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戦車の砲声が戦場に響き、戦闘ヘリの機銃が兵士をミンチにしていく。
そんないつもの風景に、彼らはいた。
傭兵団「サンドラット」それが、彼らの名前だった。

アフリカ大陸・某国首都・午後14:58
かつては商店街だったのだろう、今では見る影もない廃墟群の中を一組の男女が駆け抜けていく。
「ラスティ!合流地点まで後何キロだ!」
金髪碧眼、凛々しい顔付きでくたびれた野戦服を着た女が怒鳴る。
「4キロってところだろう!それより手を動かせ!」
それに答えるようにラスティと呼ばれた男が怒鳴り返した。
毛の一本も無い見事なスキンヘッドだが、顔は鬼のようないかつい形相だ。
くたびれているが傷一つ無い女の野戦服とは対照的に、ラスティの野戦服は所々破れていた。
二人はお互いに怒鳴り合いながら、廃墟に潜む敵兵を的確に殺していく。
そして隠れられそうな廃墟を見つけると、そこに二人は滑り込んだ。
「ファルマ、後何発だ?」
サブマシンガンをリロードしつつ、ラスティは廃墟の壁にもたれた。
「そうだな、予備も含めて後百発は撃てる」
ファルマと呼ばれた女はアサルトライフルをリロードしつつ、腰に付けた鞘から2メートルほどもある大剣を抜き放ち
返答した。
それを聞いてラスティが苦い顔をした。
「…まずいな、これでは合流地点に間に合わんぞ…」
さらにこめかみに指を当て、ため息をつきながら言った。
「…大体なんでこんな依頼を受けたんだ、ファルマ。 政府軍の研究施設の爆破なんて足がつきそうな物を…」
ファルマはフフンと笑いながら返した。
「決まっている、あの子に頼まれたからだ」
「そりゃあいつは俺たちの命の恩人だがな…だからと言って正面から突っ込む馬鹿がいるか?」
「騎士の末裔たるもの、正面から突撃しないでどうする!」
ビシッと言い放つファルマ。 それを見てさらにラスティは頭を抱えた。
「死んだら元も子もねぇだろうが…」



アフリカ大陸・某国首都・午後14:58
そんな二人のいる場所から西に約4キロ、中立地帯の開けた場所に一機の輸送ヘリと数人の男女がいた。
その中の初老の男が、何度も繰り返してきた言葉をまた言った。
「ラスティたちはまだか…このまま待てば後3時間で反政府軍による爆撃が開始されるというのに…」
それには及ばない、と糸目の男が言う。
「あいつらなら大丈夫でしょう、仮にも我ら、サンドラットのエースですから」
だといいがな、と初老の男が呟く。その様子にはどこか過去を見るような寂しい雰囲気が感じられた。
糸目の男が再び口を開いた。
「不安なら林檎を迎えによこしましょう、訓練は既に終わっていて、後は実戦だけ。
 エスコート程度なら初の実戦でも大丈夫でしょう」
ふむ、と初老の男は顎に手をやりひとしきり考えると、やがて決断した。
「よし、それでいいだろう。 林檎、用意をしておけ」
その言葉に、今まで輸送ヘリの中にうずくまっていた少年が動き始めた。
「分かりました、師匠」
黒の短髪に、薄汚れた野戦服。レンズにヒビが入った眼鏡をかけ、眼光には光が無い。
体格こそ同年代に比べしっかりしているものの、崖に立っていれば自殺志願者と間違われかねない雰囲気を持っていて、それが他の仲間の悩みの種だった。
初老の男が、林檎に作戦内容を説明する。
「林檎、ラスティとファルマはここから西に4キロの地点にいる」
「制限時間は2時間、やれるな?」
「身体能力に異常無し、可能です」
「…そうじゃない、こう言う時はな」
初老の男はグッと親指を上げ、片目でウインクした。
「こうするんだ」
「了解、可能ならそうします」
コクンと頷くと、準備を整え、廃墟群の中を駆けていった。
その様子を見ながら、初老の男が呟く。
「…スラグニ、あいつの容体は?」
「肉体的には問題無いわ、魔力制御も問題無し。 ただ精神面が酷いわ、あの子、一回心を壊されてるもの」
スラグニと呼ばれた女が、輸送ヘリの中から出てきた。Tシャツに短パン、その上に白衣を着るというなんとも奇妙な服装をしている。だがスタイルは申し分なく、Tシャツを押し返すがごとく自己主張する胸は、男ならまず目が行くだろう。
「それにしても暑いわねぇ…どうにかなんないのこの気候」
ヘリの中から出てくるなり、手でばたばたと煽ぎ始めた。だったら白衣脱げよというツッコミはこの際無しである。
「ヘリに籠ってればいいでしょう?あなたはどうしてわざわざ出てくるんですか」
呆れたように糸目の男が話す。実際ヘリの中にいればまだ日光は遮れるのだ、それなのになぜ出てくるのか。
「せっかくのあの子の初陣だもの、見送らないでどうするの?」
スラグニは西の方角を見つめ、胸を張り言った。そして小さく呟く。
「…帰ってきなさいよ、必ず…」



アフリカ大陸・某国首都・午後15:54
「チッ、ここまで追いついてきたか! …さすがにそう簡単には帰らせてくれねぇか」
廃墟の中、わずかにある隙間からラスティが様子を窺う。外では政府軍の兵士が廃墟を調べてまわっていて、
いずれはラスティたちのいる廃墟にも来るだろう。そうなる前に手を打つかとラスティが罠を仕掛け始めたその時。
「ファルマ・ランドリゲン! 推して参る!」
ファルマが廃墟から飛び出し、敵兵の中へと大剣を構え突っ込んでいった。
さすがにこの時代、大剣を振りかざし突っ込んでくる敵は想定していなかったらしく、あっという間にパニック状態になった。
銃弾が飛び交い、あっさりと同志討ちで兵士が倒れてゆく。一部の銃弾がファルマに当たるかと思われたが、
あらかじめ魔力による障壁を張っていた為全て勢いを失い、地面へと落下していく。
そんな中ファルマは大剣を振り下ろし、薙ぎ払い、鋭い突きを叩き込んでゆく。
が、兵士の一人がパニックの余り手榴弾のピンを引き抜き、こちらに投げようとした。
ちょうどその時ファルマは大剣で大きく薙ぎ払い、2人ほど纏めて叩き斬っていた。
姿勢を変えて避けるには遅く、薙ぎ払った勢いでそのまま突っ込み手榴弾を叩き斬ろうとしたが間に合わず、
ここまでか、と覚悟を決めた瞬間、その兵士の頭が弾け飛んだ。
「ファルマ、周りをよく見ろ。 もう10年近く傭兵やってきてまだ分からんか?」
声とともに、ラスティが廃墟の中から出てきた。構えているサブマシンガンからは硝煙が立ち上り、先程の兵士の頭を吹き飛ばしたのはラスティであることが分かる。
「…すまない、だが敵兵に追われるよりはと…」
うつむき、小さな声で話す。それに対し、ラスティは、
「それで死んだらどうするんだ、阿呆! 俺たちは生き残る事が最優先だろうが、わざわざ死にに行くような真似をしてどうする、この大馬鹿野郎!」
大きくは無いが、聞く者に畏怖を与える声で以て答えた。
それからはぁ、と一息ついた後、合流地点へと歩き出した。
「…行くぞ。 次あんなことしてみろ、裸にひん剥いて街中にほっぽり出してやる」
「…それは困る」
ファルマもしょんぼりしながら後に続くように合流地点へと歩いていった。




アフリカ大陸・某国首都・午後16:11
「さて、そろそろ合流地点のはずだが…」
一際高い廃墟の上に立ち、辺りを見回すラスティ。ファルマはその後ろで辺りの様子を隙なく窺っている。
「んー、あの辺りか。 ファルマ、そろそろ魔術使うぞ、一気に突っ走」
ファルマの方を向き魔法陣を展開した瞬間、視界が突然暗くなった。上を見上げた時、そこにいたのは、
「る…っておい、これは無いだろうよ…」
戦場において、戦闘ヘリ並みの制圧力を誇る生物、装甲と武装を全身に施された装甲龍と呼ばれるものだった。
本来なら一個中隊レベルで無ければまともに対処できず、いくら歴戦の傭兵の二人といえど逃げるしかない。
が、既に装甲龍はこちらに狙いを定めており、装甲龍の瞳の色が索敵を表す青色から警戒を表す黄色へと変わった。
「逃げるぞファルマ! 隠蔽術式かけてどこかに潜んでれば相手は見失う!」
こちらの武装は自分のサブマシンガン、手榴弾、グレネードランチャーと、ファルマの大剣、アサルトライフルのみ。
そして相手の武装はその強靭な牙と爪、そして口から吐き出される火炎弾と身体の各所に自律操作の機銃が搭載されており、結果は火を見るより明らかである。こんなのに挑んでたら命がいくつあっても足りやしないと考えたラスティの、きわめて常識的な判断だった。
「しかし…また逃げるというのは…!」
ファルマがぎりぎりと奥歯を噛み締めながら、悔しそうに声を絞り出す。まぁ、こいつの性格からしてそうだろうな、とラスティは考える。義に厚く、恩を忘れず、借りは全力で返し、敵は正面から堂々と倒す。現代には廃れた、中世の遺物。騎士道精神を忠実に守るが故のファルマの性格を考えると、確かに強敵を相手にしてただ逃げるというのはファルマにとって許しがたい行動だろう。だが、蛮勇と勇気は違うのだ。
「二度も言わせるな。 さすがにこいつ相手では分が悪すぎる!」
「だが…!」
揉める二人、だが装甲龍は終わるのを待つほど気性は大人しくなかった。
装甲龍の瞳の色が、警戒を示す黄色から攻撃を示す赤色へと変わった。それと同時に身体の各所に配置された機銃が
動き始め、二人に狙いを定める。それに気付いたラスティがファルマを押し倒し、素早く廃墟へと潜り込んだ。
「っ! ラスティ!いきなりこんなところで何を…!」
押し倒された状態のままで、身じろぎしながらファルマが言う。 
「阿呆!装甲龍が戦闘モードに入ったんだ、あのままだとミンチにされてたぞお前!」
押し倒した状態のままで、ラスティが叫ぶ。やがて二人はしばらく見つめ合い、気まずくなって戦闘準備を始めた。



アフリカ大陸・某国首都・午後16:24
「アアアアッ!」
重く、それでいて鋭い爪の一撃がファルマを襲った。薬物によって強化された装甲龍は野生のそれよりはるかに強靭で、常人であれば身体をミンチにされるだろう。だが、事前にかけておいた防護魔術と身体強化魔術のおかげで、
「が、はっ! …ラスティ、すまん、下がらせてくれ…」
辛くも右肩の骨を折っただけで済んだ。ラスティが装甲龍を引きつけるべくサブマシンガンを乱射する中、よろよろとラスティの後ろにあった廃墟の中に潜り込み、装甲龍のターゲッティングから逃れようとする。装甲龍はその隙を逃さず、火炎弾を廃墟の中に叩き込むべく口を大きく開いた。空気を取り込み、その口の中で青白い火炎弾を構築し始める。
「まずいっ、防ぎ切れるか…! マテリアル・ブロック!」
ラスティが素早く空中に魔法陣を刻み、防護を目的とする物質の塊を前方に作りだす。
直後、火炎弾が発射され、物質と衝突した。物質はあえなく溶かされ、火炎弾はその勢いを保ちつつラスティへと向かう。
「逃げきれていればな…ここで俺の悪運も終わりか?」
そんなことを呟き、死んだら自分は天国と地獄、どちらにいくのだろうかと考えつつ、目を閉じた。
が、どうもおかしい。 いつまで経っても熱を感じないのだ。もしかして熱を感じる暇も無く蒸発したかと思い、目を開けてみると、そこには天国でも地獄でも無く、焼き焦げてブスブスと音を立て横たわる装甲龍と、右腕が血まみれの少年がいた。
「ラスティ、ファルマ。迎えに来た。後30分にここ一帯に爆撃が始まる。」
少年がそう言い、廃墟の中にいる痛みで気を失っていたファルマを抱きかかえた。
「…え、ちょ、ちょっと待て! いったい何がどうなってる!?まさかお前一人で装甲龍を倒したのか?」
「…装甲龍の弱点は首の後ろ。そこを狙って神経に電流を流し込んだ」
なんのことはない、という風に言ってのけると、林檎はラスティに向かって手招きした。
「急いで、もう時間が無い。 さっきも言ったけど、後30分でここ一帯に爆撃が始まる」
「…はぁ、分かったよ。えーえー行きますとも」
俺って弱いのかなーと呟きつつ、ラスティは加速の術式を自らにかけ、同じように加速の術式をかけた林檎に追いついていった。



アフリカ大陸・某国首都・午後18:43
町外れ、古ぼけたビルに塗装が剥げた看板がかかっていて、「傭兵団サンドラット事務所」と書かれてある。
古ぼけたビルの中からは酒の匂いや、香水の匂い、騒ぎ声などが聞こえてきて、要はビルの中で宴会をしているのだった。
ビルの中では数十人の人間や獣人、魔族などが飲み交していて、その中でも飲みまくっていたのが
「ふーんふふーんふっふーん! 飲んでるかーい若人!」
ラスティだった。かなり飲んだのだろう、顔を真っ赤にしたラスティが酒瓶を片手に林檎の肩をばしばしと叩いている。
「…自分はまだ酒は飲めません、他の人を誘ったらどうです?」
「いかんなぁ若人! 飲めと言ってもオレンジジュースさ!」
そう言ってオレンジジュースのビンの口を開け、林檎に差し出す。林檎もまぁジュースならと思ったのか、コップに注いで飲み始めた。
「うまいだろう!初の実戦で装甲龍撃破だ、たくさん飲んでたくさん食う権利が君にはある!」
食えるうちに食っとけ!と言ってラスティは他の人間と飲み比べを始めた。相変わらずだな、と林檎が思っていると、今度はファルマが近付いてきた。酒は飲んでいないようだが、回復した右肩をぎこちなさそうに動かしている。
「あーその、なんだ…林檎、今日はすまなかった。二度も命を助けてもらって申し訳ない」
ファルマが申し訳なさそうに言うと、林檎は無表情で返した。
「ファルマさんが謝る必要はありません。あの場合、装甲龍を撃破しなくては離脱できませんでしたから」
「…そうか、ところで顔が赤いようだが、大丈夫か?」
ファルマが心配そうに林檎の顔を覗きこんだ。確かに林檎の顔は段々と赤くなってきていて、酒に酔った者のそれだった。
「だい じょ う ぶ です…」
足取りもおぼつかなくなっていき、しまいには言葉も呂律が回らなくなってきた。そんな様子を心配したのか、ファルマが足取りのおぼつかない林檎を支え、胸に抱き留める形で支えた。
「本当に大丈夫か?医務室に運んでスラグニに診てもらうか…」
「………」

そのまま林檎は動かなくなり、慌ててスラグニに診てもらった所、酔っ払って倒れただけと判明し、ラスティが皆にドクシャァ!されたがそれはまた別の話である。
最終更新:2012年03月02日 01:38