「やっぱり戻りませんか!?」
もう何度目になるか分からない問いかけに、浅悧は首を振った。
メリア・スーザン。
歳はきっと、自分と同じくらい。
師匠であるティターニアが助けた魔法少女。
それ以外のことは、何も知らない。
得意な魔法も、通っている学校も、そもそも何人かすら知らない。
ただ、短い時間で分かったことは。
メリア・スーザン。
歳はきっと、自分と同じくらい。
師匠であるティターニアが助けた魔法少女。
それ以外のことは、何も知らない。
得意な魔法も、通っている学校も、そもそも何人かすら知らない。
ただ、短い時間で分かったことは。
(この人、ちょっとおかしくない?)
ティターニア、天城千郷、謎の変態魔法少女とはまた別のベクトルで、メリア・スーザンはズレていると、浅悧は感じていた。
ティターニアに思いっきり戦ってもらうために、足手まといにならないために、浅悧たちは逃げている。
ティターニアは強い。浅悧はそのことを心底知っているが、メリアは知らないはずだ。だからティターニアを一人にするのは心配だと考えるのは分かる。
ただ、それならメリアとティターニアは今日、というか、ついさっき出会ったばかりなのだ。戻るということは命がけの戦いに参加するということで、つまり、メリアは出会って一時間も経ってない魔法少女のために命を懸けようと、何度も何度も提案していることになる。
ティターニアに思いっきり戦ってもらうために、足手まといにならないために、浅悧たちは逃げている。
ティターニアは強い。浅悧はそのことを心底知っているが、メリアは知らないはずだ。だからティターニアを一人にするのは心配だと考えるのは分かる。
ただ、それならメリアとティターニアは今日、というか、ついさっき出会ったばかりなのだ。戻るということは命がけの戦いに参加するということで、つまり、メリアは出会って一時間も経ってない魔法少女のために命を懸けようと、何度も何度も提案していることになる。
(正義感が、強すぎる)
けれど、一緒に逃げながら感じることは、強い正義感とか、暴走する善の心とか、そういう熱いものとは少し違っていて。
やっぱり戻りませんか、と訊かれ。戻らないと答え。メリアは納得し。
しばらくして、やっぱり戻りませんか、と訊かれる。いやお前さっき納得しただろ、と相手が気心の知れた友人で状況が切羽詰まったものでなければツッコミを入れているところだ。
ふざけているわけではないのだろう。
メリアはきっと、毎回本気で提案し、本気で納得している。
やっぱり戻りませんか、と訊かれ。戻らないと答え。メリアは納得し。
しばらくして、やっぱり戻りませんか、と訊かれる。いやお前さっき納得しただろ、と相手が気心の知れた友人で状況が切羽詰まったものでなければツッコミを入れているところだ。
ふざけているわけではないのだろう。
メリアはきっと、毎回本気で提案し、本気で納得している。
(この感じ……まるで)
ゲームのNPCみたい。
と、浅悧は感じた。あまりにも失礼なので、絶対口には出さないけれど。
外が見えてくる。
夜の学生街は繁華街ほど人通りは多くないが、それでも時々車が走り抜ける音と光がある。
もう少しだ、浅悧は足に力を込め。
ゲームのNPCみたい。
と、浅悧は感じた。あまりにも失礼なので、絶対口には出さないけれど。
外が見えてくる。
夜の学生街は繁華街ほど人通りは多くないが、それでも時々車が走り抜ける音と光がある。
もう少しだ、浅悧は足に力を込め。
「おっと、どこに行こうというんだい♦」
二人の進路を塞ぐように、タキシードの魔法少女が腰をくねらせて立っている。
浅悧は足を止めた。
浅悧は足を止めた。
「ふふ、どうして私がここに現れたか困惑しているね……♦
——君たちの希望であるティターニアは、死んだよ……♠」
——君たちの希望であるティターニアは、死んだよ……♠」
衝撃的な告白。
天地がひっくり返っても起こらないはずの、異常事態。
それを聞いて浅悧は
天地がひっくり返っても起こらないはずの、異常事態。
それを聞いて浅悧は
「いや、上からめちゃくちゃ戦闘音聞こえるんですけど」
と、困惑した。
ショベルカーでチャンバラでもしているかのような破壊音は浅悧たちが逃げている間もずっと聞こえていた。
今も断続して響いている。
と、困惑した。
ショベルカーでチャンバラでもしているかのような破壊音は浅悧たちが逃げている間もずっと聞こえていた。
今も断続して響いている。
「………………」
1階フロアを沈黙が支配する。
「私の名はメンダシウム♦」
と、場を仕切り直すようにタキシードの魔法少女は言った。
「私の魔法は多岐に応用できてね♦ 分身を創り出すことも可能なのさ♦ ティターニアが殺されたと聞いて、どんな反応を浮かべるか興味があったんだが……残念だよ♧」
「師匠が貴女みたいなイロモノに負けるはずありません」
「ふふ、うさ耳侍が言うと、説得力が違うね♠」
「はぁ?」
ちょっと恥ずかしいけど自分の魔法少女の恰好は可愛くてけっこう気に入っている浅悧からすれば、今のは聞き捨てならなかった。
「さて……その師匠に君たちの死体を見せたとき、どんな反応をするのかな……♡」
「ふふふ……ティターニア♡ 君はどちらを望んでいる?」
妖艶に微笑みながら、メンダシウムはティターニアに問いかける。
かなりの疲労を感じているのか、ティターニアは剣で身体を支え、肩で息をしていた。
どれだけ殺しても、メンダシウムは復活を続ける。
否、全ては分身なのだ。本体を殺さねば、この戦いは終わらない。
かなりの疲労を感じているのか、ティターニアは剣で身体を支え、肩で息をしていた。
どれだけ殺しても、メンダシウムは復活を続ける。
否、全ては分身なのだ。本体を殺さねば、この戦いは終わらない。
「逃がした二人の生首と再会する♡ 逃がした二人に襲われる♡ どっちが好みだい? ああ、第三の選択肢、逃がした二人と一緒に私の所有物になるというものもある♡」
「…………っ」
ティターニアは小声で何かを呟いた。恐らく悪態の類いだろうとメンダシウムは判断する。
「今すぐ助けに行かなくていいのかい? まさか二人は見捨てるつもりかい♡ そんなに私のこと好き?」
メンダシウムの煽りに、ティターニアは顔を上げた。
メンダシウムの煽りに、ティターニアは顔を上げた。
「んん?」
メンダシウムは訝しむ。思っていた表情ではなかった。
悔しさ、怒り、そういった負の感情に彩られた表情を鑑賞できると期待していたのだが……。
悔しさ、怒り、そういった負の感情に彩られた表情を鑑賞できると期待していたのだが……。
「あんた、あの子たちを舐め過ぎよ」
ティターニアは不敵に笑っていた。
「メリアは、自分を襲った奴でも切り捨てようとしない、器が大きくて、正義感に溢れた、私よりよっぽど正統派の魔法少女よ」
それを聞き、メンダシウムはどこか嬉しそうに笑う。
(そういう風に作ったからね♠)
「そして山田さんは」
「私より剣道が強い」
(何が……起こった……?)
浅悧とメリアの前に現れたメンダシウムは、床に頭をめり込ませていた。
急に土下座した人みたいになっていることに屈辱と興奮を感じながら、メンダシウムは冷静に今起こったことを分析する。
口では二人を始末するとか物騒なことを言っているが、実のところメンダシウムにその気は無かった。
あくまで自分の圧倒的な実力を示し、その上で自分を倒すにはメリアを犠牲にするというイベントの準備をしたかっただけなのだ。
浅悧とメリアを一方的にボコりつつ、二人にメリアが本体という嘘を吹き込む。
そうやってゲームを盛り上げるという魂胆だったが。
メンダシウムはティターニアにやったように、自分の魂を分け与えたビルを自在に改造し、エネミーを生み出そうとした。
生み出そうと動き出した瞬間、頭頂部に強い衝撃を受け、頭を床に叩きつけられたのだ。
急に土下座した人みたいになっていることに屈辱と興奮を感じながら、メンダシウムは冷静に今起こったことを分析する。
口では二人を始末するとか物騒なことを言っているが、実のところメンダシウムにその気は無かった。
あくまで自分の圧倒的な実力を示し、その上で自分を倒すにはメリアを犠牲にするというイベントの準備をしたかっただけなのだ。
浅悧とメリアを一方的にボコりつつ、二人にメリアが本体という嘘を吹き込む。
そうやってゲームを盛り上げるという魂胆だったが。
メンダシウムはティターニアにやったように、自分の魂を分け与えたビルを自在に改造し、エネミーを生み出そうとした。
生み出そうと動き出した瞬間、頭頂部に強い衝撃を受け、頭を床に叩きつけられたのだ。
(メリア・スーザンにはこんな芸当は出来ない……ならば山田浅悧の魔法か……? しかし山田浅悧の魔法は「かならず首をはねられるよ」のはずだし、それは慈斬に人格が切り替わらないと発動できなかったはず……この現象は一体?)
ティターニアの一撃とは違い、分身体が消滅する程のダメージではない。
頭部に拡がる痛みを甘受しながら、メンダシウムはゆっくりと立ち上がる。
浅悧が立っている。
手には、マジカル竹光。
……メンダシウムは知らないが、剣道には「出ばな技」という概念がある。相手が動作を起こした瞬間、機先を制して打ち込むというものだ。静止していると時と違い、動作を始めようとするとき、人間は僅かに防御に対して集中が下がる。それを狙うというもの。
……理論はあれど、確実に試合で実践できるものではない。ましてや、命のやり取りが含まれる実戦でこれを行える者は、乱世の時代でもそうは居ない。平和な現代なら猶更だ。
——山田浅悧は剣道部のエースであり、乱世の世でも名を馳せる才能を秘めている。
かつて夢遊病状態でレディースを壊滅させたとき、彼女は魔法少女に変身していたわけではなく、身体能力の向上も、技術レベルが跳ねあがることもなかった。
素の実力で、つまり本人がその気になれば、可能なのだ。
一本の鉄パイプで二つの族を一方的に壊滅。
彼女の師であるティターニアでも、生身では不可能な芸当だ。
その技術は、魔法少女になり、身体能力が強化されたことで、更に昇華される。
格上であるメンダシウムを叩き伏せる程の神業へと。
頭部に拡がる痛みを甘受しながら、メンダシウムはゆっくりと立ち上がる。
浅悧が立っている。
手には、マジカル竹光。
……メンダシウムは知らないが、剣道には「出ばな技」という概念がある。相手が動作を起こした瞬間、機先を制して打ち込むというものだ。静止していると時と違い、動作を始めようとするとき、人間は僅かに防御に対して集中が下がる。それを狙うというもの。
……理論はあれど、確実に試合で実践できるものではない。ましてや、命のやり取りが含まれる実戦でこれを行える者は、乱世の時代でもそうは居ない。平和な現代なら猶更だ。
——山田浅悧は剣道部のエースであり、乱世の世でも名を馳せる才能を秘めている。
かつて夢遊病状態でレディースを壊滅させたとき、彼女は魔法少女に変身していたわけではなく、身体能力の向上も、技術レベルが跳ねあがることもなかった。
素の実力で、つまり本人がその気になれば、可能なのだ。
一本の鉄パイプで二つの族を一方的に壊滅。
彼女の師であるティターニアでも、生身では不可能な芸当だ。
その技術は、魔法少女になり、身体能力が強化されたことで、更に昇華される。
格上であるメンダシウムを叩き伏せる程の神業へと。
「……ふぅ……」
浅悧は油断なくマジカル竹光を構える。
メンダシウムが倒れている間に逃げるという手段もあった。
それを選ばなかったのは、浅悧が剣道家であって、剣術家ではないということだ。
剣道には、逃げながら打つ技が存在しない。剣道のルールに逃げるという概念が無いからだ。
もしここに居たのが剣術道場に通う、陣内葉月/ブラックブレイドなら逃げる際に使う技のストックも持っていたのだろう。
浅悧にはそれがなかった。
だから逃げなかった。
メンダシウムが倒れている間に逃げるという手段もあった。
それを選ばなかったのは、浅悧が剣道家であって、剣術家ではないということだ。
剣道には、逃げながら打つ技が存在しない。剣道のルールに逃げるという概念が無いからだ。
もしここに居たのが剣術道場に通う、陣内葉月/ブラックブレイドなら逃げる際に使う技のストックも持っていたのだろう。
浅悧にはそれがなかった。
だから逃げなかった。
(できればメリアさんだけでも逃げて欲しかったけど……)
千郷をよろしくと預けたが、どこかに隠したらしい。決意に満ちた顔でこちらに近づいてくるのを、浅悧は確認した。
メリアは逃げない。正義感に溢れる魔法少女だから。人助けが日課の魔法少女だから。
メリアは逃げない。正義感に溢れる魔法少女だから。人助けが日課の魔法少女だから。
(メリアさんがどこまでできるか分からないけれど、初めて組む人と連携なんて取れるはずがない。あくまで、私単独で倒すつもりでいよう……)
ティターニアが自分たちを逃がすような強敵相手に、勝とうとは思ってない。
ただ、これは分身で、ティターニアと戦っている方が本体だと、浅悧は予想していた。(その予想は間違いだが)。
ティターニアを動揺させるために、自分たちへ送られてきた尖兵。それが目の前のメンダシウム。
ただ、これは分身で、ティターニアと戦っている方が本体だと、浅悧は予想していた。(その予想は間違いだが)。
ティターニアを動揺させるために、自分たちへ送られてきた尖兵。それが目の前のメンダシウム。
(本体じゃないなら、私でも勝てるはず……)
浅悧の予想はかなり外れていたが、一点だけ当たっている点は、今浅悧に相対しているメンダシウムは、ティターニアと戦うメンダシウムより弱いという点だ。アニマん市に持ってきているリソースのうち、その大部分を対ティターニアに注いでいる。何故なら、ティターニアに勝ち、「メリアを殺さなければメンダシウムには勝てない」と、参加者に思わせることが目的の一つだからだ。
(ふふ……思った以上に楽しませてくれるね、山田浅悧♡)
ああ、でも、もう一人とも会いたいなぁ、とメンダシウムは裂けるような笑みを浮かべるのだった。