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「今回の任務の説明をする。出来る限り簡潔に説明するから聞けよ。
吸血鬼と軍隊が戦争してるらしい。それを止めてきて欲しい、とのことだ」

書類を手にした男、ノーカラーが非常に簡潔に説明する。
髪の毛は真っ白。それこそ色素が無い、とでも言うべきなほどに。
しかし顔はあまり老けていない。三十路前あたりだろうか。

「面白い任務じゃないか。俺は賛成しちゃうぜ」

赤髪の男、スカーレットは答える。
手にはいかがわしい表紙の本を持っている。
重要な話をしているというのに何をしているんだ。

「ホホホ、最近戦闘任務も無かったノデ、丁度よいのデハ?」

シルクハットにステッキという、紳士風の男、インディゴが話す。
顔は仮面を被っており見ることができない。
なにやら怪しい雰囲気すら漂ってくる。

「ボクとしては、あまり面倒なことはしたくないかと」

ボク、と言ってはいるがれっきとした女の子、ヴァイオレットが会話に加わる。
見た感じも普通に可愛らしい少女。ただのボクっ子である。
他のメンバーよりも比較的若い、というより幼いようだ。

「そんなことはどうでもいいのよ。作戦内容はどうなってるのかしら?」

そして最後に口を開いたのは誰でもない蘇芳瑠璃。コードネームはラピス。
夏休みに学園を訪れ、なんかいろいろ騒がしていったあの人である。
休暇も終わり、本職に戻ったというわけだ。
この5人こそが傭兵部隊《COLORS》の幹部、最精鋭の5人だ。

「まぁ簡潔に説明するとだ、軍隊を止めつつ、吸血鬼の親玉を排除。
これにて一件落着というわけだ」

「で、そこにはかわいこちゃんはいるのかい?いるんなら俺頑張っちゃうよ」

「またスカーレットサンはそれデスカ。毎回毎回しつこいデス」

「そんなんだから童貞なのよ」

「童貞はやめてくれよ童貞は。…本当だけどさ」

「楽しいお話はそこまでだ。さっさと準備しろ、二時間後には出発するからな」



「いつもこの現地までの移動の時間が暇なのよね。ちょっとスカーレット、爆発しなさいよ」

「おいおい待ってくれよ!そんなことしたら俺死んじゃうじゃないか!」

「ノリ悪いわね、だから童貞なのよ」

「またその話しかいラピス。ヴァイオレットも何か言ってやってくれないか?」

「ボクが思うに、スカーレットさんが童貞なのは揺るぎないので」

「ふっ、なんだったらキミで童貞卒業してもいいんだよ?」

「うわぁ、ラピス先輩ー。スカーレット先輩がボクを犯そうとー」

「ちょっとスカーレット、何私の妹分をいじめてるのよ。抉るわよ」

「何をだい!?心かい、心を抉るのかい!?」

「いいようにいじられているじゃないかスカーレット。飲むか?」

「いやいらないよ。俺は任務前に酒を飲まないことにしているんだ」

「このノーカラー様の酒が飲めないというのか?いいから飲め」

「…まいったね。――って不味っ!!!ちょっとなんだいこれ不味っ!!!」

「青汁とウォッカを混ぜてみたんだが、やっぱり不味いか」

「俺はキミにとって実験台なのか!?」

「悪かった、代わりに今回は美味しいところを持っていかせてやろう」

「美味しいところってなんだい。可愛い女の子と遊べるのかい?」

「吸血鬼の親玉、不死者達の王を狩ってもらう」

「なるほどね、とっても美味しい話じゃないか」

「ちょっとノーカラー、なんで私じゃないのよ」

「相手は不死者だ。スカーレットの能力が一番適していると判断したまでだ」

「…そ、まあいいわ。私も同行するから」

「おっとラピス。とうとう俺と愛の契りを…」

「そんな気はないわ。殺すわよ」

「血も涙もないこと言わないでくれよ。キミと俺の仲じゃないか」

「主人と下僕?いえ奴隷かしら」

「…酷いこと言うねまったく」



「やっと着いた。腰が痛くなっちゃったわよ」

「仕方ないデス、飛行機での移動ではこれが限界デスヨ」

「分かってるわよ。でももう少しゆったりとしたシートにはできないのかしら」

「贅沢な女だねキミは。そんなんだから処女なんだよ?」

「私処女じゃないわよ?」

「嘘ぉ!?」

「嘘よ。こんな釣りに引っかかっちゃうなんて…」

「くっ…畜生…まさかまた騙されるなんて…」

移動の飛行機から降りても楽しそうな会話を続けるメンバー。
一名、早くも心が折れてしまったようだが。

「ここからは車での移動だ。移動用の車はすでに用意した」

空港の駐車場に一台のワゴン車が停まっている。
が、色はピンク。ものすごく浮いている。

「ピンクとは…逆に目だってしまうのデハ?」

「というか、これどっかで見たわよね。ピンク色のワゴンって」

「ボクも、比較的見覚えが」

「っていうか、これってラブワg」

「それ以上は言うな。時間が無い、さっさと乗り込め」

「傭兵がまさかこんなのに乗ることになるとハ。にわかに信じがたいものデス」

「いいんじゃないかしら、私一度乗ってみたかったのよ」

「そうかそうか。それじゃあ俺と愛の旅でもしようかい?」

「却下。どうせなら衛くんがいいわ」

「馬鹿はことをやってないでさっさと乗り込め。置いていくぞ」

「わかったって!置いていかないでおくれよ!」



「着いたぞ」

「さっきから思ってたんだけど、やたらと展開速いわよね」

「作者の都合でな、できれば短めに終わらせたいそうだ」

「そんな都合、俺達には関係ないんだけどなぁ」

遠く離れた場所に大きな城が見える。
城の周囲は森に囲まれ、正面には大きな門があるようだ。
城から少し離れた場所には戦車や歩兵など、軍隊が待機している。
おそらくこの国の軍隊なのだろう。物騒な気配を周囲に漂わせている。
それは向こう側も同じで、城からも怪しい気配を無数に感じる。

「では任務開始前に作戦内容を念のため確認しておく。
ラピスとスカーレット、ヴァイオレットの三人で城に乗り込み、不死者の王を退治する。
その間、インディゴと俺は軍隊の説得もしくは足止め。場合によっては排除だ」

「了解したよ。早く始めて終わらせよう」

「この戦いが終わったら、私シャワー浴びるわ…」

「ホホホ、軍隊相手とは、楽しみデスネ」

「大変そうですけど、頑張りますね」

「準備は磐石か。なら任務開始といこう」



ここいら一帯に軍隊の姿が見える。
規模的にはかなりのもので、軽く戦争すら起こしそうでもある。
彼ら人間にとって、それほどまでに吸血鬼は脅威の存在だということだ。

「あーこちら司令官。奴等の様子はどうだ」

「依然篭城したまま姿を現しません。一発撃ち込みましょうか?」

「それがいい。見せしめにデカイのをぶち込んでやれ」

「分かりm…司令官殿!西の方角からこちらにやってくるものがいます!」

「吸血鬼か?数は?」

「城から現れたわけではないので吸血鬼ではないかと。
数は2、徐々にこちらに向かってきています!」

部下からの無線を聞き、戦車から司令官が顔を出す。
確かに2人、こちらに歩いてきている。
すでに肉眼で視認できるほどの距離まで近づいてきている。
やがて二人は数百メートルの場所で足を止めた。

「悪いな。お前達の役目はこれで終わりだ」

「ここからは我々が引き受けマシタ。大人しく軍を引いてくれませんカ?」

「なんだお前達は、突然現れおって。これは我々の仕事だ」

「仕事、デスカ。しかし近くには町もあるんデスヨ?こんなところでドンちゃん騒ぎされても困るデショウ」

「そんなことは知ったものか。今更引き下がることなどできん。すぐにでも退治してやる」

「不死者を戦車や銃で殺そうなんて浅はかな考えだ。馬鹿しかやらん」

「ならお前達なら倒せると?馬鹿馬鹿しい、武装すらしていないじゃないか」

「その考えが浅はかだと言っているんだ。武装すれば勝てるとか、お前達は不死者を甘く見すぎだ」

「ええい黙れ!邪魔するなら貴様らから始末してやろうか!構え!」

司令官の命令を聞くと周囲の歩兵や戦車が狙いを二人に定めた。
完全に囲まれ、逃げ場などひとつも存在しない。
まさに絶体絶命。そんな状況だというのに二人はまったく動じない。

「ヤレヤレ、話を聞かない人たちデスネ。どうしマス?ノーカラーサン」

「話し合いが無理なら武力行使だ。後悔するんだな、能無し軍隊風情が」



「我々軍隊の力思い知らせてやるぞ。全軍、構え!」

「はっ、いきなり戦闘開始か。行儀が悪いな」

「撃てぇー!!」

「――だが、俺も行儀悪いのは嫌いじゃあない」

歩兵隊の持つ小銃や短機関銃から銃弾が放たれる。
それだけでなく、戦車からも砲弾が放たれた。
万に一つ、二人に逃げ場は無い。

「先に手出ししたのはお前達のほうだ。こちらも、行儀悪く行かせてもらうぞ」

腰のホルダーから一本のナイフを取り出す。
ナイフは刃の部分がガラスで出来ている。
そのナイフを持ったまま、ノーカラーは軽く右腕を振った。

「っ!?な、なんだ!こちらの攻撃が防がれた!?」

「い、いや違う!全部ぶった切られたんだ!」

ノーカラーとインディゴに向かって撃たれた銃弾はすべて地面に落ちていた。
そのすべては真っ二つに切られており、砲弾は空中で爆散する。
それだけではない、砲撃を放った戦車までもが真っ二つに切断されていたのだ。
その場にいた兵たちの誰一人として、自分たちに起こった出来事を理解することはできなかった。

「なんだあの男!今何をした!」「わからん!妙な術を使うぞ!」「警戒しろ警戒!」

「ええいうろたえるな!軍人とあろうものが…ぬおぉっ!?」

突然、司令官の乗っていた戦車が激しい衝撃に襲われた。
周囲を見渡すと、一機の戦車の砲身がこちらを向いている。
他でもない、味方の戦車に撃たれたのだ。

「貴様!どういうつもりだ!上官を撃つなど、軍法会議ものだぞ!」

「い、いえ!自分は何も!戦車が勝手に…!」

「そんなわけが…まさか、またあいつらの仕業か!?」

「ご名答デス♪流石は司令官殿、察しがよろしいデスネ」

「貴様!何をしたぁ!?」

「イエイエ、そんな物騒なモノを向けられるのは怖いじゃないデスカ。少し向きを変えさせていただきマシタ」

「おのれ…ふざけているのか…!」

「エエ、ふざけるのは実に楽しいデス。ところで貴方様にご質問がありマス」

「な、なんだ?」

「大人しく殺されるのト、抵抗して死ぬのト、どちらがよろしいデスカ?」



「向こうは派手に始めたようね。爆発音がここまで聞こえてくるわよ」

「あの音じゃあ吸血鬼の奴等も警戒しているんじゃないかい?」

「そうだったらちょっと面倒ですね…」

「ささ、入りましょ。おじゃましまーす」

そう言って、城の門に蹴りを叩き込んだ。
激しい音とともに門扉が破壊され、倒れる。
爆音と地響きを周囲に響かせながら門扉が倒れた。

「ちょっとラピス!いきなりなにしているんだい!気・づ・か・れ・る、だろう!?」

「うっさいわね童貞。私のやることに間違いはないわ」

「間違いだらけだよキミの行動は!」

「あれ?でも誰も来ませんよ?」

「…本当だ、誰も来ない」

「ほら、言ったとおりじゃない。流石私」

「ただの結果オーライだろう。この状況を読んでたとでも言うのかい?」

「もちろん。読んでたに決まってるじゃないの」

その時、地面に何かが落ちた。
水滴、いや汗だ。汗が瑠璃の顔から滴り落ちたのだ。
いつの間にか瑠璃の顔は汗ダラダラだった。
それこそバケツの水でもぶっかけられたのかと思ってしまう。
それほどまでに顔はびしょびしょだった。

「めちゃくちゃ動揺してるじゃないかー!!」



「ノーカラーから貰った地図によると、そろそろ玉座の間のはずよ」

「結局ここまで戦闘無しか。なんだか拍子抜けだね」

「まぁまぁ、戦わずにここまで来れたんですから。いいじゃないですか」

「そうよ。スカーレットの能力は長時間使用や連戦には向いてないじゃない」

「俺の能力は長時間使えなくても、あっちのほうは持久力あるよ。二人同時にヤってもね。試そうか?」

「あら?童貞のスカーレット君にそんなこと出来るのかしら?キング・オブ・童貞の」

「あーもうそれ以上言わないでくれ!あんまりそこには触れないで欲しいんだけどねぇ!」

「うるさいわね。敵に気づかれたらどうするのよ。黙ってなさい」

「…なあヴァイオレット、今の俺が悪いのかい?」

「元気出してください、童貞さん(笑)」

「…もうやだ、俺帰りたい」

「弱音を吐くのはハク姉だけでいいわよ。あ、ここがそうらしいわね」

大きな扉の前で足を止める。
明らかに他の部屋の扉とは大きさも、装飾も全然違う。
ここが重要な部屋ですよ、と自ら言っているようなものだ。

「ラピス、今度は壁を蹴破るんじゃないよ」

「分かってるわよ。コンコン、入ってますかー?」

口調とは裏腹に、扉を思いっきり殴った。
コンコン、などという音がするわけもなく、ボゴォン、という音しかしなかった。
先ほどの門扉と同じように、扉は破壊され、向こう側に倒れた。

「さっきの二の舞じゃないか!キミの行動にはうんざりだよこの馬鹿!」

「馬鹿って言うほうが馬鹿なのよ馬鹿」

「キミも馬鹿って言ったな!ならキミも馬鹿じゃないか!!」

「えっと…あまり喧嘩しないほうがいいんじゃないですか?」


「我の部屋の前で騒ぐとは。随分と賑やかな客人たちだ」

「…あーあスカーレット」

「俺の所為なのかい!?」

広い部屋の一番奥、大きな玉座に彼は座っていた。
騒いでいる三人を見てニヤリと不敵に笑う。
その笑った口からは鋭くとがった歯が覗いた。
そう、彼こそが吸血鬼の親玉、不死者の王である。



「久しいものだ。客人とは何世紀ぶりだろうか」

「お邪魔するわね。と言っても挨拶の意味じゃないけれど」

「あれが不死者の王…でもそんな長生きには見えませんが」

「見た目だけは、ね。中身は随分と年老いてるようだぜ」

「主ら、何用で来た?用件を申せ」

「貴方を殺しに」

「随分とストレートに言うねキミは」

「我を殺す、か。殺せるものなら殺してみせてほしいものだ。人間ごときに出来るものならな」

「随分と自信ありげじゃない。伊達に千年は生きてないってことかしら」

「その数字は誤りだ小娘。千年を超えたのは二十世紀ほど前のことだ」

「…三千年生きてるっていうのかい。冗談キツイよまったく」

「主ら人間ごとき、たかが数十年生きたところで我には遠く及ばぬのだ」

「ならやってみる?」

「…いいだろう。ただし我が直接手を下すまでもない。来るのだ、我が眷属よ!」

王の言葉とともに、辺りに何十、何百、いやそれよりも多くの吸血鬼が現れる。
どう考えてもふざけている。明らかに数が多すぎるのだ。
これが三千年生きた吸血鬼の力だとでもいうのだろうか。

「我が眷属の数、総勢一千ほどだ。感謝するがいい、このために集めたのだからな」

「なるほど、警備がやたらと手薄だったのはそういうことだったのね」

「冷静に分析してる場合じゃないよラピス。問題はこれをどう切り抜けるかだ」

「いいわよ面倒だし。私一人でやるわ」

「おいおい、俺もキミの実力は認めてるけどさ、流石に無理なんじゃないかい?」

「夏休みの間はまともに戦ってなかったから、軽いウォーミングアップといったところかしら」

「ウォーミングアップって…それで死んでしまったら元も子もないですよ?」

「いいから、二人は指をくわえて私の優雅な戦いを見てなさいな」



「女、貴様今なんと言った?」

「あら、三千年も生きてると耳も遠くなるのかしら?全員殺してやるって言ったのよ」

「フハハ…戯言を平然と抜かすものだ。脆弱な人間ならまだしも、吸血鬼の強さを知らぬか?」

「よく知った上でよ。一だろうが一千だろうが私には関係ないのよ」

「なぁラピス。本当にキミ一人でやるってのかい?」

「スカーレット、ヴァイオレット。ちょっといい?かくかくしかじか」

「まるまるうまうま…なるほど」

「了解しました先輩」

「話は終わったか女?」

「ええ、ただその前に準備させてもらってもいいかしら?」

そう言って、スーツの上着を脱ぎ捨てた。
耐熱耐刃耐弾耐衝撃などの無駄に加工が施された特製のスーツだ。
その分、極端に動きが制限される、という欠点があるのだが。
ちなみにメンバーが着ているスーツにはすべて同様の加工がされている。

「その服を脱ぐと、何か変わるとでも言いたいのか」

「ええ、超サイヤ人になるくらい違うわよ」

「お主の言うことは分からんが、この軍勢の前ではその程度は僅かな差異だ」

「ええ本当ね。そんな軍勢を持てるなんてよっぽどのカリスマ性があるのね」

「まぁな、そうでなければ王など名乗らん」

「うらやましいわね。…いえ、どちらかと言えば“妬ましい”わね」

「ラピス、キミまさか…」

「久々に本気でも出そうと思ってね。止めちゃ嫌よ?」

左目の眼帯に手を掛け、外した。
まぶたをゆっくりと開くと瑠璃色の瞳が輝く。
その時、左目に瑠璃色の炎が静かに灯った。
炎は視界に獲物を捉えるとゆらりと揺れた。

「…ほう、面白そうな眼を持っているな娘」

「お褒めにいただき光栄ね。それじゃ始めましょうか」

「いいだろう。後悔するがいい、選択を誤ったことを――ゆけ」

一千の吸血鬼の軍勢が一斉に瑠璃に襲い掛かった。
瑠璃はそれをなんでもないように構え、迎え撃つ。
一対一千という馬鹿げた戦いの幕が開いた。



―その頃、城の外の軍の様子―


「で、伝令!第四部隊は壊滅!残るは第一、第五、第六、第七部隊のみです!」

「馬鹿げている…精鋭たちを集めた全七部隊で構成された我が軍が…」

「戦車も約半数が破壊され、とても使い物にはならない状態です!」

「くそっ…なんなんだやつらは…たった二人だぞ!たった二人に敗北するというのか!!」


「さて、随分と斬ったが。インディゴ、今死者はどの程度だ?」

「2、3千は殺したんじゃないデスカ?ノーカラーサン殺しすぎなので詳しくは分からないデスヨ」

「そうか、それもそうだな。で、残りはどの程度だ?」

「残りはそうデ――」

突然インディゴが前のめりに倒れる。
インディゴの頭の辺りには血溜まりが出来ている。

「っ!?インディゴ!?」

「はは、やった!一人仕留めたぞ!」

「狙撃手か…味な真似をするものだ。さっさと起きろインディゴ」

「……あぁイタイイタイ。一回死んでしまいマシタヨ」

頭から血を流しながら、インディゴが何事も無かったかのように立ち上がる。
依然、銃弾が命中した頭部からは血が流れ続けている。
明らかに致命傷、いや死に至る傷だ。

「ば、化物…!化物だぁ!!助けてくr」

右手に持ったナイフをその場で振る。
遠く離れた場所の狙撃手は首を切断され、血を吹き上げながら絶命した。

「黙っていろ。それ以上喚くな」

「アーア、また一人殺してシマッテ」

「いいだろう。お前としては死者が増えることは嬉しいだろ?食い分も増えることだしな」

「そんな一瞬で殺された魂は質が悪いんデスヨ。もっと絶望に満ちた魂でないと美味しくないデス」

「悪趣味だな、お前は」

「腐っても私は死霊魔術師ですカラネ。悪趣味が仕事デス」



―そして再び城の内部―


「どういうことだ…我の目の前で起こっていることは現実なのか…」

「ぐあぁ!」「なんだこの人間!」「殺せ殺せ!」「駄目だ敵わない!」「そんなことよりおうどん食べたい!」

「ふぅ、ちょっと疲れちゃったわ。ねぇヴァイオレット、今何体くらい殺ったのかしら」

「えっとですね、目算ですが500は超えたかと」

「あらそう。大体半分ってところなのね」

戦闘から30分が経過した。未だ瑠璃は戦い続けている。
口では疲れたとは言っているものの、表情にはまったくその様子が見られない。
動きもそうだ。30分戦闘を続けているというのにまったく鈍っていない。
それどころか、一体を倒すテンポが徐々に早くなっているようにも思える。

「“突風””東風”“旋風”“鎌鼬”」

手刀による突き、連続での掌底、逆立ちしたまま回転蹴り、そしてまさかの蹴りからの斬撃飛ばし。
様々な技を多用し、次々に屍の山を築き上げていく。
吸血鬼の再生能力が追いつく間も与えず、再生するまえに殺す。
再生したのならまた潰し、確実に殺す。
不死もへったくれもない。それはあまりにも一方的な殺戮だった。

「相変わらずラピスは強いね。それでこそ惚れがいがあるってもんだよ」

「話しかけないで、気が散るから」

「…すまない」

「ラピス先輩、頑張ってくださいね」

「ありがとう、ヴァイオレットの応援があれば百人力よ」

「随分俺への態度と違わないか!?」

「そんなことないわよ、同じよ同じ」

戦闘に参加していないスカーレットとヴァイオレットならまだわかる。
だが何故戦闘中の瑠璃までもが普通に会話できるのか。
あまりにも余裕すぎる。どれほどの力の差があるというのだろう。

「貴様ら…そこまで我を侮辱したいか…!皆の者、戦いを止めよ!!」

王の言葉を聞いた眷属たちが戦闘を止め、ピタリと動きを止めた。
まさに鶴の一声とでも言うべきだろうか。

「あら、あまりの戦況に驚いて降参する気にでもなったのかしら?」

「異なことを。もはや我が眷属たちでは力不足と踏んだまで。ここからは、我が直々に相手してやろう」

王は玉座からゆっくりと腰を上げた。
他の吸血鬼たちとは明らかに違う。
すべてにおいてが他の吸血鬼たちを遥かに上回っている。
これが三千年生きた不死者達の王の実力なのだろう。

「ふふ、面白くなってきたわね。スカーレット、ヴァイオレット。やっと出番よ」

「待ってました、全力でやらせてもらうよ」

「どこまでできるかわかりませんが…頑張ります」

「来るがよい脆弱な人間共よ。格の違いを思い知らせてやろう」



「まずは小手調べだ。集え」

王の近くに3体の吸血鬼がやってくる。
3体は王の右腕を掴むと、融合し別の姿へと変貌した。

「巨大な剣…なるほど、吸血鬼お得意の変身能力ってわけか」

「部下を武器として扱うなんてね、ちょっと趣味悪いんじゃないかしら」

「我が眷属を我がどう扱おうを我の勝手であろう」

「まぁ正論ね。私もスカーレットをゴミのように扱ったり…あぁ、元々ゴミだったわね」

「酷いなさすが瑠璃ひどい」

「あまり余所見をしないほうがよいのではないか?」

「「っ!?」」

王がいよいよ動いた。
自らの眷属を変身させた身の丈を遥かに超えるような剣を振り上げ、投げてきた。

「うわったぁ!?普通に斬りに来るんじゃないのか!!」

「我が自ら動くとでも思うたか?単純な考えは捨てるんじゃな」

「面白い戦い方じゃない。ワクワクしてきたわ」

純粋な腕力のみで投げられた剣を、瑠璃色の炎の灯る左目で見据える。
そして、まるで飛んできた木の葉を払うかのように蹴り飛ばした。
強制的に進行方向を変えられた剣は壁を大きく抉り、突き刺さった。

「ひゅー…あんなのまともに食らったら唯じゃ済まないかもね」

「かもね、じゃなくて普通に済まないでしょうね。食らえば死ぬわ」

「おぉそいつは怖い。死ぬのだけは嫌だよ俺」

「じゃあさっさと準備しなさいよ。せっかく温存させたんだから、少しはいいところ見せなさい」

「キミの命令とあれば、おおせのままに」

スカーレットが右手を振り上げる。
いつの間にか、その手には鎌が握られていた。
紅い鎌。その鎌は怪しげな光沢を放っている。



「人間、妙な武器を使うな。何故だか良い香りがする」

「いい香り?あんなのただ鉄臭いだけじゃないの」

「普通はそうだね。奴等にとってはとてもいい香りだろうけどさ」

「その武器が何かはどうでもよい。自慢の武器も我に近づけなければ意味もないであろう」

「それもそうね。でも何か大切なこと忘れてないかしらおじいちゃん?」

「突然何を…(いや、確かに何かを忘れているような気が…)」

「あぁまったくだよ。これだから歳はとりたくないね。すぐ忘れっぽくなる」

「先ほどから主ら、何を言って…」

「今よ、ヴァイオレット」

その言葉の直後、キンッ、という金属音が聞こえた。
あまり大きな音ではなかったが、部屋にいる全員に聞こえただろう。

「何だ…主ら何をした…!?」

「すぐに分かるわよ。私たちからの素敵なプレゼントよ」

「まさか…お主まさかっ…!?」

王がその言葉の意味を理解し、上を見たときには既に遅かった。
鎖を断ち切られ、上から降ってきた巨大なシャンデリアが王に落ちてきた。
周囲にいた眷族たちも巻き込まれ、血や肉片を周囲に撒き散らす。

「ヒュウ、こりゃまた派手だね。俺の出番もなく死んだかな?」

「いいえまだでしょうね。あの程度でくたばるはずがないわ」

瑠璃の言葉の通り、シャンデリアの下から王が這い出てきた。
全身血だらけで、全身の損傷が激しい。
しかしそれは眼に見える速度で再生している。

「フハハ…残念だったな人間。出来損ないの眷属は殺せても、我を殺すことはできんぞ」

「そんなの分かりきってるわよ。まさか本当に殺すためにシャンデリアを落としたとでも?」

「何…?」

「上出来よヴァイオレット。完璧だわ」

いつの間にか、王の体を光り輝く輪が拘束している。
どれだけもがこうと、それが外れる気配はない。



「どういうことだ…我の力でも外せないだと…?」

「それ以上は動かないでください。自らの腕力で手足が千切れますよ」

シャンデリアの影からヴァイオレットが出てくる。
瑠璃とスカーレットが時間を稼いでいる間にシャンデリアの上へと上っていたのだ。
合図とともに鎖を切り、シャンデリアに乗ったまま降下した。
そして這い出てきた王を光の輪で拘束した、というわけだ。

「相変わらずヴァイオレットの光魔術は流石ね。惚れ惚れしちゃうわ」

「いえ、それほどでも…」

「…ふん、我を拘束したことは褒めてやろう。だがどうする?殺すことはできないだろう」

「あらまた一人忘れてるわよ。貴方を殺すための切り札くらい用意してるわ。ねぇスカーレット?」

「もちろんさ。どうやらこのご老人はよほどの忘れん坊らしいね」

しばらく空気だったスカーレットが、持っていた紅い鎌で王の胸を突き刺した。
どうせ鎌なら首切るとかしろとか言いたくなるが、これには理由がある。

「まさかこれが切り札とでも?滑稽だな、まさかこの程度で我を殺…ぐふっ…!?」

「効いてきたみたいね。苦しいでしょう?辛いでしょう?」

「主ら…何をした…」

「俺の能力は“自身の血液を硬化”させることだ。ただね、この血液は他者の体内に入るとその体を支配しようとする」

「まさか…まさか…!!」

「そうさ、キミの体内の血液はこの鎌が刺さっている間、徐々に硬化している。
吸血鬼にとって血は命だ。それが硬化しちゃあ生きてられないだろう?」

「馬鹿な!我は、我は不死者の王だぞ!最強の吸血鬼だぞ!その我が死ぬなど!ありえん、ありえぬ!!」

「うるさいわよ」

最後の悪あがきと言わんばかりに喚き散らす王の頭部に蹴りを入れた。
顔は拉げ、頭蓋は砕かれ、脳は破壊され、王の頭部は完膚なきまでに蹴り飛ばされた。
不死者の王の凄惨な最期を、瑠璃は表情ひとつ変えずに見つめていた。

「死はすべてに平等に訪れるものよ。不死なんてありえないわ」



「やっほ、ノーカラー。随分と派手にやったわね」

「ラピスたちか。そちらも終わったようだな」

「不死者の王様っていうからどんなもんか気になったけど、ただの長生きなお爺さんだったよ」

「長生きは私も自信がありますヨ。で、いかほどデスカ?」

「ボクの記憶では三千年だったかと」

「ワオ、私の何倍でしょうカネ」

「それにしても…どんだけ暴れたのよあんた達」

数刻前まで、ここには確かに軍隊があった。
しかし今ではここには何もない。
――いや、一応あるにはある。
あるのは何万もの兵の死体と破壊され尽くした兵器の残骸。
その半数以上が真っ二つに斬られている。

「おいおい、インディゴ。またノーカラーの奴キレちまったのかい?」

「エエ、まったく困ったものデス」

「キレてなどはいない。やかましい害虫を駆除したまでだ」

「そういうのをキレてるって言うのよ」

「コホン!…とにかく、任務は完了だ。帰るぞ」

「あらら?もしかしてノーカラーったら怒ってる?」

「うるさい黙れ!」

腰からガラス製のナイフを取り出し、瑠璃に向けて振った。
瑠璃はそれを体を反らすことで回避した。
ちなみに、瑠璃の後方には王の住んでいた城がある。

「「「「「あ。」」」」」

城が斜めに切断され、大きくずれる。
ズルズルとずれていった後、大きな音を立てながら崩れた。
ちなみにこの城、吸血鬼を退治した後はホテルとして使われる予定だったという。

「あーあノーカラー。やっちゃったわね」

「…スマナイ」



―どっかの酒場―

「ふー、今回の任務はちょっと骨が折れたわね」

「まったくだ。あんなのを相手にするのはしばらくごめんだね」

「スカーレット先輩は不死力を無効化させただけじゃないですか」

「ホホホ、そうなんデスカ?サボりはいけませんヨ?」

「サボってないからね。俺サボってないからね」

「今回の報酬金、スカーレットの分減らしておこう」

「それだったらヴァイオレットだって拘束しただけだろう!同じだよ!」

「ヴァイオレットはシャンデリア落としたし、拘束したし、なにより可愛いわよ」

「可愛いは正義ですもんネ」

「くうっ…俺泣いていいかなぁ…」

ジョッキを持ったまま、マジで泣き始める。
いい歳した大人の男が泣いている姿は正直ドン引きだ。

「気持ち悪いわね。だから童t…あらごめんなさい、妹からメールだわ」

「妹さんか!キミに似てなくて可愛い妹さんだったなぁうん!」

「なぶり殺しにするわよスカーレット。えっとなになに…好きな人が出来ました…あら、やるじゃないあの子」

「実におめでたいことデスネ。で、お相手ハ?」

「そうね。相手は――っ」

突然、手に持っていたグラスを握りつぶした。
周囲にはガラスの破片と、入っていた酒が飛び散る。
そして握っている右手からは血が流れる。

「せっ先輩!?どうしたんですか!?」

「…ああごめんなさい。ちょっと動揺しちゃって。ところで私出かけるところが出来ちゃったわ」

「出かける?まぁ任務も入っていないし、構わんが…」

「それと、ヴァイオレットとインディゴを連れて行くわ」

「私デスカ?」「ボクも行くんですか?」

「おいおい、そんなに焦ってどこに行くっていうんだい?」

「ええ、ちょっとね。急に妹に会いたくなったから行ってくるわ」


「――魔術学園に」
最終更新:2012年03月02日 01:22