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CROSS†POINT――(交語点) 後編

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CROSS†POINT――(交語点) 後編 ◆EchanS1zhg



 【7】


「美波は私と一緒に戻らなくてもいいの?」
「うん、水前寺のことはほっとけないし、それに瑞希だってこの近くにいるかもしれないから」
「そっか。じゃあ悠二のこともよろしくね」
「まかせといて。ウチが二人にはバカなことはさせないから」

美波といくつか言葉を交わすと、シャナは夕闇の中へと飛び上がり火の粉を散らして優雅な羽を背中に広げた。
この世のいかなる生物も持たざるその羽で大気を打ち、フレイムヘイズの少女は飛び去ってゆく。
悠二は藍色の空の向こうに光の点となって遠ざかる彼女の姿を名残を惜しむように見送り、
小さなクラクションの音に急かされ、ようやく水前寺が待つ救急車へと戻った。



「なんならこの場合は坂井特派員が一緒に戻ってもよかったのだぞ?」

悠二が助手席につくと水前寺がそんなことを言う。

「いや、いいんだ。贄殿遮那も渡すことができたしね。それに今はできることをしたいんだ」
「なるほど。引き続き浅羽特派員捜索の任についてくれることを部長として感謝しよう。島田特派員にもな」
「とってつけたような言い方。……でも、いいわ。まだしばらくは特派員でいてあげるから」
「なぁにがしばらくだ。部長の許可を得ない退部などこの俺は許さんからな」
「人権を無視して勝手に部員にしておいてよく言うわよ」

夕暮れの四つ角にエンジン音が響き渡り、浅羽直之を追って救急車が再び走り始めた。



「――しかし、トーチとフリアグネとかいう紅世の王の話だが」
「うん、当ては外れたし、思い違いもあったみたいだ」
「だがそいつの行動がただの無意味ではなかったと、坂井特派員は考えているわけだな?」
「そうだね。あの紅世の王が意味のないことをするとは思えないから何かしらの意味はあるはずだよ」

車の運転席と助手席で、またいつかのように二人は考察を開始する。
今回の議題は、『フリアグネがトーチを作った理由』についてだ。
あの紅世の王が《都喰らい》を企てているかもしれないという可能性はヴィルヘルミナからの指摘により否定された。
かといって、トーチを作った理由が皆無だとは考えられない。なので二人は今ある材料を元に思考を始める。

「トーチとしての伊里野クンに残された時間は通例よりもかなり少なかったらしいな」
「そうだね。本来、トーチの役割はフレイムヘイズに対する目くらましみたいなものだから数日以上もつのが普通だよ」
「ならば、そこから2つの可能性が考えられる」
「あえてそうしたのか、もしくはそうせざるを得なかった――だね?」

うむ。と水前寺は満足そうに頷いた。
確かに考えるべきはここからだったようだと悠二は認識しなおす。
シャナとアラストール、そして自分はトーチを見てすぐにフリアグネが策を打ってきたものだと考えたが、
そう考えること自体がまだ早まったことだったのだ。

「あえて消えるまでの時間を短くした場合であるが、
 この場合、トーチの消失に坂井特派員やヴィルヘルミナ女史らが気づけるのかを試したのかもしれんな」
「普段は気づかせない為のトーチを、あえて逆の目的に使ったってことか……」

フレイムヘイズは、トーチの消失を感知して現場に急行しそこから紅世の王を追い始める。
紅世の王は追跡を逃れる為、逃げる時間を稼げるようそれなりの時間をトーチに与えてその場を去る。
それが通常であるが、その時間差を利用すれば逆にトーチが消える瞬間の世界の歪みを囮にすることも可能だ。
存在の力を感知することが難しい今、気兼ねなくトーチを作れる紅世の王側にすれば、それはアドバンテージとなる。

「逆の場合、残り時間の少ないトーチしか作れなかったということになる」
「僕やシャナが遭遇した弱すぎる燐子と同じようにか……」
「だが安心はするなよ坂井クン。形勢不利とみて、あえてそういうふりをしているだけかもしれんのだからな」

確かにフリアグネの立場から見れば、シャナと自分だけならともかくヴィルヘルミナもいるというのは苦境と言えるだろう。
蓄えた宝具を持ち合わせていないのも、彼の王の性質から考えればかなりの痛手のはずだ。
ならば、力の弱い燐子やトーチにしてもそうしかできないのではなく、ただ力を節約しているだけなのかもしれないし、
弱まっているフリをしてこちらの油断を誘っているのかもしれない。

「そして、もうひとつの可能性がある」
「人類最悪だね」

先刻の放送で人類最悪の口から伊里野加奈の名前は読み上げられなかった。
果たして人類最悪は“ほんとうのこと”を知らず記憶が改竄されたのか、知っててあえて呼ばなかったのかは不明だが、
少なくともトーチとして登場人物が消失しても彼は名前を読み上げないということだけは判明したのである。
ならば、このリアクションこそがフリアグネがすぐに消えるトーチを作った理由だったかもしれない。

「これらの可能性から何が導き出されるのか、……専門家ではない俺にはわからん。
 だが、何らかの意味があったのだとしたら、
 それ単体では意味をなさないトーチの存在は次のアプローチの為の布石ととらえるべきだろう」
「フリアグネが次に考えること、か……」

水前寺と考察する中、悠二はこれまでの思考の中にある考え方が欠落していたことに気づいた。
相手はあのプライドの高い“狩人”フリアグネなのである。
ならば、この状況において彼の視線や矛先を向ける相手が必ずしもフレイムヘイズや他の人間らだとは限らない。
彼に虜囚の辱めを与えた人類最悪――この事態を作り上げた者にも向かっていて当然だ。

「まぁ、そこらへんのことはヴィルヘルミナ女史と合流してから詰めてゆくのがよかろう。
 あちらはあちらで俺達が戻るまでの間に話を進めているだろうからな」
「そうだね。僕たちも早く浅羽くんを保護して戻らないと」
「まったくタイムイズマネーとは言ったものだ」

考えてみれば、自分達もフリアグネもこの場所で目的とするところは全く変わらないのかもしれない。
ただその立場と取りうる手段が異なるにすぎないのだ。
邪魔者を排除し、事態を解決し、この世界から元の世界へと帰還する。可能ならばこの事件を解決した上で。
フレイムヘイズは紅世の王を排除対象とし、紅世の王はフレイムヘイズを排除の対象とする。差はこれだけしかない。

「(だったら、あえてこの場は共闘することも可能なのか――?)」

もしフリアグネがすでに事態解決の切欠を掴んでいて、その方法が《都喰らい》のように犠牲を必要としないのだったら。
そうであるなら、この事件を解決するまでの間ならフレイムヘイズと紅世の王が手を組むことができるかもしれない。

「(……カルメルさんには虫がよすぎると怒られるかもしれないな)」

一度冷静になったことで、クリアになった頭の中にいくつかの道筋が見えてきた。
そして、悠二が討滅の対象としてではなくフリアグネに興味を持った時、不意にポケットの中の携帯電話が震え始めた。

「……カルメルさんからかな?」

なんとなしに思いながら悠二は携帯電話を取り出し、淡く光るディスプレイを見つめた。
神社の電話番号ならもう暗記している。表示されているのがその番号ならば相手は十中八九ヴィルヘルミナだろう。


だがしかし、番号は神社のものではなかった。






 【8】


「しかし随分と長く通話していますね」
「そうね。多分このタイミングだし仲間内での報告会を兼ねた作戦会議じゃないかしら」

そうだといいのですが。と言って、師匠はハンドルをゆっくり切って車を誰もいない道へと進めた。
朝倉が放送の後から数分おきにかけている電話番号からの反応は、最初から今までずっと通話中のままだ。
もしかすればただ単に通話中の状態で電話が放置されているのでは、とも思えてくる。
だがもしそうでないのだとしたら、当たり前だが通話して連絡を取り合っている人間が最低二人はいることになる。
そう、つまり……彼女達からすれば最低でも二人の“獲物”が期待できるということになる。

「さっきの放送では御坂美琴古泉一樹、シズと3人の名前しか呼ばれなかったわけだけど、師匠はこれをどうみる?」
「あなたの報告が正しいのならばその3人は実際に死んだのでしょう」
「もう、疑うふりなんてやめてよ。どうせ師匠も聞いてたんでしょう? それで師匠はどう考えるのって聞いてるの」
「そうですね――」

膠着状態に陥ったのでしょう。と、師匠はそれを簡潔に表した。

「3人のうち、御坂美琴と古泉一樹は我々が仕留めた獲物です。
 となると我々が関与しなかった場所では一人しか死んでいないことになります」
「そうね。私達の視点から見れば、私達を取り巻く環境はほとんど進行していないことになるわ」
「状況が開始してから半日強で、早くも安定した状態に落ち着いてしまったということです」

この場所には59名の人間がおり、それぞれが暗黙の了解として互いに殺しあうことを前提として理解しあっている。
なので人間同士が出会えばそこで殺し合いが発生し、大抵の場合いずれかが死亡する。
これが続き、ゲーム盤となる場所の広さに対して人の数が少なくなれば、結果として遭遇――死亡の数も減少する。

そして、進行が膠着する原因は他にもある。この催しの参加者はゲームの駒でなく人間なのだ。
温泉や警察署で遭遇したように、今現在生き残っている参加者は目的の為に徒党を組んでいる可能性が高い。
おそらく、その傾向は殺人を許容しない“人間らしい”参加者の方が顕著だろう。
つまり、遭遇して殺しあうパターンと同時に、遭遇して殺しあわないパターンもありえたことだ。
殺しあわないパターンであった場合、その2人が1組となれば殺しあった場合と同様に遭遇の機会を減らすことになる。

「結果として、こういうったゲームは参加者が殺し合いに積極的だろうがそうでなかろうが
 それなりに状況が進めば遭遇しあえるユニットの数が減り、膠着状態に陥ってしまうというわけね?」
「そのとおりです……が、それこそあなたには説明する必要のなかったことでしょう?」
「ふふ、師匠ったら。互いの認識を確認しあうのに会話はとても重要よ?」
「……なんにせよ、現状としては突発的な遭遇戦が起こりづらい状況となっているというのが私の見解です」

朝倉は満足そうにうんうんと頷いた。逆に師匠の方は何を今更という顔である。だからこそ彼女達は動いているのだから。

「つまり、この電話を使用している彼らは、それぞれに複数人で固まっている可能性も充分にありえるということよね」
「そうですね。この状況で電話口のそれぞれにいる人間が各自一人ずつというのは少し考えづらい。
 ある程度の信頼があるのならば二人で行動した方が安全ですし――」
「――もしその安全を確保しているのだとすれば、それは互いに複数人で行動してるって計算できる……ということよね」
「取らぬ狸の皮算用にすぎませんが」
「勿論、計算できない要因が多いのは私も承知の上よ。
 でも、師匠もその“期待値”に賭けた。だから運転もしてくれているんでしょ?」
「それもありますが、私が危険視しているのは時間切れですよ。膠着状態が続いたまま3日を終えるのは御免ですから」

言葉通り、師匠が一番危険視しているのは時間切れであった。
この手のゲームにおいて一番恐ろしいことは、ゲームが進まないターンを安易に見逃して
最終盤において決着に必要な手数が足りなくなってしまう事態であると、彼女は豊富な経験から知っている。
この人類最悪の用意した世界の場合、時間とともに舞台は狭くなるので兎の様に逃げ続ける獲物を追う手間は省けるが、
だからといって最終盤に人間を残しすぎると計算して生き残るのが難しい大混戦が発生しかねない。

「師匠は楽をしようとは考えないのねぇ」
「怠けていい時間など人生の中にはありませんよ」
「生まれた時から時間制限付きってわけ? ふぅん、有機生命体はそんな風にも考えるのね」
「“今日終わらせられることは今日終わらせろ”という言葉を守っているだけです」
「確かに。実は私も待つのは苦手なの」
「では、そろそろもう一度電話をかけてみてはどうですか?」

了解。と、朝倉は携帯電話を開いて通話キーを押した。ゆっくりと電話を耳に当て、待つこと数秒――……。

「どうやらもう向こうの長電話は終わったようね」
「交渉は任せますが油断はしないように。とりあえず今はその相手さえ確保できれば十分です」
「残りの仲間の居場所は拷問でもして聞き出すわけ?」
「それで聞きだせるのならそうしますし、相手の電話番号が知れれば人質なりなんなりに使えばいいのです」
「本当、師匠ったら物騒なんだから」
「海老で鯛を釣るという方法ですよ。
 小さな獲物を釣り上げ、次の獲物の餌にすることで最終的には一番大きな獲物を釣り上げる算段です」
「はいはい。じゃあ、最初の獲物は私に任せて――と、もしもし、聞こえている?」






 【9】


『――もしもし、聞こえている?』

電話の向こうから聞こえてきたのはまたしても女の声だった。だがしかし以前に聞いたものとは声色が全く違う。
声色そのものが不幸の色を帯びていたあの不吉な声ではなく、それよりも随分と穏やかな感じのものだった。

「はい、聞こえています」

また不吉なことを聞かされるのではと身構えていただけに意表を突かれたが、
悠二はなんとか平静を保って返答することに成功した。そして、電話の相手に対しあなたは誰なのかと尋ねてみる。

『私は朝倉涼子よ。よろしくね』
「朝倉、涼子……」
『ん? もしかして誰かから私の名前を聞いていたのかしら? 涼宮さん? それともキョンくんかな?』
「キョンから聞いてますよ」

名前を聞き、悠二はこの通話が非常に重要であり、また油断すべきものではないことを認識した。
朝倉涼子とはキョンが頼りにしていた万能の宇宙人のひとりであり、かつては彼を殺そうともした人物(?)である。
味方にすることができればかなり頼もしいが、しかしそこには大きな危険が潜んでいるかもしれない。

『そうだったんだ。じゃあキョンくんはそこにいるのかしら?』
「いえ、今は別行動中ですよ」
『そう。彼の声が聞けないのは残念だわ。それであなたは誰なのかしら?』
「え? ……ああ。坂井悠二です。
 えーと、それじゃあ朝倉さんはどうしてこの電話の番号を知ったんですか?」
『ふふ、そうなの。私もこの電話番号にかけて誰が出てくるのか知らなかったのよ。
 知ってたのは番号だけ。藤乃さんてわかるかな? 浅上藤乃さん。一度、あなたに電話したはずなんだけど』
「前に電話をかけてきたのが、その藤乃さんなんですか?」

どうやら以前に不吉な電話をかけてきた女性は浅上藤乃と言うらしい。
悠二はこれまでに得た情報の中を探り、今のところ全く誰とも縁のない名前であったことを確認した。

『ええ、こちらのほうで彼女を“保護”してね』
「保護?」
『そうよ。彼女ったら変なことを言ってなかった? 友達を殺したとかなんとか』
「ええ、聞かされました」
『じゃあ安心して頂戴。それは彼女の妄言で全部嘘なのよ』

少しだけ気持ちが楽になった気がした。
あれが嘘なのだとすれば、吉田さんかもしくは関係ない誰かがその彼女に殺されたのではないとなるのだから。
とはいえ、それも含めて全部嘘なのかもしれない。なので悠二は慎重に通話を続ける。

『彼女ったらどうやら最初から心身ともに失調をきたしているらしくてね、だから私達で保護したの』
「そうなんですか。…………私達?」
『ええ、私と師匠と藤乃さん。私達はこの3人で行動しているの。この世界から速やかに元いた世界へと戻れるようにね』

師匠とは名簿にそのまま師匠とだけ書かれていた人物だろうか。
悠二はもう一度記憶の中を探るが、その人物もまだ誰とも縁のない正体が不明なままの人物であった。

「元の世界に戻る、ですか?」
『ええ、そうだけど。あなたたちは違うの? キョンくんならそう考えると思うのだけど』
「いえ、こちらも同じですよ。僕たちも元の世界に戻りたい。できれば、全員でです」
『ならよかったわ。私達協力しあえるわよね。そっちは何人なのかしら?』

電話から聞こえてくる朝倉の声が弾む。
事前に聞いてなければ彼女が宇宙人だとは気づけなかったろう。
もっとも今でも彼女が宇宙人だとは感じられないが、ただの前向きで明るい女の子としか認識できなかったはずだ。
しかし、フレイムヘイズには変人が多いからという訳ではないが、
逆にこの人当たりのよさが油断ならないのではと、悠二は僅かに緊張の度合いを高めた。

「こちらも今は3人ですよ」
『それはキョンくんも含めて? 今はってことはもう他にも仲間がいっぱいいるのかしら』

物怖じがないのか、それともこちらの隙を見逃さないのか。それが宇宙人だからなのか、声色からは全くわからない。

「……ええ、そうですね。何人かいます」
『んー、すこし歯切れが悪い感じかなぁ。もしかしてキョンくんから何か言われて警戒している?』
「正直に言うと、その通りです。あなたは物事を解決するのに殺人を厭わない、と」
『そうね、それは否定しないわ。
 キョンくんにも言ったけど、命というものに対して私はまだあなたたち有機生命体と同じ価値観を持っていないの』

それはぞっとするような言葉であり、また覚えのある感覚だった。

『でも私がキョンくんを殺そうとした理由まで聞いていれば解るのだと思うけど、
 今現在の私には彼やその他の人物を殺す理由が存在しないわ』
「そうですね。キョンも同じように言ってました。だから、あなたを探して協力を要請しようとも」
『――でしょう♪ だったら私達は協力しあえるわよね』

朝倉の声にまた喜色が浮かぶ。話としては今のところ何もおかしくはない。キョンの言ってたことにも誤りはなさそうだった。
なのに、悠二の心にはまだなにかすっきりしない部分があった。まとまらない漠然とした不安のようなものが。

『それで彼はどこまで私のことを話したのかしら?』
「あなたと長門有希という人は宇宙人の作ったロボットみたいなもので、ほぼ万能だとか」
『うんうん』
「それで、あなた達の目的は涼宮ハルヒの保護と観察だと」
『キョンくんったらそんなことまで……、でも話が早いわ。
 聞いてのとおり、私達の……と言っても長門さんは死んじゃったので私ひとりだけど、目的は涼宮ハルヒの保護と観察よ。
 ここは彼女の観察に適した環境とは言えないから、今の目的は彼女を元に世界に戻すことね。
 勿論、キョンくんにも生きて帰ってもらいたいわ。こんなところで死なれちゃったら、それはそれで困るもの』
「それがあなたの優先順位ですか?」
『ええ、そうね。あなた達もこの事態の解決と元の世界への帰還を目指しているなら私達が対立する必要はないはずよ。
 もしここから出られる手段が宇宙船のようなものだとして、その定員が2人だけなら
 私は涼宮ハルヒとキョンくんを生き残らせる為に仲間やあなた達に危害を加えることになると思う。
 けど、定員が10名ならその必要性は下がると思うし、全員が帰れるなら全く必要ないことになるわよね。
 そういう方法を一緒に模索してみないかしら?』
「ええ、そうできるなら僕達もあなた達にとっても一番だと思います」

実に冷静で、冷静すぎる。口調こそ普通の女の子だが、悠二の印象としては朝倉はヴィルヘルミナに近いと思われた。
交渉するにあたり、情に訴えず、ある程度の手札を曝し、あくまで理性的な取引を求める。
こちらが仕事をする限り、むこうも仕事をしてくれる。契約するのならば理想とも言える相手だ。

「……質問しますが、朝倉さんの方では何か事件解決の為の取っ掛かりのようなものは見つけているんですか?」

キョンは長門有希が生きていればどうにでもできると言っていた。そして朝倉も同等の力を有していると。

『うーん、痛いとこを突かれちゃったかな。正直に話すとこちら側の収穫は今のところゼロよ』
「キョンはあなた達ならなんとかできるかもと言ってましたが」
『まず、私達そのものは外宇宙に存在する情報統合思念体が辺境惑星に用意した端末でしかないの。
 そして普段使用している力のほとんどは上位体からダウンロードして初めて使用できるものばかりなのよ』
「つまり、情報統合思念体というものにアクセスできないと普通の人間と変わらないってことですか?」
『普通の人間よりかは頑丈だし、能力も持っているわ。でも、確かにこの事態の中ではそんなに変わらないかもね。
 あなた達にわかりやすく言うと、ネットワークに繋がってないPCのようなものよ。
 プリセットされた能力は所持しているけど、それ以上はまず統合思念体との接続を回復させる必要があるの』

なるほど。と悠二は頷いた。これで事態が迅速に終息しない理由や、長門有希が死亡した理由は判明したことになる。

『期待を裏切ってしまったかしら? でも人間はこういう時、“三人寄れば文殊の知恵”って言うでしょう?
 上手につきあえるなら、協力して互いが損をするってことはないはずよ。どうかしら?』
「その通りだと思います。できるなら僕も朝倉さんとは会って詳しいことを聞いてみたいですから」
『じゃあ――』
「けど、僕の一存じゃ決められません。少しだけこのまま待ってもらっていいですか?」
『うん、いいわよ。
 ただ、こっちには“時は金なり”ってすごく怒る人がいるの。だからできるだけ早くしてね♪』


 ■


「ふう……」

携帯電話を耳から離し、いつの間にかに前かがみになっていた姿勢を戻すと悠二は小さく息を吐いた。

「どうやら交渉を受けているようだな坂井クン。相手と相手が要求している条件を述べたまへ」
「なんだか難しい顔でよくわかんない言葉使ってたけど、もしかして脅されてるの?」

すぐさまに隣の水前寺が口を、そして気づけば座席の間から顔を出してこちらを窺っていた。

「相手はキョンが言ってた朝倉涼子って女の子だよ。実は宇宙人に作られたロボットらしいんだけどね」
「実に胡散臭くて俺好みだな。それで用件とは?」
「むこうは、彼女と師匠と浅上藤乃の3人でいるらしいんだけど、脱出の為に協力しないかって」
「なんだそういうことだったんだ。ウチは女の子が増えるのは歓迎するわよ」

美波はほっとしたと顔を緩め、その向こうで水前寺は正面を見たままなるほどと頷いた。
しかしこのなるほどは納得したという意味ではなく、そこまでは理解したという意味のなるほどだ。

「それで、相手は坂井特派員が即座に決断できないような無理難題をふっかけてきているのかね?
 例えば物資を全てよこせだの、命令権はこちらによこせだのとかかね?」
「いや、それはないよ。彼女達は偶然にこの電話番号を知って、ただ仲間になりましょうって言ってるだけさ」
「それに何か問題でもあるの? もしかしてウチらの中の誰かの仇とか……?」
「それもないかな。僕が浅上さんに変な電話をかけられたけど、他の人は今回がはじめての接触のはずだよ」

だったらなぜそんな煮え切らない態度なのか。と、水前寺と美波が眉根を寄せた。
無論、こんな状況だから誰かと接触するのならばそれは慎重ではなくてならないだろう。
しかしこれまでの悠二の行動は慎重さを持ち合わせながらも、いつも大胆で素早いものであった。
それが何故、今回に限ってこんなにも躊躇してしまうのか。それは悠二自身にも明確な理由は見当たらない。

「どこかに引っかかりを覚えるというのなら、それはまだ見落としている問題があるということだろう」
「そうかな? キノのことで少しナーバスになっているだけかもしれない」
「……キノのこと?」
「島田特派員。現在君のクラスの者に対してはそれはトップシークレットとなっている。
 皆と合流すれば改めて説明するので今は余計な詮索はやめたまへ」
「説明が面倒なら面倒って言いなさいよ。……クラスが低いってのはちょっとヘコむわ」

心の中で美波に頭を下げつつ、悠二は病院で見たあの光景をもう一度思い浮かべた。
この場所には善人のふりをして近づき、不意をついて危害を加えるものがいる。
もし、朝倉や彼女の仲間の中にそんな人物がいたとしたら――それが、不安の元なのだろうか?

「(それとも、僕は浅上藤乃と接触するのを嫌がっているのだろうか?)」

この事態が始まって早々にかかってきた電話の内容と、その後の想像により彼女の印象はかなりおどろおどろしい。
だから無意識に恐怖を抱き、それを遠ざけたい心理が働いているのかもと悠二は考える。
しかし考えても曖昧な不安の理由はわからなかった。曖昧な不安はそのままの形で心の中に残っている。



「接触に慎重になりたいのならば時間を作ればよい」

水前寺の声に悠二は顔を上げた。

「簡単な話だ。待たせておけばいいのだよむこう側をな。
 我々は目下浅羽特派員を捜索中だということも忘れたかね?
 ならば相手方にはどこか適当なところで待っててもらい、こちらが後から接触する形にすればよかろう。
 その時坂井特派員がひとりで接触すれば、いざという時、戦えない我々が足手まといになることもないだろうしな」

ああ、と悠二は納得した。そう。むこうからもち掛けられた提案ならば多少こちら側の事情も鑑みてもらえるはずである。
それに元々、どちらかが場所を指定しなければ合流することはできないのだ。

「ありがとう水前寺。そうすることにするよ」

言って、悠二はもう一度携帯電話を耳に当てた。
なんなら接触する際にシャナを呼び戻してもいい。こういった事情ならヴィルヘルミナも賛成してくれるだろう。
そしてシャナとふたりであれば、どんな問題であろうと乗り越えられるはずなのだ。


 ■


「もしもし」
『結論はでたかしら?』
「うん、でたよ。悪いけど、今こちらは人を追っている最中なんだ。だからすぐに合流ってのはできない。
 だから時間を置いて、どこかで待ち合わせる形になるけどいいかな?」
『別にかまわないけど……その必要はもうないかもしれないわ?』
「え?」
『確認したいんだけど、あなた達は自動車で移動してるわよね。私、耳がいいから電話越しでもわかるのよ』

悠二は顔をあげてゆっくりと流れてゆく周りの景色を見渡した。
こちらが車で移動していることを知って、もう待ち合わせの必要がない。では彼女はどこから電話しているのか?

『実はこっちも車の中から電話してたんだけど気づいた?』

サイドミラーの中に見える後方の風景。その中に速度を上げてこちらに接近する車両の姿があった。

『そっちは救急車でしょ? こっちはパトカーなの。こういうのって奇遇って言うのかしら。どう思う?』

白と黒のツートンカラーに赤色のランプを備えた特徴的なデザインはまさしく日本のパトカーそのものだ。


『はじめまして。よろしくね♪』


サイドミラーの中で朝倉涼子が綺麗な笑顔を浮かべ手の平をひらひらと振っていた。






【E-4/市街地(映画館より北)/一日目・夜】

【坂井悠二@灼眼のシャナ】
[状態]:健康
[装備]:メケスト@灼眼のシャナ、アズュール@灼眼のシャナ、湊啓太の携帯電話@空の境界(電池残量75%)
[道具]:デイパック、支給品一式、リシャッフル@灼眼のシャナ、ママチャリ@現地調達
[思考・状況]
 基本:この事態を解決する。
 0:どうする?
 1:接触してきた朝倉涼子達に対応する。
 2:浅羽直之を探して保護し、ヴィルヘルミナらと合流する。
 3:事態を打開する為の情報を探す。
 ├「朝倉涼子」「人類最悪」の二人を探す。
 ├街中などに何か仕掛けがないか気をつける。
 ├”少佐”の真意について考える。
 └”死線の寝室”について情報を集める。またその為に《死線の蒼》と《欠陥製品》を探す。
 4:もし途中で探し人を見つけたら保護、あるいは神社に誘導。

[備考]
 清秋祭~クリスマスの間の何処かからの登場です(11巻~14巻の間)。
 会場全域に“紅世の王”にも似た強大な“存在の力”の気配を感じています。


水前寺邦博@イリヤの空、UFOの夏】
[状態]:健康だがフルボッコ、髪の毛ぐしゃぐしゃ
[装備]:電気銃(1/2)@フルメタル・パニック!、救急車@現地調達(運転中)
[道具]:デイパック、支給品一式、「悪いことは出来ない国」の眼鏡@キノの旅、
     ママチャリ@現地調達、テレホンカード@現地調達、
[思考・状況]
 基本:この状況から生還し、情報を新聞部に持ち帰る。
 0:む?
 1:接触してきた朝倉涼子達に対応する。
 2:浅羽直之を探して保護し、ヴィルヘルミナらと合流する。
 3:事態を打開する為の情報を探す。
 ├「朝倉涼子」「人類最悪」の二人を探す。
 ├街中などに何か仕掛けがないか気をつける。
 ├”少佐”の真意について考える。
 └”死線の寝室”について情報を集める。またその為に《死線の蒼》と《欠陥製品》を探す。
 4:もし途中で探し人を見つけたら保護、あるいは神社に誘導。
[備考]
 伊里野加奈に関連する全てからの忘却を免れました。「ほんとうのこと」を理解した結果です。


島田美波@バカとテストと召喚獣】
[状態]:健康だがフルボッコ、鼻に擦り傷(絆創膏)
[装備]:第四上級学校のジャージ@リリアとトレイズ、ヴィルヘルミナのリボン@現地調達
[道具]:デイパック、支給品一式、
      フラッシュグレネード@現実、文月学園の制服@バカとテストと召喚獣(消火剤で汚れている)
[思考・状況]
 基本:みんなと協力して生き残る。
 0:え?
 1:状況を見守る。
 2:人を探す。
 ├親友の「姫路瑞希」をがんばって探す。
 ├「川嶋亜美」を探しだし、高須竜児の最期の様子を伝え、感謝と謝罪をする。
 └竜児の言葉を信じ、全員を救えるかもしれない「涼宮ハルヒ」を探す。
[備考]
 シャナからトーチについての説明を受けて、「忘れる」ということに不安を持っています。
 伊里野加奈に関連する全てからの忘却を免れました。「ほんとうのこと」を理解した結果です。






 【10】


「どうやら電話している間に偶然見つけることになっちゃったみたいだけど、こういうのってどういうのかしら?」
「さぁ、ただの幸運ではないですか」
「彼らにとっては?」
「これからしだいです」

師匠はパトカーを救急車の後方15メートルほどの距離まで近づけると、アクセルを弱めスピードを落とした。

「それで、私達はどうするの師匠?」
「交渉がうまくいっているのならこのまま事を推移させていいでしょう。時に情報は金よりも価値があります」
「了解。上手くやってみせるわ」
「警察署から逃げ出したキョンという人物から情報が伝わっているのだとすれば、網にかけられているのは我々です」
「なので決して油断はしないように――でしょ?」

姿を現したことに対してまだ電話の向こうからリアクションはない。向こうとしても対応を決めかねているらしい。
携帯電話で連絡を取り合っている以上、警察署での朝倉達の行動を見たキョンの情報が伝わっている可能性は十分ある。
とするならば、先程の待ち合わせという提案は罠だったのかもしれない。

「言っておきますが、いざという時はあなたも後ろで寝ている子も見捨てますからね」
「じゃあ私が師匠を見捨てても恨まないでよ」
「恨みはしますよ。理屈と感情は別の問題です」
「ほんと、有機生命体の思考って理不尽だわぁ……」



朝倉は携帯電話を持ちながら。師匠はハンドルを握りながら。そして何も事情を把握してない藤乃は眠りながら。
次の相手の一手を待つ。






【E-4/市街地(映画館より北)/一日目・夜】

【師匠@キノの旅】
[状態]:健康
[装備]:FN P90(35/50発)@現実、FN P90の予備弾倉(50/50x17)@現実
      両儀式のナイフ@空の境界、ガソリン入りペットボトルx3、パトカー@現地調達(運転中)
[道具]:デイパック、基本支給品、医療品、パトカーx3(-燃料x1)@現地調達
      金の延棒x5本@現実、千両箱x5@現地調達、掛け軸@現地調達
[思考・状況]
 基本:金目の物をありったけ集め、他の人間達を皆殺しにして生還する。
 1:目の前の集団と接触。仲間の情報を引き出した後、始末か利用かする。
 2:朝倉涼子を利用する。
 3:浅上藤乃を同行させることを一応承認。ただし、必要なら処分も考える。よりよい武器が手に入ったら殺す?


【朝倉涼子@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:疲労(中)、長門有希の情報を消化中
[装備]:携帯電話@現地調達
[道具]:デイパック×4、基本支給品×4(-水×1)、軍用サイドカー@現実
      シズの刀@キノの旅、蓑念鬼の棒@甲賀忍法帖、人別帖@甲賀忍法帖、フライパン@現実、
      ウエディングドレス@灼眼のシャナ、アキちゃんの隠し撮り写真@バカとテストと召喚獣、金の延棒x5本@現実
[思考・状況]
 基本:涼宮ハルヒを生還させるべく行動する(?)。
 1:坂井悠二と通話を継続し、直接接触できるように計らう。
 2:長門有希の中にあった謎を解明する。
 3:師匠を利用する。
 └師匠に渡すSOS料に見合った何かを探す。
 4:浅上藤乃を利用する。表向きは湊啓太の捜索に協力するが、利用価値がある内は見つからないほうが好ましい。
[備考]
 登場時期は「涼宮ハルヒの憂鬱」内で長門有希により消滅させられた後。
 銃器の知識や乗り物の運転スキル。施設の名前など消滅させられる以前に持っていなかった知識をもっているようです。
 長門有希(消失)の情報に触れたため混乱しています。また、その情報の中に人類最悪の姿があったのを確認しています。
 長門有希(消失)の保有していた情報から、ゲームに参加している60人の本名を引き出しました。


【浅上藤乃@空の境界】
[状態]:無痛症状態、腹部の痛み消失、睡眠中
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
 基本:湊啓太への復讐を。
 0:……むにゃむにゃ。
 1:電話があればまた電話したい。
 2:朝倉涼子と師匠の二人に協力し、湊啓太への復讐を果たす。
 3:他の参加者から湊啓太の行方を聞き出す。
 4:後のことは復讐を終えたそのときに。
[備考]
 登場時期は 「痛覚残留」の途中、喫茶店で鮮花と別れたあたりからの参戦です。(最後の対決のほぼ2日前)
 腹部の痛みは刺されたものによるのではなく病気(盲腸炎)のせいです。朝倉涼子の見立てでは、3日間は持ちません。
 「歪曲」の力は痛みのある間しか使えず、不定期に無痛症の状態に戻ってしまいます。
 湊啓太がこの会場内にいると確信しました。
 そもそも参加者名簿を見ていないために他の参加者が誰なのか知りません。
 警察署内で会場の地図を確認しました。ある程度の施設の配置を知りました。


【携帯電話@現地調達】
ピンク色をしていて、二つ折りタイプの携帯電話。
朝倉涼子がファミレスの中で放置されていたのを拾ったもので、普通に使用することができる。


 ■


【D-4/上空/一日目・夜】

【シャナ@灼眼のシャナ】
[状態]:疲労(小)
[装備]:贄殿遮那@灼眼のシャナ、メリヒムのサーベル@灼眼のシャナ
[道具]:デイパック、支給品一式、不明支給品x1-2、コンビニで入手したお菓子やメロンパン、
[思考・状況]
 基本:悠二やヴィルヘルミナと協力してこの事件を解決する。
 1:まずは神社に戻りヴィルヘルミナと合流する。
 2:その後、一緒に天文台へと移動し、今後の対策を練ってからそれに沿って行動する。
 3:百貨店にいると思われるフリアグネはいつか必ず討滅する。




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