邂逅 ◆HoYWWMFJdI



香椎愛莉の命が失われ、無言で歩く一行。
未だ目を覚まさない永沢を背負い、美遊とは逆の方角へとアベルの手を引いて行く。

「…………タケシは、ここに連れてこられる前は、どんなことをしていたの?」

ようやく落ち着いてきたのか、アベルが歩きながらジャイアンに問いかける。

「ん?ああそうか、お前の話だけを聞いたんだったな。
 そうだな……。
 俺達の世界は、魔術師とか魔法なんてのはなくてな。
 小学校っていう……勉強したり運動したり、大勢の仲間と一緒に生活する場所にいたんだ」
「へ~、たくさんの仲間が一緒なんて、なんだか楽しそうだね」
「ああ。そこでスネ夫やのび太達と毎日遊んだりしてな。
 学校が終わった後も、野球をしたりして遊ぶんだよ」
「ヤキュウ?アイリが言っていたバスケみたいなものかな」
「……そうか、あの子はバスケが好きだったのか」

落ちそうになった永沢を背負い直し。

「そうだな。野球ってのは手を握ったくらいの大きさの球を投げて、
 バットっていう棒で打つ遊びだ。
 投げる奴と打つ奴だけじゃなく、打った球を取るために守る奴もいてな。一人じゃできない。
 たくさんの仲間がいないと、できない遊びなんだよ」
「ふふ、面白そう。僕にも教えてくれる……?」

無理やり笑顔を作るアベルを見て、握った手を離してくしゃくしゃと頭を撫でる。

「わっ、わっ」
「はっはっは、もちろんだ。
 あんな重そうな剣を振れるんだ、きっとアベルは強打者になれるぞ。
 ただ、このジャイアン様の特訓は厳しいぞ。
 スネ夫やのび太も誘ってみんなでやろう」
「うん!ありがとう、タケシ」


二人で自然、笑顔でいると。
突然、ジャイアンの頭に嵌められていた風の子バンドが頭上へ飛ぶように外れ。

―――そのまま頭上で待ち構えていた右手が、バンドを掴みそのまま元の頭の位置へと嵌める。

「な、な!てめえ起きてやがったのか!!」
「あーあ。せっかくのチャンスだったのに、君は甘いねえ」

風の子バンドのことか、それとも気絶している間に自分の対処をしなかったことか。
背中の永沢が救いようがない、とばかりに溜息をついて首を振る。

「この野郎!!!」
「あー『寒い』『寒い』吹きっ晒しで眠っていたから『寒く』てかなわないや」
「いでででででで!!!」
「タ、タケシ!?」

タマネギ頭の少年は、背中からぴょんと飛び下り、のたうち回るジャイアンを見下ろす。
心配そうにジャイアンをさするアベル。

「くそ……覚えてやがれ……」
「さあ?もう忘れたよ。
 で、どこへ向かっているんだい」
「もう。喧嘩はよくないよ……。
 とりあえずハートランドってところに向かってるよ」
「ふーん……」

永沢はスマホを取りだし、現在地を確認する。
(そういえば、スタジアムからハートランドの間にも×印はあったな……)

「くそ……」

ジャイアンが立ち上がり、再び文句を言おうと口を開いた時。


―――ソレは突然、大地を揺らしてやってきた。


■■■


「あーー!あれ!凌牙あれ!」

ナッシングに引っ張られ、湾岸に向かっていた神代凌牙とリュカ。
そのナッシングが、既に遠くに見える船影を指差して悔しがる。

「追いかけて凌牙」
「無茶を言うな」

凌牙は溜息をつく。

「ほらほら、この子使ってよこの子」

いつの間に抜き取ったのか、『ビッグ・ジョーズ』のカードを突きつけるナッシング。

「なっ、てめえそれは!」
「大事にしてくれるのは嬉しいけど、もっと使って欲しいって言ってるわよ」
「フン、大きなお世話だ」

親の形見でもあるカードをナッシングから引っ手繰る。
ぷくーっとナッシングが頬をふくらます。

「とりあえず北に向かったのが分かっただけでも収穫だろ。
 ……次は、あの化け物退治の番だ」
「あ。ありがとう」

リュカがびっくりした顔をして、慌ててお礼を言う。

「フン。さっきも言っただろ。あのブタ野郎へ反撃するためさ。
 別にお前のためなんかじゃねえ」
「テンプレなツンデレね」
「馬鹿言ってねえでさっさと幼稚園に向かうぞ」

リュカとナッシングを従え南東へと向きを変え。

「あ、あれ……!!」

リュカの指差す方向。
―――三人の少年達が、巨大な怪物と対峙している。

「チッ、移動しちまってたのか!いくぞ!」
「うん!」


■■■


「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!」

その咆哮で辺りの家々が震え。

―――巨大な牙を、エクスカリバー・ガラティーンが受け止める。
が、少年の小さな体では踏ん張りきれず、そのまま場外……ではなく遠方へと吹き飛ばされる。

「うわっ……!!」

アベルは吹き飛ばされた先でごろごろと転がって受け身を取る。

「アベル!!くそ、なんだこの化け物は!」

ジャイアンは熱線銃を取ろうと腰に手をまわし、丸腰であったと気がつく。

「おい永沢!非常事態だ!銃を貸せ!!
 ―――ってどこ行ったアイツ!!」

振り返ると、傍に居たはずの永沢の姿がそこにない。
更に後方、永沢はアベルが吹き飛ばされた辺りの家の郵便受けを、何故かごそごそと漁っている。

「おい永沢!何やってんだ!銃を早く投げろ!!うわ!!」

鋭い牙の口を開け、食べようとしたところを横に飛んでやりすごす。
叫ぶジャイアンを尻目に、永沢はぶつぶつと呟く。

「……フン、聞こえているさ。そんなもの使わなくったって……えい」

印のあった場所、郵便受けの中に隠されたボタンを押す。


―――すると。ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴと地鳴りが聞こえ。

化け物とジャイアンの周りの地面一帯が大きく陥没を起こし始める。

「うわああああ!?な、なんだ!?」
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!」

ガン!ガン!とアスファルト同士がぶつかり。
地面から水が噴き出し、付近の家も飲み込まれ。
ジャイアンときゅうきょくキマイラが崩落に巻き込まれていく。

「ふうん、巨大な落とし穴ってわけか。
 ……ありがとう剛田くん。君の死は無駄にしないよ」

陥没の淵を覗き込み。
フフフ、と笑いながら勝ち誇る永沢。


―――が。

「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!」

怪物は変わらぬ咆哮を叫び。
地面に巨体を一度沈み込ませた後、大きく跳躍してくる。
瓦礫を辺りに撒き散らしながら、大きく空中を跳ぶ。

そしてドスン!と、永沢の前へと、地面を震わせ着地する。

「な、な、な、な……」

怪物の尋常ならざる存在感を前に。
ガクン、と腰を抜かして尻もちをつく永沢。

「お、おい。カード、なんとかしろよ、おい。ラッキーなんだろ」

ラッキーへと呼びかけるが何も返事はなく。

「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!」

怪物が飲み込むために巨大な口を開け。

「ナガサワ!!逃げて!!!」

アベルが体当たりで永沢を弾き飛ばし。
代わってそこにいたアベルを、パクリ、と飲み込んだ。

「あ……ああ……」
「クソッ……!!いったいどうなって……アベル!!!」

びしょ濡れになって、陥没した地面をよじ登ってきたジャイアンも、その光景を目にする。


■■■


「あそこだ!!リュカ、アイツの弱点ってのはなんなんだ!!」

走りながらキマイラへと近づく凌牙とリュカ。

「背中にボタンがあって、それ押せば停止するはずなんだ。僕ならその位置も分かる」
「よし、分かったぜ。それなら……!!」

凌牙はデュエルディスクを展開し、カードを置く。

「俺は、ビッグ・ジョーズを召喚!!」
すると、掛け声と共に巨大な鮫が凌牙の前に現れる。

「わ。すごい!」
「よしリュカ、こいつに乗れ!あの化け物の背中まで連れて行ってやる!」
「う、うん!わかった!」

ふわふわ付いてきたナッシングも凌牙の隣に追いつく。
鮫の背中にリュカが跨り。

「よし、いいぞ。続けてマジックカード、アクア・ジェットを発動!!」

再びカードを置くと、ビッグ・ジョーズの体に、機械の翼とジェット噴射装置が取り付けられる。

「ふーん。つまり、マジックコンボってワケかしらね」
「やかましい。準備はいいか、リュカ!」
「うん、大丈夫!!」
「よし、行け!ビッグ・ジョーズ!!」

リュカはしっかりと鮫の背に掴まり。
ひと声吠えると、ジョーズはリュカを乗せて、きゅうきょくキマイラの方向へと飛んでいく。

――『ぴーんぽーんぱーんぽーん』

その最中、辺りに設置されたスピーカーから大音量で放送が流れ出す。

――『六時になりました。みんな大好きポーキーさまのありがたい放送のじかんです』

「チッ、こんな時に!」


■■■

リュカは放送に意識を傾けず集中し、ジョーズに掴まってキマイラへと接近する。

それに気がついたジャイアンは腰を抜かした永沢から熱線銃を奪い、
キマイラの注意を自分に向けさせようとする。

「……くそっ!!この化け物野郎!アベルの仇だ、喰らえ!!」

強力な熱線をキマイラへと発射する。

「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!」

咆哮を上げ、熱線を弾き。キマイラには傷一つつかない。

「な……全然効いてないだと!?なんなんだコイツ!!」

熱線が向かってきている鮫へ逸れないよう、注意して正面に撃っては、横へと逃げる。


――『鹿目まどか


その間も放送が流れ続けて、死者の発表が始まっている。

ジョーズはキマイラの上へと到着し。
リュカが飛び降り、キマイラの背後へと着地する。
ビッグ・ジョーズはそのまま正面に回り、体当たりでキマイラの動きを止める。

「誰だか分からねえけど助かる!!」

ジャイアンは熱線銃で援護しようと構え。


――『骨川スネ夫』


「なっ!?スネ夫!?」

ジャイアンが驚きの余り硬直し。
そこへジョーズごと飲み込もうと、大口を開けた怪物が。

……口を開いたまま、動きを止めた。

役目を果たしたビッグ・ジョーズは姿を消し。


―――『野比のび太


十三人目の死者が呼ばれた頃。

「ふう……大丈夫?」
キマイラから降りたリュカは、二人の少年に近づく。


「……フン。僕は、助けてくれなんて言った覚えはないんだ。
 それをアイツ……。
 でもそうさ、向こうは二度助けて、僕は何も払ってない。
 大人の取引なら大儲けってやつさ。これで良かったんだ……」

玉葱頭の少年は何かをぶつぶつ言い。

「アベル……スネ夫、のび太……!!
 うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

大柄な少年は、顔を憤怒の色に染め。
停止したキマイラに対し、力いっぱい殴りつける。

「くそっ!!くそっ!!くそっ!!!
 なんでだ!!
 なんでこんなことをするんだ!!!
 くそっ!!くそっ!!くそっ!!
 許さねえ!!ポーキーの野郎、絶対に許さねえ!!」

右手が赤くなるくらい殴り続け。
リュカは悲しそうに、ジャイアンと、キマイラとを見ている。

―――そこへナッシングが近づいてきて。
キマイラを、傍にいたひよこごと黒い球体に包み、そのまま無へと消滅させる。

再度殴ろうとしたジャイアンの拳は空を切り、そのまま地面に倒れ伏す。

「うぅ……クソ……クソ!!」

地面を叩いて涙を流し始める。

「あ……」
「大丈夫よ。あの子、『無』から生まれたんでしょう?『無』に帰してあげただけよ」
「そっか……ありがとう」
「別にあなたの……ってこれじゃ凌牙よね」

ナッシングは後ろを振り向いて凌牙を指差し。

「その凌牙がなんか茫然としてるのよ。何とかしてきて」
「凌牙が?」

ナッシングに頷き。
リュカが走って凌牙に近づくと、放心したように呟いていた。


「……遊馬が、死んだ……だと……?」


そして永沢少年は、ひとりごちる。

「……やっぱり生きてたね。卑怯者な藤木くん。
 それにしても。
 二十四人で輪になるか、十二人殺せ、だって……?」


【D-2/市街地/一日目 朝】

【神代凌牙@遊戯王ZEXAL】
[状態]:健康
[装備]:デッキ(神代凌牙)@遊戯王ZEXAL、デュエルディスク@遊戯王ZEXAL
[道具]:基本支給品一式
[思考・行動]
基本方針:殺し合いをぶっ潰す
1:遊馬が死んだ……だと……?
2:リュカは信用できそうだ。
3:悪人(?)の木之本桜を探しに北へ向かう?
4:璃緒を探す。
5:ベクターを見かけたら、ぶちのめす。
6:ナッシングの力を警戒。
※参戦時期は、真月零がベクターだと判明してからナッシュの記憶を思い出すまでです。
※使用済カード:ビッグ・ジョーズ×1、アクア・ジェット×1

【『無』@カードキャプターさくら(アニメ)】
[状態]:魔力消費(中)
[装備]:無し
[道具]:無し
[思考・行動]
基本方針:お友達(さくらカード)を返してもらう
1:北に行って木之本桜を探したい。
2:お友達を探すのを邪魔するものは消す。

【リュカ@MOTHER3】
[状態]:PP消費(中)、疲労(小)
[装備]:無し
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0~2
[思考・行動]
基本方針:殺し合いには乗りたくない
1:凌牙と同行する。
2:凌牙が心配。
3:要未来を探す。
4:クラウス兄ちゃん……。
5:あの二人(永沢、ジャイアン)が気になる。
※クラウスが仮面の少年であることに気づきました。

【永沢君男@ちびまる子ちゃん】
[状態]:上半身に大きな切り傷、偽ナンバーズの影響下(強運)
[装備]:No.7 ラッキーストライプ(偽)、賢者のローブ(ボロボロ)
[道具]:基本支給品、パネル地図、ランダム支給品×1
[思考・行動]
基本方針:殺しに乗りつつ生き残る
1:放送の内容を整理したい。二十四人で輪になる……?
2:アイツら(凌牙、リュカ、ナッシング)は利用できそうか見極める。
3:他のマーダーと手を組むか、対主催に紛れ込んでキルスコアを狙う。
4:ジャイアンを利用してから不要になったら処分する。
5:助けてくれたアベルに対する複雑な感情。
6:やっぱり生きてたね。卑怯者な藤木くん。
※偽ナンバーズの影響を受け、少し大胆になっています。
※ジャイアンからのドラえもんや秘密道具に関する情報を得ました
※時代的に漫画ドラえもんは存在しますが、メタ知識は制限されています

剛田武@ドラえもん】
[状態]:健康、疲労(大)、頭部に軽い打撲、全身に打ち身、ずぶ濡れ
[装備]:熱線銃、風の子バンド
[道具]:基本支給品
[思考・行動]
基本方針:殺し合いを阻止して、ポーキーをぶん殴る
1:ポーキーに対する憤怒。
2:スネ夫、のび太を失ったことに対する悲しみ。
3:アベルを守れなかった悔悟。
4:リュカ・凌牙に対する感謝。
5:永沢をぎゃふんと言わせ、ナンバーズを奪い取る。


■■■


―――闇が消え、木漏れ日が辺りを照らし始める。
数刻前の騒乱が嘘のように、森に相応しい静寂が訪れている。

どすん。

再び静寂を破ったモノは、上体を起こし頭を振る。

「いたた……。ってあれ、生きてる……?」

手を握って開いてみる。どちらの手も大丈夫。

(僕は怪物の口にぱくん、と食べられて。それで……?)

見上げると、ちょうど頭の上辺りに小さな窓。
どうやらあそこから落ちてきたらしい。
立ち上がって覗こうとしたら、窓は消えてしまった。

「どうなってるんだろう……?」

剥き出しだったガラティーンを鞘へと納め。
どうも食べられた後、あの窓からここに来たみたいだ、と推測する。
そして隣の木をふと見ると。

「ん……?あっ大変!怪我してる!!」

背中を木に預けて眠っている女の子がいる。
肩から血を流し、服もぼろぼろだ。

だけど近づこうとしたら。
その子は急に跳ね起き、ナイフを抜いて僕を警戒している。

「大丈夫、キミを傷つけたりしないよ。それよりキミの傷、早く治さないと」

だけれど、女の子は警戒をやめようとしない。

(怪我をして警戒するのは、仕方ない、よね)

両手をあげて害意がないことを伝えてみる。

―――が、その子と向き合うと。

不吉な、禍々しい気が襲ってくる。
そう。
ちょうど魔術師ゲマと対峙した時のような。
『死』そのものを感じるような。
圧倒してくる気を感じる。

(でも……)

ゲマとは全く違う、見捨ててはおけないもの。
もっと純粋な何かを、目の前の少女から感じる。


■■■


(わたしたちが気がつかなかった……?)

いくら眠っていてもアサシンのクラスである以上、
もっと遠くから接近してきた時点で分かったはずだ。

そして彼女はスキル『気配遮断A+』を持っている。
いくら霊体状態になれないとは言え、
例えば目の前にいきなり現れでもしない限り、
彼女が『そこ』にいることに気が付かず、通り過ぎるはずであった。

(むー。これもあのイリヤと金髪の子にまけたせいだ)

イリヤに背後を取られ、金髪の子の魔力砲の直撃を受けた悔しさを思い出す。

(どうせまたこの子も『光』ばっかりでおいしくないだろうけど……。
 おなかもすいてるし、さっさと食べちゃおう)

黒のアサシンは解体聖母を構え、『暗黒霧都』を発動しようとする。
そしてそれに呼応するように、
少年の『転輪する勝利の剣』の柄――疑似太陽が内蔵されている――が光り始める。

「むっ、また……!?」
「わわっ?」

少年も驚いたらしく、鞘ごと地面に置き、更に害意がないように伝えようとしている。

「……ばかな子」

自分を説得しようとした、桃色の髪の子供を思い出し、首を振ると。
一瞬で少年の目の前へと移動し、左肩にナイフを突き立てる。


「くっ……!大丈夫。怖くない、怖くないよ」

刺された肩をそのままに。
警戒する獣を安心させるかのように。
ぽんぽん、と近づいたアサシンの頭を撫で。

「かの少女を癒したまえ―――ベホイミ」
「なっ、なにを」

少年は安心させるようにぎゅっと抱きしめると、回復魔法を彼女へと行使する。

―――すると、ゆっくりとアサシンの肩の傷が塞がっていく。

「………………あったかい」

魔術の効果なのか分からないが。
アサシンには、その回復魔術が。とても暖かく感じた。

「うん。これで少し違うと思うけど……どうかな?」

抱きしめていた腕を離し。
心配そうにこちらを見つめてくる。

銀髪の少女のアイスブルーの瞳と、
紫のターバンを巻いた少年の黒色の瞳とが重なる。


「………………やさしい目。ふしぎ」


―――黒のアサシン、ジャック・ザ・リッパー。

彼女は、堕ろされた胎児たちの集合体として産まれた、悪霊のような存在。
ヒトの身ではなく、『魔』そのものに近い存在である。
悪意に対しては残酷に応じ、好意に対しては純粋な存在であるが故に脆い。


そして、アベル。

彼自身も知らぬことだが。
彼には忘れ去られた民、エルヘブンの『ヒトと魔を繋ぐ者』としての力を色濃く受け継いでいる。

獰猛な魔獣であるキラーパンサーの子供とも、既に友誼をかわしている。
彼には魔物どころか、人族と敵対する魔族とすら、心を通わせる素質を持っている。


「えと……。僕はアベルだよ。キミは?」

目を互いに背けぬまま、自然に言葉が口に出た。

「…………わたしたちに、なまえはないの。アサシンとか、ジャックとかよばれてるけど」
「そっか、名前がないんだ。じゃあ、えっとね……」

アベルは少しの間、眉毛を寄せて真剣に考えて。

「んと、じゃあ。ジル、って名前はどうかな。ジャックだとちょっと男の子みたいだし」
「…………ジル」
「うん。いや?」

ジル・ザ・リッパー。
連続殺人事件の犯人が、男か女か分からぬためにそう呼ばれたことも多々ある。
恐怖と忌避とを込められた名前。

だが、それとは違う暖かさを感じる。
―――自分のために、考えてくれた名前。

ふるふるとアサシンは首を振る。

「ふふ、よかった。
 前ね、プックルっていう友達に、最初ゲレゲレって名前をつけようとしたら、
 ぶんぶんぶんぶん首振られて断られちゃったから。
 っていたたた」

顔をしかめ、左肩を押さえるアベル。

「アベル、すわって」
「うん?」

言われた通りにアベルが座ると。
アサシンがぺろぺろと、アベルの肩の血を舐めはじめる。

「わわ。ふふ、ジル、くすぐったいよ」
「いま、なおすから」

アサシンはスキル『外科手術』を使い、黒い糸で乱雑に傷口を縫っていく。
黒い糸の跡はミミズがのたうつような、お世辞にも綺麗とは言えないが、
見た目以上にしっかりと傷を縫合していく。


「……どう?」
「あ、うん」

ぐるぐると左腕をまわしてみる。

「うん、痛くないや。ありがとうジル」
「……ん」

するとアベルに向かって頭を突き出す。

「……うん?」
「ん」
「あ、ああ!……ふふ、ありがとうジル」

なでなでとアサシンの頭を撫でる。
すると、ころり、と転がりアベルの膝を枕にする。

「ふふ、なんだかプックルと同じで猫みたいだ」
「…………おかーさんでもないのに。ふしぎ…………」

アサシンはすやすやと安心したように眠りはじめる。

「……ふぅ。この子、疲れてたのかな。

 ―――今度こそちゃんと、守らないと。
 見ていて、アイリ……」

亡くしてしまった尊い命に、誓う。

その香椎愛莉の友人、三沢真帆を殺した相手が。
真帆を含め、既にこの地で5つもの命を奪った者が、自身の膝で寝ていることも知らず。

穏やかな寝顔の少女を、少年は優しく撫でる―――


【F-2/湖北端近くの森/一日目 朝】

【アベル(主人公・幼年時代)@ドラゴンクエストⅤ 天空の花嫁】
[状態]:健康、左肩治療痕、MP消費(大)
[装備]:転輪する勝利の剣(エクスカリバー・ガラティーン)@Fate/EXTRA CCC
[道具]:基本支給品一式、魔法の聖水@ドラゴンクエストⅤ 天空の花嫁、ランダム支給品0~2
[思考・行動]
基本方針:この島から抜け出して母を探す。どんな状況でも父の誇りを汚したりしない。
1:この島の脱出方法の調査。
2:ジル(黒のアサシン)を守る。
3:タケシ(ジャイアン)達は無事だろうか。
4:アイリの友達を見つけたら、アイリのことを謝りたい。
5:美遊、君は…
※パパス死亡後、ゲマによる教団の奴隷化直後からの参戦です。
※参加者は皆奴隷として連れてこられたのだと思っています。
※ビアンカについて既に知己ですが、参加自体をまだ把握していません。

【黒のアサシン@Fate/Apocrypha】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(大)、魔力消耗(大)、右肩治療済、睡眠中
[装備]:解体聖母×4@Fate/Apocrypha、呉キリカのかぎ爪×5@魔法少女まどか☆マギカシリーズ
     みかわしの服(カスタム)@ドラゴンクエストⅤ 天空の花嫁、決闘盤(ミザエル)@遊戯王ZEXAL
[道具]:基本支給品一式×2、ランダム支給品0~2、三沢真帆のランドセルの中身(基本支給品一式、ランダム支給品1~3)
[思考・行動]
基本方針:アベル以外を殺しておかーさんのところに帰る
1:睡眠中。
2:アベル。ふしぎ。あたたかい。
3:アベルとの安らぎを壊すモノは殺す。
4:何か(人間の魂)を食べて魔力を回復させる。
5:イリヤと金髪の子(ヴィヴィオ)は必ず自分の手で殺す。
6:頑張って街に行ってみようかな。
7:光は、やっぱり嫌い。
8:たまには脂の乗った魂(悪人)も食べたい。豚(ポーキー)は死ね。

※解体聖母について
本ロワでは条件が揃っていても即死は不可能であり、最大効果で内臓ダメージ(大)を与えるものとします。
また、使用には大きく魔力を消耗し、消耗ゼロから使用しても回復無しで使用可能な回数は4回が限度であるとします。
※“CNo.107 超銀河眼の時空竜”の存在を確認、ミザエルのデッキのカードの効果を大まかに把握しました。
※使用済カード:半月竜ラディウス×1、防覇龍ヘリオスフィア×1

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最終更新:2014年06月02日 07:32