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マジックアイテムの戦い - (2024/11/26 (火) 02:30:31) の1つ前との変更点
追加された行は緑色になります。
削除された行は赤色になります。
(どうしよう……)
ヒートハウンドの表情に変化は無い。
しかし、その内心は不安が渦巻いていた。
あの槍は、危険だ。
ヒートハウンドの無敵性が容易く破られてしまう。
通常の殺し合いなら迷わず撤退を選んでいる。
だが、リングの外には出れない。
自分に匹敵する機動力を持つジャスティスファイアから、どれだけ逃げ回れるか。
(……分かっていた。私は、決して無敵の魔法少女じゃない。こういう相手が出ることも、想定していた……乗り越えないと、ご主人様を守れない)
自分より強い奴殺せないの、殺し屋として二流ネ。
敬愛する主人の言葉を思い出す。
リングに囚われるな。
麦は、ヒートハウンドは、闘犬ではない。
——猟犬だ。
主のために情け容赦なく相手に死の牙を突き立てる、意思を持った武器だ。
(私は、私たちは兵器です——そうでしょう、フライフィアー)
名簿と一緒に配布されたマジックアイテム、多目的用コピーロイド死者の巻。死んだ魔法少女をコピーして隷属させられるこのアイテムを使い、ヒートハウンドは今しがた殺した魔法少女、フライフィアーを自身の武装に加えた。
フライフィアー・コピーの魔力消費はヒートハウンドが負担するが、生来燃費がいいため、今のところそこまで負担にはなっていない。
(さすがにミサイルは堪えたが)。
だが、ジャスティスファイアの虎の子のミサイルも、槍の前では無力化されてしまう。
どうする?
リング上の戦いでさえなければ、フライフィアー・コピーで空爆を実行するのだが。
(いや、できる)
リングの外に出てはいけないのは、決闘者だけだ。
だったら。
「ヒート、上空へ飛んでください」
指示通りにフライフィアーは空へと飛びあがる。
それを、槍を咥えた装甲犬——ジャスティスファイアは見守った。
積極的に動こうとしない敵の態度に、ヒートハウンドは疑問を覚えるが、ホールの天井付近までフライフィアー・コピーが浮上したことで、自らの仮説が証明されたことを知る。
フライフィアー・コピーは、あくまでアイテムであり、魔法少女にはカウントされない。
ならば、フライフィアーを攻撃が届かない場所まで飛ばそうと、それはナイフを空高く投げたのと同じ扱いであり、ペナルティは発生しない。
生前、フライフィアーは地下で死んだ。
『空の恐怖』は、その本領を発揮する前に退場した。
皮肉にも、下手人の手によってそれは果たされる。
◇
「さぁ、コピーロイドが空を飛んでいます。
ジャスティスファイアはこれを静観、何故彼女は動かないのでしょうか」
「鉄屑が扱っているのはかつて魔法の国に実在した英雄が、無敵の魔犬を倒したときに使った、伝説的武具。
はっきりってアーリア人ではない鉄屑に英雄的素養があるわけない以上、あれで何かを打ち消す度に魔力がごっそり持っていかれるんだ。
ジャスティスファイアはそれをヒートハウンドに悟られるのを嫌がり、積極攻勢に出ずに様子を伺ったのだ。
まぁお前には理解できないか、このレベルの話は」
「なるほど、そのような心理戦が展開されていたんですね。
さぁ、制空権を確保したコピーロイド。やはりミサイル攻撃を行うのか。
しかし、ミサイルは既に無効化されています。
ジャスティスファイアの魔力が尽きるまでミサイル攻撃を行うつもりなのでしょうか? えっと、ちなみにミサイルが爆発した場合、私たちってどうなるんですか?」
「心配することはない、リングの外に被害は発生しないようになっている」
「それなら安心です。……ちなみに、試合が終わり次第、メッセンジャー・ブルーさんという回復魔法のスペシャリストが待機しているんですよね。さすがに本当にデスマッチは洒落になりませんから」
「軟弱だな、ユーゲントのクソガキたちなら殺し合いにも眉一つ動かさないぞ」
「さぁ、ナチスジョークを飛ばすアリアさんは置いておいて、試合に注目しましょう」
◇
ヒートハウンドは、躊躇した。
今から自分が取る選択が本当に正しいのか、分からなかったからだ。
賭けである。
少しでも読みを外せば、ヒートハウンドは死ぬ。
このような状況でなければ、絶対に取らない手段。
(あくまで、無効化は槍の穂先に触れることで発動しているように見えた)
そうなれば広域を燃やし尽くす炎攻撃も、あるいは体を炎に転じる回避も、槍の前では極端に相性が悪い。
ならば、手は無いのか。
ある。
たった一つだけ、手は残っている。
「…………フライフィアー」
と、ヒートハウンドは偽装ではなく、真の名を呼んだ。
「ミサイル——」
「ジャスティスブースター、オン!」
ジャスティスファイアが動いた。
背中からブースターが出現し、点火。一瞬で加速し、ヒートハウンドに槍を振るう。
「くっ!」
牽制で展開する炎の壁を、槍は容易く突き破る。
ヒートハウンドは身体能力を駆使しその場を飛び退こうとして
「ぐぅっ……!」
脇腹を、槍が抉り取る。
咄嗟に身体を炎化したところで無駄であった。
それでも痛みを堪え、ジャスティスファイアから距離を取る。
同時に、指先の一部を炎化し——痛みに顔を歪めながらも、笑みを浮かべた。
(やはり、炎化出来ていないのは、穂先に触れている間だけ……!)
無効化は、永続効果ではない。
こちらに照準を合わせるジャスティスファイアと視線を合わせ、ヒートハウンドは、一つの宣告を下した。
空の恐怖への命令は、終了していない。
「——ばら撒け」
「了解」
——展開される魔法陣は、七つ。
降り注ぐのは、七発のミサイル。
ヒートハウンドに狙いを定めながらも、ジャスティスファイアは当然のように空へと飛んだフライフィアーを警戒していたのだろう。
それが、悪手となった。
自由落下する七発のミサイルに、一瞬呆気に取られる。
ミサイルに対処をするか。一刻も早く、ヒートハウンドにトドメを指すか。
迷いは、致命的な遅れとなる。
服を真っ赤に染め、顔を青白くさせながらヒートハウンドは手をジャスティスファイアに翳した。
「烟火(yānhuǒ)」
ジャスティスファイアの頭脳が瞬時に解を導き出す。ミサイルが到達する前に、ヒートハウンドの火炎放射が来る。
最初の攻防の火炎放射なら、槍を使わなくても装甲で防げる。
——という慢心を、ジャスティスファイアはしない。
このタイミングで撃って来る一撃は、ミサイルを優先して対処すれば即死させるような罠が張ってあるに違いないと、そう思わせる一撃だったからだ。
相手は素人ではない。確実に殺し合いに慣れた魔法少女。
浅慮からジョンを死なせ、慢心からクライオニクスの復活を許したのだ。
ヒートハウンドから放たれるはずの火炎放射を、ジャスティスファイアは槍で迎え撃ち。
——炎は、発射されなかった。
「しまっ……!?」
「私の、勝ちです」
ブラフ。
ジャスティスファイアは慌てて七発のミサイル無効化に意識を集中させる。
『USA! USA! USA!』
USA因子を全身に巡らせ、ジャスティスファイアは再び空へと舞いあがった。
「ジャスティスッ! ジャスティスッ! ジャスティスッ!」
吠えながら、槍を振り回す。
万が一爆発すれば、ジャスティスファイアとて大ダメージを負う。
それを分かっているからこそ、必死に槍を振るう。
ミサイルは、同時に展開された。
故に超高速で処理しなければ、取りこぼしたミサイルが着弾し、例え空を飛んでいようと一定の範囲までしか飛べない制限を課されているジャスティスファイアは巻き込まれる。
穂先に触れたミサイルは瞬時に無効化するが、同時にジャスティスファイアの魔力が持っていかれる。
枯渇する、とジャスティスファイアの身体が悲鳴を挙げている。
何度か実験で魔力を空にするまで運用したことがあったが、あの時のひりつく感覚が全身に纏わりつく。
それらをねじ伏せて、一心不乱に槍を振るう。
一本目、二本目、三本目、四本目。
視界が霞む。
ジョンはもっと苦しかったはずだ。
五本目、六本目。
とうとうブースターが消失する。
問題ない、後は自由落下で対処する。
クライオニクスならそれくらいしてみせるはずだ。
——七本目。
ミサイルは、リングに落ちることはなかった。
過剰に魔力を消費し、脇腹に重傷を負ったヒートハウンドはロープに身体を支え、荒い息を吐いている。
勝敗は決した。
後は——。
装甲が、ひしゃげた。
「なっ……」
飛来物がジャスティスファイアに激突した。
ミサイルは全て打ち消したはずだった。
だが、ミサイルを撃った本体は未だ健在であり。
——ヒートハウンドの指示で急降下するフライフィアーに対処する余裕が、ジャスティスファイアには無かった。
耐熱性があり、防御性能もかなりの物を持つジャスティスファイアの装甲。
しかし、フライフィアーもまた耐久性はかなりのものを誇る。
急降下する鉄の塊と衝突したジャスティスファイアは一瞬意識を飛ばし
「ジャスティスッッッ!」
瞬時に復活する。
咥えた槍を放すこともない。
(このまま……地面に叩きつけられたら、不味い!)
槍を、フライフィアー・コピーに突き立てる。
——何も起きなかった。
魔槍は、あらゆる魔法を打ち消すが、全てを打ち消すわけではない。
ヒートハウンドの身体を炎に変える魔法を打ち消しても、魔法少女に変身する魔法は打ち消さなかったように、あるいはリング上でどれだけ振り回しても、リングにかかった各種の魔法が消えなかったことも。更に言えば、転送魔法そのものは打ち消さず、素直に千秋の元に届けられたことも。
消せる魔法と、消せない魔法がある。
コピーロイドが撃つ魔法は消せる対象だったが、コピーロイドが変身するフライフィアーそのものは消せる対象ではなかった。
(不味い、くそっ……このままじゃ、正義は、正義は、負けな——)
轟音が、ホールに響いた。
リングにクレーターが形成される。
中心地点で、ジャスティスファイアは四肢を力無く投げ出した。
落下の衝撃が全身を苛んだのだろう。
装甲のあちこちが罅割れ、破片が周囲に飛び散っている。
「……とんでもないことが起きてしまいました。
まさかのコピーロイドによる突進攻撃!
確かに魔法少女の頑強な肉体による突進は、下手な魔法よりずっと強力と言われていますが、まさか決まり手がこれになるとは思いませんでした!
炎系、犬系の熱戦。まさかの決まり手は体当たりです!
なんと、原始的な戦い、しかし意表をついた攻防でしょうか!
ヒートハウンドも疲労困憊の様子。脇腹を押さえる様子が痛々しいです。
治療班は直ちに来てください!
第一試合、勝者はヒートハウンド——」
「黙れ、猿。まだ勝負はついとらんではないか」
「ちょ、アリアさん! どう見ても決着ですよ!?
ジャスティスファイアは意識を失っています。ヒートハウンドも重傷ですよ!
いくら魔法少女でも、さすがにこれ以上は命の危機です!
試合は続行できません」
「それを決めていいのは貴様ではない。
天才である吾輩と」
と、アリアはリングの中の二人の魔法少女を指差す。
「喰らいあっている犬二匹だけだ」
(どうしよう……)
ヒートハウンドの表情に変化は無い。
しかし、その内心は不安が渦巻いていた。
あの槍は、危険だ。
ヒートハウンドの無敵性が容易く破られてしまう。
通常の殺し合いなら迷わず撤退を選んでいる。
だが、リングの外には出れない。
自分に匹敵する機動力を持つジャスティスファイアから、どれだけ逃げ回れるか。
(……分かっていた。私は、決して無敵の魔法少女じゃない。こういう相手が出ることも、想定していた……乗り越えないと、ご主人様を守れない)
自分より強い奴殺せないの、殺し屋として二流ネ。
敬愛する主人の言葉を思い出す。
リングに囚われるな。
麦は、ヒートハウンドは、闘犬ではない。
——猟犬だ。
主のために情け容赦なく相手に死の牙を突き立てる、意思を持った武器だ。
(私は、私たちは兵器です——そうでしょう、フライフィアー)
名簿と一緒に配布された[[マジックアイテム]]、多目的用コピーロイド死者の巻。死んだ魔法少女をコピーして隷属させられるこのアイテムを使い、ヒートハウンドは今しがた殺した魔法少女、フライフィアーを自身の武装に加えた。
フライフィアー・コピーの魔力消費はヒートハウンドが負担するが、生来燃費がいいため、今のところそこまで負担にはなっていない。
(さすがにミサイルは堪えたが)。
だが、ジャスティスファイアの虎の子のミサイルも、槍の前では無力化されてしまう。
どうする?
リング上の戦いでさえなければ、フライフィアー・コピーで空爆を実行するのだが。
(いや、できる)
リングの外に出てはいけないのは、決闘者だけだ。
だったら。
「ヒート、上空へ飛んでください」
指示通りにフライフィアーは空へと飛びあがる。
それを、槍を咥えた装甲犬——ジャスティスファイアは見守った。
積極的に動こうとしない敵の態度に、ヒートハウンドは疑問を覚えるが、ホールの天井付近までフライフィアー・コピーが浮上したことで、自らの仮説が証明されたことを知る。
フライフィアー・コピーは、あくまでアイテムであり、魔法少女にはカウントされない。
ならば、フライフィアーを攻撃が届かない場所まで飛ばそうと、それはナイフを空高く投げたのと同じ扱いであり、ペナルティは発生しない。
生前、フライフィアーは地下で死んだ。
『空の恐怖』は、その本領を発揮する前に退場した。
皮肉にも、下手人の手によってそれは果たされる。
◇
「さぁ、コピーロイドが空を飛んでいます。
ジャスティスファイアはこれを静観、何故彼女は動かないのでしょうか」
「鉄屑が扱っているのはかつて魔法の国に実在した英雄が、無敵の魔犬を倒したときに使った、伝説的武具。
はっきりってアーリア人ではない鉄屑に英雄的素養があるわけない以上、あれで何かを打ち消す度に魔力がごっそり持っていかれるんだ。
ジャスティスファイアはそれをヒートハウンドに悟られるのを嫌がり、積極攻勢に出ずに様子を伺ったのだ。
まぁお前には理解できないか、このレベルの話は」
「なるほど、そのような心理戦が展開されていたんですね。
さぁ、制空権を確保したコピーロイド。やはりミサイル攻撃を行うのか。
しかし、ミサイルは既に無効化されています。
ジャスティスファイアの魔力が尽きるまでミサイル攻撃を行うつもりなのでしょうか? えっと、ちなみにミサイルが爆発した場合、私たちってどうなるんですか?」
「心配することはない、リングの外に被害は発生しないようになっている」
「それなら安心です。……ちなみに、試合が終わり次第、メッセンジャー・ブルーさんという回復魔法のスペシャリストが待機しているんですよね。さすがに本当にデスマッチは洒落になりませんから」
「軟弱だな、ユーゲントのクソガキたちなら殺し合いにも眉一つ動かさないぞ」
「さぁ、ナチスジョークを飛ばすアリアさんは置いておいて、試合に注目しましょう」
◇
ヒートハウンドは、躊躇した。
今から自分が取る選択が本当に正しいのか、分からなかったからだ。
賭けである。
少しでも読みを外せば、ヒートハウンドは死ぬ。
このような状況でなければ、絶対に取らない手段。
(あくまで、無効化は槍の穂先に触れることで発動しているように見えた)
そうなれば広域を燃やし尽くす炎攻撃も、あるいは体を炎に転じる回避も、槍の前では極端に相性が悪い。
ならば、手は無いのか。
ある。
たった一つだけ、手は残っている。
「…………フライフィアー」
と、ヒートハウンドは偽装ではなく、真の名を呼んだ。
「ミサイル——」
「ジャスティスブースター、オン!」
ジャスティスファイアが動いた。
背中からブースターが出現し、点火。一瞬で加速し、ヒートハウンドに槍を振るう。
「くっ!」
牽制で展開する炎の壁を、槍は容易く突き破る。
ヒートハウンドは身体能力を駆使しその場を飛び退こうとして
「ぐぅっ……!」
脇腹を、槍が抉り取る。
咄嗟に身体を炎化したところで無駄であった。
それでも痛みを堪え、ジャスティスファイアから距離を取る。
同時に、指先の一部を炎化し——痛みに顔を歪めながらも、笑みを浮かべた。
(やはり、炎化出来ていないのは、穂先に触れている間だけ……!)
無効化は、永続効果ではない。
こちらに照準を合わせるジャスティスファイアと視線を合わせ、ヒートハウンドは、一つの宣告を下した。
空の恐怖への命令は、終了していない。
「——ばら撒け」
「了解」
——展開される魔法陣は、七つ。
降り注ぐのは、七発のミサイル。
ヒートハウンドに狙いを定めながらも、ジャスティスファイアは当然のように空へと飛んだフライフィアーを警戒していたのだろう。
それが、悪手となった。
自由落下する七発のミサイルに、一瞬呆気に取られる。
ミサイルに対処をするか。一刻も早く、ヒートハウンドにトドメを指すか。
迷いは、致命的な遅れとなる。
服を真っ赤に染め、顔を青白くさせながらヒートハウンドは手をジャスティスファイアに翳した。
「烟火(yānhuǒ)」
ジャスティスファイアの頭脳が瞬時に解を導き出す。ミサイルが到達する前に、ヒートハウンドの火炎放射が来る。
最初の攻防の火炎放射なら、槍を使わなくても装甲で防げる。
——という慢心を、ジャスティスファイアはしない。
このタイミングで撃って来る一撃は、ミサイルを優先して対処すれば即死させるような罠が張ってあるに違いないと、そう思わせる一撃だったからだ。
相手は素人ではない。確実に殺し合いに慣れた魔法少女。
浅慮からジョンを死なせ、慢心からクライオニクスの復活を許したのだ。
ヒートハウンドから放たれるはずの火炎放射を、ジャスティスファイアは槍で迎え撃ち。
——炎は、発射されなかった。
「しまっ……!?」
「私の、勝ちです」
ブラフ。
ジャスティスファイアは慌てて七発のミサイル無効化に意識を集中させる。
『USA! USA! USA!』
USA因子を全身に巡らせ、ジャスティスファイアは再び空へと舞いあがった。
「ジャスティスッ! ジャスティスッ! ジャスティスッ!」
吠えながら、槍を振り回す。
万が一爆発すれば、ジャスティスファイアとて大ダメージを負う。
それを分かっているからこそ、必死に槍を振るう。
ミサイルは、同時に展開された。
故に超高速で処理しなければ、取りこぼしたミサイルが着弾し、例え空を飛んでいようと一定の範囲までしか飛べない制限を課されているジャスティスファイアは巻き込まれる。
穂先に触れたミサイルは瞬時に無効化するが、同時にジャスティスファイアの魔力が持っていかれる。
枯渇する、とジャスティスファイアの身体が悲鳴を挙げている。
何度か実験で魔力を空にするまで運用したことがあったが、あの時のひりつく感覚が全身に纏わりつく。
それらをねじ伏せて、一心不乱に槍を振るう。
一本目、二本目、三本目、四本目。
視界が霞む。
ジョンはもっと苦しかったはずだ。
五本目、六本目。
とうとうブースターが消失する。
問題ない、後は自由落下で対処する。
クライオニクスならそれくらいしてみせるはずだ。
——七本目。
ミサイルは、リングに落ちることはなかった。
過剰に魔力を消費し、脇腹に重傷を負ったヒートハウンドはロープに身体を支え、荒い息を吐いている。
勝敗は決した。
後は——。
装甲が、ひしゃげた。
「なっ……」
飛来物がジャスティスファイアに激突した。
ミサイルは全て打ち消したはずだった。
だが、ミサイルを撃った本体は未だ健在であり。
——ヒートハウンドの指示で急降下するフライフィアーに対処する余裕が、ジャスティスファイアには無かった。
耐熱性があり、防御性能もかなりの物を持つジャスティスファイアの装甲。
しかし、フライフィアーもまた耐久性はかなりのものを誇る。
急降下する鉄の塊と衝突したジャスティスファイアは一瞬意識を飛ばし
「ジャスティスッッッ!」
瞬時に復活する。
咥えた槍を放すこともない。
(このまま……地面に叩きつけられたら、不味い!)
槍を、フライフィアー・コピーに突き立てる。
——何も起きなかった。
魔槍は、あらゆる魔法を打ち消すが、全てを打ち消すわけではない。
ヒートハウンドの身体を炎に変える魔法を打ち消しても、魔法少女に変身する魔法は打ち消さなかったように、あるいはリング上でどれだけ振り回しても、リングにかかった各種の魔法が消えなかったことも。更に言えば、転送魔法そのものは打ち消さず、素直に千秋の元に届けられたことも。
消せる魔法と、消せない魔法がある。
コピーロイドが撃つ魔法は消せる対象だったが、コピーロイドが変身するフライフィアーそのものは消せる対象ではなかった。
(不味い、くそっ……このままじゃ、正義は、正義は、負けな——)
轟音が、ホールに響いた。
リングにクレーターが形成される。
中心地点で、ジャスティスファイアは四肢を力無く投げ出した。
落下の衝撃が全身を苛んだのだろう。
装甲のあちこちが罅割れ、破片が周囲に飛び散っている。
「……とんでもないことが起きてしまいました。
まさかのコピーロイドによる突進攻撃!
確かに魔法少女の頑強な肉体による突進は、下手な魔法よりずっと強力と言われていますが、まさか決まり手がこれになるとは思いませんでした!
炎系、犬系の熱戦。まさかの決まり手は体当たりです!
なんと、原始的な戦い、しかし意表をついた攻防でしょうか!
ヒートハウンドも疲労困憊の様子。脇腹を押さえる様子が痛々しいです。
治療班は直ちに来てください!
第一試合、勝者はヒートハウンド——」
「黙れ、猿。まだ勝負はついとらんではないか」
「ちょ、アリアさん! どう見ても決着ですよ!?
ジャスティスファイアは意識を失っています。ヒートハウンドも重傷ですよ!
いくら魔法少女でも、さすがにこれ以上は命の危機です!
試合は続行できません」
「それを決めていいのは貴様ではない。
天才である吾輩と」
と、アリアはリングの中の二人の魔法少女を指差す。
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