再壊 ◆AL/a4gt5dw


――ランドセルを背負って小学校に通っていたのは、然程昔じゃなかったのにな。
甲斐刹那は場違いにもそう思った。
先程まで魔界で戦っていた少年、甲斐刹那は今現在殺し合いに巻き込まれ、市街地にいる。
血の匂いがしない、悲鳴も聞こえない、狂ってしまった兵士の哄笑も聞こえない。
あちらこちらに転がる屍も、あるいは肉体を構成する部品だった物も見えない。
今が深夜であることを除けば、何時も歩いていた通学路のようだった。
このまま歩いて家に帰れば、日常に戻れそうな気がした。

当然わかっている。ここは殺し合いの会場だ。既に5人の犠牲者が出ている。
ただ、周囲に広がる日本の光景に――日常風景に、夢を見てしまっただけだ。
「ウオオオオオオオオオ!!!!」
思いっきり息を吸い込んで、叫びとともにおもいっきり吐いた。
目の前で5人を殺したポーキー達への怒り。渦巻いていた郷愁の念。
何もかも全部吐き出した。

「よし」
そこにはもう、甲斐刹那という名の少年はいない。
そこにいるのは、幾人ものデビルを相手にして生き延びてきた歴戦の戦士、
デビルチルドレン――甲斐刹那だ。
背負っていたランドセルを下ろし、中身を確認する。
――やっぱりな。
中身を見る前から確信に近い感情は抱いていた。
自分が持つのならば、これ以外は有り得ない。
取り出したそれの銃把を右手で握る。人差し指で引き金を引く。

「コール!」
デビライザー ―― 銃型デビル召喚器。
それが甲斐刹那に支給された、いや彼の元々の装備である。
彼はデビライザーに収められたパートナーデビルであるケルベロス――クールと共に幾多の戦場を駆け抜けた。そして今度もまた。

「刹那……何が起こった!?」
デビライザーより召喚されたクールは、瞬時に周囲の異常に気づいた。
「クール、落ち着いて聞いてくれ……俺達は今、面倒な事に巻き込まれている」
要点を抑え、自分達が拉致され殺し合いを強要され、既に死者が出ていることを伝えた。

「成程、それでどうする刹那。お前は……殺して回るか?」
魔界でもこのような事は滅多に無い。
だが、クールはこの状況に取り乱すようなデビルでもない。
事態を把握したクールは単刀直入に問う。
他者の命を奪うこと――それは彼らにとってのタブーではない。
自分の力の限界がわかっているからこそ、
戦わなければならないのならば、殺さなければならないのならば、
躊躇なくそれを行うことが出来る。

「……もちろん、お断りだ!」
「だろうな」
最悪の場合、どう足掻いてもどうしようも無くなった時。
甲斐刹那はこの会場の参加者を全員殺せる。
だが、彼の終わりはここではない。
魔界から攫われ、首輪を付けられ、命を握られようとも、まだ粘れる。
十一歳の少年でありながら、その精神は狂気の領域に踏み込んでいると言っても過言ではない。だが、それがデビルチルドレン――甲斐刹那なのだ。

「にしても……問題は山積みだな」
「ああ……大魔王を相手にするだけでも手一杯だってのに、困ったもんだ」
「そういえば」
思い出したように、クールが言った。
「デビライザー以外にも支給品っていうのがあるんだろ?何が入ってるんだ」
「あぁ……」
クールの言葉に促されて、ランドセルの中から物を取り出していく。
「えーっと、剣に……パン……後、スマートフォン?って言ったっけ、それと……参加者名……」
刹那はクールに中身を確認させるつもりで開いただけだった。
開いた名簿の中に、その名前があることなど思うはずもなかった。
刹那の手からこぼれた名簿が道路に落ちる。
街灯が名簿に刻まれた名を照らす。

「未来……」
要未来――彼が追い求める少女の名である。




「ミライ……」

同時刻同会場で、同じ名を呼ぶ者がいる。
名をリュカ。タツマイリで平穏に暮らす少年だった。
彼の運命は母の死を皮切りに散々に狂わされ、それでも彼は必死で闘いぬいた。
そして最後のハリを抜くためにニューポークシティへと向かわんとしたタイミングでこの会場へと連れて来られた。

ポーキー――最初の部屋で自らをそう名乗った老人。
大量のブタマスクを引き連れ、かめんのおとこを従えた老人。
リュカの運命の全てを狂わせたのは、彼だ。
リュカの母と兄が死ぬ原因を作り、タツマイリを作り変え、罪なき動物をキマイラに改造した諸悪の根源と言える男だ。

彼に立ち向かい、リュカと同じPSIを使う少年――ネス。
彼がいなければ、リュカがポーキーへと攻撃を仕掛けていただろう。

結局、リュカが攻撃を仕掛けることはなかったために、
何事も無く、こうして殺し合いの会場へと送られた。

「止まりなさい!」
そして、転送先から数歩進むとリュカは要未来にデビライザーを突き付けられた。
突然過ぎて戸惑ったが、そういうこともあるだろう。とリュカの思考は妙に冷静だった。

そして彼女との幾つかの問答の末。

殺し合いに乗る意思はあるか、いいえ。
支給品は確認したか、いいえ。
ランドセルを(リュカは背中に担いだものの名称をランドセルということにピンときていなかったが)下ろして両手を上げろ。はい。

ようやく信用されたようでリュカと要未来は自己紹介するに至った。

「ごめんね、手荒な真似しちゃって」
「ううん気にしないで」

本心からの言葉である。
この様な状況下では疑われずに済むとは思っていない。
疑う、疑われる――そんな言葉と無縁だったのは何時までのことだっただろうか、そう思うとリュカは少し悲しくなった。

「で、支給品を確認してないって言ってたけど、この名簿の中にアナタの知り合いの名前はある?」
「えーと」
未来によって目の前に広げられた名簿。
見慣れない名前ばかりだと流すだけだった目が、ある名前に気づき、完全に止まった。

衝撃、そんな言葉では言い表すことが出来ない。
その名前は決して有り得るはずがない。

「クラウス……兄ちゃん?」

3年前に止まったはずだった時間が、再び動き出す。
存在するはずのない名前に応えるかのように、900GWの明かりが世界を照らした。




「未来だけじゃない……エレジーの名前もあるのか」
「……喜ばしくはないがこんな状況だ。頼れる仲魔は一人でも多く欲しい」
「ああ、わかって……」
「誰か来るぞ!」
その時、ケルベロスの聴力が微かな足音を捉えた。
音の聞こえてくる方角を見ると、ゆっくりとこちらに向かってくる仮面の少年が見える。

「お前は……!」
仮面の少年の名を、刹那は知らない。
だが、何をしたかは知っている。
ポーキーに従って、始まりの場所で2人の少年を殺した。

そして今、仮面の少年剣を構えた。
ポーキーの言葉のまま、彼らを殺そうとしている。

仮面の少年が剣を構えた瞬間、刹那とケルベロスは異様な寒気を感じた。
殺気ならば、死ぬほど浴びてきた。
だが、目の前の仮面の少年には何も無い。空虚だ。
銃が己の弾丸で人が死ぬのを意に介さぬように、剣が己の身体が血で濡れるのを何も思わぬように、
少年にもまた、何も無い。道具と何も変わらない。

そのことが、ひたすらに恐ろしい。
目の前の仮面の少年は己が持つものを何一つ持っていない。

「クール!!」
「ああ!」
刹那とクールは同時に仮面の少年の元に駆けた。
クールだけでは勝てない。
そして、刹那だけでは少年が始まりの場所で放ったような雷を防げない。

同時に駆け、仮面の少年の雷を迎撃する。それ以外に勝機はない。

二対一、そのような状況に置かれながらも仮面の少年は動じない。
攻撃をする素振りすら見せない、仮面の少年に刹那達はなにか恐ろしい物を感じた。
あと一跳びで、仮面の少年に攻撃を仕掛けられる。

「合わせろクール!」
「アギ!!」
クールが火炎弾を放つと同時に刹那が袈裟懸けに剣を振るう。
タイミングは完全に同時。完全なるコンビネーションといえるだろう。

「なっ!」
惜しむらくは、刹那が両腕で握った剣を片手で止め、
クールが放ったアギを火傷も厭わずに左手で受け止めた仮面の少年の力量か。

ふと、刹那の脳裏に蜘蛛の巣に捕らえられた蝶を見た時の記憶が過ぎった。
「クールもう1発だ!」
「ア……」
刹那の剣が事も無げに撥ね付けられ、瞬時にしてクールに接近した仮面の少年の蹴りが詠唱を強制的に中断させた。
少なくとも30kgはあるであろうクールの体躯が、サッカーボールの様に宙を舞う。

「クール!!」
刹那の視線が、相棒の元へと泳ぐ。
それがこの戦闘においては致命的な隙となった。

仮面の少年の手から放たれる三連の雷は、何の容赦もなく、あっさりと、刹那の命を
「ギラ!」
「マハラギ!」
奪うことはなかった。

刹那に支給されたもう一つの武器――破邪の剣。
剣を持って念じれば、誰が使おうとも閃光の魔法ギラが発動する。

そして、完全にフリーとなったクールにも魔法を使う隙が生じる。

襲い来る三連撃の雷はギラとマハギによって威力を減じた。
だが、威力を減じたからといって、その脅威は変わらない。
雷は刹那の体を焼き貫いた。

「くそッ!」
悲鳴を上げるような真似はしない。腕を失おうとも、声一つ上げなかったのだ。
ただ、敵を甘く見ていた自分への苛立ちが、そして自分達に手加減をする敵への苛立ちが悪態となって溢れ出た。

そう、何を考えているかは分からないが、仮面の少年は手を抜いている。
始まりの場所で放った雷ならば、この二つの魔法を放ったところで何一つ変わることはなく、刹那を仕留めただろう。

何を考えているかわからない。
だが――手を抜いているのなら、それでいい!

今ここで、未来の害にならないように殺す。


「刹那!?」
その時、刹那は声を聞いてしまった。振り向いてしまった。
未来がいる。

「未来……」

「PKLOVEΩ」
状況が弛緩した瞬間。鬼札は切られた。仮面の少年から放たれたのは何者をも飲み込む最強のPSI。
始まりの場所でネスがポーキーの棺桶を停止させたものと同質の念動力の波動。

「PKLOVEΩ」
迎撃のために同質のPSIを放ちながら、リュカは理解した。 

名簿に載ったクラウスの名。
自分を指揮官殿と呼んだブタマスク。
自分と同じPSI。

なにもかも なにもかも りかいした

◆クラウスにいちゃん……

◇リュカはかめんのしょうねんのおくふかくにいるクラウスをよんだ。

◇リュカのよびかけはやみのなかにすいこまれていった。


同質量のPSIが同時に放たれたことで、PKLOVEは対消滅を起こし、戦場には嘘のような静けさが訪れた。

PKLOVEΩを放つと同時に、リュカの視界が歪んだ。異常な疲労を覚えた。何か変なことになっていると思った。
同じくΩを放っているのに、平然としているにいちゃんはすごいな、と他人事のように思った。

「クラウス兄ちゃん……ってアイツが?」
刹那との再会、ポーキーの手下の弟、ポーキーの手下の強さ。様々な事柄が未来を廻ったが、
呆然と立ち尽くすリュカを見て、未来はこれ以上の戦闘は出来ないことを察した。

「刹那!逃げるよ!」
「お、おう!」
刹那はそれだけしか言えなかった。

未来にまた、会えた。
刹那の胸はいっぱいになってしまった。

再会したらなんて言おうとか、そんな、色んなことが、全部頭から吹き飛んでしまった。
笑いたかった。泣きたかった。

でも、結局こんな戦場で再会することになるんだな。と遠い所から見る自分がいた。

でも、いいや。

「どうやってだ!?」
「それはね……コール!」
未来のデビライザーより召喚されたのは翼を持つ巨体のデビル。刹那には見覚えがある。

「アスモデウス!?」
「話は後だ」
「飛ぶよ!」
言葉とともに、未来は煙幕ボールを地面に叩きつけた。
街明かりが煙幕の中に消えていく。

そして、未来達を背に乗せてアスモデウスは飛んだ。


「刹那、アンタさ……ちょっと背伸びた?」
「まぁ、色々あったしな」
「たくましくなったんじゃない?ガリガリ君の割には」
「お前こそ、ちょっと見ない間に怪物女っぷりに磨きがかかったな!」
この場がどのような場所なのか忘れてしまったかのように、彼らは振る舞った。
もう、この時間が訪れないかもしれないことを彼らは知っている。

「……クス」
リュカにとっても懐かしい時間だった。
穏やかな時間はいつだって気づけば終わってしまう。
だから、また兄と対面するその時までは。
笑っていようと思った。




クラウスは知っている。
制限の存在を。

飛んで逃げられればゲームにならないことを。
リーチから逃れるために高く飛ぼうとする。
高く飛べば、負荷がかかり強制的に位置が下る。


「オフェアップα」
「オフェアップα」
「オフェアップα」

クラウスは自らの筋力を増強させ、支給されたバイクに跨った。



アスモデウスの巨体が揺れた。

「どうしたの?」
「一定以上の高度を飛ぼうとすると負荷がかかるらしい」

「離れきったら……どこか適当な場所で降りましょう、刹那、リュカ、それでいいわね?」
「ああ」
「うん」

「……なぁ、未来」
「どうしたの?刹那」


「俺……」
刹那の身体が揺れた。
腹部から血が溢れた。
身体に剣が――クラウスの剣が刺さっている。

言葉を続けようとして、口の中が血で溢れた。
言葉が言葉にならず、血になって落ちた。
そして、刹那の身体もバランスを崩れて落ちた。
未来が手を伸ばす。
伸ばした手は空を切った。

刹那は落ちた。

【D-3 上空 /深夜】

【要未来@真・女神転生デビルチルドレン(漫画版)】
[状態]: ――
[装備]: 未来のデビライザー
[道具]: 基本支給品一式、不明支給品0~1
[思考・行動]
基本方針:――

【未来のデビライザー@真・女神転生デビルチルドレン(漫画版)】
要未来に支給。
刻印弾丸の中にはアスモデウスが入っていました。
それ以外の刻印弾丸があるかは不明です。

【煙幕ボール@ドラえもん】
ドラえもんの道具。このボールを地面などに叩きつけると煙が吹き出し、煙幕を張ることができる。

【リュカ@MOTHER3】
[状態]: 呆然、PP消費大
[装備]: 無し
[道具]: 基本支給品一式、不明支給品1~3
[思考・行動]
基本方針:殺し合いには乗りたくない
1:呆然
2:クラウス兄ちゃん……
※クラウスが仮面の少年であることに気づきました。



煙幕を張られたので、消えるまで待つ。
煙幕が晴れたら、支給されたバイクに乗って獲物を追う。
敵が射程距離に入り、更に負荷高度に入ったら最大のものにした筋力で剣を投げ槍のように放つ。

ただ、それだけ。

それだけというにはあまりにもふざけているが、そのふざけた行為を成立させるだけの能力をクラウスは持っている。
落ちる刹那を、クラウスは優しく受け止めた。

手加減をした理由はただ一つ。
甲斐刹那が必要だったから。

瀕死の刹那の口を無理矢理に開き、クラウスはあるものを無理矢理に押し込んだ。

その名をおげんきになる キノコ

クラウスは刹那の傷がキノコの力である程度回復したのを見ると、
更にライフアップを掛けて目覚めたその時、行動に何の支障もないように計らった。


甲斐刹那を残して、バイクが去っていく。

なにもかもが甲斐刹那を置いて行く。

【D-3/深夜】

【甲斐刹那@真・女神転生デビルチルドレン(漫画版)】
[状態]: ダメージ小、おげんき
[装備]: 無し
[道具]: 基本支給品一式、刹那のデビライザー、破邪の剣
[思考・行動]
基本方針:――

【刹那のデビライザー@真・女神転生デビルチルドレン(漫画版)】
甲斐刹那に支給。
刻印弾丸の中にはケルベロスが入っていました。
それ以外の刻印弾丸があるかは不明です。

【破邪の剣@ドラゴンクエスト5】
そこそこ強い剣。道具として使用するとギラの効果がある。


【クラウス@MOTHER3】
[状態]: 左手に火傷、PP消費(中)
[装備]: クラウスの剣、刹那のバイク
[道具]: 基本支給品一式、不明支給品
[思考・行動]
基本方針:殺戮

※OP会場の仮面の少年です
※ジョーカーという扱いになりますが、どこまで情報を持っているかはわかりません

【クラウスの剣@MOTHER3】
限りなくライトセーバーに近い剣

【刹那のバイク@真・女神転生デビルチルドレン(漫画版)】
刹那が乗っていたバイク、子どもでも乗れるのでクラウスが乗るのにも問題はない

【おげんきになるキノコ@MOTHER3】
おげんきになるキノコ。
体力の回復と引き換えに心の弱い部分や、心の傷を掻き毟るような強力な幻覚を見せる。


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最終更新:2014年03月11日 18:50