魔法少女の魔法は、何でもアリだ。
経験した事象を再現できたり、虚空から槍を撃ちだせたり、体液を飲ませた相手を強化・支配できたり……。
何でもアリということは当然対策も難しい。
解決策は二つある。
一つは、相手の魔法をよく調べ上げ、対策を立てることだ。発動条件は何か。効果範囲はどこまでか。持続時間はどのくらいか。
相手との頭脳戦を征し、勝利する。
スマートで鮮やかな勝ち方。
けれど、事はそう簡単ではない。
魔法は千差万別。相手の魔法を詳細に知るなど、それこそ魔法でも使えなければ不可能だ。それに、強い魔法少女ほど、得意魔法の範囲を拡大させ、応用性を見せる。
例に挙げたアレヰ・スタア、スピードランサー、アリス・イン・ワンダー・オブ・ザ・デッドに明確な弱点を挙げるとなると、中々難しい。特にスピードランサーは、ベテラン魔法少女ということもあって、明確な弱点は存在しないだろう。
故に、ティターニアはもっぱら、二つ目の解決策を取る。
脳筋的で泥臭く、見栄えも悪い……けれどより確実な方法。
相手が、魔法を発動する前に潰す。
零距離『マジカル・ストラッシュ』を撃ち終えたティターニアは、周囲に視線を送り……眉を顰めた。
極太ビームを撃ち込まれたにも関わらず、フロアに大きな変化は起こっていない。
壁も壊れておらず、窓も割れておらず、天井も床も抜けていない。
ただ、ティターニアが加速のために踏み込んだ場所だけが、小規模なクレーターを形成している。
メンダシウムはティターニアの必勝パターンに敗北した。
隙を突いて一瞬で距離を縮め、零距離ビーム。
これを耐えきれる魔法少女など、基本的に存在しない。
何故なら、今ティターニアが撃ったマジカル・ストラッシュは、非殺傷設定だからだ。
非殺傷設定は、ティターニアがマジカル・ストラッシュに設けている一種の制限である。物理的には一切干渉せず、相手の魔力だけを消し飛ばす。
例えば一般人に向けて殺傷設定でマジカル・ストラッシュを撃てば骨すら残らず消滅するが、非殺傷設定で撃てば眩しい程度で済む。
では、非殺傷設定が魔法少女にも無害かといえばそんなことはなく、これを撃たれた魔法少女は魔力を消し飛ばされる……すなわち、強制的な変身解除及び魔法の発動が不可能になるのだ。
例え時間を止められようと、不老不死だろうと、全知全能だろうと、それを発動するには魔力が必要不可欠。
マジカル・ストラッシュの直撃を当てられてしまうと、どれだけチートな魔法も、ただのフレーバー・テキストに成り下がる。発動に必要な魔力が消し飛ばされてしまうのだから。
メンタジウムもそうなっているはずである。不意を討たれた状態で零距離非殺傷設定マジカル・ストラッシュ。口ぶりや醸し出す雰囲気からして強豪魔法少女であり、チートレベルの魔法を持っていたのは間違いない。
が、どれだけチートな魔法を持っていようと魔力を消し飛ばされてしまえば意味が無い。
経験した事象を再現できたり、虚空から槍を撃ちだせたり、体液を飲ませた相手を強化・支配できたり……。
何でもアリということは当然対策も難しい。
解決策は二つある。
一つは、相手の魔法をよく調べ上げ、対策を立てることだ。発動条件は何か。効果範囲はどこまでか。持続時間はどのくらいか。
相手との頭脳戦を征し、勝利する。
スマートで鮮やかな勝ち方。
けれど、事はそう簡単ではない。
魔法は千差万別。相手の魔法を詳細に知るなど、それこそ魔法でも使えなければ不可能だ。それに、強い魔法少女ほど、得意魔法の範囲を拡大させ、応用性を見せる。
例に挙げたアレヰ・スタア、スピードランサー、アリス・イン・ワンダー・オブ・ザ・デッドに明確な弱点を挙げるとなると、中々難しい。特にスピードランサーは、ベテラン魔法少女ということもあって、明確な弱点は存在しないだろう。
故に、ティターニアはもっぱら、二つ目の解決策を取る。
脳筋的で泥臭く、見栄えも悪い……けれどより確実な方法。
相手が、魔法を発動する前に潰す。
零距離『マジカル・ストラッシュ』を撃ち終えたティターニアは、周囲に視線を送り……眉を顰めた。
極太ビームを撃ち込まれたにも関わらず、フロアに大きな変化は起こっていない。
壁も壊れておらず、窓も割れておらず、天井も床も抜けていない。
ただ、ティターニアが加速のために踏み込んだ場所だけが、小規模なクレーターを形成している。
メンダシウムはティターニアの必勝パターンに敗北した。
隙を突いて一瞬で距離を縮め、零距離ビーム。
これを耐えきれる魔法少女など、基本的に存在しない。
何故なら、今ティターニアが撃ったマジカル・ストラッシュは、非殺傷設定だからだ。
非殺傷設定は、ティターニアがマジカル・ストラッシュに設けている一種の制限である。物理的には一切干渉せず、相手の魔力だけを消し飛ばす。
例えば一般人に向けて殺傷設定でマジカル・ストラッシュを撃てば骨すら残らず消滅するが、非殺傷設定で撃てば眩しい程度で済む。
では、非殺傷設定が魔法少女にも無害かといえばそんなことはなく、これを撃たれた魔法少女は魔力を消し飛ばされる……すなわち、強制的な変身解除及び魔法の発動が不可能になるのだ。
例え時間を止められようと、不老不死だろうと、全知全能だろうと、それを発動するには魔力が必要不可欠。
マジカル・ストラッシュの直撃を当てられてしまうと、どれだけチートな魔法も、ただのフレーバー・テキストに成り下がる。発動に必要な魔力が消し飛ばされてしまうのだから。
メンタジウムもそうなっているはずである。不意を討たれた状態で零距離非殺傷設定マジカル・ストラッシュ。口ぶりや醸し出す雰囲気からして強豪魔法少女であり、チートレベルの魔法を持っていたのは間違いない。
が、どれだけチートな魔法を持っていようと魔力を消し飛ばされてしまえば意味が無い。
(なのに、居ない。居ないのは、おかしい)
ティターニアの読み通りなら、そこには千郷のように変身を解除され、人間状態で倒れているメンダシウムが居るはずなのだ。
なのに、誰も居ない。
避けられた、はずがない。
確かに直撃の感触があった。
魔力を消し飛ばし、消滅するということは……。
ぱち、ぱち、ぱちと後方で拍手の音が聞こえる。
なのに、誰も居ない。
避けられた、はずがない。
確かに直撃の感触があった。
魔力を消し飛ばし、消滅するということは……。
ぱち、ぱち、ぱちと後方で拍手の音が聞こえる。
「堪能したよ、ティターニア……♡ 素晴らしい一撃だった……♡」
「——なるほど、分身ね」
「おっと、もう気づいたのかい……♦ さすがだね……♡」
魔力で構成された存在ならば、魔力を全て吹き飛ばされれば消滅する。
ティターニアは振り返る。逆側の壁に身体を預け、タキシードの少女は楽し気に笑う。
その顔、その姿は傷一つ、汚れ一つない。
ティターニアは振り返る。逆側の壁に身体を預け、タキシードの少女は楽し気に笑う。
その顔、その姿は傷一つ、汚れ一つない。
「さっきまでの貴女は分身だったのね。……そして、今目の前に現れている貴女も」
「さて、どうだろうね……♦ 今度こそ本物かもしれないよ。もう一度撃って確かめてみるかい……♦」
(それも手だけど……いえ、悪手だわ。一発撃っただけなのに、異常なくらい消耗している。魔法王の仕業かしら。メンダシウムがどれだけ分身を創り出せるか分からない以上、マジカル・ストラッシュの乱発は控えるべきね)
「おや……いいのかい? 魔法を発動する隙を与えて……♦」
メンダシウムの手から伸びるリードのような紐が、床を撫でる。
——震動がティターニアを襲った。
それでバランスを崩すような真似はしないが、ティターニアは何が起きるのか見定めようと注意深く周囲を観察する。
——震動がティターニアを襲った。
それでバランスを崩すような真似はしないが、ティターニアは何が起きるのか見定めようと注意深く周囲を観察する。
(ただ分身を創り出す魔法……ではないようね)
徐々に床が歪に隆起し、鉄で出来た怪物のような姿に変貌する。
一体だけではない。フロア全体から雨後の筍のように次々と発生する。
ティターニアは知る由もないが、これらのエネミーの名は、スラグソウルと呼ばれた。
一体だけではない。フロア全体から雨後の筍のように次々と発生する。
ティターニアは知る由もないが、これらのエネミーの名は、スラグソウルと呼ばれた。
「……で? こんな鈍重そうなのたくさん呼ぶのが貴女の魔法なわけ?」
(……分身を作る他に、使い魔を大量に創造した……どういう系統の魔法かしら? 無関係の魔法を二つ習得している魔法少女なんて、滅多にいないし)
シンプルに、使い魔を創り出し、使役する魔法か?
分身も、自分そっくりに作った使い魔と考えれば辻褄が合う。
分身も、自分そっくりに作った使い魔と考えれば辻褄が合う。
(だったら……直接戦闘は苦手なはず)
ティターニアは床を蹴った。
スラグソウルは彼女に襲いかかり——一撃で両断される。
抵抗らしい抵抗もされぬまま、ティターニアは一瞬でメンダシウムに肉薄し、体験を振り下ろす。
スラグソウルは彼女に襲いかかり——一撃で両断される。
抵抗らしい抵抗もされぬまま、ティターニアは一瞬でメンダシウムに肉薄し、体験を振り下ろす。
「ふふ……♦」
振り下ろされた大剣は、しかしメンダシウムの掌で……より正確には掌から放出されたエネルギーで止められる。
「まさか不意打ちが決まったから、私が近接戦闘の心得が無いと思ったかい?
——むしろ、近づいてもらうために、最初の一撃を喰らったと、どうして考えなかったんだい♠」
——むしろ、近づいてもらうために、最初の一撃を喰らったと、どうして考えなかったんだい♠」
メンダシウムの手から伸びるリードが、蛇のように動き、ティターニアの手首に絡みつこうと迫る。
「ティターニア、君も私のモノになってもらうよ♡」
「っ!?」
慌ててティターニアは距離を取ろうとするが、リードはそれより早く、ティターニアに到達し——瞬時に構築された鎧によって弾かれる。
「おっと、さすがに速い……♦」
距離を取ろうとしたのは、フェイントであった。
ティターニアはそのまま床を蹴り、エネルギーごと大剣を押し込む。
ティターニアはそのまま床を蹴り、エネルギーごと大剣を押し込む。
「ぐっ……♡ いいぞ、もっと、もっとだ……♡」
「キモいわ!」
心からの叫びと共に大剣はエネルギーごとメンダシウムを両断する。
光の粒子となって消えていくメンダシウム。
ティターニアは油断なく周囲に視線を配り
光の粒子となって消えていくメンダシウム。
ティターニアは油断なく周囲に視線を配り
「……っ!」
突如、『隣のフロア』から砲弾が飛来する。
ぎゃりぎゃりと大剣の峰で受け止め、側面に逸らす。
ぎゃりぎゃりと大剣の峰で受け止め、側面に逸らす。
「新手……!? いや、違う……!」
「此処と隣のフロアは既に私のプレイルームだ。逃げられないよ、ティターニア♡」
背後で声がする。
「くっ……!」
ティターニアは慌てて距離を取る。
彼女の首を僅かにリードの紐がなぞる。
それだけで強烈な嫌悪感がティターニアを襲った。
あれに絡めとられると、不味いことになる。
本能が、そう告げている。
彼女の首を僅かにリードの紐がなぞる。
それだけで強烈な嫌悪感がティターニアを襲った。
あれに絡めとられると、不味いことになる。
本能が、そう告げている。
「いい反応だ、ティターニア♡」
三体目のメンダシウム。以前顔にも体にも傷一つない。
「いい加減君はこう思っているんじゃないか? どうすればこいつは倒せるのだろう。倒しても倒しても終わりが無いんじゃないかと……♧」
「………………」
リードをひらひらと揺らしながらメンダシウムは妖艶に微笑む。
「ネタバラシをしよう。私もまた、分身だ。私の本体は別の場所にある。……というか、私の本体は、私のことを知らない」
(それって……)
ティターニアの脳裏に一人の魔法少女が想起される。
山田浅悧。慈斬。
山田浅悧。慈斬。
「私は、とある魔法少女の影。私を倒すには——本体を始末するしかない……♧」
「あっさり教えてくれるじゃない? どういうつもりなのかしら?」
「あっさり教えてくれるじゃない? どういうつもりなのかしら?」
「私の本体はメリア・スーザンだ」
ティターニアが目を見開く。
「彼女に自覚はないがね。……さぁどうするティターニア? メリアを殺しに行くか? それとも永遠に私と殺し合いを続けるか? 私としては後者の方が望ましいがね♦ 君に殺してもらえるし♡ 君を私の愛玩奴隷にするチャンスも増えそうだ♠」
(さて、もちろんメリア・スーザンが本体などと嘘八百なわけだが。どう動く、ティターニア。大義のために一部を切り捨てるか、それとも……?)
どちらでもいいのだ。
メンダシウムが殺し合いに介入したのは、ティターニアの庇護のもと、メリアが熱血パーティの一員となり、正義の味方としてそれなりに充実した活躍をし、最終的にティターニアの胸の中で爽やかな死を迎えることを嫌がったからである。
せっかく作ったのだからできるだけ曇って欲しいし、尊厳が破壊されるような死を迎えて欲しい。
そのための布石を、メンダシウムは打つ。
メリア・スーザンが運営に属する悪の魔法少女、メンダシウムの本体であり、彼女を殺さねばメンダシウムを倒せないと印象づける。
恐らく対主催陣営はメリア犠牲にする派としない派で二つに分かれるだろう。同じ運営に反旗を翻した者同士での潰し合い、板挟みになるメリア、大勢犠牲者が出た末にメリアは殺され——そこでメンダシウムがその場に登場しネタバラシ。
その時、大義のためにメリアを殺した魔法少女はどんな顔をするのか。
そして、正義を為すどころか周囲を巻き込み殺し合いの中心となって、何も為せないまま死んでいくメリアは。
彼女を守るために、あるいは犠牲にするために、命を散らす魔法少女はどんな風に死んでいくのか。
それを考えるとメンダシウムのサディズムは昂る。
メンダシウムが殺し合いに介入したのは、ティターニアの庇護のもと、メリアが熱血パーティの一員となり、正義の味方としてそれなりに充実した活躍をし、最終的にティターニアの胸の中で爽やかな死を迎えることを嫌がったからである。
せっかく作ったのだからできるだけ曇って欲しいし、尊厳が破壊されるような死を迎えて欲しい。
そのための布石を、メンダシウムは打つ。
メリア・スーザンが運営に属する悪の魔法少女、メンダシウムの本体であり、彼女を殺さねばメンダシウムを倒せないと印象づける。
恐らく対主催陣営はメリア犠牲にする派としない派で二つに分かれるだろう。同じ運営に反旗を翻した者同士での潰し合い、板挟みになるメリア、大勢犠牲者が出た末にメリアは殺され——そこでメンダシウムがその場に登場しネタバラシ。
その時、大義のためにメリアを殺した魔法少女はどんな顔をするのか。
そして、正義を為すどころか周囲を巻き込み殺し合いの中心となって、何も為せないまま死んでいくメリアは。
彼女を守るために、あるいは犠牲にするために、命を散らす魔法少女はどんな風に死んでいくのか。
それを考えるとメンダシウムのサディズムは昂る。
(そのためには、まず私の強さを示さないとね♦
メリアを始末しなくてもティターニアが居れば何とかなると、そう思わせては駄目だ……♧
ティターニアでも、メンダシウムには敵わない。そう格付けしなければ……♦)
メリアを始末しなくてもティターニアが居れば何とかなると、そう思わせては駄目だ……♧
ティターニアでも、メンダシウムには敵わない。そう格付けしなければ……♦)
「さぁ、君はどうするティターニア♡」
「——当然、あんたをぶっ倒す一択よ!」
「——当然、あんたをぶっ倒す一択よ!」
ティターニアは再び床を強く蹴る。新たに出現したスラグソウル相手も、まるで相手にせず瞬時に両断し——隣から撃たれる砲弾も見ることすらなく、剣で弾く。
そして、メンダシウムに接敵し
そして、メンダシウムに接敵し
「ああ、済まない、嘘をついた♡」
——上下左右から飛来した砲弾がティターニアに迫る。
「此処と、隣だけじゃない。……既にこのビルは私のモノだ」
「ぐ、とりゃあああああああああああああああああああッ!」
ティターニアはその場で回転する。上下左右から飛来した砲弾を大剣で全て弾き飛ばす。
「おっと、隙ありだよ……♡」
その首に、リードの紐が伸び。
がしり、とティターニアはその紐を掴んだ。
がしり、とティターニアはその紐を掴んだ。
「へ……♡」
「マジカルストレート」
ティターニアの拳がメンダシウムの顔面を捉え、そのまま殴り飛ばす。
血を吐きながらメンダシウムは放物線を描き、落下する前に光の粒子となって消滅する。
ティターニアの拳がメンダシウムの顔面を捉え、そのまま殴り飛ばす。
血を吐きながらメンダシウムは放物線を描き、落下する前に光の粒子となって消滅する。
「それで、いつまで私と遊んでくれるのかな♡」
間髪入れずに出現したメンダシウムに、ティターニアは表情を歪めて舌打ちする。
「私は別にいいのだけど……いい知らせだよ、ティターニア」
メンダシウムは楽しそうに笑う。
「今、別の私が君が逃がした二人と遭遇したようだ。ふふふ、もうすぐ君の教え子と一緒に君を責め苛んであげよう……♦」
「浅悧さん……メリア……」
ティターニアは剣の柄を強く握る。
未だその意思は折れていない。
だが、この世に永遠のものなど存在しない。掘った穴を埋めさせる拷問を続ければいつか発狂するように、ティターニアにも限界は来る。
徒労。
メンダシウムは妖しく笑った。
未だその意思は折れていない。
だが、この世に永遠のものなど存在しない。掘った穴を埋めさせる拷問を続ければいつか発狂するように、ティターニアにも限界は来る。
徒労。
メンダシウムは妖しく笑った。