「ねぇ『疫病神』」
「何だい『殺人鬼』」
「貴女は無作為に人を死なせる。意志もなく理由もなく、他者の命を奪う有害な存在であるわけじゃん」
「そうだね、作為的に人を死なせて、身勝手な意志と理由をもって、他者の命を奪う君とは違ってね」
「もし、そのおぞましい魔法で作為的に人を死なせることを強要されたとき、貴女はどうするの?」
「わかりきったこと訊くなよ。
逆に、君がそのおぞましい趣味で、無作為に人を死なせることを強要されたとき、君はどうするんだい?」
逆に、君がそのおぞましい趣味で、無作為に人を死なせることを強要されたとき、君はどうするんだい?」
「わかりきったこと訊かないで」
「私に殺人を強要するくらい関わった時点で、もうそいつの命は長くないよ」
「私に殺人を強要するようなウザい奴は——絶対に殺してあげないわ」
◇
と、二、三週間前にカラオケでした会話を思い出しながら、桐ヶ谷裂華(きりがや れつか)、魔法少女名、ジャック・ザ・リッパーは沼地を走っていた。
周囲から漂う腐臭はジャックを大いに苛立たせたが、悪臭をどうにかする魔法を持っているわけではない。
触れた物を自身の魔力で浸蝕し、自身の武器に変えることが出来るのが彼女の魔法だが、「沼」を「武器」とすることはさすがに出来ないし、もし出来たとしても腐臭を消すことは出来ないだろう。(成分や構成を自在に変化させる魔法ではないので)。
なので出来ることいったら魔法少女の身体能力を生かしてさっさと通り過ぎるくらいだ。
周囲から漂う腐臭はジャックを大いに苛立たせたが、悪臭をどうにかする魔法を持っているわけではない。
触れた物を自身の魔力で浸蝕し、自身の武器に変えることが出来るのが彼女の魔法だが、「沼」を「武器」とすることはさすがに出来ないし、もし出来たとしても腐臭を消すことは出来ないだろう。(成分や構成を自在に変化させる魔法ではないので)。
なので出来ることいったら魔法少女の身体能力を生かしてさっさと通り過ぎるくらいだ。
「止まってくださらないかしら」
「は? こんな臭い場所で?」
不満を漏らしつつも、ジャックは素直に立ち止まる。
自分を呼び止めたのは、黄金の鎧騎士だった。
自分を呼び止めたのは、黄金の鎧騎士だった。
「わたくしの名前はミョルニル。一つお尋ねしたいことがあるのですけれど」
「何?」
「クリックベイト……サンバイザーにレザーコートの魔法少女を観ませんでした?」
「観てないわ。もう行っていいかしら?」
「ええ。引き留めて申し訳ありません」
ジャックは溜息をつくとミョルニルの傍を駆け抜け
「やめときなさい」
「……え?」
「貴女、私を殺そうと思ってるでしょ」
「貴女、私を殺そうと思ってるでしょ」
「っ……!」
ミョルニルの顔が動揺で歪む。
「探している魔法少女のため? 他人の為に殺人を犯すなんて、私にはまったく理解できない感情だけど……。
貴女が襲いかかってくるなら私も死にたくないし抵抗するわよ」
貴女が襲いかかってくるなら私も死にたくないし抵抗するわよ」
(できれば戦いたくないけど……この人、好みじゃないし)
殺人鬼ジャックは美しい女性しか殺さない。美しければそれでいいのかといえばそういうわけでもなく、明確な【好み】が存在する。
ミョルニルは客観的には美人だが、ジャックの好みでは無かった。
ミョルニルは客観的には美人だが、ジャックの好みでは無かった。
「わたくしは……」
「悩んでるなら人なんか殺さない方がいいんじゃないかしら。
じゃ私はこれで」
じゃ私はこれで」
(ここ臭いし……)
ミョルニルがゲームに乗ろうが乗るまいが、ジャックにはどうでも良かった。
沼地を駆ける。
ミョルニルが追ってくる様子は無い。
無駄で無益な戦闘をせずに済んだことに内心安堵しながら、ジャックはさっさと沼地を脱出するべく足を速めた。
沼地を駆ける。
ミョルニルが追ってくる様子は無い。
無駄で無益な戦闘をせずに済んだことに内心安堵しながら、ジャックはさっさと沼地を脱出するべく足を速めた。
◇
「殺し合い……」
七海真美は明るくて元気な中学一年生だ。
けれど、殺し合いを宣告されて、それでも明るく振る舞えるほど、強靭な性格はしていない。
むしろ、悲劇や絶望に対しては酷く傷つきやすい性格をしていた。
腐臭を気にもせず、膝を抱えて俯く。
けれど、殺し合いを宣告されて、それでも明るく振る舞えるほど、強靭な性格はしていない。
むしろ、悲劇や絶望に対しては酷く傷つきやすい性格をしていた。
腐臭を気にもせず、膝を抱えて俯く。
「どうして、そんな酷いことを……」
真美には、魔法王の気持ちが分からない。
きっと大人だし、王様だから、真美にはまったく及びもつかない、深い考えがあるのだろう。
それでも殺し合いは駄目だ。
きっと大人だし、王様だから、真美にはまったく及びもつかない、深い考えがあるのだろう。
それでも殺し合いは駄目だ。
(死んだ人とは、お友達になれないもん……)
どれだけ嫌いあっても、どれだけ喧嘩しても、いつかは友達になれる。真美はそう信じていた。
クラスの友達には笑われるが、真美は本気だ。
クラスの友達には笑われるが、真美は本気だ。
(そうだよね……うん、そうだよ。今までと変わらない)
全員と友達になる。
真美はそう決めた。
参加者全てと友達になり、最後は魔法王とも。
行動方針を固めると、自然と体が動いた。
真美はそう決めた。
参加者全てと友達になり、最後は魔法王とも。
行動方針を固めると、自然と体が動いた。
「よーし、頑張るぞ……って、あれ?」
真美の前を、ふわふわと横切るものがある。
シャボン玉だ。
シャボン玉だ。
「わー綺麗……」
ほんの、二、三年前までは真美も家の庭や公園でよく遊んだものだ。
さすがに中学生に上がってからはやらなくなってしまったが。
懐かしさも相まって、真美はシャボン玉を眺め、漂ってきた方向に目をやった。
さすがに中学生に上がってからはやらなくなってしまったが。
懐かしさも相まって、真美はシャボン玉を眺め、漂ってきた方向に目をやった。
(……クラゲ?)
というのが、第一印象だ。
水色の髪に、透き通った帽子。鍔からは無数の触手が生えている。
未発達の容姿をシースルーのワンピースで覆い、その下にはスク水を着ている。
魔法少女だ、と真美は気づいた。
それも、真美よりさらに幼い、小学生の。
水色の髪に、透き通った帽子。鍔からは無数の触手が生えている。
未発達の容姿をシースルーのワンピースで覆い、その下にはスク水を着ている。
魔法少女だ、と真美は気づいた。
それも、真美よりさらに幼い、小学生の。
「私、七海真美! あなたのお名前は?」
「むー、ジェイルフィッシュなのー」
少女は眠たげな声でそう言った。
◇
「お友達? いいよー」
「わーい、ありがとう」
七海真美に新しい友人が出来た。
彼女は名をジェイルフィッシュといい、シャボン玉に相手を閉じ込める魔法を使うらしい。
試しにシャボン玉の中に入ってみたが、確かに魔法少女の力でパンチやキックを放ってもシャボン玉はビクともしなかった。
彼女は名をジェイルフィッシュといい、シャボン玉に相手を閉じ込める魔法を使うらしい。
試しにシャボン玉の中に入ってみたが、確かに魔法少女の力でパンチやキックを放ってもシャボン玉はビクともしなかった。
「これで悪い奴を捕まえるのー」
「すごい魔法だね!」
「それほどでもあるのー。それに、私の魔法はこれだけじゃないのー」
そう言って、ジェイルフィッシュは真美に顔を近づけた。
「……私は、最近新技を開発したの」
「新技……!?」
「凄い技なの。ティターニアにも通用するレベルなの」
「す、凄い……!」
ティターニアという名は真美も知っていた。
市内最強ティターニア。
剣からビームのティターニア。
市内最強ティターニア。
剣からビームのティターニア。
「ねぇねぇ、それってどんな魔法なの?」
「ふふふ、秘密~」
「えー、教えてよー」
きゃっきゃと騒ぎ合う二人の魔法少女。
「今ティターニアの話したかしら?」
と、二人に話しかける者が居た。
また仲間が増えると真美は笑顔で声の方を向き、ジェイルフィッシュはシャボン玉を展開して警戒の視線を送る。
現れたのは、コートとスカート、そして顔半分を漆黒に染めた異形の魔法少女。
また仲間が増えると真美は笑顔で声の方を向き、ジェイルフィッシュはシャボン玉を展開して警戒の視線を送る。
現れたのは、コートとスカート、そして顔半分を漆黒に染めた異形の魔法少女。
「私の名は桐ヶ谷裂華。貴女たち、ティターニアがどこに居るか知らな……」
異形の少女が動きを止める。
そして目を見開いて真美を凝視した。
そして目を見開いて真美を凝視した。
「……94点」
「へ?」
「何がー?」
訝しむ二人を無視して、ジャックは顎に手を当て思案の様子を見せる。
「…………あーして…………こーして…………よし、行けるわね。
ねぇ二人とも。私と一緒に行動しないかしら」
ねぇ二人とも。私と一緒に行動しないかしら」
「桐ケ谷さんと?」
「どうしてー?」
「二人より三人の方が安全よ? 一緒にティターニアを探して保護してもらいましょう」
ジャックの提案に二人は顔を見合わせ、小声で作戦会議を始めた。
「真美っち~ あのお姉さん、ちょっと信用できないよ~」
「ど、どうして?」
「顔半分無いじゃん~ 異形だよ異形~。絶対常識ないよ~」
帽子から伸びる触手から視線を外しながら、真美は悩む。
「……でも、私は人を信じたいよ」
「真美っちは甘いね~ まぁその分私がフォローするか~」
ジャックを受け入れる。二人の方針は固まった。
こうして真美は殺人鬼と関係を結んだ。
それが吉と出るか凶とでるかは、まだ誰にも分からない。
こうして真美は殺人鬼と関係を結んだ。
それが吉と出るか凶とでるかは、まだ誰にも分からない。