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夜:ライブ会場~校舎屋上

コンサート会場を出ると、すっかり夜になっていた。
リリアーナは招き猫のある場所へと足を向けた。
とりあえずヘレンを飲んだ後、移動した場所を辿るつもりらしい。

リリ「レベッカさんはあの時カブトムシになってたから、きっと状況が理解できなかったかもね」
とぼとぼ歩きながら、リリアーナはなぜこうなったのか理由を説明した。
レヘ「そうか、あの時か。そういえば、俺はその後すぐメイリンに刺されたんだったな。」
屋上でメイリンが妖怪用のゲートを開いた影響で、その場の魔法の力は全てキャンセルされたこと。
そのため、本性が魔道書であるヘレンの身体も金色の液体になってしまったこと。
ヘレンをこのままこの場に放置できないと考えたリリアーナは、金色のを飲んでしまったこと。
魔法の力がアル場所にリリアーナが移動すれば、そのうち出てくるだろうと簡単に考えていたのだが、
いまだにヘレンは出てくる気配が無いことなどだ。
ちなみに、リリアーナは強力な封印の石で、あるものを封印している。
どこを探しても見当たらないのなら、ヘレンはその封印に巻き込まれてしまったのかもしれない、とも。
リリ「ああ、もし私のせいでヘレン先生まで封印してたらどうしよう」
招き猫広場に立ち寄った時点では、まだマリオは健在で魔方陣を描く作業中だった。
ニャンコ先生をもふりたい衝動を押さえつつ猫耳メイド喫茶へ行くが、そこにもヘレンは見かけなかったという。
リリ「となると、次はラブスポットと屋上よね」

幸せになる壺を買わないか?今ならほんの100万ほどだぜ。
リリ「えっ、幸せになる壺?!」
リリアーナは物珍しそうにじーっと男の奨める壺を眺めていたが、やがてうーんと首を振った。
リリ「残念だけど、そんな大金とても払えないわ」
男がリリアーナの背負う槍を見たので、彼女は大慌てで後退りした。
リリ「ダメダメ、絶対ダメ!これは人から預かったものだし、私はもう十分に幸せだから。
 それにね、あなたもそんな大事なもの、気安く売ったらダメだと思うのよ。
 壺が売れた後、もしあなたが幸せじゃなくなったらどうするの?」

リリアーナが校舎に向かう時少し回り道をしたのだが、多分レベッカは気づかないだろう。
コンサートにブルースが姿を見せなかったこととレベッカの言葉で、リリアーナなりに思うところがあったのだ。
リリ(レベッカの話から察するに、ブルースは変態ではなく、どちらかと言うと真面目で一本木な男のよね)
となると、いつまでも女物のチャイナ服を着ているとは思えない。

リリ「あ、ここはゲストハウスなの。ブルースさん、多分男子寮の入寮手続き間にあわなかったと思うから」
レヘ「お、という事はここにブルースがいるわけか。」
窓の明かりは1箇所しかついていなかった。来客達はまだ学園祭を楽しんでいる最中なのだろう。
リリアーナは大きく息を吸い込んだ。
リリ「タイペーから来たブルースさーん!!ブルースさーん、聞こえる~?!」
リリアーナは灯りがついた窓ガラスに向かって、リリアーナはせっせと石を投げ始めた。
幾つめかの石がガラスに当たり、かつんと音がした。
返事は無い。しかし、中にいたブルースにはちゃんとリリアーナの声が聞こえていた。

ブルースは着替えの真っ最中だった。いつまでも宿敵メイファと同じ服を着ていたくはない。
幸いにもゲストハウスのスタッフに事情を話したところ、男子用の制服を用意してもらえたのだ。
リリ「さっきはごめんね、私、ブルースさんの事を誤解してたみたい。
 私に腹を立ててるのは分かってるけど、できればケオスさんのコンサートだけは観に行ってよ~!
 ブルースさんがこなくて、多分ガッカリしてると思うから~!」
ブ「(きっと、さっき足を踏みつけた件だな。)」
ブルースはそう思い、急いで着替えをすませようとした。
リリ「ムウ大陸には明け方出発するけど、強制はしないから。嫌なら断わっても良いんからね~」
リリアーナはばいばい、と手を振ると、そのまま校舎の方に向かった。
ブ「リリアーナ?」
ブルースは着替え終えた後、すぐに窓を開いて外を確認した。しかし、もうそこにはリリアーナの姿は無かった。
ブ「(後でコンサートの会場に行ってみよう。わざわざ僕を呼びに来たんだから、
  まさか本人がコンサートを見に行かないわけがない筈だ。)」
ブルースはすぐに玄関を出て、熱狂的な歌声に導かれるままコンサート会場を目指した。

レヘ「ブルースの奴、顔も出さなかったな。」
レベッカは、ブルースがリリアーナを許すつもりがないんじゃないかと思った。
レヘ「まあ、気にするなよリー。もしも俺が元の体に戻ったら、ちゃんとブルースにおめぇが良い奴だって話してやんよ。」
ラブスポットのドアトラップに引っかかった後、二人はとうとう屋上までやって来た。
もしもここまで来ていなかったら、リリアーナを誰に解剖してもらおうかと考えていたが、
その心配はなくなったようだ。屋上には、ぼんやりと佇んでいるヘレンがいた。

リリ「うわあああああんん!ヘレン――――!!無事でよかったよおおおおお!!!」
リリアーナはヘレンに駆け寄ると、そのまま抱きついた。
ヘレ「やあ、リリアーナ。おかえり。」
リリ「そんな事ありえないって思ってたけど、もしかしたら『消化してしまったんじゃないか』とか、
 うっかり『封印してしまったんじゃないか』って結構心配したんだからね。
 もう、いったいいつの間に元に戻ってたの?私、ぜんぜん気づかなかったわ」
ヘレ「本当に…いろいろあったね。この数時間で。」
リリアーナはヘレンの反応などお構いなしで、にこにこと能天気に話し掛けた。
リリ「隣にいてもいいかな?」
ヘレンは変化の魔法でベンチを作り、それに腰掛けるとリリアーナにも隣に掛けるように促した。

リリ「学園にはもう慣れた?」
リリアーナはおもむろにそう切り出した。
 学園祭はどうだったかな。そうだ、マドモアゼル・メラルの恋占いの館は寄って見た?
 ああ、メラルさんっていうのは、私達の友達なんだけどね。占いが特異なのよ。
 ・・・・・・あーあ。本当は私も占って欲しかったんだけどねー」
ヘレ「…君、ちょっと変だよ?僕はメラルのことをよく知ってる仲だ。
  それなのに君は、他の誰かにもメラルの事を聞かせているみたい。」
レヘ「そいつは、たぶん俺に対してだろう。」
槍が喋る事自体にヘレンは驚くような性格ではないが、それがレベッカとなると例外のようだった。
ヘレ「君、ちょっと見ない間にずいぶんスマートになったね。」
リリ「スマートって・・・・・・・・・・。コホン、こちらは友達のレベッカさんです」
第一印象が悪かったレベッカの件をどうやって切り出そうかと思っていたリリアーナは、
腹を括ってヘレンに槍レベッカを紹介した。

リリアーナは膝を抱えると、ふーっとため息をついた。
リリ「ヘレン、聞いてもいいかな?
 さっき屋上で、魔法が終わる時が来たって言ってたよね。あれってどういう意味?」
ヘレ「ファン・メイレンが来たんだよね?つまり、そういう意味だよ。彼女には気をつけた方がいい。
  少なくとも、僕は彼女のそばにはいたくないね。あれは魔法と対極に位置する存在なのだから。」
リリ「ヘレンの変化の魔法とメイレンさんの術、そんなに違うんだ」
発動のメカニズムがわからないリリアーナにとっては、どちらも同じに見えていたようだ。
ヘレ「うん、妖怪は“神”ではなく“天”を信仰の拠り所とするからね。似てるようで違うんだ。」

リリ「でも気をつけろって言われても・・・・・・メイレン様相手じゃ何をどうやっても無理な気がするな~。
 言葉の意味を操る力は、人間相手なら効果は絶大なんだもの」
ヘレ「そうだね。およそ文明を持つ存在ならば、彼女に太刀打ちするのは困難だろう。」
ヘレンは、困難であるとは言ったが、100%無理であるとも断言しなかった。
リリアーナはまたため息をついた。
リリ「あ、いい忘れてたけど、レベッカさんはメイレン様の娘さんなの。
 元天皇后様って言えばヘレンも知ってるかな?」
ヘレ「リリアーナ、僕が魔法史の教師だって事忘れてないかい?」
メイレンもレベッカも魔法使いの宿敵なのだろうが、リリアーナには今ひとつピンと来ないようだ。
ついでにリリアーナは、なぜレベッカが槍に宿ってしまったかも説明した。
リリ「でね、将来レベッカさん死亡事件の関係者全員に報復するっておっしゃってるの。
 今は私達にもおやさしいけれど、悲しみを隠して、あえて明るく大人の対応をなさっているだけかもしれないし
 私達はムウ大陸のお宝を手に入れることで、身代金代わりにしようと思ってたんだけど・・・・・・。
 やっぱり考え無しだったかなぁ。でも、他にいい方法なんて思いつかないよ。
 報復を回避するにはレベッカさんを元の身体に戻すしかないんだけど、ヘレンは今までこんなケース見たことある? 」
ヘレ「それは…あまり良くないね。僕もよくいろんなモノに変化していたからわかるけど、
  変化したモノに、徐々に心も侵食されてくるんだ。心と体は繋がっているからね。
 早く彼女を元に戻してあげないと、彼女の心そのものが槍になってくるだろう。」
リリ「元に戻すための何かいい方法知らないかな?
 レベッカさんの身体を元通りにするなんて、やっぱりヘレンでもむずかしい?」

ヘレ「彼女を人間(?)の姿に戻せばいいんだよね?できるよ。」
レヘ「おっ、本当か?よっしゃあ。」
レベッカは喜んだ。次のヘレンの言葉を聞くまでは。
ヘレ「ただし、魔法は0時に解ける。」
レヘ「はぁ?それ何てシンデレラだよ。」
リリ「・・・・・・そっか、槍をレベッカさんの身体に変化させるだけで、元通りに戻せるわけじゃないんだ」 ヘレ「悪いけど、僕にも事情があるんだよ。…それともやめるかい?」
レヘ「いやいや、やってくれ。0時までだろ?それだけ時間があればブルースとあんな事や、こんな事が…」
リリ「良かったね、これでもう一度ブルースさんに逢えるね」
( 話すだけなら槍のままでも出来るのだろうが、レベッカはそれを良しとしないのだから仕方が無い)

ヘレ「リリアーナ、残念だけど僕が力を貸せるのはここまでだ。ファン・メイレンやレベッカの問題を解決するには、
  君たち自身でその道を見つけないといけなくなるだろう。でも、これだけは忘れないで。
  神は人間の時間を有限にしたかわりに、幸福を生み出す才能を授けた。
  それを悪魔や妖怪が知ったら、きっと涙を流して悔しがるはずだ。」
リリ「幸福を生み出す才能?」
リリアーナは首を傾げた。どうも今ひとつピンと来なかったようだ。
そう言えば、レベッカが【妖怪が唯一恐れるものは“命につく名前】と言っていた。
何か関係があるのかな、とリリアーナは漠然と思った。
リリ「う、うん。分かった。覚えておく。ありがとう、ヘレン」

ヘレンが槍レベッカを受け取ると、遠くで落雷の音がした。
ヘレ「雷か…そういやだいぶ空が曇ってきてるな。」
ヘレ「それじゃあ、君を元の姿に戻そう。」
ヘレンは槍レベッカに魔力を注入した。槍がたおやかに膨らみ、ボディラインを形作る。
ヘレ「きゃん!?」
リリ「ああっ、ヘレン?!」
ヘレンは元の姿に戻ったレベッカに押しつぶされた。 リリアーナは慌ててヘレンを助け起こした。
ヘレ「…君、わざとやっただろ。」
レヘ「うふふ、そんな事ないわよヘレン。わずかな時間とはいえ、感謝するわ。
リー、私はこれからブルースと会ってくるわ。また、後で会いましょう。」
リリ(あのレベッカさんが女らしくなってる・・・・やっぱり恋の力って偉大よねえ)
リリ「うん。わかった。楽しんできて。
 でね、それは良いんだけど――――ちょ、ちょっと待ってよ!まさかその格好で外に行くつもりなの?!」
リリアーナは慌てて引きとめようとしたが、浮かれているレベッカの耳には届かなかったようだ。

リリ「ああ、行っちゃった。
 レベッカさんもレベッカさんよ。いくら夜だからって、あんな格好のまま逢いに行くなんて・・・・・・・わあっ!」
リリアーナは自分のメイド服に視線を落とし、再び仰天した。
リリ「ま、また私の服がぁ~っ!!」
クリスが交換してくれたカモフラージュ装置が魔力切れを起こし、また変な映像を見せていたようだ。
リリアーナは慌てて装置を外すと、本来の血で汚れた服が現れる。
リリ「ああ、またやっちゃった・・・・・。ねえヘレン、これ・・・・・・やっぱり何とかならない、よね?」
ヘレ「僕にまかせてよ、リリアーナ。」
ヘレ「ただし、魔法は0時までだけどね。」
リリアーナはそれまでに服を着替えた方が良さそうだ。ヘレンは早速変化の魔法を使った。


リリ「そう言えばレベッカさん、無事にブルースさんに逢えるのかな?」
リリアーナは急に不安になった。
せっかく元の姿になれても、肝心のブルースとすれ違っては意味が無いのだ。
リリ「私もそろそろ行くわ。レベッカさんのことも招き猫広場のことも気になるから。
 あ、それとね、メイレン様のことは部外者の人には秘密にしてね。
 特に彼には絶対内緒よ? 大事な課題中に余計な心配かけたくないから。」
リリアーナは【彼】としか言わなかったが、ヘレンにはそれで十分通じるだろう。
ヘレ「わかってるよ。特に中つ国の共産党はうるさいからね。」
リリ「屋上に長居して、風邪引かないようにね」
屋上から立ち去る寸前、リリアーナはふと足を止め振り返った。
リリ「それとヘレン、あなただってちゃんと幸福を生み出す才能ってやつを持ってると思うわよ。
 今日は会えて本当に嬉しかったわ。色々ありがとうヘレン。お休みなさい!」
ヘレ「ありがとう、リリアーナ。おやすみ…」
リリアーナは元気に手を振り、屋上を後にした。

屋上に残ったヘレンは、ぼーっと空を見た。
ヘレ「僕が今感じている幸せ…どこから来たのか、持ってきた本人が気づいてないらしい。
  不思議だよね、人間って。」
ーーーー
リリ「んー。どうしようかな~。ブルースさんは、レベッカ・・・じゃなかった、ジルさんが復活したって知らないのよね」
レベッカはブルースに会いに行くといったが、行き先はわかってるのだろうか?
リリ「とりあえず招き猫広場に行ってみよう。うん」
先ほどの雷が気になるし、ケオスのコンサートが終わった今、おそらくユリは招き猫広場に行った筈だ。
リリアーナは、レベッカ(ジル)とブルースを放送で呼び出そうと考えていた。
そのあたりはユリに頼めば楽勝だろう。
二人が一緒にいれば誤報だと思うだろうし、逢えていないままなら、呼び出しを無視することは無い。
完璧な計画ね!とリリアーナは一人悦に入った。

(176で〆)

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最終更新:2009年05月20日 21:14
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