仕方ない ◆lip1g.SKtc
直視しがたい現実は、何度も目に焼き付けてきた。
思考したくない事実でも、考えなくてはいけなかった。
だけれど今この場で起きた出来事はあまりにも、目にするにはおぞましく、考えるだけで嘔吐しそうになる。
人の死は、小学生である骨川スネ夫には受け入れがたい事実だった。
それだけでも頭がパンクしそうなのに、今度は殺し合いをしろ、とのこと。
何処のゲームの話だ。しかし、現実だった。
「夢じゃない、んだよね……」
首に巻かれている首輪を触ることで、より一層夢ではないということを実感する。
辺りを見回してそこが砂漠であることを知ると、更に夢でないことを痛感する。
できるなら今この場で叫びたいが、叫べば誰かが来るかもしれない。
仮に叫んだ所為によって誰かが来るとして、どんな人物が現れるのだろうか。
殺し合いに乗った人物が来るのか、それとも打破するべく立ち上がった者が来るのか。
それはエスパーでもない限り分からないだろう。
「なんでこんなに冷静に分析してんだろ。ハァ……」
スネ夫は何度目になるか分からない溜め息を吐いた。
普通の小学生なら、思考を放棄して泣いて喚き散らすのだろう。自分もそうしたい。
だが今までの非日常が自分を、平凡な自分を見事に変えてしまった。
いやでもそこまで変ってないような気がする。ジャイアンと一緒にのび太いじめてばっかだし。
「ああ、そうだ。のび太とジャイアンもいるんだ」
参加者が集められていた場には、見知った顔が二つ存在していた。
剛田武、通称ジャイアン。非常に喧嘩っ早いが、友人の為ならば立ち上がる男。
野比のび太。普段はダメダメな奴だが、やる時にはやる、追い詰められるとそこそこ強い男。
「まあ、あの二人なら大丈夫だし。それよりも僕ちゃんのことだよ」
理由としては、二人にはそれぞれ秀でた特技があるからだ。
ジャイアン。取っ組み合いならまず負けないだろうし、何より歌という強力な兵器がある。
知能や常識が欠落しているのが欠点だが、まあそれは何とかなるだろう。
野比のび太。射撃という殺し合いの場においてうってつけの能力がある。それに加えて逃げ足も速い。
全体的なスペックが低いが、やる時にはやる人間なので問題はないだろう。
言葉にもしたが、問題は自分のほうだ。
自分には有利に進めることができる能力というものを、持ち合わせていないのだ。
あるとしたら二人よりもある、常識的な能力とか知識。後は……ごますり?
だがそんな知識や常識を持っていたとて、殺し合いの場ではそんなものは雀の涙程度のものだ。
味方を求めて動こう。しかし、敵に会ってしまえば一貫の終わりだ。
敵に会う危険性があるから、その場に留まって隠れよう。だが何も無いこの場所では隠れるのは不可能だ。
なら隠れる場所を探して、動こうか?
敵に会ってしまうのではないか?
何より歩いた先には、本当に何かあるのか?
「あー、もう! 考えれば考える程、ヒドイ事になる予感しかしない! どうすりゃあいいんだよ、もう!」
頭を抱えてその場に膝をついて、スネ夫は悲鳴に近い声を上げる。
思考がネガティブな方向へと向いていく。
マイナスな考えが脳内を走る。
底なし沼にズブズブと引きずり込まれていくような感覚が、体中を伝わっていく。
しかしスネ夫はふと、何かを思い出し勢い良く立ち上がった。
「そうだ! まだ支給品を確認してなかった!」
光明に近い、何かが差し込んだような感じがした。
思い出したら、ランドセルの中に入っている支給品をまだ確認していなかったのだ。
こんなものを背負っているなんて、と早々に背中から下ろしていたのをうっかり忘れていた。
「ここが何処なのかも把握しないと……それにきっといいものが入っているハズ……」
まずはスマートフォン。機能に関することは、主催者であるポーキーなんたらから言われた通りだった。
早速『地図』という項目を押してみると、現在位置と島の全体像が表示された。
「ふーん、僕ちゃんはA-5って所にいるのね……、野比家ぇ!?」
島の全体像を見て、彼は驚愕した。地図には確かに『野比家』の場所が示されている。
「のび太の家があるなんて……、どうやって持ってきたんだ?」
まさか、自分が元いた世界にはのび太の家が、綺麗さっぱり無くなっていたりするのだろうか。
それはそれで見たいが、その考えは一旦頭の片隅に。
スマートフォンの電源を落とし、次に取り出したのは名簿だった。
「名簿……、いらないよね二つも」
スマートフォンにある『名簿』だけで事足りるのではないのかと思いつつ、冊子のほうの名簿を確認。
その中には、やはり二人の文字が書いてあった。
「まあこれはいいか」
冊子をしまって、次はいよいよ支給品の確認だ。
「さーて、何が入っているのかな~♪」
ランドセルを漁ってみると、出てきたのは小さいスイッチのようなものだった。
スイッチにはセロハンテープで、紙が貼り付けられている。
セロハンテープかえらはがしてみると、紙にはスイッチの名前と説明が書かれていた。
「なになに……どくさいスイッチ? ドラえもんの道具くさいな」
説明書によると、この装置は任意の人物の存在を抹消する装置らしく、しかし抹消したことを取り消すことができる装置らしい。
そんな殺し合いの場においては、バランスを崩しかねない秘密道具。勿論、制限がついていた。
「使用回数は一回で、抹消した人物は一時間後に消された場所に現れ、抹消したものも元通りになる……か」
――そんな制限をつけるなら出さなきゃいいだろうに。
自分に使えば一時間の間、何人にも邪魔をされることのない安全な場所を手に入れることができる。
相手に使えば一時間の間、誰にも干渉することができない場所を隔離することができる。
人を殺すことはできないが、かなり有効に使える装置だ。
自分に使えば、その場に支給品が置いてけぼりになってしまうために、一時間後に丸腰の状態になってしまうことが欠点か。
本当に運がよくなければ、支給品は残らず、誰かが持っていってしまうだろう。
だが相手に使えば、武器を奪うことが出来る。丸腰の状態にできるのだ。
スネ夫はスイッチをランドセルの近くに置いて、紙をポケットにしまい、またランドセルを漁りだす。
「後は…………杖?」
先端に天使がかたどられた杖。別の世界にて『ふっかつのつえ』と呼ばれる杖である。
杖が存在する世界に住んでいないスネ夫には分からないことだが。
「……無いよりはマシなのかも」
少々心もとないが、あるだけマシなのだろう。
考えてみれば、接近戦で相手を叩くのに使えるのだ。素手よりリーチがあるのだから、有利に進めることができる。
……こんなことでも考えないと、思考がネガティブに傾きそうだ。
「あ、あれ。もうない……そんなぁ、これだけぇ!?」
スネ夫に支給されたのはそれだけだった。
後は全参加者共通に支給された物品のみ。
「これならこのスイッチ使ったほうがマシだよね……。その後、どうなるかは知らないけど」
食糧や水が無くなるのはおしいが、死ぬよりはよっぽどマシだ。
冷静に考えてみると、相手に使うとしても、自分が先に気付いていなければ意味が無い。
ならばこのスイッチは自分に使用し、僅かな休息の時間を味わうべきだろう。
「でも一時間しかもたないんだよなあ。今使うには惜しいよなあ……」
だが一時間無事だったとして、それが何になるのだというのだろう。
その間に友人達が危険な目にあっているのかもしれない。
最悪、死んでいるかもしれない。
「そうだよ、スイッチは押しちゃダメだ。ジャイアンとのび太達と合流しないと!」
そう思うと、今までのネガティブな考えが吹き飛んでいった。
「よーし、やるぞー!」
当面の目標が決まった今、スネ夫に怖いものは無い。彼は勇敢な小学生だった。
景気づけの為に、海の方向に向かって大声をあげた。
パァンという大きな音が鳴り響いた。
鋭い衝撃がスネ夫の背中にぶつかり、胸を貫いて飛んでいく。
衝撃があまりにも強すぎたのか、スネ夫は耐え切れず地面に倒れる。
「あ、え……?」
しかしあまりにも突然のことであったが為に、スネ夫は何が起こったのかを理解できていなかった。
考える暇も無く、激痛が全身を走る。
こんな痛みが経験したことが無い。今にも死んでしまいそうな痛みだ。
「だ、れが……」
自分が撃たれたという事実に気がついたのは、死ぬ間際のことであった。
【骨川スネ夫@ドラえもん】 死亡
□□□
自分に銃が支給されたから。。
活用するべく、近くにいた自分と同じくらいの少年を撃った。
自分と同じくらいの少年はまだ気付いていなかったから。
背中を晒していて無防備なので、気付かれないうちに撃った。
自分の性格を考えれば、これらの動作はごく自然なことで、当然の成り行きであったといえよう。
藤木茂は銃を降ろし、物陰から立ち上がって撃ち殺した少年の元へへ歩いていく。
名も知らぬ少年の背中には、穴が一つ空いていた。
「仕方ないよね……こうしなきゃいけないから」
藤木はこの状況をすんなりと受け入れ、他の人間を殺して優勝するという選択肢を取った。
主催者に逆らえば、首輪が爆発して死んでしまう。
行動せずに何もしなければ、誰かに殺されてしまう。
ならば主催者の意向に従って、殺し合いをするのがベストだろう。
そうすれば自分は死ななくてすむ。シンプルで単純明快な答え。
名簿には友人である、永沢君の名前がしっかりと載っていた。
果たして永沢君は、今の自分を見て何と呼ぶのだろうか。殺人者か、それともいつもの卑怯者か。
だがそれがどうした? 殺さなきゃ自分が死ぬ、それだけのことだ。
いずれにせよ、永沢君もどうせ死ぬのだから、どうだっていい。
殺しあって優勝者を決めるということは、生き残るのは一人だけだろうから。
「えーと、杖に……スイッチ?」
そんな思考は頭の片隅に置いて、藤木はスネ夫が握り締めていた杖と、その場に置いてあったスイッチを拾った。
自分の世界では、こんな綺麗な装飾が施された杖など見たことが無い。
とりあえず杖はランドセルにしまっておくとして。
「このスイッチってなんだろう……」
もちろんこのスイッチも、自分の世界では見たことがなかった。
赤い突起が黒の山の頂上にあり、ペットボトルのキャップの側面がそれらを覆った、見たことのないスイッチ。
小学生の好奇心を刺激するのには充分であった。
「押してみよう」
ポチッ
ランドセルが落ちた。
スイッチが落ちた。
銃が落ちた。
そこにいた藤木茂の姿は、跡形も無くなっていた。
【???/深夜】
【藤木茂@ちびまる子ちゃん】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・行動]
基本方針:仕方ないから殺し合いをする
1:???
※どくさいスイッチの効果により一時間は何もできません
※A-5に藤木茂の支給品とランダム支給品×0~1、スネ夫の支給品と死体が放置されています。
どくさいスイッチはただのボタンになりました。
【どくさいスイッチ@ドラえもん】
骨川スネ夫に支給。独裁者を懲らしめるための道具。任意の生物を抹消することができる装置。復元も可能。
制限:使用は一回のみ。任意の人物を抹消することができるが、一時間後に復元される。任意の人物を選択していない場合は、自らが対象となる。
記憶ごと持っていく亜空間物質転送装置のようなもの。
【ふっかつのつえ@DQ5】
骨川スネ夫に支給。戦闘中に使用すると、ザオラルの効果が発動する杖。
殺し合いの場においてはただのつえ。
【拳銃@現実】
藤木茂に支給。FN ブローニングM1910と呼ばれる自動式拳銃。
恐らく子供でも撃つことが可能。
最終更新:2014年03月11日 20:18