『昨日深夜に起きた地下鉄の爆破事故ですが、依然詳細は不明です。
鉄道会社は、安全に問題は無かったと主張。
警察は事件事故両方の疑いで調査を進めています』
鉄道会社は、安全に問題は無かったと主張。
警察は事件事故両方の疑いで調査を進めています』
「プア……」
ニュースを見ながら、あにまん市に暮らす小学生、宮島祐樹は家族の名を呼んだ。
ミア、魔法少女『プア』は、元々悪い奴らに捕まっていたらしい。
どんな悪い組織なのかプアは濁していたが、優しいプアが『悪』と断じるからには、きっと漫画に出てくるような悪い組織なのだろう。
そこから逃げてきたプアを、祐樹は匿った。
どんな悪い組織なのかプアは濁していたが、優しいプアが『悪』と断じるからには、きっと漫画に出てくるような悪い組織なのだろう。
そこから逃げてきたプアを、祐樹は匿った。
そこに、深い思慮は無かった。
悪い奴らに追われている人を助けることに、理由など必要ないからだ。
悪い奴らに追われている人を助けることに、理由など必要ないからだ。
けれど、プアは出て行った。
まだ幼い祐樹でも、プアが祐樹たちを巻き込まないために出て行ったことは分かる。
まだ幼い祐樹でも、プアが祐樹たちを巻き込まないために出て行ったことは分かる。
祐樹には、特別な力は何もない。
プアのように変身は出来ないし、魔法も使えない。
プアのように変身は出来ないし、魔法も使えない。
小学校は休校になった。
不吉なニュースが流れる度に、祐樹は不安に駆られた。
プアは大丈夫なのだろうか。危険な目に遭っていないだろうか。
連絡を取る手段は無い。
祐樹に出来ることは、プアが帰ってくるのを待つだけ。
本当に?
本当に、待っているだけでいいのだろうか。
プアは、家族なのに。
不吉なニュースが流れる度に、祐樹は不安に駆られた。
プアは大丈夫なのだろうか。危険な目に遭っていないだろうか。
連絡を取る手段は無い。
祐樹に出来ることは、プアが帰ってくるのを待つだけ。
本当に?
本当に、待っているだけでいいのだろうか。
プアは、家族なのに。
「馬鹿なこと考えるんじゃないわよ」
いつの間にか、部屋のドアの前に姉が立っていた。
祐樹が何を考えているのかお見通しと言わんばかりの態度で、姉、宮島優香は腕を組み、祐樹を見下ろす。
祐樹が何を考えているのかお見通しと言わんばかりの態度で、姉、宮島優香は腕を組み、祐樹を見下ろす。
「姉ちゃん、プアは家族だよ……! 心配じゃないの……!?」
「心配に決まってるじゃない。けどね、ニュース見てれば分かるでしょ」
私たちの街はおかしくなってるのよ、と優香は吐き捨てた。
「地下鉄が爆発して、高校がぶっ壊れて、心霊スポットでいっぱい人が死んでて。
昨日までのあにまん市じゃないの。
そんなところに、私たちがのこのこ出て行って、どうするのよ」
昨日までのあにまん市じゃないの。
そんなところに、私たちがのこのこ出て行って、どうするのよ」
「だったらなおさら、プアを連れ戻さないと……!
そんなにこの街が危ないなら、プアと一緒に、皆で逃げようよ……!」
そんなにこの街が危ないなら、プアと一緒に、皆で逃げようよ……!」
「プアと一緒に逃げるっていうのは、私も大賛成よ。
魔法少女のことをまったく知らない私の友達でも、パパとママがパニックになっちゃって、今日の朝に隣の県まで逃げちゃった子もいるし。
でも、プアを探して家の外を出るのは反対よ。
そんな危険なこと、させるわけにはいかない」
魔法少女のことをまったく知らない私の友達でも、パパとママがパニックになっちゃって、今日の朝に隣の県まで逃げちゃった子もいるし。
でも、プアを探して家の外を出るのは反対よ。
そんな危険なこと、させるわけにはいかない」
「でも、プアは困ってるかもしれないだろ……!
お姉ちゃんの薄情者! 夏実みたいに、お姉ちゃんもプアのこと嫌いだったの!?」
お姉ちゃんの薄情者! 夏実みたいに、お姉ちゃんもプアのこと嫌いだったの!?」
「夏実ちゃんに関してはあんたは色々誤解している節があるけど、まぁ今はいいわ……。
言っとくけど、私はあんたの100倍はプアのこと好きよ。
だからこそ、この家を出るべきじゃない」
言っとくけど、私はあんたの100倍はプアのこと好きよ。
だからこそ、この家を出るべきじゃない」
だって私たち、一般人だもの。
宮島優香は一切の反論を許さない口調で断言した。
「たぶんだけど、プアが今、巻き込まれているのは魔法少女絡みのことよ。
そんな場に小学生が二人出て行って、どうなるっていうのよ。
どうにもならないわよ」
そんな場に小学生が二人出て行って、どうなるっていうのよ。
どうにもならないわよ」
「でも、もしかしたら、プアを助けられるかも……!」
「無理よ。あんたが思っている以上に、一般人と魔法少女の間には隔たりがある。
あんたはまだ子どもだから分からないけどね、私には分かるの。
魔法少女は——超人よ。
クラスのガキ大将に泣かされるようなあんたが、ゴリラや熊より強い魔法少女の戦いで、役に立つはずないでしょ」
あんたはまだ子どもだから分からないけどね、私には分かるの。
魔法少女は——超人よ。
クラスのガキ大将に泣かされるようなあんたが、ゴリラや熊より強い魔法少女の戦いで、役に立つはずないでしょ」
「どうしてお姉ちゃんはそう決めつけるのさ……!
やってみないと分からないじゃん……!
あれは駄目、これは無理、こんなの賢くない……!
夏実みたいなこと言わないでよ!」
やってみないと分からないじゃん……!
あれは駄目、これは無理、こんなの賢くない……!
夏実みたいなこと言わないでよ!」
「まぁ、夏実ちゃんは、私よりよっぽど頭良いしね……。
だから色々あんたと拗れてるんだけど……。
でもねぇ、祐樹。
あんた、自分のこと、主人公だって思ってるでしょ。
プアを悪い奴から匿って、最後はプアと一緒に悪い奴をやっつける。そんなこと、今まで考えてたんじゃないの?」
だから色々あんたと拗れてるんだけど……。
でもねぇ、祐樹。
あんた、自分のこと、主人公だって思ってるでしょ。
プアを悪い奴から匿って、最後はプアと一緒に悪い奴をやっつける。そんなこと、今まで考えてたんじゃないの?」
「それは……」
悪い奴に酷い目に遭わされて、帰る所が無いプアを、可哀そうだと思った。
——その裏に、非日常の世界がやって来たことに、まったくわくわくしなかったかと言えば、嘘になる。
自分のプアのように、不思議な力に目覚める。
あるいはプアをサポートして、共に事件を解決する。
そんな未来を、確かに祐樹は想像していた。
九歳の少年の希望に満ちた、未来予想図。
それを、十一歳の少女は、否定する。
——その裏に、非日常の世界がやって来たことに、まったくわくわくしなかったかと言えば、嘘になる。
自分のプアのように、不思議な力に目覚める。
あるいはプアをサポートして、共に事件を解決する。
そんな未来を、確かに祐樹は想像していた。
九歳の少年の希望に満ちた、未来予想図。
それを、十一歳の少女は、否定する。
「私たちには、資格が無いのよ。
魔法少女の世界に入っていける資格がね。
力が無いのに戦場に出て、子どもだから死なない、なんてのは、フィクションの中だけよ。
……プアのことが心配なら、宿題でもしてなさい」
魔法少女の世界に入っていける資格がね。
力が無いのに戦場に出て、子どもだから死なない、なんてのは、フィクションの中だけよ。
……プアのことが心配なら、宿題でもしてなさい」
「もういい! お姉ちゃんなんか大嫌い! 馬鹿! アホ! クソババア!」
癇癪を起した祐樹は、布団の中に潜り込んだ。
いじけたその様子は、魔法少女を救うヒーローにはまるで見えず、ごく普通の九歳の少年そのものだった。
いじけたその様子は、魔法少女を救うヒーローにはまるで見えず、ごく普通の九歳の少年そのものだった。
同時刻に同年齢の少女が黒騎士に命を狙われ、あるいは彼の良く知るクラスメイトが殺人鬼と相対していることを考えると、あまりにもありきたりで、見栄えのしない姿だった。
優香は溜息をつくと、祐樹の部屋を閉めた。
あれで諦めたとは思えない。
何としても、祐樹が外に出ないよう、監視しなくては。
何としても、祐樹が外に出ないよう、監視しなくては。
(あんたはまだガキンチョだからわからないと思うけどね……プアの居た組織は、ヤバい)
恐らく祐樹のイメージでは黒ずくめの覆面が「イー!」とポーズを取っているような、子ども向けのテレビ番組に出てくる悪の秘密結社がプアの敵だと思っている。
違う。
プアの話を聞く限り、その組織はもっとどす黒く、もっと汚らしい。娼館が何を意味するのか、優香は理解している。
そして、プアの身に着けた魔法が——暗殺に最適な魔法であることも。
プアの話を聞く限り、その組織はもっとどす黒く、もっと汚らしい。娼館が何を意味するのか、優香は理解している。
そして、プアの身に着けた魔法が——暗殺に最適な魔法であることも。
(ジャンルが違うのよ……たぶん、プアの敵は、ニチアサじゃなくて、青年漫画系の敵よ……。そして、そんな奴らが、小学生に容赦するとは思えない……)
呆気なく殺される。
あるいは、死ぬより惨い目に遭わされる。
あるいは、死ぬより惨い目に遭わされる。
(そんなの駄目よ……祐樹と、そして、プアは私が守らないと……)
もし自分たちが死ぬと——きっと、プアは壊れる。
逆に言えば、自分たちさえ無事なら、プアは絶対に帰ってくるはずだ。
一緒に肩を並べて戦うことだけが、仲間ではない。帰る場所で在り続けることも、彼女の支えになるはずだ。
逆に言えば、自分たちさえ無事なら、プアは絶対に帰ってくるはずだ。
一緒に肩を並べて戦うことだけが、仲間ではない。帰る場所で在り続けることも、彼女の支えになるはずだ。
(プア……どんなことをしてもいい。どれだけ貴女が酷いことをしても、私たちは貴女を許すわ。
だから、必ず、帰ってきてね……)
だから、必ず、帰ってきてね……)
無力な姉弟は、ただ、家族の帰りを待ち続ける。