きらめく涙は星に ◆1Udq39SlSU
「どうしようかしら」
クロエ・フォン・アインツベルンは溜息を着く。
どうせなら、この殺し合いが人間味が無い魔術師や、英霊などだけを集めたものであるのなら、躊躇もなく殺し合いに乗っても良かった。
だが
イリヤスフィール・フォン・アインツベルン、美遊・エーデルフェルトがこの場にはいる。
仮に二人が居なかったとしても、魔術どころか殺し合いすらも経験した事の無い一般の子供を殺す気のは後味が悪い。
全てを殺し生き残るという選択をするには、今のクロエには失うものが多すぎる。
「はあ……」
もう一度深い溜息。
クロエが取った行動方針は様子見。という名のある種の思考停止。
半分諦めきったように、暇つぶしの感覚でクロエは辺りをぶらついてた。
一応これにも探索という体の良い呼び方はあるが、実際はあまり深い事を考えたくないというのもある。
ああ、いっそ単純に殺し合いに乗ると考えることが出来ればどんなに楽か。
何かを為せねばならぬ時にどうしようもないというのが、これ程腹立たしく辛いものとは。
「あの二人とも合流しといた方が良いわよね……」
止まりかけた頭を辛うじて回し、様子見以外にもう一つ具体的な方針を搾り出す。
イリヤ、美遊との合流だ。
特に頭脳明晰な美遊ならば、もしかしたら何か画期的な具体策を思いついているかも分からない。
「やっぱ、柳洞寺……かしらね」
イリヤ、美遊。
クロエも含んだこの三人が知っている共通の施設はこれしかない。
無論、ここはクロエが見知った冬木町ではない。故に地図にあった柳洞寺も同名の寺か、あるいは柳洞寺を模して作ったレプリカ。
どちらにせよ、集合場所としては数ある施設の中では一番集まりやすい。
必ずとは言えないが、イリヤか美遊。どちらかが興味を持つ可能性は高い。
「えーと何て言ったかしら。日本のことわざで……三人寄れば文殊の知恵ってのがあったわよね。
確か一人で考えるよりは三人のがマシって事よね。
二人とちゃんと会えればいいんだけど」
――――――
「なるほど。しんのすけ君は日本の春日部という場所に居た、と?」
「そうだゾ」
夜道に二つの小さな人影がある。
一人は幼いながらも、ワイシャツカーディガンを着こなし高貴な家の生まれである事が分かる。
逆にもう片方のしんのすけと呼ばれた少年は、赤いTシャツと黄色い半ズボンの極一般的な子供だった。
「セリムくんはアメリカの大統領の子供なんだよね。すごいゾ、オラ皆に自慢出来るゾ!」
「ははっ……」
セリムと呼ばれた少年はばつが悪そうに笑う。
「そんなことないよ。ただ皆には黙っていて下さいね。しんのすけ君」
「ええーなんで!?」
「あまり騒がれると困りますから、お願いします」
「おお……流石、有名人だゾ。うん分かった!」
傍から見れば殺し合いの参加者とは思えぬ和やかな会話。
だが、それも一瞬の内に崩れ去り。ここが殺し合いの場だということを否応無く、しんのすけは痛感することになる。
「え、セリムくん……?」
胸が、抉られていた。
何かがセリムに叩き込まれ、それが貫通し胸部を持っていった。
これが、しんのすけの持つ知識で分かった事の限度。
それでも目の前の死に動揺し、何が起こったのか困惑しつつも咄嗟にセリムから離れ、辺りを窺ったのは幼稚園児として上出来だろう。
「あ、青いタマタマ!?」
セリムの時は見逃したが、今度はその凶器をしんのすけは視界に捉えた。
青いタマタマ、もとい弾が宙を舞いしんのすけへと向かってきているのだ。
それも一つだけではなく、しんのすけの行き場を無くすかのように幾つも陣形を作っている。
幼稚園児としては、脅威的な身体能力を持つしんのすけであろうとも、これでは打つ手は無いも同然。
ただ訪れる死を待つより他は……
「大丈夫?」
白髪と浅黒い肌、赤い外套がとても印象的だった。
まるでしんのすけの憧れる正義の味方(ヒーロー)の如く現れた少女。
向かってくる弾をしんのすけを抱え、人の限界を超えた更なる跳躍で回避。
そのまま戦線を離脱。少女としんのすけはこの場を去っていった。
――――
「私は人を殺したんだね……」
美遊・エーデルフェルトは自嘲気味に呟く。
「美遊様、やはりこんなことはお止め「これしかないの!」
そんな美遊の横に浮き言葉を発する星型の玩具の様な杖。
マジカルサファイアの言葉を美遊は遮る。
「嫌なら……私を捨ててマスターを乗り換えてもいい。
私は、一人でも……!」
「美遊様……」
美遊は殺し合いに乗った。
もちろん単純に殺しあいたいだの、生きるためにという訳ではない。
ポーキーの言葉を鵜呑みにするほど美遊は馬鹿ではない。
美遊の目的はただ一つ。親友のイリヤスフィール・フォン・アインツベルンを生きて返すこと。
当然、殺し合いに乗る事だけが、イリヤを生き残らせる術になるとは美遊は思っていない。
全員で殺し合いからの脱出が出来れば、それで万々歳だろう。
だが、まず殺し合いを打破するには首輪の解析が必要なわけだが、はっきり言えば不可能に近いだろう。
そう外せるような代物を使うはずが無い。仮に外せるとしても確実にポーキー側に察知され爆破さるのが落ち。
更によしんば外せたとしても、解除には時間が掛かる。恐らく外せるのは殺し合い終盤と考えるべきだ。
その後にポーキーを倒し、脱出しなければいけない。脱出しただけでは、ポーキーにまた攫われ同じ目に合わされるかもしれない。
問題なのはそのポーキーの打倒だ。
殺し合いの終盤となれば、戦闘や心労など疲労も溜まり万全とは当然いえなくなる。
果たして、そんな状態でポーキーを倒せるのか。
ポーキーが殺害したあの野球帽の少年もかなりの手練だったが、瞬殺だった。
疲労を重ねた状態で勝ち目があるようには到底思えない。
いや、むしろポーキーを倒すという土台に立てるだけマシかもしれない。
首輪の解析も順調に進み戦力も集まる中、実は首輪について得た情報が全てブラフで、一瞬にして全員お陀仏と上げてから落としてくる可能性も高い。
考えれば考えるだけ絶望的な状況。
打つ手は無い。
これが将棋やチェスであるのなら、今限りなく詰み(チェックメイト)に近い王手(チェック)を掛けられている。
現状を冷静に分析し思索した結果辿り着いた答えがこれだった。
(だから、殺し合いを円滑に進める……!)
ポーキーの目的は殺し合いである。
多少の不祥事ならば然程慌てず甘い処置で対応するだろう。
それこそ首輪の解析が進んだところで、余程のことが無い限りは爆破などという極端な行為には出ない筈。
つまり、殺し合いに反対する者達が安全に脱出法を練るには、殺し合いの成立が必要だと美遊は考えたのだ。
いわばポーキーを喜ばす道化を演じる。
ある程度ポーキー側に不利益な事が起ころうとも、ギリギリ思いとどませるよう美遊自身が殺し合いを加速させる。
更に殺し合いに乗りながら、例えばイリヤの足を引っ張りそうな弱者、危害を加えそうな人物を排除。
首輪解析に有用そうな参加者が襲われていれば、自分も殺戮者を演じながら手助けし、殺し合いからの脱出を行いやすく誘導する。
これが美遊の考えた最善策。
「どうするの。サファイア?」
もう美遊は戻れないかもしれない。
そもそもが、この策は美遊自身の保身はまったくもって考慮されていない。
美遊自身が何処かで倒され、殺されることが前提となっている。殺し合いに乗る者の末路などそんなものだ。
かといって、サファイアが契約を打ち切り戦う力を奪ったところで美遊は止まらない。
「私は……」
「……良いよ。こんな人殺しがマスターなんて。
今までありがとう。サファイア……」
―――ああ、本当にどうしようもない馬鹿ですね私は……
「私のマスターは美遊様だけです!!」
「……! でも私と一緒に居たら……」
―――マスターの無謀を止めることも出来ずに、その片棒を担ごうとしているなんて
「構いません! 美遊様が選んだ道なら私も……!!」
「ごめんね……サファイア……」
流れ出そうになる涙を美遊は唇を噛み堪えた。
(もう、私はあの場所には戻れない……)
イリヤと同じあの学校に通うことも無い。
クラスメイト達と出会う事も無い。
ルヴィアとのメイドとして働くことも無い。
気に掛けていたイリヤの兄、士郎に出会うことも無い。
もうイリヤの隣に居ることは出来ない。
二度とあの暖かい温もりは得られない。
(それでもいい……。手を汚し、血に穢れるのは私だけでいい……。
イリヤ、だから貴女は生きて……)
余談だが美遊はしんのすけを襲った際、妨害に現れたものがクロエとは気付かなかった。
夜ということもありクロエもすぐに撤退した為、姿が確認出来なかったのだ。
結果、二人の少女は互いの僅かならの邂逅には気付いていない。
それが吉と出るのか、凶出るのかはまだ分からない。
【C-2/深夜】
【美遊・エーデルフェルト@Fate/kaleid liner PRISMA ILLYA プリズマ☆イリヤ】
[状態]:健康
[装備]:マジカルサファイア@Fate/kaleid liner PRISMA ILLYA プリズマ☆イリヤ
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0~2
[思考・行動]
基本方針:イリヤを生きて帰す。
1:首輪の解除が終わるまで、ポーキーが殺し合いの中断(首輪の爆破)をしないよう殺し合いを進め上手く立ち回る。
2:イリヤに害を為す危険人物や弱者の排除。有用な参加者は殺さずポーキーに気付かれぬよう補助。
3:ごめんサファイア。
※参戦時期は少なくともイリヤ、クロエの和解以降。
「くおえうえーーーる?」
「ク ロ エ ・フ ォ ン ・ ア イ ン ツ ベ ル ン !!」
「そうともいうー」
クロエは頭を抱えていた。
戦闘音がしたので行って見れば幼稚園児が襲われていたので助けた。
そこまでは良かったが、その幼稚園児、
野原しんのすけは掴みどころの無いマイペースな男の子でクロエは振り回されっぱなしなのだ。
「たくっ、私もヤキが回ったかしらね」
思ってみれば人助けなど自分の柄じゃない。
本当にただの気まぐれであったが、実際クロエには何の利益にもならない。
「でも、カッコ良かったゾ」
「え?」
「くおえちゃん、ヒーローみたいだったゾ!」
カッコいい。
純粋な子供の率直な感想。
何故か、悪くなく心地良い気分だった。
「正義の味方(ヒーロー)、ね……」
「ん? 何か言った?」
「何でもないわよ。それよりもアンタのいうセリムって子だけど」
「アメリカ大統領の息子なんだゾ! 凄いゾ!」
しんのすけが言うにはアメリカ大統領の息子らしい。
クロエもしんのすけを助けた際に、倒れていた子供の死体の事だろうがどうにも気になる。
(今のアメリカ大統領の息子って黒人よね)
そうセリムと名乗る少年はどう見ても白人。
息子というには無理がある。
(養子かもしれないけど……っていうか流石のポーキーもアメリカ大統領の息子なんて攫わない気が)
単に子供の戯言かもしれないが、もしかしたらもしかするかもしれない。
どちらにしろ、死んでしまった以上は確認も出来ないが。
「まあいいか」
【C-3/深夜】
【クロエ・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner PRISMA ILLYA プリズマ☆イリヤ】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~3
[思考・行動]
基本方針:殺し合いには乗らない。
1:イリヤ、美遊との合流の為、柳洞寺に向かう。
2:本当にアメリカ大統領の息子が居るのかしら?
※参戦時期は少なくともイリヤとの和解以降。
【野原しんのすけ@クレヨンしんちゃん】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~3
[思考・行動]
基本方針:殺し合いには乗らない。
1:風間くんとマサオくんを探す。
2:くおえ(クロエ)ちゃんに着いていくゾ。
3:セリムくん……。
※セリムをアメリカ大統領の息子だと思っています。
「随分と好きに殺ってくれましたね」
セリムは生きていた。
胸の傷は塞がり、誰もがつい先ほどまで死んだとは到底信じないだろう。
「どうも、賢者の石の力が弱まっているのでしょうか?
妙ですね。再生が普段より遅い」
『生きていたのではなく生き返った』この方が正しい表現かもしれない。
セリム、いやプライドは人ではなく賢者の石を核として生きるホムンクルス。
彼らは基本、如何な外傷であろうとも、その命を落としはしない。
賢者の石が存在し、力がある限り無限に傷は癒え蘇る。
しかし、今のプライドは再生力が格段に落ち、下手に攻撃を食らえばポックリ死んでもおかしくはない。
少なくとも首輪の爆破などには耐えられそうに無い。
殺し合えというくらいだ。ホムンクルスに有効な殺害手段を用意しているとは思ったが、賢者の石そのものに細工されるとは予想外だった。
「困ったものですね」
再生力の事もそうだが、まだプライドの頭を悩ませることがある。
殺し合いの参加者の事だ。
(アメリカ……ですか)
当初、しんのすけと遭遇した際プライドは表向きの顔であるセリム・ブラッドレイの名を使った。
その時にアメストリスの大総統ブラッドレイの息子とも語ったのだが、しんのすけは首を傾げるばかりだった。
かわりにアメストリスに相当するアメリカという国の名を出し、プライドをアメリカ大統領の息子として納得したのだ。
プライドも疑問に思い。しんのすけの話に耳を傾けたのだが、その内容もやはりおかしい。
日本と言う東洋の国、実質世界を制しているも過言ではないアメリカ。子供ながらも様々な政治的な話を聞けたが、何一つプライドは知らない。
子供の戯言かと思ったが、それにしては話が出来すぎている。
(幼児の為に踏み入った事は聞けませんでしたが……。少し調べてみますか。
どうせ、今はあまり無茶は出来ませんしね)
プライドの武器である“影”は夜中には使えない。
正確には明かりの無い場所では使用できず、影が無ければプライドは死にづらいただの子供に過ぎない。
だから影の出来ずらい夜中は、プライドにとってはあまり好ましい戦場ではない。
(しばらくは無害な参加者に紛れ込み情報を集める。
動き出すのはそれでも良いでしょう。幸いここには鋼の錬金術師も居ませんしね)
【C-2/深夜】
【プライド@鋼の錬金術師】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~3
[思考・行動]
基本方針:未定。少なくとも今はまだ動かない。
1:無害な参加者に紛れ情報を集める。
2:光源の確保。
最終更新:2014年03月14日 09:56