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第二試合を終え - (2024/11/19 (火) 03:04:20) のソース
魔法少女、ジャック・ザ・リッパーにとって、世界は概ね都合が良いものであった。 ジャックは、天才だ。凡そあらゆることは何でも器用にこなすことができ、そこに努力を要さない。 それでも、自らの性癖——好みの女を殺し、美しく加工すること——は社会に受け入れられるものではなく、本来ならばその天才性を持っても破滅を免れることは無かっただろう。 殺人の偽装に天性の才能があるといっても、限度はある。 19世紀のロンドンならともかく、21世紀の日本で殺人などそうそう隠蔽は出来ない。 ましてや、この世界には『魔法少女』が存在する。 例えジャックが警察の捜査力を上回る偽装能力があったとしても、推理も道理も捻じ曲げる魔法の前では無力だ。 殺人性癖を持って生まれた時点で、彼女は詰んでいた、ともいえる ——魔法少女に覚醒しなければ。 魔法少女、ジャック・ザ・リッパー。 彼女の魔法は、『なんでも武器に変えられるよ』。 触れた物を自身の魔力で侵食し自身の武器にする、なんなら自由に操れる。 ——これは、殺したばかりの死体も該当する。 かくして彼女は、魔法少女でも容易には捕まえられない存在となった。 殺人性癖を持ち、それを偽装できる才覚がある。更には殺人という悪行を重ねたことで『悪魔』に気に入られ、魔法少女へと至る。この世には因果応報など存在しない、悪魔は居ても神や仏は居ないことを示すような、そんな半生。 殺し合いという極限状況に放り込まれたときにはさすがに罰が当たったかと当人も思ったが、実際にはどちゃくそ好みの魔法少女と遭遇するというラッキーイベントが発生する。 とことん、この世界はジャックに都合が良い。 七海真美の友達になりながら、内心ジャックは自らの幸運と、自分に加護を与えてくれているに違いない、神に感謝を捧げた。 人生はとても楽しい。きっともっと楽しくなる。 ——結局のところ、天才であろうと、魔法少女であろうと、殺人鬼であろうと、思春期の少年少女が抱く『全能感』から逃れることは出来ないという、ただそれだけの話だった。 そして、多くの者がそうであるように、ジャックもまた、[[夢から醒める]]時がやってくる。 二次元好きの匿名さん24/04/23(火) 01:37:34 ジャックは天才だけどそこそこ強いうちの一人でしかないよなぁ 規格外ではないしなんなら真美ちゃんと戦っても勝てなかったかも… 「何……これ……」 七海真美が粒子化していく。 どうして? 知っている。魔法少女は死ぬと光の粒子に変わるのだ。だが、ジャックの魔法なら粒子化を防ぎ、死体として使役できる。つくづくこの世界はジャックに都合が良い。だから早く、この邪魔な金網を切り裂いて、真美の下へ。 「いや……違う、そうじゃなくて……」 どうして七海真美が死んでいる? 彼女はもうジャックのものだったはずだ。 あらゆる汚れからジャックが守るはずであるし、最期はジャックの胸の中で息絶えるはずであった。 あんな、よく分からない緑髪のクソガキに横取りされるなど、あっていいはずがない。 「え……あれ……どういうこと?」 上手く現実を認識できない。 そんなはずはない。ジャックは天才だ。物事を認識し理解する能力は人より優れている。 そうだ。理解は出来ている。 七海真美とテンガイはリングで戦って。 テンガイが勝利し、七海真美は死亡した。 単純明快な、事実。 「………………ぁ」 ジャックは、放心して観客席に腰を落とした。 テンガイへの怒り、守り切れなかった自責、魔法王への憎悪。 全てが、追いつかない。 人生最高の魔法少女に出会い、味わうことなく奪われた。 ——そんなこと、考えたことが無かった。 暫定1位に置いており、死ぬまでにやりたいことリスト第一位だったティターニア殺し。 そのティターニアを上回る圧倒的な輝きを誇る存在に出会うことも、それを奪われることも、昨日までのジャックは、想定していなかったのだ。 それは、多くの犠牲者と、その遺族を絶望に追い込んできた彼女が、初めて自らで味わった瞬間だった。 観客席から沼地周辺まで戻されても、ジャックは立ち上がろうとしなかった。 今までの人生でこれほどまでに傷つけられたことは無かった。 (……どうするべきなの?) と、ジェイルフィッシュは自問する。 彼女の心もまた、怒りと悲しみで荒れ狂っていた。 いくら大人びていても、訓練学校に通う才媛でも、目の前で友達が殺されたことなど、あるはずがない。 それでも、思考を回せたのは、チームを組んでいるジャックが、ジェイルフィッシュを遥かに上回るほど悲痛に暮れていたからだ。 ——七海真美は友達だった。とてもいい子だった。祐樹に会わせてやってもいいと思える程度には信頼していた。 だが、会って六時間程度の仲、というのも事実なのだ。 これが宮島家の面々なら、きっとジェイルフィッシュの心は折れていた。 致命的な傷は付いていない。 だから、今後のことが考えられる。 二次元好きの匿名さん24/04/23(火) 02:03:17 でもジェイルフィッシュちゃん肝心の宮島一家からは割とガチ目に嫌われてんだよね 既に家族として認めてるミアを部外者扱いする態度が好感度下げてるのかなー? 小さい子供ってそういうの敏感だからなー (テンガイは、団地に居るの。梟はそう言っていたし、ミストアイからも確認を取っているの。 テンガイは強い。けど真美っちとの戦いで疲労は溜まっているはず。 二人の戦闘は私には高度過ぎてよく理解できなかったけど……真美っちがテンガイを追い込んでたのは分かる。 だったら、回復される前にテンガイを討ちに行くべきなの) テンガイは、団地に人を集めようとしていた。 あの梟の言葉を聞けば、優勝狙いだけでなく、正義感の強い魔法少女もテンガイを倒すために団地を目指すだろう。 ならばジェイルフィッシュは団地を目指しつつ、他の正義感の強い魔法少女と合流、テンガイが弱っているという情報を共有するべきだ。 そこまでは、分かる。悩むことなどない。 問題は。 (『ジャック・ザ・リッパー』……普通、魔法少女名に実在の殺人鬼の名前は付けないの) 魔法少女名は、必須ではない。七海真美も、まだ思いつかない……という理由で名乗っていなかった。 基本的には自ら決めるものだし、あるいは師匠や友人、中には魔法国の役人に決めてもらう者もいる。 その、どの例でも、『ジャック・ザ・リッパー』という名前は物騒すぎる。 (単に露悪趣味なだけかもしれない……。けど、伊達や酔狂じゃないとしたら……) 事実として、裂華は魔法少女名を秘匿していた。 ——詰問するべきか。 (けど、そんなことをしている場合じゃないとも思うの) 今優先するべきは、テンガイを倒し、真美の仇を取ることだ。 ここでジャックという戦力と潰し合いを行い、返り討ち、あるいは相討ちとなってしまえば、テンガイは弱っている、という重大情報を誰にも伝えられなくなってしまう。 ジェイルフィッシュが勝ったとしても、無傷とはいかないだろう。今までの言動からジャックが戦闘に自信を持っていることは何となく察することが出来たし、観客席でもコートの裏からナイフを取り出していた。 ジャックが魔法少女名を隠していたことが事実なら、この六時間、ジェイルフィッシュや真美を襲っていないことも事実なのだ。 (でも、テンガイとの激闘の最中に牙を向かれたら溜まったもんじゃないの……) 地雷は先に処理しておくべきか。 それともテンガイを倒すまでは放置するか。 ジェイルフィッシュの出した結論は……。 ◇ リングから団地の一室に戻っても、テンガイは臨戦態勢を崩さなかった。 先の一戦が観客にどういう印象を与えたのか、テンガイはよく理解している。 (他の参加者に僕様の実力を見せつけてテンガイ・ラッシュに乗らせるつもりが………とんだ裏目に出たな) 恐怖で屈服させたミストアイ。 だが、それは一時的なものだ。元々はいきなり狙撃してくるやべー奴。 テンガイが弱ったと思い、反撃をしてくる可能性は大いにあった。 だが、部屋の中にミストアイの姿は無い。 リングに召喚されるまでは同じ部屋に居たのだ。 (逃げたか……いや、それとも) 距離を取って再び狙撃をするつもりなのか。 時間を操る魔法は無事だが、今あれを発動してしまうと、いよいよ魔力が枯渇する。 凌ぐなら他の手段だ。 (というか、この団地に留まるべきか……? 僕様は会場中に自分の居場所をバラしている。 僕様のメッセージを聞いた奴らが続々と集まって来るかもしれない) つい数時間前ならともかく、今はバトルをなるべく避けたい。 (僕様も団地から逃げるか……? けどなぁ……) プライドもある。だが、もしバーストハートの心臓を持ってきた者が居たならば。 今の状態から、テンガイは一気に超越者の域へと押し上げられる。 (心臓が届くのを待つべきか……) テンガイは、悩み、一つの結論を下した。 ◇ ミストアイは走っていた。 深夜の時間帯にトリックスターと金が走ったように。 息を切らして団地の中を駆ける。 (どうする?) テンガイは、弱った。 それは、各個たる事実のはずだ。 既に十分な距離を取れた。後はテンガイの部屋まで狙撃を。 (けど、もし失敗したら。捕まったら今度こそ殺されるかも……) 怖い、と思う。 既にミストアイはテンガイを格上と認めてしまっている。 魔法はイメージが重要な要素占める、テンガイに勝つ自分を、上手く想像できない。 逃げたのは間違いだったか。 否、逃げるのはいい。そこまではいい。 けれど、もう一回狙撃するのは悪手だ。 あの子のように、七海真美のように殺されてしまう。 テンガイを倒すのは、観客席に居た、ジャックやジェイルフィッシュに任せればいい。 七海真美の顔が、脳裏にちらつく。 「……無理だ、私は、君みたいにはなれない……」 もし勇気があるのなら……テンガイの命令で魔法少女を一人始末する前に発揮するべきだった。 もう遅い。自分は人を殺めることより保身を選ぶと、ミストアイは自らに証明してしまった。 狙撃手は団地の外に出て、後ろを振り返った。 かつての自分が行ったように、一方的に命を奪う一撃が訪れることはなかった。