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vsメンダシウム 8 - (2024/03/03 (日) 11:07:05) のソース
ガーゴイルは、決して強力なエネミーではない。スラグソウルと違い一般人が勝てる相手ではないが、それでも魔法少女なら、一対一なら問題なく勝てる相手だ。 ただそれはあくまで一対一の話。 10体になれば大苦戦は免れない。 100体ともなれば死ぬしかない。 そして、メンダシウムが操るガーゴイルの数は 「10000体だ♠ さぁどうするティターニア♡」 「決まってる……!」 ティターニアは剣を掲げる。 既に制限は解除されている。 消費魔力増大。火力制限。その他ゲームを公平にするために課せられたあらゆる制限が解除される。 ——全力全開。 莫大な魔力が大剣に収束し、黄金に光り輝く。 高密度の魔力は空間にも影響を与えていた。 大気が振動し、メンダシウムに与えられた塔の内壁が崩れていく。 ティターニアの口から血が零れた。 自らの全力に肉体強度が限界を迎えている。 「受けてみなさい、私の全身全霊の一撃を」 太陽のような輝きがガーゴイルを照らす。 圧倒的な光の奔流を前にして、メンダシウムは不敵に微笑んだ。 それは被虐の快楽でも、嗜虐の悦楽でもなく——互いの魔法をぶつけ合う、戦闘者としての興奮によるものだった。 一万体のガーゴイルが光へと殺到する。 それを呑み込むように、剣が振り下ろされる。 「『スーパー・マジカル・ストラッシュ』!」 その技名はどうなんだ、とツッコミを入れる前に、文字通り全力の一撃が、世界全てを塗りつぶすかのような魔力の奔流が降り注ぐ。 10000体のガーゴイルが光の中に消えていく。 「う、うわぁあああああ」 魔法王の城が揺れた。 ああああはバランスを崩し転倒する。 「あんなのぶっ放せるならもうティターニアが優勝でいいんじゃないすか」 「さすがにあにまん市ではここまでの大火力を出せないように制限されてるさ。魔法王は誰にでもチャンスがある殺し合いを望んでいるからね。誰が優勝するか分からないというのがデスゲームの醍醐味だよ」 紅茶を飲みながらパンデモニカは楽し気に言う。 「さて、メンダシウム、君は楽しんでいるかな」 光が消えた時、1万体のガーゴイルは全て消滅していた。 相対するのはたった二人。 膝をつき、肩で息をするティターニアと。 タキシードを汚しながらも未だ健在のメンダシウム。 「まさか一万体を一撃で消し飛ばすとはね♦ 初めてだよ、ここまで分身を一度に消費したのは」 そう言って、メンダシウムは自らを掻き抱きながら、身体をくねらせた。 「この一気に魂の総量を削られる感じ、癖になりそうだ……♡」 「ただ……♧」 「今ので魔力を使い切ったようだね、ティターニア♠」 「それは……あんたも同じ、でしょ」 膝を震わせながらティターニアは立ち上がる。 塔の底。 ティターニアとメンダシウムは相対する。 「ここからは、肉弾戦よ」 「ふふふ……♠ それも愉しそうだけどね」 残念だよ、ティターニア。 「私の勝ちだ♠」 メンダシウムが指を鳴らす。 チチチチチチチチチチチチチチチチチチチチチ……。 虫の羽音のような音が周囲に響く。 思わずティターニアは上を見上げた。 「……嘘でしょ」 「——私の総力は1万体と、いつ言ったかな♦」 「私の総力は、10万体だ♠」 「メンダシウムは、強いよ」 観戦しているパンデモニカが、談話室に居る他の魔法少女に語り掛ける。 「彼女を完全に殺そうと思ったら私も手持ちの悪魔総出でかからないといけないからね。質なら私の悪魔たちだけど、量による制圧なら彼女に分がある」 そもそもバランスを取る必要が無いんだよね♪ とパンデモニカはお道化た調子で言った。 「参加者間はある程度対等であるべきだ。その方が観ている私たちも愉しいし、儀式としての強度が増す」 「儀式……?」 ああああの問いかけにパンデモニカはおっと、これは君たちにはまだ秘密だったかなと肩を竦めた。 「まぁゲームが進行すればおいおい分かるさ。 私が何を言いたいかというと、参加者間はバランスを取る必要があるが——運営と参加者間にバランスを取る必要なんか無いってことさ。 メンダシウムがムキになっただけで、本来私たちは参加者と直接戦わないんだからね。 だから、バランスなんて取る必要が無い」 簡単だよ、とパンデモニカは言った。 「私、メンダシウム、そして『彼女』は——単独で全参加者を相手取れる。 ティターニアは市内最強で、恐らく参加者の中でもトップクラスの実力者だけど——私たちから見ればただの小娘さ。地区大会の優勝者が世界王者に喧嘩を売るようなもの。 後は、メンダシウムがどこで満足するかだ。 運営の一人としては参加者を減らして欲しくはない……」 腕の一本程度で許してあげて欲しいけどなぁ、とパンデモニカは笑った。 ゲーム開始より〇年前、某所 「ティターニア? あのゴリラ女かい? あにまん市最強なんて言われているあの脳筋剣士?」 「最強最強と一部で持てはやされているけれど、そう大した女じゃないよ。僕様なら攻略法は無限に思いつく。何しろ僕様は全知全能だからね」 「……確かにマジカル・ストラッシュなんてクソ技を浴び続ければ、僕様の全知全能はそのうち魔力不足で使えなくなる。その点は認めるよ、僕様は謙虚だからな。 でも、そんなのまともに浴びなければいいだろ? 避ければいいし弾けばいいし防げばいい。発動前に潰せばいいし、発動前に相手の魔力を削ることだって出来る。 突出した最強でみなければ、他と隔絶した強さを持つ存在でもない。僕様みたいな天の理を外れた存在じゃない。ただ一つの時代、一つの街の暫定的かつ相対的最強さ。 じゃあ、どうしてこの前は痛み分けに終わったか、だと? ……別に、ちょっと対処を間違えただけだ。 何度も言うけど、ティターニアの対人性能は大したことがない。 もしもう一度戦えば100%僕様が勝つさ。わざわざそんなことはしないがね、僕様忙しいし。 ただねぇ、前回の僕様が採った手段が、非常に不味かった。 もし、『君』がティターニアと戦うのなら、アドバイスは一つ」 「……物量作戦は、マジでやめときな」 ティターニアの剣に、光が収束していく。 剣が黄金に光り輝く。 圧縮された魔力により、大気が振動する。 「……何だと?」 ティターニアの魔力は空になったはずだ。いくら諸々の制限から解放されたからといって、一万体のガーゴイルを消し飛ばす程のビームを放ったのだ。 メンダシウムのように【数百年単位】で魔力を貯め込んでいるわけではない。 「何故、もう一度撃てる……?」 「私の全力全開、パート2……!」 「矛盾したことを言うな……!」 余力を残していたのか。 そんなはずはない。 確かにさっきの一撃は、ティターニアの全力だったとメンダシウムの観察眼が告げている。 全力の一撃を二回も撃てるはずがない……! だが、事実としてティターニアの大剣は黄金に光り輝いている。 そして 「『スーパー・マジカル・ストラッシュ』!」 光の奔流がガーゴイルを焼き尽くす。 太陽のような輝きと共に、一万体のガーゴイルは消し飛び、メンダシウムもまた、一気に一万体の魂を失う。 「ぐっ……だ、だが、残り8万体! 限界を超えて二連撃したことは称賛に値するが、ここまでだよティターニア♠」 ティターニアが剣を掲げる。 ——光が収束する。 「——は?」 何故三回も撃てる? 全力全開とは何だったのか。 眼前で展開される異常事態にメンダシウムは開いた口が塞がらなかった。 「『スーパー・マジカル・ストラッシュ』は、私の全身全霊の一撃。ビームが当たった対象の魔力を消し飛ばし ——消し飛ばした魔力の分だけ私に魔力が補充される」 「そんな出鱈目な……!」 「だから、マジカル・ストラッシュで倒し続ける限り、私に魔力切れは発生しない。 喰らえ、私の全力全開、パート3! 『スーパー・マジカル・ストラッシュ』!」 三撃目。 予定調和のようにガーゴイルが消滅していく。 自らの魂が消滅していくのを感じながら、メンダシウムは焦燥感に焼かれていた。 (ふざけるな、ふざけるなよ……くそっ、私とこいつの相性は最悪だ!) メンダシウムの頭脳が高速で回転する。 悪魔と契約し魔法少女になって数百年。 あまりにも便利な魔法性能と、長年の研鑽によって、メンダシウムは相手に勝つために思考を回すという習慣が抜け落ちていた。 その頭脳はもっぱら自らの快楽を満たすために使われていたため。 それが、動く。 数百年ぶりの、自分の死を予感し、生存のために動き続ける。 (このままガーゴイルを展開していてもティターニアの魔力リソースにされるだけだ。だったら……) 一度全魂を本体に回収する。 そして本来の力を取り戻した本気メンダシウムはティターニアに肉弾戦を 仕掛け勝利する。 戦闘技術ではあちらが上でも数百年分貯め込んだ魔力によって身体性能は隔絶するはず。圧倒的フィジカルで叩き潰す……! メンダシウムは腕を掲げた。 今まで分散していた魂を全て集めようとし 「何だあれは……?」 上を見上げ、固まった。 ティターニアは理論上、無限にマジカル・ストラッシュを撃てる。例えガーゴイルの数が億になろうが兆になろうが、理論上は問題なく勝利できる。 理論上は。 (きっつ……ぐぅううう、全身が痛い!) スーパー・マジカル・ストラッシュを撃つ度に、反動が肉体に来る。 骨が軋み、臓器に負担がかかり、視界が霞む。 (撃てるのは後、一、二発……いや、違う) メンダシウムは強い。 彼女が魔法王配下で最強なのか、それとも幹部Aに過ぎないのか。それは分からない。分からないが、彼女をここで倒さねば自分の教え子、仲間、無辜の人々に多くの犠牲が出るということは分かる。 (私の命に代えても……こいつはここで倒す!) 恐らく全てのガーゴイルを倒しメンダシウムを終わらせたとき、自分も死んでいる。 ティターニアはその事実を受け入れる。 (こいつと、ここで刺し違える) 決意と共に、ティターニアは全身全霊パート4を放とうとし。 上を見上げ、ポカンと口を開けた。 「何あれ……?」 ゲーム開始より〇年前、魔法の国、犯罪取締局 「ティターニア? 知ってるわよ。あにまん市の魔法少女でしょ。めちゃくちゃ強いことで有名とか」 「千秋とどっちが強いって? いや普通にティターニアでしょ? 剣からビームとか出すんでしょ? そんなガンダムみたいな女とは戦いたくないわ。私なんて、砂になるだけだから」 「魔法少女の中で最強か、ですって? さぁ、それはどうなんだろ? 魔法少女にも色々いるし、まぁまぁ強い方なのは事実なんじゃない? そのビームって具体的にどんな感じなの」 「……へぇ、魔力を消し飛ばす。それはかなり厄介な魔法ね。純粋な火力は? はぁ、ビルを消し飛ばせる。それは何というか、私の知る限り『二番目』に火力の高い魔法少女ね」 「え、一番じゃないのかって?」 「うーん、まぁ知っている魔法少女に、火力バカがいるからね。 戦闘経験値とか小技はまだまだ未熟だから捕まえることはできたけど」 「でも純粋な火力はドン引きものだったわ」 「そうね、ティターニアの火力をガンダムに例えるなら、彼女の火力はきっと……」 「イデオン」 「ガハハハハハハハハハハハハハハハハ! 何だこの数は! まさか俺様のために用意してくれたのか!? 俺様への供物か!? いいだろう! こんな壊しがいのある石像軍団用意されて、壊さなきゃデストロイヤーの名が廃るぜ! 行くぜ、俺様の全力全壊!」 「『千郷インパクト』!」 天城千郷。得意魔法『魔力を溜め込んでおけるよ』。魔力を制限なくチャージすることが出来る。応用で他人の魔法を吸収してチャージすることも出来る。魔力は小出しに放出する事も可能、ビームのようにも剣の形に固定する事も可能、変身前に戻ってもチャージした分は消えない。 1ヶ月分の魔力を放出すると地図が変わるレベルの威力が出る。現在9ヶ月と8日分の魔力がチャージされている。 地図が変わるレベルの威力とは具体的にどの程度の威力を指すのか。 例えば太平洋戦争末期に行われた沖縄戦では「鉄の暴風(Typhoon of Steel)」と称されるほどの艦砲射撃が行われ、地形さえ変わってしまったという。この時撃ち込まれた砲弾の数は6万発と記録されている。 つまり、天城千郷が一か月分の魔力を放出すると戦艦の砲弾6万発に匹敵するエネルギーが放出されることになる。 そしてゲーム開始時に、千郷が貯め込んでいた魔力は、9か月分である。つまり、千郷がその全エネルギーを解放すれば戦艦の砲弾54万発に匹敵するエネルギーに匹敵する。 もし千郷が学生街の廃ビルで全魔力を解放すれば太平洋戦争当時の米軍戦艦の艦砲射撃54万発を撃ち込まれたのと同程度の破壊が学生街に発生する。 当然、そんな魔法は殺し合いでは制限の対象である。会場が消し飛んでしまえば殺し合いどころではないからだ。 もしゲームの中で千郷が全魔力を解放しても、大型ショッピングモールが区画ごと消滅する程度まで劣化しているだろう。 ——だが、それは会場であるあにまん市での話。 メンタジウムによって制限は解除された。 ティターニアが本来の力を発揮しているように、千郷もまた、本来のポテンシャルを発揮する。 超高濃度の魔力が集積し、一つの巨大な武器を形作る。 現れるのは、巨大ハンマー。 千歳はそれを、躊躇いなく振り下ろした。 「お前は呼んでないぞ!」 メンダシウムは怒りの声を上げながら、その場を離れようとする。 上から降ってくる魔法が絶望的な魔力を秘めていることは分かる。 この場に居れば巻き込まれることも。 (くそっ、ティターニアとの戦いは仕切り直しだ!) 死の予感に身を震わせ、そのことに屈辱を感じながらメンダシウムは別の場所にワープしようとし その腹部に大剣が突き刺さった。 「ガッ……!」 大剣が突き刺さったままメンダシウムは吹き飛び、壁に串刺しとなる。 「ぐううう……ティターニアアアアアア!」 どさくさに紛れて自分に大剣を投げつけた下手人に怒りの声を上げるが、当の本人は背を向けて全力で逃走していた。 「馬鹿なっ、この私が、このメンダシウムが……!」 運営側の魔法少女でもトップクラスの実力者であり、数百年を生き魔力を蓄え、この殺し合いでも愉悦を享受する側の自分が。 「こんな序盤で……! そんな馬鹿なっ……!」 メンダシウムの悲鳴——快楽ではなく、本気の悲鳴が塔に響いたが それは千歳インパクトによって生じる轟音によって掻き消された。 地球が爆発した、とああああは思った。 それほどの光と音が談話室を襲い。衝撃波と錯覚するほどの振動が訪れた。 「うおおおおおおおおおおお『拒絶』!」 慌ててああああは魔法を発動し、自分に襲いかかるはずだった衝撃を弾く。 「いったい何があったんすか! 何がどうなって!」 「ふむ」 とパンデモニカは割れた窓から外の様子を伺う。 「面白いことになっているな」 「お、面白いこと?」 「覗いてみろ、ああああ」 言われた通り、ああああは窓の外を覗き。 「メンダシウム様の塔が、消し飛んでいる……!」 スーパー・マジカル・ストラッシュにも耐えたはずの塔が、影も形も亡くなっている。 「いったいどんな魔法を……!」 「まったく参ったな、このゲーム……」 パンデモニカは頭を掻いた。 「面白過ぎるだろ……!」 圧倒的な大破壊の中で、ティターニアは生きていた。 (あー、死ぬかと思った……) 逃げ場所は無かった。 元々メンダシウムと刺し違えるつもりだったが、生きられるなら生きていたい。 ティターニアが採った手段、それはマジカルストラッシュを大剣に纏わせ、自分に降り注ぐ破壊の奔流を魔力ごと消し飛ばすことで身を護るというものだった。 元々の大剣をメンダシウムを逃がさないために使ってしまったので、一から再構成することになり、元々疲労の限界を迎えている状態でそれはかなりの苦痛だったが、何とかやり遂げた。 「さて、せっかく会場の外に連れてこられたんだし——このまま魔法王ぶった斬るか」 「そうはいかないよ、ティターニア♦」 「っ!」 ティターニアは振り返った。 タキシードをボロボロにし、顔を青白くしながら、それでもメンダシウムが立っている。 「いい加減、しつこいわよ……」 「ククク……相手が嫌がってもねちっこく責めるのも好きなんだ♠」 いかにしてメンダシウムは破壊から逃れたのか。 逃げることさえ封じられたメンダシウムは、それでも出来ることをした。 少しでも自分の近くに居るガーゴイルから強制的に魂を回収。 結果として破壊が自分の元に到達する前に4000余りの魂を回収し、自己の教科に回すことが出来た。 千歳インパクトの対象が、ガーゴイルの群れであり、メンダシウムを狙ったものではないことも幸運だった。 あくまで余波なら、ギリギリで耐えきれる。 「お互い、満身創痍だね♦ ……さぁ、最終決戦と行こうじゃないか!」 「望むところよ……!」 メンダシウムの手にエネルギーが凝縮される。 ティターニアが剣を構える。 メンダシウムは、妖しく笑った。 (さようなら、ティターニア♧ ここまで私のプレイに付き合ってくれたのは、君が初めてだよ♡ だが、さよならだ) ティターニアの背後に、音も無く忍び寄る影がある。 山田浅悧。否、今の彼女は慈斬。 殺し合いの内通者であり、メンダシウムの操り人形。 千郷がティターニアが落ちた穴からここまで来たように、慈斬もまた落ちてきていた。 「ヒャハ」 ティターニアが虚を突かれたように振り返る。 脇差が翻り。 白刃が煌めいた。 「え……?」 メンダシウムは呆然とそれを見送った。 自身の袖口が切り裂かれている。 慈斬が脇差を投擲したのだ。 (馬鹿な……慈斬は私の支配下に置かれていたはず……) 魂を分け与え、自らの眷属にしていたのだ。 メンダシウムの命令なら絶対服従であり、メンダシウムの意思通りに……。 「私は、貴女が作った分身」 「なっ……!?」 いつからそこに立っていたのか。メリア・スーザンが、チョーカーとドレスの魔法少女がメンダシウムから少し離れた場所に佇んでいる。 「私は、貴女の一部。私は貴女」 「お前……!」 「山田さんには、私が命令を下しました。——『メンダシウム』を殺せ、と」 「馬鹿がっ……! 私が死ぬとお前も……!」 「私の名前はメリア・スーザン……趣味は読書で日課は人助け、好きなものは正義で、嫌いなものは悪……そういう風に、貴女は私を作った」 メリア・スーザンは儚げに笑った。 「だったら、私が何を優先するかなんて、分かり切っているでしょうに……」 「………………参ったね」 メンダシウムは肩を竦めた。 「まさか、自分に殺されるなんて、何て屈辱……」 メンダシウムは空を見上げた。 暗雲が立ち込めている。 「まったく、最低の死に方だ……♡」 斬。 慈斬の魔法、「かならず首をはねられるよ」が、メンダシウムの魔力抵抗を突破し、実行される。 宙を舞うメンダシウムの首は、微かに微笑していた。 それを見届け、メリア・スーザンもまた、その場に崩れ落ちる。 「メリア……!」 ティターニアは慌てて彼女を抱きかかえた。 慈斬はそれを見つめ、 「ヒャハハハハハハハ」 笑いながらどこかへと駆けていく。 メリアによって操作されているのか、あるいは彼女の意思によるものなのか。 ティターニアは知る由もない。 「貴女、何て馬鹿なことを……っ」 「いいんです、私は私の為すべきことをしましたから……。 私は正義の魔法少女、そういう設定だから……」 「そんなの関係ないっ……貴女は貴女じゃない……!」 「あはは、そうですね、私は私……」 メリア・スーザンに記憶は無い。 あるのは、与えられた設定とこの殺し合いの記憶だけ。 たった二時間。 「私なんて、最初から居なかった……」 「貴女の名前は、メリア・スーザン」 ティターニアは力強く断言する。 「私と一緒に戦った、大切な仲間よ」 「…………えへへ、ありがとうございます、ティターニアさん」 メリア・スーザンはくすぐったそうに笑い——粒子となって消滅した。 ティターニアは、立ち上がった。 仲間を失ったことは初めてではなかった。 そして、これからも仲間を失っていくのだろう。 心のどこかで、理解している。 だから。 「許さない」 「私から仲間を奪う奴を、私は絶対に許さない」 大剣に光が収束していく。 切っ先が向かうのは、魔法王の城。 「『スーパー・マジカル・ストラッシュ』!」 怒りと共に、剣から光の奔流が放たれる。 「へぇ、面白いじゃないか」 割れた窓から、此方に向かって伸びるビームを眺め、パンデモニカは楽し気に笑った。 「さようなら、メンダシウム。——君を魔法少女にしたのは、正解だったよ。 そして」 「へ?」 パンデモニカは、ああああの首根っこを掴む。 「残念だよメンダシウム。ゲームはここから面白くなるのにさぁ!」 そう言って、パンデモニカは、スーパー・マジカル・ストラッシュ目掛けて、ああああを投げつけた。 「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああっ!」 ミサイルのようにスーパー・マジカル・ストラッシュに突っ込んでいくああああ。 「畜生畜生畜生ッ、どうして私がこんな目に、あいつら、みんなくたばれくたばれ! あああああああああああああああああああああっ! 『拒絶』!」 ああああがスーパー・マジカル・ストラッシュに触れた瞬間、光の奔流は弾け飛んだ。 拡散されたエネルギーが花火のように魔法王の城を彩る。 ああああは城壁に落下し、生じる痛みを何とか『拒絶』すると、ティターニアに顔バレするのを防ぐため、いつも以上に帽子を目深に被り直した。 「弾かれた……っ!」 ティターニアは悔し気に唸る。 城の一画から雄叫びを上げて飛び出してきた一人の魔法少女が、ビームに難なく対処してみせた。 「メンダシウム以外にも強敵揃いってわけね……」 第二の刺客は、帽子を目深に被り、城壁からこちらを見下ろしている。 人の必殺技を無効化しておいて、何と余裕に満ちた態度か。 ぐっ……と上から引っ張られる力を感じた。 どうやら、魔法王の城に滞在できる時間は終わったようだ。 これも魔法王の魔法によるものなのか。 空中に浮かび上がりながら、ティターニアは剣先を城へと突きつけた。 「覚えておけ、お前らは一人残らずこの私が退治する。精々首を洗ってまっとけ! 今度は全滅させてやる! 後そこの帽子のお前! 勝った気でいるなよ! マジで次会ったときはぶっ殺してやるからな!」 目の前で仲間を失った怒りが、ティターニアから大人の余裕を奪っていた。 子どものように罵りながらティターニアはあにまん市へと、殺し合いの舞台へと帰還する。 同じように慈斬も、千郷もあにまん市へと帰還していく。 かくしてイレギュラーだらけの戦闘は幕を下ろした。 主催の中核人物の一人、メンダシウムは死亡し、魔法王の城の一部は消し飛び、殺し合いの舞台では発動できない大火力魔法が飛び交った。 「さて、これが前哨戦になるのか、あるいは君たちの最初で最後の勝利だったのか」 割れた窓から身を乗り出し、パンデモニカは哄笑した。 「お楽しみは、これからだ!」 &color(#F54738){【メンダシウム 死亡】} &color(#F54738){【『メリア・スーザン』 死亡】} &color(#F54738){【残り 41人】}