宮島家を巻き込むわけにはいかない……そんな悲壮な決意と共に慣れ親しんた棲家を後にしたミアは即座にプアに変身、そのまま繁華街へと向かった。
あにまん市でも最悪の猿治安と恐れられているこの街には、しかし情報が眠っていると、元々娼館で働かされていたプアは知っていた。それに、かつてプアを薬漬けにしていた娼館が殺し合いと何か関係しているのかもしれない。そんな風にも思ったのだ。
一般人に気づかれないよう裏路地を移動していたプアは、しかし不幸にも白のレザーコートの魔法少女、クリックベイトと遭遇してしまった。
瞬時に、二人の間に緊張が走る。
どちらも穏健派である。だが、決して完全平和主義ではない。降りかかる火の粉にはそれなりに対処する。
プアは化学物質生成、クリックベイトは釣り竿と共に遠距離攻撃は備えている。
二人は一瞬即発の空気を醸しながら睨みあい。
あにまん市でも最悪の猿治安と恐れられているこの街には、しかし情報が眠っていると、元々娼館で働かされていたプアは知っていた。それに、かつてプアを薬漬けにしていた娼館が殺し合いと何か関係しているのかもしれない。そんな風にも思ったのだ。
一般人に気づかれないよう裏路地を移動していたプアは、しかし不幸にも白のレザーコートの魔法少女、クリックベイトと遭遇してしまった。
瞬時に、二人の間に緊張が走る。
どちらも穏健派である。だが、決して完全平和主義ではない。降りかかる火の粉にはそれなりに対処する。
プアは化学物質生成、クリックベイトは釣り竿と共に遠距離攻撃は備えている。
二人は一瞬即発の空気を醸しながら睨みあい。
「そこまでなのだ! プアちゃん! クリックベイトちゃん! 双方魔法を納めるのだ★」
第三者の登場に、二人は思わず虚を突かれる。
「え、どうして私の魔法少女名を……」
「僕、君に名乗ったっけ?」
現れたのはVRゴーグルのゴスロリ人形という古いのか新しいのかよくわからない恰好の魔法少女である。
「僕は、ナイトメア★メリィなのだ! 二人にお願いがあって、声をかけたのだ!」
「お願い、ですか……?」
「ナイトメア・メリィ。どういうお願いだい……?」
「ズバリ、僕を守って欲しいのだ★」
薄い胸を偉そうに張りながら、メリィは情けないことを言った。
「僕の魔法はとても強力なのだ。けれど、魔法を使用している間、僕の本体は無防備なのだ★」
「僕たちに、君を守るメリットはあるのかな? 悪いけど、困っている人は誰でも助けるタイプの魔法少女じゃないんだよね、僕」
わ、私は……とプアは言いよどむ。
かつて宮島家に助けられたように、できれば自分も善意で人を助けたい。
ただ、自分にそこまでの余裕があるのかと問われれば、プアは答えに窮する。
かつて宮島家に助けられたように、できれば自分も善意で人を助けたい。
ただ、自分にそこまでの余裕があるのかと問われれば、プアは答えに窮する。
「僕の魔法で得たメリットを君たちに共有するのだ★」
「具体的には?」
(な、なんというか、クリックベイトさん……交渉に慣れている……手ごわいな……)
12歳の宮島優香にさえ怒られるとたじたじになってしまうプアには、殺し合いという状況、更には一方的に名前を知られているという不利な局面でも冷静さを失わないクリックベイトに、仮想敵としての手強さを感じていた。
ただ、娼館の大人たちのような厭らしさは無い。
淡々と、クリックベイトは話を進めていく。
ただ、娼館の大人たちのような厭らしさは無い。
淡々と、クリックベイトは話を進めていく。
「それは、僕の提案を受け入れてから話すのだ★」
「拷問してもいいんだよ? できないと思ってる?」
「クリックベイトは、そんな奴じゃないのだ★」
「僕の何を知っているんだい、君は?」
「それが分からないうちから攻撃はしない……クリックベイトはそういう奴だと知っているのだ★」
「………………」
クリックベイトはバイザーを深く被った。
「僕から条件を出そう」
「どうぞなのだ★」
「承諾したら、必ず情報の出所を話すこと。そして——君の素顔も晒すこと」
「げぇっ、マジかよ……!? あ、いや……えっと、うーん、でもなぁ……背に腹は……でも心の準備が……」
いきなり余裕を無くし頭を抱えだしたメリィを、クリックベイトはバイザー越しに冷めた目で見下ろす。
プアもまた、口を挟まず、二人のやり取りを見守っていた。
プアもまた、口を挟まず、二人のやり取りを見守っていた。
「…………分かったのだ★ その約束を呑むのだ」
「………………いいよ、僕は君の護衛をする」
「仲間が増えて嬉しいのだ★ プアはどうするのだ?」
「わ、私は……」
分からない。
仲間が多い方が生き残りやすいというのは分かる。
けれど、二人が信用できるかは未知数だ。
仲間が多い方が生き残りやすいというのは分かる。
けれど、二人が信用できるかは未知数だ。
(わ、私も何か約束を取り決めた方が……でも、何を? 宮島家を守ってとか……駄目、あの人たちの名前を不用意に出したら、どんな風に利用されるか……)
「——例の一家のことは守ってやるのだ★」
ゾッとプアの全身に鳥肌が立つ。
(既に知られている……! いつから、どうして……? わ、私はどうしたら……?)
「きょ、協力するわ……」
プアは、折れた。
クリックベイトのように交渉で勝ち取ったのではなく、メリィの情報収集力に完全に屈してしまった。
その様子を、クリックベイトは冷静に観察する。
クリックベイトのように交渉で勝ち取ったのではなく、メリィの情報収集力に完全に屈してしまった。
その様子を、クリックベイトは冷静に観察する。
(僕の生命線……家族やスピードランサーとの関係については出さないのか? まぁ、スピードランサーなら別に人質に取られても自力で何とかするだろうからいいか)
それはそれとして、やはり、ナイトメア★メリィ、得体が知れない。
ただ……。
ただ……。
(彼女を守ることを承認したが、何か魔法をかけられた様子は無い。てっきり『承認』を条件とする制約魔法でもかけられると思ったのだけれど、杞憂だったか……)
だとしたら、約束など取り付ける理由が分からない。
クリックベイトの条件をメリィが履行した時点で、クリックベイトは好きなタイミングで契約を破棄できる。
クリックベイトの条件をメリィが履行した時点で、クリックベイトは好きなタイミングで契約を破棄できる。
(もっとも攻撃に映れるわけではないが……まずは、この子の魔法を把握しないと……)
「ちなみに、さっきクリックベイトが遭遇した魔法少女は、本名桐生ヨシネ、魔法少女名はバーストハートなのだ。得意魔法は相手と自分の鼓動を共有する心魔法で、更に一子相伝の桐生神拳の使い手なのだ」
(……そこまで把握済みってことか。僕に襲われないようにするための牽制か?)
「……さて、僕たちは君の護衛をすると決めたよ。さぁ、僕の条件を履行してもらおうか」
「……分かったのだ。実のところ、ただの口約束を交したのは、一時的でも話を聞いてもらえる状態を作りたかったからなのだ」
そう言って、メリィはスマホを取り出す。
画面に映っているのは、ヤフージャパン。
画面に映っているのは、ヤフージャパン。
「僕の魔法は」
そう言って、メリィは指を液晶に当て——そのまま潜り込ませる。
「『ネットの海にダイブできるよ』なのだ★」
「嘘……指が……沈みこんで……」
「……筋力で貫通させているわけじゃない。ネット世界に自ら潜入できるということか。なるほど、それなら情報通になるのも……待て、ネットに入れるだけでどうして僕たちの名前が分かる? それに、僕が桐生ヨシネと遭遇したことも」
「今の時代、ネットは全てと繋がっているのだ。……当然、スマホの通話記録も、ネットに転がっているのだ★」
「…………なるほど、恐れ入ったよ。けど、僕がヨシネと遭遇したのは? 監視カメラにでも映っていたのかい」
「いや、普通に隠れて見ていたのだ★」
「………………」
(ネット……通話記録……監視カメラ)
果たして、どれだけ自分がそれらに注意して暮らしていたのか、プアには自身が無かった。誰にも秘密にしているとはいえ、宮島姉弟が通話やLINEなどで、プアの名前を出していないとは限らない。
「……いや、やっぱりそれだけで魔法少女の情報を集められるとは思えないな。さすがに僕たちも監視カメラの無いところで変身しているよ。プアもそうだろ」
「も、勿論……」
人目のつくところや、監視カメラがある場所で変身していない。だから正体はバレていないはずだし、得意魔法も知られるはずがない。
「ネットの海に潜っている間は、ネットに繋がっている電子機器は自由にハッキング出来るのだ。魔法少女本人、あるいはその周辺のスマホを操作して録音・カメラ機能をオンにするくらい、造作も無いのだ⭐︎ 得た情報は持ち帰って、僕が居た痕跡すら残さないのだ★」
「……チートすぎるよ、それ」
「……ふざけてるな」
プアは恐れ、クリックベイトは呆れた表情を見せた。
メリィは笑う。
メリィは笑う。
「どう? これで僕と組むメリットが分かったのだ? もちろん身体は一つだからすべての情報を一度に閲覧したり、街中の電子機器を一斉に操作は出来ないのだ。けど、あにまん市全域は、僕の庭みたいなもんなのだ。ここで何が起きるのか、僕は全てを手に取るように分かるのだ★ これって、圧倒的なアドバンテージじゃないのだ?」
「………………そうだね、君を拷問する理由は無くなったよ」
これからよろしく、ナイトメア★メリィ。
クリックベイトは手を差し出し、メリィはその手を取る。
プアもまた手を伸ばそうとし
クリックベイトは手を差し出し、メリィはその手を取る。
プアもまた手を伸ばそうとし
「で、早く変身解除しなよ」
「……へけ?」
「条件その2,素顔を晒せ。どうせ僕たちの素顔も知ってるんだろ。君だけが一方的な情報を持っているのはフェアじゃない」
「い、いや、実のところ、クリックベイトは得意魔法も正体も知らないのだ……。僕も、いつだってネットの海に潜っていられるわけじゃないのだ……」
「信用できないな。メリィ? 君は、一度決めた条件を履行しないのかい? これから僕たち、組んでやっていくんだから、一度決めた約束は守らなくっちゃ」
「……ま、マジかぁ……」
メリィは泣きそうな表情を見せた。
その後、メリィは渋々変身を解除し、更には年下の男子ということまで白状させられて、プアとクリックベイトに散々可愛がられたのはまた別の話である。
そして、クリックベイトの情報は名前と顔しか知っていないメリィが——クリックベイトが三年前に魔法の王国のとある場所に踏み込んでいることを、知っているはずが無かった。