魔法少女ハイエンド、本名姚莉鈴(ヤオ リーリン)は、演武を行っていた。
下腹部を膨らませ、静かに呼吸する。重心を左足から右足へ動かしながら、脱力させた両腕をふわりと動かす。太極拳、単鞭(ダンビエン)。職業凶手(殺し屋)である彼女は、仕事の前にこうした精神統一を欠かさず行っていた。
下腹部を膨らませ、静かに呼吸する。重心を左足から右足へ動かしながら、脱力させた両腕をふわりと動かす。太極拳、単鞭(ダンビエン)。職業凶手(殺し屋)である彼女は、仕事の前にこうした精神統一を欠かさず行っていた。
(魔法王……)
今回の依頼主について思う。
(たった43人殺して何でも願いが叶う。報酬としては破格ネ。見たところ、私より強いの何人か居たけど、問題ナイヨ。自分より強い奴殺せないの、凶手失格ネ)
正面から戦わなくても、殺し方は色々ある。一武道家としては手合わせを願いたいところもあるが、仕事ならば我慢しよう。
(けどね、魔法王。お前、二つミスを犯してるヨ……)
月光に照らされながら、ハイエンドは流水の如く演武を続ける。もし彼女を目撃する者があれば、その動きの洗練ぶりに息を呑むだろう。魔法によるものではなく、純粋な鍛錬によって得た技術。
(一つは、依頼の前に相談無かったことネ。殺しの世界もビジネス。一方的なのは駄目ヨ。前払い金が無いのもマイナス……)
殺し合いの一参加者として放り込まれたことは、ハイエンドのプライドを大きく傷つけていた。
もし仮に、彼女が事前に魔法王から打診を受け、ジョーカーとして参加していたら彼女は大いにその技術を奮ったことだろう。
魔法王、クライアントとして信用できない。
その時点で、既にハイエンドはやる気を削がれていた。
だが、それだけならまだ良かった。
問題なのは、二つ目の理由。
もし仮に、彼女が事前に魔法王から打診を受け、ジョーカーとして参加していたら彼女は大いにその技術を奮ったことだろう。
魔法王、クライアントとして信用できない。
その時点で、既にハイエンドはやる気を削がれていた。
だが、それだけならまだ良かった。
問題なのは、二つ目の理由。
(魔法王……お前)
呼吸が乱れる。抑えきれない激情が、太極拳による精神の抑制を以てしても、抑えきれず、噴き出す。
「どうして麦ちゃん参加させてるッッッ!」
怒号と共に放たれた一撃は、大木に命中し、根本から破砕させた。
麦……ハイエンド、姚莉鈴のペットである。
かつてハイエンドが窮地に陥った時に魔法少女に覚醒し、その後は犬モードと魔法少女モードを切り替えながら、一緒に楽しく暮らしている。
『ご主人様は悪人じゃありません! ご主人様は良い人です! ご主人様を狙う奴らは危険人物なので、許しておけません!』
麦……ハイエンド、姚莉鈴のペットである。
かつてハイエンドが窮地に陥った時に魔法少女に覚醒し、その後は犬モードと魔法少女モードを切り替えながら、一緒に楽しく暮らしている。
『ご主人様は悪人じゃありません! ご主人様は良い人です! ご主人様を狙う奴らは危険人物なので、許しておけません!』
そんな忠犬ぷりを示す、ハイエンドの大切な人。
家族同然の存在。
それを魔法王は許可なく拉致し、殺し合いに放り込んだのだ。
絶対に許しておけない。
家族同然の存在。
それを魔法王は許可なく拉致し、殺し合いに放り込んだのだ。
絶対に許しておけない。
「お前、映画観たことないアルか? 殺し屋の犬に手を出すと死ぬ、これ裏社会の常識ヨ?」
優勝は目指さない。麦と合流し、ゲームを破壊し——魔法王を殺す。
ハイエンドはそう決意した。
ハイエンドはそう決意した。
「さて、麦ちゃんはどこに居るか……ひとまず、あそこに行ってみるネ」
ハイエンドが足を向けたのは、アニマ精神病院。既に病院としての機能は放棄され、ただの廃墟……あるいは、何らかの実験が行われているという怪談の舞台としての役割しか持たされていない場所。
ハイエンドは静かに山道を歩きだした。
ハイエンドは静かに山道を歩きだした。
◇
くるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるる……。
くるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるーん。
チャカポコチャカポコチャカポコチャカポコ…………………………。
魔法ヲ持った女ノ子は、自殺しなければなりませェん。
生きてるだけで罪だから、自殺しなければなりませェん。
殺人も災害も虐殺も、人災も天災も戦災も、いじめも万引きも痴漢も詐欺も横領も誘拐も恐喝も暴走も恐喝も不正も略取も、解決できない魔法少女は、自殺しなければなりませェん。
生きている魔法少女は、責任を以て自殺しなければなりませェん。
そうして、魔法少女が居ない綺麗な世界になって。罪のない世界になって。
そこに、私は種を植えます。
種から私が生えてきます。
世界は私で包まれます。
清い世界です。
純粋な世界です。
世界は私だけになります。みんなが私で、私がみんなです。
違いなんかいらないんです。
花は世界に一つだけでいいんです。一つの花が世界を覆うべきなんです。
水星も火星も金星も木製も土星も天王星も海王星も、仲間外れの冥王星も、出来ているのに。
地球だけが駄目駄目です。
魔法少女が、邪魔なんです。
居ない方がいいんです。
だから、全ての魔法少女は自殺しなければなりませェん。
それが出来ないのなら、命を自らで絶てないのなら——私がお手伝いをしてあげます。
私はアリス。
アリス・イン・ワンダー・オブ・ザ・デッド。
不条理で狂った世界の、たった一人の正常者。
くるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるーん。
チャカポコチャカポコチャカポコチャカポコ…………………………。
魔法ヲ持った女ノ子は、自殺しなければなりませェん。
生きてるだけで罪だから、自殺しなければなりませェん。
殺人も災害も虐殺も、人災も天災も戦災も、いじめも万引きも痴漢も詐欺も横領も誘拐も恐喝も暴走も恐喝も不正も略取も、解決できない魔法少女は、自殺しなければなりませェん。
生きている魔法少女は、責任を以て自殺しなければなりませェん。
そうして、魔法少女が居ない綺麗な世界になって。罪のない世界になって。
そこに、私は種を植えます。
種から私が生えてきます。
世界は私で包まれます。
清い世界です。
純粋な世界です。
世界は私だけになります。みんなが私で、私がみんなです。
違いなんかいらないんです。
花は世界に一つだけでいいんです。一つの花が世界を覆うべきなんです。
水星も火星も金星も木製も土星も天王星も海王星も、仲間外れの冥王星も、出来ているのに。
地球だけが駄目駄目です。
魔法少女が、邪魔なんです。
居ない方がいいんです。
だから、全ての魔法少女は自殺しなければなりませェん。
それが出来ないのなら、命を自らで絶てないのなら——私がお手伝いをしてあげます。
私はアリス。
アリス・イン・ワンダー・オブ・ザ・デッド。
不条理で狂った世界の、たった一人の正常者。
◇
山道を難なく登り、チャイナドレスを翻しながら、ハイエンドはアニマ精神病院の前に立った。
(見るからに、もう使われてない場所ネ……)
ハイエンドは訝し気に駐車場……の跡地のような場所に目を向ける。
ハイエースが一台泊まっている。
廃棄されているわけでないことは、車の外観から把握できる。
ハイエースが一台泊まっている。
廃棄されているわけでないことは、車の外観から把握できる。
(……廃墟といっても、普通は管理人いるはず。けど、夜中にわざわざ来る、おかしいヨ……)
ハイエンドは音も無くハイエースに近づくと、中を覗き込む。
(……中に荷物残ってる。乗って来た奴、軽装で出て行ったよう。何が目的? 車内の雰囲気から裏社会の奴じゃないネ。精々チンピラ……いや、車内の装飾から、強さを誇示する類の奴じゃない。十中八九若いパンピー。何しに……)
「肝試し、カ? 暇な奴もいるもんだヨ。日本人勤勉なの嘘ネ」
呆れたようにハイエンドはハイエースから離れる。
そしてそのまま興味を失い、彼女はアニマ精神病院に足を踏み入れた。
そしてそのまま興味を失い、彼女はアニマ精神病院に足を踏み入れた。
「さて、麦ちゃんがここに来てるか確認ネ。麦ちゃんも私を探してるはずヨ。誰かに虐められてないほしいね」
と、廊下の奥からこちらに向かって近づくてくる影が1つ。
ハイエンドは目を細める。
——微かに魔力を感じる。
弱小だが、恐らく魔法少女。
ハイエンドは目を細める。
——微かに魔力を感じる。
弱小だが、恐らく魔法少女。
「私ゲーム乗ってないヨ。お前、ゴールデンレトリバー、あるいは犬耳の魔法少女観なかったカ? 情報くれたら金払うヨ」
「魔法少女……」
現れた魔法少女は、足を止める。
胡乱な目つき。
歳は10代後半。
胡乱な目つき。
歳は10代後半。
(正気じゃないカ? ここ精神病院だけどとっくに廃業してるのは見ればわかるヨ)
魔法少女は小声でぶつぶつと何かを呟いていたが。
「魔法少女は——殺す!」
タイルが割れるほど強く床を蹴り、一瞬でハイエンドに肉薄する。
魔法少女は、基本的に常人の数倍の身体能力を得る。
それは大型の猛獣、あるいはそれ以上の身体スペックも備えることを意味している。
トラックさえひっくり返すであろう衝撃。
振り上げた両腕は、人体を容易く挽肉に変えるだろう。
突如出現した脅威に対して、ハイエンドは
魔法少女は、基本的に常人の数倍の身体能力を得る。
それは大型の猛獣、あるいはそれ以上の身体スペックも備えることを意味している。
トラックさえひっくり返すであろう衝撃。
振り上げた両腕は、人体を容易く挽肉に変えるだろう。
突如出現した脅威に対して、ハイエンドは
「你死亡(お前が死ね)」
眉一つ変えず、掌打を顎に打ちこんだ。
衝撃を、そのまま返された形となった魔法少女は、ごきりと首がへし折れる。
そのまま魔法少女は勢いを殺せぬまま、ごろごろと床を転がり、壁に当たることでようやく静止した。
相手を一撃で即死させたハイエンドは、無造作に死体を一瞥すると
そのまま何事も無かったかのように病院の散策を続けようとし。
衝撃を、そのまま返された形となった魔法少女は、ごきりと首がへし折れる。
そのまま魔法少女は勢いを殺せぬまま、ごろごろと床を転がり、壁に当たることでようやく静止した。
相手を一撃で即死させたハイエンドは、無造作に死体を一瞥すると
そのまま何事も無かったかのように病院の散策を続けようとし。
「あ、あああ、ああああああああああああああああ!?
殺しちゃったねェ、罪深いねェ……」
殺しちゃったねェ、罪深いねェ……」
不気味な声に、再び足を止める。
(死体が喋っているわけではないようネ。もう一人がどこに潜んでいるカ……)
「向こうの方から仕掛けてきたヨ。私、殺し合い乗ってない。無駄なことしない主義ネ」
「くすくすくすくすくす……」
きぃいいいいいいいいいい、と診察室の扉が軋んだ音を立てて開かれる。
現れたのは、やはり魔法少女。
白髪に、身体のラインが見える程に薄い布地のワンピースの様なものを纏った、ハイエンドと同年代に見える少女。
くすくすくすくすくす……とまるで童女のように、少女は笑った。
現れたのは、やはり魔法少女。
白髪に、身体のラインが見える程に薄い布地のワンピースの様なものを纏った、ハイエンドと同年代に見える少女。
くすくすくすくすくす……とまるで童女のように、少女は笑った。
「私はアリス……」
「アリス・イン・ワンダー・オブ・ザ・デッド……」
「ハイエンド。本名は秘密ヨ」
「ハイエンド……貴女は人を殺したわ……」
「正当防衛ネ。私、悪くないヨ」
「いいえ、貴女は悪い魔法少女よ……だって、見てみなさい……」
アリスは、病的なまでに白い指を、先ほどハイエンドが殺した死体に向ける。
ハイエンドは素直にもう一度死体を一瞥する。
ハイエンドは素直にもう一度死体を一瞥する。
(……粒子化しない? それにこれは……)
魔法少女は変身を解除している。そこ居たのは、首の骨を歪に曲げて死んでいる、若い男である。
(男が魔法少女……? 聞いたことないヨ……)
「その人はねぇ、魔法少女じゃなかったの」
「何?」
「私がねぇ、魔法少女にしたの……」
くすくすくす……とアリスは可笑しそうに笑う。
「その男の人は、ここに肝試しに来てたのよ。それを私が捕まえて血を飲ませたのよ。」
「血?」
「私の体液を摂取した者はね、魔法少女になるの。それも、私の命令を一つだけ聞いてくれる、素敵な魔法少女に……」
(……厄介な能力ネ)
ハイエンドは、眼前の女への警戒を引き上げる。
身体強化魔法に特化しているのみのハイエンドに比べて、魔法の性能はあちらが上だ。
身体強化魔法に特化しているのみのハイエンドに比べて、魔法の性能はあちらが上だ。
「可哀そうな男の人。貴女に殺意なんか無かったのに。殺し合いとは何の関係もない一般人だったのに。貴女が、殺してしまったのよ……」
「それがどうした? 正当防衛には違いないネ」
「うふふ……これを見ても、まだそんなことが言えるかしら」
アリスの背後から、幽鬼のようにぞろぞろと、魔法少女たちが現れる。
現れたのは、五人。
皆、胡乱な表情でぼんやりと虚空を眺めている。
現れたのは、五人。
皆、胡乱な表情でぼんやりと虚空を眺めている。
「一つ、いいことを教えてあげる。この五人の中には、年端も行かない子供も紛れているわ……。愛と勇気の魔法少女が、その手を血で汚した魔法少女が、これにどう対処するのかしら……」
さぁ、悪夢を始めましょう。
アリスが指を鳴らす、同時に、五人の魔法少女が一斉にハイエンドに殺到し。
すぅ、とハイエンドの足が円を描く。
手も流麗に、見る者の心を奪うほど美しく動き
アリスが指を鳴らす、同時に、五人の魔法少女が一斉にハイエンドに殺到し。
すぅ、とハイエンドの足が円を描く。
手も流麗に、見る者の心を奪うほど美しく動き
「墳ッ!」
掌打が、魔法少女の顔に命中する。哀れな犠牲者の頭部が、柘榴のように崩壊する。
続いて、背後から迫る魔法少女に、体軸を回転させて向き合い。腕で螺旋の回転を作る。
続いて、背後から迫る魔法少女に、体軸を回転させて向き合い。腕で螺旋の回転を作る。
「迎面掌ッ!」
大砲の直撃を浴びたかのように、魔法少女は爆散する。
その隙を突くかのように、二人の魔法少女が側面から迫り、
その隙を突くかのように、二人の魔法少女が側面から迫り、
「蓋掌ッ!」
頭頂部を掌で押され、床に顔面を叩きつけ、脳髄を飛び散らせる。
残った一人は、未だハイエンの両腕の間合いに入っていなかった。
身体能力に個体差があったのか、あるいは恐怖が命令さえを塗りつぶしたのか。
残った一人は、未だハイエンの両腕の間合いに入っていなかった。
身体能力に個体差があったのか、あるいは恐怖が命令さえを塗りつぶしたのか。
「邪ッ!」
ハイエンドは瞬時に棍を出現させ、五人目の魔法少女を殴打した。
首を胴体にめり込ませたまま、魔法少女は仰向けに倒れる。
それは、僅か一瞬の出来事だった。
棍を出現させた以外、魔力の消耗すらしていなかった。
首を胴体にめり込ませたまま、魔法少女は仰向けに倒れる。
それは、僅か一瞬の出来事だった。
棍を出現させた以外、魔力の消耗すらしていなかった。
「……………………」
アリスは目を見開いて、口をぽかんと開けていた。
やがて、変身が解除され、魔法少女に変化させられた哀れな犠牲者が、本来の姿を取り戻す。
五つの死体。その中には、20代の男たちに混じって、一人だけ10代中頃の少年のものもあった。
ぴくりと、少年の指が動く。
——まだ、この少年だけは、辛うじて生きている。
やがて、変身が解除され、魔法少女に変化させられた哀れな犠牲者が、本来の姿を取り戻す。
五つの死体。その中には、20代の男たちに混じって、一人だけ10代中頃の少年のものもあった。
ぴくりと、少年の指が動く。
——まだ、この少年だけは、辛うじて生きている。
「……ハイエンド、貴女まさか誰が子供か見抜いて……何という偽善」
「ん」
無造作に、少年の頭部にハイエンドは踵を落とした。
僅かに生を繋いだ少年は、頭部を粉砕され、完全に静止する。
病院内を、沈黙が覆った。
僅かに生を繋いだ少年は、頭部を粉砕され、完全に静止する。
病院内を、沈黙が覆った。
「……人殺し」
アリスは憎々し気に、吐く。
「どうして、あの少年を殺したの? もう、変身は解除されていたのに……」
「お前の能力、人間を魔法少女に変える、違うか? ——生かしておいて、また変身されたら面倒ネ」
「く、狂ってる……!」
ぎりりりり、とアリスは歯を軋ませる。憎悪を込めた表情で、ハイエンドを見る。
「ま、魔法少女は愛と勇気の象徴なの……! 世界をより良くするための救世主なの……! じ、人類の原罪をは、晴らす、光でなくては、ならない……」
「お前、何言ってる? 魔法は相手を殺す手段の一つネ」
「ま、魔法少女が、魔法少女がそんなことだから、世界はこんなにも汚く澱んで狂って歪んでいる……! 貴女だって、罪悪感があるはず……! ひ、人を殺しておいて、何も思わないはずがない、そんな魔法少女が居ていいはずがない! 魔法少女を増やす私と、魔法少女を殺す貴女! どちらが正しい、どちらが正常! どちらが世界にとって有益な存在か……」
「そんなことはナン・ノブ・マイビジネス。世界のことなんかどうでもいいヨ。私は個人の利益を追求させて貰うネ」
「ぐ、ぐぎぎぎぎぎぎぎぎ…………」
アリスは自らの顔に爪を立てた。
赤い線が、彼女の顔に刻まれる。
そしてアリスは——脱兎の如く、ハイエンドに背を向けて逃げ出した。
赤い線が、彼女の顔に刻まれる。
そしてアリスは——脱兎の如く、ハイエンドに背を向けて逃げ出した。
「逃げる駄目。お前はここで死ぬヨ」
ハイエンドは魔法陣から双手剣を出現させると、アリスに向かって投げつける。
その剣は。
その剣は。
「むっ……」
肉壁によって防がれる。
新たな魔法少女が、アリスとハイエンドの間に出現していた。
それだけではない。
ぎぃいいいいいい。
ぎぃいいいいいい。
ぎぃいいいいいい。
次々と、ドアを軋ませて、魔法少女たちが姿を表す。その数は、30を優に越している。
新たな魔法少女が、アリスとハイエンドの間に出現していた。
それだけではない。
ぎぃいいいいいい。
ぎぃいいいいいい。
ぎぃいいいいいい。
次々と、ドアを軋ませて、魔法少女たちが姿を表す。その数は、30を優に越している。
「随分と準備がいいナ」
殺し合いが始まって1時間も経たずにこれだけの兵隊を……。
ハイエンドの中でアリスへの評価を上方修正する。
あるいは、何かハイエンドの知らない絡繰りがあるのか。
ハイエンドの中でアリスへの評価を上方修正する。
あるいは、何かハイエンドの知らない絡繰りがあるのか。
「まぁいい。本体殺したらたぶん止まるよ」
そう言って、ハイエンドはアリスを追い始める。
進行を妨害するように立ち塞がる魔法少女を一撃で即死させながら、病院を血と臓物で汚しながら、ハイエンドは進む。
今宵、アニマ精神病院は——悪夢と化した。
進行を妨害するように立ち塞がる魔法少女を一撃で即死させながら、病院を血と臓物で汚しながら、ハイエンドは進む。
今宵、アニマ精神病院は——悪夢と化した。
◇
「逃げたか……」
2時間後。
病院内の全ての魔法少女を殺戮したハイエンドは病院を出ながら不愉快そうに頭を掻いた。
病院内は、死屍累々となっている。人間だけでなく、猫や犬、烏や蜥蜴といった生物の死体も混じっている。
本来の魔法少女ではないからか、それらは光の粒子となって消えることなく残り続けている。
病院内の全ての魔法少女を殺戮したハイエンドは病院を出ながら不愉快そうに頭を掻いた。
病院内は、死屍累々となっている。人間だけでなく、猫や犬、烏や蜥蜴といった生物の死体も混じっている。
本来の魔法少女ではないからか、それらは光の粒子となって消えることなく残り続けている。
「厄介な魔法ネ……」
逃げる際の身のこなしから、本人の実力はそう大したことがないと分かる。
ただ、血を飲ませれば誰でも魔法少女に出来る(おまけに操り人形化)というのは、全体攻撃(?)の手段が乏しいハイエンドにとって、鬱陶しいことこのうえない。
病院での殺戮でも魔力消費はほとんどないが、群がる雑魚を殺し続けるのは、かなり面倒くさい。
途中で魔力が切れたのか、あるいは別の要因か、魔法少女化は解除されていた。
何人かの人間は訳が分からないと言った様子で、周囲の状況に惑い、返り血で濡れたハイエンドに恐怖し——直後にハイエンドによって命を絶たれた。
一度変身した以上、再び変身してもう一度襲いかかって来る可能性があるので、必要な処置だった。
どぼどぼどぼ……とハイエースに積まれていた水を頭から被る。
街に降りたらシャワーを浴びたい。服は変身を解除すれば元通りになるが、体に突いた汚れはそういうわけにはいかない。
ただ、血を飲ませれば誰でも魔法少女に出来る(おまけに操り人形化)というのは、全体攻撃(?)の手段が乏しいハイエンドにとって、鬱陶しいことこのうえない。
病院での殺戮でも魔力消費はほとんどないが、群がる雑魚を殺し続けるのは、かなり面倒くさい。
途中で魔力が切れたのか、あるいは別の要因か、魔法少女化は解除されていた。
何人かの人間は訳が分からないと言った様子で、周囲の状況に惑い、返り血で濡れたハイエンドに恐怖し——直後にハイエンドによって命を絶たれた。
一度変身した以上、再び変身してもう一度襲いかかって来る可能性があるので、必要な処置だった。
どぼどぼどぼ……とハイエースに積まれていた水を頭から被る。
街に降りたらシャワーを浴びたい。服は変身を解除すれば元通りになるが、体に突いた汚れはそういうわけにはいかない。
(さて……)
果たして追いついて殺すまでに、アリスという魔法少女はどれだけ血をまき散らすのか。
どれだけ兵隊を増やすのか。
どれだけ兵隊を増やすのか。
(最悪の場合——この街の人間を皆殺しにする必要が出てくるネ……それはさすがに面倒すぎるヨ)
まぁ日本人1億人居るヨ、数万人死んでも誤差ネ。
そんな冗談とも本気ともつかない言葉を呟きながら、ハイエンドは病院を後にしたのだった。
そんな冗談とも本気ともつかない言葉を呟きながら、ハイエンドは病院を後にしたのだった。
◇
アリスは、否、変身を解除した柩枢(ひつぎ くるる)は、山中を彷徨っていた。
「許せない……許せない……許せない……! 魔法少女への冒涜、冒涜! あんな悪人が、魔法少女なんて……!」
世界には、不条理が満ちている。それを正せるのは、魔法少女だけである。そして、枢こそが、魔法少女である。
そんな風に、彼女は幼少期から信仰していた。全てのものには理由がある。ならば、世界に悪が満ちているのは、枢が正すためである。そうでなければ、悪が存在するはずがない。
いつか、ハリーポッターにホグワーツから手紙が届いたように、自分にも魔法少女の知らせが来る。妖精がやって来る。魔女がやって来る。あるいは、別の魔法少女が……。そんな風に夢見心地で、小学生活を過ごし、中学生になって。
焦る。
まだ来ない。
来る気配が無い。
もう十三歳。
児童文学の主人公たちはとっくに旅に出ているはずなのに。
どうして? 今こうしている間にも戦争が起きて、災害が起きて、人がたくさん死んでいるのに、世界で悪が跳梁跋扈しているのに。どうして枢は魔法少女になれないの。
きっと足りないんだ、想いが足りていないから、迎えが来ないんだ。
だったら証明しないと。想いを証明しないと。
ある夏の日の夜、枢は飼っていた黒猫を殺した。魔法少女の使い魔みたいだと幼い頃両親に飼ってもらい、大切に育ててきた猫だった。殺して、蘇生しようとして、出来なかった。
きっと、あれがこの世界が不条理だと気づける、最後のチャンスだった。
当時の枢は気づけなかった。間違っているのは自分だと思ってしまった。
そんな風に、彼女は幼少期から信仰していた。全てのものには理由がある。ならば、世界に悪が満ちているのは、枢が正すためである。そうでなければ、悪が存在するはずがない。
いつか、ハリーポッターにホグワーツから手紙が届いたように、自分にも魔法少女の知らせが来る。妖精がやって来る。魔女がやって来る。あるいは、別の魔法少女が……。そんな風に夢見心地で、小学生活を過ごし、中学生になって。
焦る。
まだ来ない。
来る気配が無い。
もう十三歳。
児童文学の主人公たちはとっくに旅に出ているはずなのに。
どうして? 今こうしている間にも戦争が起きて、災害が起きて、人がたくさん死んでいるのに、世界で悪が跳梁跋扈しているのに。どうして枢は魔法少女になれないの。
きっと足りないんだ、想いが足りていないから、迎えが来ないんだ。
だったら証明しないと。想いを証明しないと。
ある夏の日の夜、枢は飼っていた黒猫を殺した。魔法少女の使い魔みたいだと幼い頃両親に飼ってもらい、大切に育ててきた猫だった。殺して、蘇生しようとして、出来なかった。
きっと、あれがこの世界が不条理だと気づける、最後のチャンスだった。
当時の枢は気づけなかった。間違っているのは自分だと思ってしまった。
(飼い猫一匹じゃ、想いが弱すぎる)
……結果として枢は両親とクラスメイトを皆殺しにした。
失敗すれば全てが終わりの、だからこそ絶対に成功するはずの、強い想いになるはずだった。
——何も起こらず、枢は女子刑務所に収監された。
この世界に魔法なんて無いと、枢は悟った。
その悟りが間違いだったと気づくのは、それから一か月後のことである。
この世界は不条理である。正せるのは枢だけだ。
だから、他の魔法少女は、いらない。
失敗すれば全てが終わりの、だからこそ絶対に成功するはずの、強い想いになるはずだった。
——何も起こらず、枢は女子刑務所に収監された。
この世界に魔法なんて無いと、枢は悟った。
その悟りが間違いだったと気づくのは、それから一か月後のことである。
この世界は不条理である。正せるのは枢だけだ。
だから、他の魔法少女は、いらない。
「どうして……どうしてあんな奴が、魔法少女にぃいいいいいいいいいいいいい!」
呪詛を吐きながら枢は山を降りる。
手あたり次第に血を飲ませ、眷属の魔法少女を大量に作った。普段なら何てことない作業なのに、何故か今日に限っては異常な疲労感を覚えた。
少しでも魔力を回復させるために変身を解除し、枢は山中を彷徨う。
全ての魔法少女を殺し、世界を自分の生み出した魔法少女で染め上げる。
そんな狂った、されど強い想いを抱いて、枢は山を降り、街を目指す。
手あたり次第に血を飲ませ、眷属の魔法少女を大量に作った。普段なら何てことない作業なのに、何故か今日に限っては異常な疲労感を覚えた。
少しでも魔力を回復させるために変身を解除し、枢は山中を彷徨う。
全ての魔法少女を殺し、世界を自分の生み出した魔法少女で染め上げる。
そんな狂った、されど強い想いを抱いて、枢は山を降り、街を目指す。