋はすっきりとしていた。
元々、そんなに綺麗な部屋でもない。畳みは古くて薄黄色だし、テーブルには焦がした痕があるし、柱も傷だらけだ。
どこにでもあるようなこじんまりとした庶民的な和室。
元々、そんなに綺麗な部屋でもない。畳みは古くて薄黄色だし、テーブルには焦がした痕があるし、柱も傷だらけだ。
どこにでもあるようなこじんまりとした庶民的な和室。
「晶穂。終わったんなら私のも手伝って」
「う、うん……」
「う、うん……」
そう、どこにでもあるような、まるで普段から入り浸っている場所のような居心地のよさがここにはあったのだと気づいた。
そして、すこしだけすっきりとした引越し準備中みたいなこの部屋を見て、大河は行きたくないなと思う。
新しい「いってきます」は、これまでに対する「さようなら」みたいだったから。
そして、すこしだけすっきりとした引越し準備中みたいなこの部屋を見て、大河は行きたくないなと思う。
新しい「いってきます」は、これまでに対する「さようなら」みたいだったから。
拳を握ると、またガチッという音がした。
【C-2/神社/一日目・夜】
【ヴィルヘルミナ・カルメル@灼眼のシャナ】
[状態]:疲労(小)
[装備]:なし
[道具]:デイパック、支給品一式、カップラーメン一箱(7/20)、缶切り@現地調達、調達物資@現地調達
[思考・状況]
基本:この事態を解決する。
1:シャナの到着を待ち、天文台へと移動。
2:天文台を新しい拠点とし、今後の予定を改めて組みなおす。
├キョンを保護する為、また警察署で何があったかを確認する為に警察署へと人を送り出す。
└上条当麻を仲間に加える為、捜索隊を編成して南方へと送りだす。
3:ステイルに対しては、警戒しながらも様子を見守る。
[状態]:疲労(小)
[装備]:なし
[道具]:デイパック、支給品一式、カップラーメン一箱(7/20)、缶切り@現地調達、調達物資@現地調達
[思考・状況]
基本:この事態を解決する。
1:シャナの到着を待ち、天文台へと移動。
2:天文台を新しい拠点とし、今後の予定を改めて組みなおす。
├キョンを保護する為、また警察署で何があったかを確認する為に警察署へと人を送り出す。
└上条当麻を仲間に加える為、捜索隊を編成して南方へと送りだす。
3:ステイルに対しては、警戒しながらも様子を見守る。
【逢坂大河@とらドラ!】
[状態]:疲労(小)、精神疲労(小)、右腕義手装着!
[装備]:無桐伊織の義手(右)@戯言シリーズ、逢坂大河の木刀@とらドラ!
[道具]:デイパック、支給品一式、フラッシュグレネード@現実
無桐伊織の義手(左)@戯言シリーズ、大河のデジタルカメラ@とらドラ!、大河のブラジャー@とらドラ!
[思考・状況]
基本:馬鹿なことを考えるやつらをぶっとばす!
0:ちょっとアンニュイ。
1:ヴィルヘルミナについて天文台へと移動する。
2:ステイルのことはちょっと応援。
[備考]
伊里野加奈に関する記憶を失いました。
[状態]:疲労(小)、精神疲労(小)、右腕義手装着!
[装備]:無桐伊織の義手(右)@戯言シリーズ、逢坂大河の木刀@とらドラ!
[道具]:デイパック、支給品一式、フラッシュグレネード@現実
無桐伊織の義手(左)@戯言シリーズ、大河のデジタルカメラ@とらドラ!、大河のブラジャー@とらドラ!
[思考・状況]
基本:馬鹿なことを考えるやつらをぶっとばす!
0:ちょっとアンニュイ。
1:ヴィルヘルミナについて天文台へと移動する。
2:ステイルのことはちょっと応援。
[備考]
伊里野加奈に関する記憶を失いました。
【須藤晶穂@イリヤの空、UFOの夏】
[状態]:健康、意気消沈
[装備]:園山中指定のヘルメット@イリヤの空、UFOの夏
[道具]:デイパック、支給品一式
[思考・状況]
基本;生き残る為にみんなに協力する。
0:……大河さんの機嫌が悪いなぁ。
1:ヴィルヘルミナについて天文台へと移動する。
2:部長が浅羽を連れて帰ってくるのを待つ。
3:鉄人定食が食べたい……?
[備考]
伊里野加奈に関する記憶を失いました。
[状態]:健康、意気消沈
[装備]:園山中指定のヘルメット@イリヤの空、UFOの夏
[道具]:デイパック、支給品一式
[思考・状況]
基本;生き残る為にみんなに協力する。
0:……大河さんの機嫌が悪いなぁ。
1:ヴィルヘルミナについて天文台へと移動する。
2:部長が浅羽を連れて帰ってくるのを待つ。
3:鉄人定食が食べたい……?
[備考]
伊里野加奈に関する記憶を失いました。
【ステイル=マグヌス@とある魔術の禁書目録】
[状態]:“トーチ”状態。ある程度は力が残されており、それなりに考えて動くことはできる。
[装備]:筆記具少々、煙草
[道具]:紙袋、大量のルーン、大量の煙草
[思考・状況]
基本:インデックスを生き残らせるよう動く。
1:ヴィルヘルミナについて天文台へと移動する。
2:とりあえず、ある程度はヴィルヘルミナの意見も聞く。
[備考]
既に「本来のステイル=マグヌス」はフリアグネに喰われて消滅しており、ここにいるのはその残り滓のトーチです。
紅世に関わる者が見れば、それがフリアグネの手によるトーチであることは推測可能です。
フリアグネたちと戦った前後の記憶(自分がトーチになった前後の記憶)が曖昧です。
いくらかの力を注がれしばらくは存在が持つようになりました。
[状態]:“トーチ”状態。ある程度は力が残されており、それなりに考えて動くことはできる。
[装備]:筆記具少々、煙草
[道具]:紙袋、大量のルーン、大量の煙草
[思考・状況]
基本:インデックスを生き残らせるよう動く。
1:ヴィルヘルミナについて天文台へと移動する。
2:とりあえず、ある程度はヴィルヘルミナの意見も聞く。
[備考]
既に「本来のステイル=マグヌス」はフリアグネに喰われて消滅しており、ここにいるのはその残り滓のトーチです。
紅世に関わる者が見れば、それがフリアグネの手によるトーチであることは推測可能です。
フリアグネたちと戦った前後の記憶(自分がトーチになった前後の記憶)が曖昧です。
いくらかの力を注がれしばらくは存在が持つようになりました。
※神社の社務所内の一室のテーブルの上に「待たれたし」とだけ書かれたメモが残っています。
【大河のブラジャー@現地調達】
手術をする際に脱いで、その後つけずにいる大河のブラジャー。
憐れな乳を覆うものなので憐れなサイズをしている。
手術をする際に脱いで、その後つけずにいる大河のブラジャー。
憐れな乳を覆うものなので憐れなサイズをしている。