【ぐぬぬ……恐るべきハーゲンダッツのアイス……! 夜中なのに買っちゃった😱
でも冷たいからゼロカロリーだよね✨
ファンの皆も今からコンビニ行って、メリィと同じアイス食べよっ🥰
アンチはその辺の草でも食ってろ👎 】
でも冷たいからゼロカロリーだよね✨
ファンの皆も今からコンビニ行って、メリィと同じアイス食べよっ🥰
アンチはその辺の草でも食ってろ👎 】
「っし、投稿、投稿っと……」
逢魔愛裏が、殺し合いでまずやったことはSNSへの投稿だった。
現実逃避をしているわけでも、現状を理解できないお馬鹿さんというわけではなく、愛裏は14歳とは思えない聡明さで現状を理解している。
その上でまずやるべきことは何かと考え、SNSへの投稿であると結論づけた。
現実逃避をしているわけでも、現状を理解できないお馬鹿さんというわけではなく、愛裏は14歳とは思えない聡明さで現状を理解している。
その上でまずやるべきことは何かと考え、SNSへの投稿であると結論づけた。
(メリィは有名インフルエンサー。殺し合いが始まってメリィの投稿が止まったら、「あ、こいつ殺し合いの参加者だな、魔法少女だな」ってバレちゃうじゃん!)
もちろん、有名インフルエンサーメリィの正体が、魔法少女ナイトメア★メリィであり殺し合いの参加者であることが分かったとしても、更にその正体が中学生男子、逢魔愛裏まで容易にたどり着けるとは思っていない。顔出しはしていないし、身バレするような投稿もしていない。
しかし、相手は魔法少女。なんてことない写真から素性をゲットしたり、あるいは写真やアカウントを通して遠呪いじみた遠隔攻撃……なんて可能性もある。魔法少女は何でもアリだ。
「はぁっー、まじだるいっつーの」
ちなみに愛裏の現在地は、自宅のベッドだ。
部屋から一歩も出ていない。ハーゲンダッツも昨日買ったものだ。
部屋から一歩も出ていない。ハーゲンダッツも昨日買ったものだ。
「なんで僕みたいな弱小魔法少女を参加させるんだよ……まったく」
魔法少女ナイトメア★メリィのスペックは、参加者でもトップクラスに弱い。
というか得意魔法『ネットの海にダイブできるよ 』は戦闘において直接的に活用できる魔法ではない。
相手の得意魔法を知ったところでメリィのスペックではそれに対処できないからだ。
もし今回のゲームが地下トーナメントルールだったらリリィは序盤退場まったなしだった。
が、今回のゲームはバトルロワイアル。それも、孤島などの閉鎖空間ではなく、(出ることは禁止されているが)一つの街が舞台である。ならば、リリィの持つ情報は、他者をサポートできる大きな力となる。
というか得意魔法『ネットの海にダイブできるよ 』は戦闘において直接的に活用できる魔法ではない。
相手の得意魔法を知ったところでメリィのスペックではそれに対処できないからだ。
もし今回のゲームが地下トーナメントルールだったらリリィは序盤退場まったなしだった。
が、今回のゲームはバトルロワイアル。それも、孤島などの閉鎖空間ではなく、(出ることは禁止されているが)一つの街が舞台である。ならば、リリィの持つ情報は、他者をサポートできる大きな力となる。
(さて、僕は誰と組むべきかな……)
一方的に知っている何人かの魔法少女を脳内でリストアップしながら、同時に先ほどの投稿に噛みついてきたアンチとの死闘を開始するべく愛裏の指は高速で動き始めた。
◇
10歳になる少年、宮島祐樹は唐突に目を覚ました。
一年生のときに買ってもらったピカチュウの置時計は、0時半を指している。
いつもならぐっすりと眠っている時間。
悪夢を見たわけでも、ジュースの飲みすぎでトイレに行きたくなったわけでもない。
どうして? と祐樹は頭を働かせる。
と、部屋の外から物音がした。
姉の部屋からだ。
姉が起きたのだろうか。それとも
一年生のときに買ってもらったピカチュウの置時計は、0時半を指している。
いつもならぐっすりと眠っている時間。
悪夢を見たわけでも、ジュースの飲みすぎでトイレに行きたくなったわけでもない。
どうして? と祐樹は頭を働かせる。
と、部屋の外から物音がした。
姉の部屋からだ。
姉が起きたのだろうか。それとも
「……ミア?」
姉の部屋で寝ている居候の女性、ミア。
何か悪い組織に捕まっていた(詳しくはわからないが、とても悪いところらしい)けれど逃げ出してきて、宮島家で匿っている。
そして、ミアが変身して魔法を使えるということは家族だけの秘密だ。
祐樹自身、魔法というものがどういうものなのか、よく分かっていないが、とにかく魔法が使えるミアがすごいということは分かっている。
姉の部屋が、静かに開く音がする。
そして足音が階段をゆっくりと降りていく。
何か悪い組織に捕まっていた(詳しくはわからないが、とても悪いところらしい)けれど逃げ出してきて、宮島家で匿っている。
そして、ミアが変身して魔法を使えるということは家族だけの秘密だ。
祐樹自身、魔法というものがどういうものなのか、よく分かっていないが、とにかく魔法が使えるミアがすごいということは分かっている。
姉の部屋が、静かに開く音がする。
そして足音が階段をゆっくりと降りていく。
(ミア……トイレかな?)
結城自身、夜中に起きてしまったら必ずトイレに行く。【おねしょ】なんて、1年生で最後だが、未だにその恐怖と羞恥は祐樹に刻まれているのだ。
姉を起こさないよう、そっとドアを開けて、下に降りていく。
「あれ、ミア?」
トイレに向かったと思っていたミアがおらず、祐樹は目を丸くする。
その時、玄関で鍵を開ける音がした。
胸騒ぎを覚えた祐樹は玄関まで走った。
ミアは既に靴を履いて、玄関口に立っているところだった。
その時、玄関で鍵を開ける音がした。
胸騒ぎを覚えた祐樹は玄関まで走った。
ミアは既に靴を履いて、玄関口に立っているところだった。
「ミア、こんな時間にどこ行くの?」
「祐樹くん……」
いつもの悲し気な顔でミアは振り返る。
そして、ミアらしくない、明るい笑みを見せた。
そして、ミアらしくない、明るい笑みを見せた。
「実は、頼りになる魔法少女と連絡が取れまして……」
「えっ、魔法少女ってミア以外も居るの!?」
「実はそうなんです。それでですね……しばらくその魔法少女の所でお世話になろうと思うんです」
「じゃ、じゃあもう帰って来ないの? これでお別れ?」
「……いいえ、必ず帰ってきますよ。もし皆さんが良かったらですけど……」
「当たり前じゃん! ミアももう家族の一員なんだよ」
「家族、ですかぁ……えへへ……」
ミアはくすぐったそうに笑った。
「祐樹くん、前に話したことを覚えていますね? 私のことは誰にも言ったらいけないですよ。お友達にも秘密です」
「夏実にも? たぶんあいつ、秘密守るよ」
「夏美ちゃんにも、です。悪の組織はどこに目を光らせているのか分からないので……」
そう言って、ミアは祐樹に背を向ける。
「……ねぇミア、帰ってくるよね。約束だからね」
「…………ええ、きっと帰ってきますよ」
では、行ってきます……と言って、ミアは行ってしまった。
「……ねぇ祐樹、ミアが部屋に居ないんだけど……何があったの?」
階段から降りてきた2歳年上の姉、優香に祐樹はミアが出かけたことを説明しようとして、何故か不安が胸をつかえて言葉が出せなかった。
◇
繁華街の裏路地を、一人の少女が歩いている。
濡羽色の長髪を翻し、アホ毛をぴょこんと立たせた、大人びた顔つきの少女。
名を、桐生ヨシネ。
あにまん市南部に位置するこの歓楽街は歌舞伎町や西成に匹敵する程の治安の悪さであり、日が沈んだ後に、ここを通れば、普通の少女はただでは済まない。
にも関わらず、桐生ヨシネは堂々と、まるで自分こそがこの歓楽街の王であるかのように歩いている。
と、少女が征く道を、塞ぐように立つ、屈強な男が二人。
二人とも頭をスキンヘッドにしており、タンクトップから伸びる腕は入れ墨、歪に膨らんだポッケからは、ナイフの柄がちらついている。
濡羽色の長髪を翻し、アホ毛をぴょこんと立たせた、大人びた顔つきの少女。
名を、桐生ヨシネ。
あにまん市南部に位置するこの歓楽街は歌舞伎町や西成に匹敵する程の治安の悪さであり、日が沈んだ後に、ここを通れば、普通の少女はただでは済まない。
にも関わらず、桐生ヨシネは堂々と、まるで自分こそがこの歓楽街の王であるかのように歩いている。
と、少女が征く道を、塞ぐように立つ、屈強な男が二人。
二人とも頭をスキンヘッドにしており、タンクトップから伸びる腕は入れ墨、歪に膨らんだポッケからは、ナイフの柄がちらついている。
「お嬢さん、そこ止まりな」
「家出少女かな? お家を探してるのか?」
言われた通りに、ヨシネは立ち止まる。
そして、強い意志が込められた瞳で、男たちを見上げる。
「おお、怖い」
「睨んでる顔も可愛いねぇ」
「泊まるところがないなら俺たちの家に来ないかい?」
「当然宿代は払ってもらうけどね」
「普通なら一泊10万円だけど、なんと今ならボボパン6時間コースで一泊できるよ」
「追加で気持ちよくトべるお薬付き! どうだい、魅力的だろ?——逃げれると思うなよ」
女の頬が震える。
それが恐怖によるものだと男たちは錯覚するが……
とうとう堪えきれなくなったのか、ヨシネは目に涙を浮かべて——笑い出した。
それが恐怖によるものだと男たちは錯覚するが……
とうとう堪えきれなくなったのか、ヨシネは目に涙を浮かべて——笑い出した。
「デリカシーの欠片も無い下品で下卑で下種な物言い……醜悪なのは顔だけにしなさいよハゲ」
「えっ」
「なにっ」
それまで余裕をこいていた二人の男は、瞬時に怒りを露わにする。
「いいのかな、6時間コースで許してあげるというルールを撤回しちゃうよ」
「体を奪って金を奪う、これはもう普通のボボパン以上の快楽だ!」
「ふん、私の愚弄でここまで怒りをあらわにするなんて、人生の悲哀を感じるわね」
ヨシネの駄目押しのような煽りにとうとう二人の総合不良は襲いかかる。
初手、タックル。
経験の無い者に、タックルを捌くことはできない。
ましてや男と女、大人と子供、マッチョとそれ以外という格差。
哀れヨシネはマウントを取られボボパンされてしまうのか。
否。
ヨシネは両足を引きタックルを回避するとそのまま男の上に覆いかぶさる。
初手、タックル。
経験の無い者に、タックルを捌くことはできない。
ましてや男と女、大人と子供、マッチョとそれ以外という格差。
哀れヨシネはマウントを取られボボパンされてしまうのか。
否。
ヨシネは両足を引きタックルを回避するとそのまま男の上に覆いかぶさる。
(馬鹿がっ! 女の体重じゃ俺を潰すことなんて出来ないぜ——)
それが、男の最後の思考だった。
男の頭は、コンクリートにめり込んでいる。
ヨシネのやったことはシンプルである。
男の頭は、コンクリートにめり込んでいる。
ヨシネのやったことはシンプルである。
覆いかぶさり、そのまま腕力で押し潰す。
女の細腕で何故それが可能なのか。
桐生ヨシネは一子相伝の特殊な武術を修めている。この武術の特徴は呼吸法により、人間離れした身体能力を得る所にあり、これによって桐生は一時的に屈強な男を凌駕するパワーを備えたのだ。
女の細腕で何故それが可能なのか。
桐生ヨシネは一子相伝の特殊な武術を修めている。この武術の特徴は呼吸法により、人間離れした身体能力を得る所にあり、これによって桐生は一時的に屈強な男を凌駕するパワーを備えたのだ。
「ば、化け物 うわあああああああああああああああああああああ」
もう一人の男は絡む相手を間違えたことにようやく気づき、腰をぬかしたま逃げていく。
ヨシネは追おうとしなかった。
ヨシネは追おうとしなかった。
「……いつまで見物しているつもり?」
「いや驚いた。変身していないのに、ここまで強い魔法少女が居るなんてね」
自動販売機の側面に隠れていたのか、白のレザーコートを纏った魔法少女——クリックベイトが姿を表す。
「スピードランサーでも素手縛りならもう少し常人だよ。もしかして君、人型エネミーだったりする?」
「ちょっと武術を齧っているだけよ」
そう言って、ヨシネはクリックベイトに相対する。
それは、今度こそ自殺行為であるとも言えた。
生身で魔法少女と相対する。
いくらヨシネが人間離れした膂力を奮えるといっても、所詮は2倍、3倍程度。それでも十分超人だが、魔法少女はデフォルトで10倍である。更にそこに各種魔法を備えていることを考えると、ヨシネは今まさに絶体絶命であると言えた。
それは、今度こそ自殺行為であるとも言えた。
生身で魔法少女と相対する。
いくらヨシネが人間離れした膂力を奮えるといっても、所詮は2倍、3倍程度。それでも十分超人だが、魔法少女はデフォルトで10倍である。更にそこに各種魔法を備えていることを考えると、ヨシネは今まさに絶体絶命であると言えた。
「……わからないな」
金属製バイザーをなぞりながら、クリックベイトは言う。
「どうして変身しておかなかったんだい? 生身でそれだけ強いなら変身したらもっと強い……それこそ僕よりずっと強いだろうに。何か理由でも?」
「理由なんか無いわよ」
ただ、とヨシネは続ける。
「気に喰わない」
「というと?」
「確かに変身した方が生存率が上がる。だから変身したほうがいい。……何それ、まるで魔法王に変身を強要されてるみたいじゃない」
「私は、自由でいたい」
「……これまた驚いたな。命より矜持を選ぶのかい」
まるで知人そっくりだよ、とクリックベイトは肩を竦める。
「どうも僕はそういう類の人間と縁があるようだ。僕自身は真逆の人間性なんだけどね。今も君のことが怖くて仕方ないよ。矜持より命。それがこの僕、クリックベイトさ」
「なんでもいいわよ。私はもう行くわね」
私の名前は桐生ヨシネ。そう言い残して、ヨシネは最後まで生身のまま去って行った。
「……いわば、異常自由愛者ってところかな」
クリックベイトも自由が好きだ。けれどそれに命をかける程ではない。釣りは、安全だからこそ楽しめる。
「とりあえず、スピードランサーでも探そうかな。あの人のことだ、きっと行く先々でトラブルを起こしているに違いない」
(それにしても……)
と、暗がりに隠れながらクリックベイトは思う。
殺し合い開催を宣言された玉座の間。
クリックベイトは参加者の顔を見渡し、スピードランサーを発見した。
そして、もう一人、『まったく見覚えのない魔法少女』に、目が釘付けになった。まるで『昔馴染み』に再開したような感覚。
紳士服に仮面という怪盗のような恰好の魔法少女。
あれは、一体誰なのか。
クリックベイトの影が蠢く。
本人はそれに気づくことなく、その場を後にするのだった。
クリックベイトは参加者の顔を見渡し、スピードランサーを発見した。
そして、もう一人、『まったく見覚えのない魔法少女』に、目が釘付けになった。まるで『昔馴染み』に再開したような感覚。
紳士服に仮面という怪盗のような恰好の魔法少女。
あれは、一体誰なのか。
クリックベイトの影が蠢く。
本人はそれに気づくことなく、その場を後にするのだった。
◇