蜂矢恋蜜は、ホラー映画が好きだ。
——以上。
他に特徴らしき特徴は無い、と自負している。
運動神経に優れているわけでも、勉強が得意なわけでも、めちゃモテ委員長というわけでもない。
運動音痴というわけでも、劣等生でもなく、嫌われ者でもない。
群衆の一人。背景。女子C。
それが、恋蜜。
——以上。
他に特徴らしき特徴は無い、と自負している。
運動神経に優れているわけでも、勉強が得意なわけでも、めちゃモテ委員長というわけでもない。
運動音痴というわけでも、劣等生でもなく、嫌われ者でもない。
群衆の一人。背景。女子C。
それが、恋蜜。
(どうして、ホラー映画が好きなんだろう)
と、思う。
映画そのものが大好き、というわけでもない。
クラスで流行りの恋愛映画、ドラマの映画化、有名アニメ監督最新作。
流行に合わせるように観て、それなりに楽しんで、けれどホラー映画を観ているときのような興奮は生まれなかった。
映画そのものが大好き、というわけでもない。
クラスで流行りの恋愛映画、ドラマの映画化、有名アニメ監督最新作。
流行に合わせるように観て、それなりに楽しんで、けれどホラー映画を観ているときのような興奮は生まれなかった。
ホラージャンルなら多少粗が目立っても楽しめるが、それ以外は流行りものか、名作しか観たくない。
そんな、ごく普通の消費者。
そんな、ごく普通の消費者。
ホラー映画の何がそんなに好きなのか。
不条理だから?
モンスターの造詣が美しいから?
人間心理を鮮やかに描いているから?
ちょっとえっちだから?
不条理だから?
モンスターの造詣が美しいから?
人間心理を鮮やかに描いているから?
ちょっとえっちだから?
違う。
——人が残酷に死ぬからだ。
幸福な人間が、有能な人間が、輝く星のような人間が——死ぬ。
——人が残酷に死ぬからだ。
幸福な人間が、有能な人間が、輝く星のような人間が——死ぬ。
それが、楽しい。
恋蜜は——怪物に共感している。
恋蜜は——怪物に共感している。
一時、自分は異常者なのかと自問したことがある。
だが、フィクションの怪物に共感することは、よくあること、ごく普通の心の動きだと、ネットで調べれば分かった。
道を歩く生物が獲物に見えたりはしない。
小動物を殺したりしない。
人を〇すなんて……とんでもないことだ。
だが、フィクションの怪物に共感することは、よくあること、ごく普通の心の動きだと、ネットで調べれば分かった。
道を歩く生物が獲物に見えたりはしない。
小動物を殺したりしない。
人を〇すなんて……とんでもないことだ。
ならば、恋蜜は正常だ。
怪物に共感しない、ホラー映画を愛好しない者と比較すれば異常なのかもしれないが、思い悩むほど異常というわけではない。
サブカル女子、の範疇に入るだろう。
サイコパスとかソシアパスとか殺人鬼とか、そんなカテゴリには当てはまらない。
怪物に共感しない、ホラー映画を愛好しない者と比較すれば異常なのかもしれないが、思い悩むほど異常というわけではない。
サブカル女子、の範疇に入るだろう。
サイコパスとかソシアパスとか殺人鬼とか、そんなカテゴリには当てはまらない。
——それを、少し残念に思う気持ちはあったけれど。
けれど、恋蜜はそれ以上深く考えることなく、日常に埋没した。
ごく普通の少女として、ごく普通のホラー映画愛好者として、群れの中に紛れた。
けれど、恋蜜はそれ以上深く考えることなく、日常に埋没した。
ごく普通の少女として、ごく普通のホラー映画愛好者として、群れの中に紛れた。
蜂矢恋蜜が本物の怪物に襲われ、魔法少女に助けられたのは、彼女が14歳の頃であった。
それが、恋蜜のオリジン。
女子Cが、魔法少女ハニーハントへと姿を変え——デスゲームで殺人者に堕ちることになる、最初のきっかけ。
それが、恋蜜のオリジン。
女子Cが、魔法少女ハニーハントへと姿を変え——デスゲームで殺人者に堕ちることになる、最初のきっかけ。
幽霊だ、と恋蜜は思った。
マンションから出て、次なる獲物を求めあにまん市南部を練り歩き。
日が昇り始めたので、分身体を一旦消した。
悩んだ末に、一時的に変身を解除。
白昼でホッケーマスクは目立ちすぎる。ホラー映画好きが反映した外見が、裏目に出てしまった。
恋蜜の人間としての外見は、桃色の髪のふわふわギャルだ。
高校デビューの結果であり、魔法少女になったことで自信がついた結果でもあるのだが、クラスにはジェシカやマミといった、どちゃくそ目立つ変人がいることもあり、ギャルCくらいの認知で留まっている。
とにかくにも、白昼の歓楽街にホッケーマスクは目立つが、髪染めギャルは目立たない。
自分がビリーバーを殺したように、不意打ちを受ける可能性はあるが、目立ってしまっても不意打ちは受けやすくなる。
魔法少女ハニーハントは、無敵性能を持っているわけでも、ことさら頑丈というわけでもない。
かつての恋蜜のように、群衆に紛れるのは合理的選択だといえた。
マンションから出て、次なる獲物を求めあにまん市南部を練り歩き。
日が昇り始めたので、分身体を一旦消した。
悩んだ末に、一時的に変身を解除。
白昼でホッケーマスクは目立ちすぎる。ホラー映画好きが反映した外見が、裏目に出てしまった。
恋蜜の人間としての外見は、桃色の髪のふわふわギャルだ。
高校デビューの結果であり、魔法少女になったことで自信がついた結果でもあるのだが、クラスにはジェシカやマミといった、どちゃくそ目立つ変人がいることもあり、ギャルCくらいの認知で留まっている。
とにかくにも、白昼の歓楽街にホッケーマスクは目立つが、髪染めギャルは目立たない。
自分がビリーバーを殺したように、不意打ちを受ける可能性はあるが、目立ってしまっても不意打ちは受けやすくなる。
魔法少女ハニーハントは、無敵性能を持っているわけでも、ことさら頑丈というわけでもない。
かつての恋蜜のように、群衆に紛れるのは合理的選択だといえた。
——街は、ちょっとしたパニックになっている。
地下鉄で爆破テロが起こったのだという。
市内各地で異様な格好をした人物が発見され、テロリストの一味だと噂になっている。
その中には、チェーンソーで武装したホッケーマスク集団という者もあり、恋蜜は肝を潰した。
各学校は休校になった。全国各地から報道関係者が集まり、空にはヘリが飛んでいる。
地下鉄で爆破テロが起こったのだという。
市内各地で異様な格好をした人物が発見され、テロリストの一味だと噂になっている。
その中には、チェーンソーで武装したホッケーマスク集団という者もあり、恋蜜は肝を潰した。
各学校は休校になった。全国各地から報道関係者が集まり、空にはヘリが飛んでいる。
(とても、殺し合いを行える雰囲気じゃない……)
魔法の国は、何をやっているのだろう。
テロリスト(十中八九魔法少女のことだろう)に便乗したのか、繁華街のあちこちで、コスプレをしている者がいる。
アニメアニメした格好から、世紀末ファッション、着ぐるみの者までいる。
大抵は若い男性であることが多く、魔法少女ではないと一目で分かるが、中には女性も混じっている。
テロリスト(十中八九魔法少女のことだろう)に便乗したのか、繁華街のあちこちで、コスプレをしている者がいる。
アニメアニメした格好から、世紀末ファッション、着ぐるみの者までいる。
大抵は若い男性であることが多く、魔法少女ではないと一目で分かるが、中には女性も混じっている。
「ねぇねぇ、魔法少女が殺し合いをやってるって、知ってる?」
そうやって、人々に言ってまわる集団などは、全員が女子で——。
「……え?」
幽霊だ、と恋蜜は思った。
マンションで全滅させたオオカワウソ。一匹も逃がすことなく絶滅させたオオカワウソ。
彼女たちが、繁華街を元気に練り歩いている。
それどころか、ビラ配りでもするかのようなテンションで、道行く人たちにペナルティ行為を行っていた。
マンションで全滅させたオオカワウソ。一匹も逃がすことなく絶滅させたオオカワウソ。
彼女たちが、繁華街を元気に練り歩いている。
それどころか、ビラ配りでもするかのようなテンションで、道行く人たちにペナルティ行為を行っていた。
(……幽霊?)
恋蜜が好きなのは、殺人鬼や怪物、物理的ぶっ殺し映画だが、幽霊のような呪い的ぶっ殺し映画も好きだ。人が殺されるなら割となんでもいい。
現実に幽霊が存在するかどうかについては現状保留という立場(死んだら終わりなのは寂しいという気持ちともしガチで幽霊いたら面白半分にエンタメとして消費している自分ら愛好家は恨まれる可能性が高いという気持ちのせめぎ合い)だが、普通の人よりは幽霊という概念を身近に感じている。
現実に幽霊が存在するかどうかについては現状保留という立場(死んだら終わりなのは寂しいという気持ちともしガチで幽霊いたら面白半分にエンタメとして消費している自分ら愛好家は恨まれる可能性が高いという気持ちのせめぎ合い)だが、普通の人よりは幽霊という概念を身近に感じている。
だが、幽霊にしてはいやにくっきり、生き生きとしているし、滅ぼした諜報人である恋蜜を呪おうとする雰囲気も感じない。
むしろペナルティ行為を積極的に行っているあたり、自殺しようとしているのでは?
セルフ成仏を図る幽霊というのも珍しい。
セルフ成仏を図る幽霊というのも珍しい。
(いや、そうじゃなくて……)
幽霊、のはずがない。
現実を受け入れるべきだ。
現実を受け入れるべきだ。
(あの、手記を思い出せ……。魔法少女オオカワウソは、幾つかのグループをマンションの外に出していた。
こいつらは、そのグループの一つだ)
こいつらは、そのグループの一つだ)
あの手記が何なのか、ビリーバーが何者だったのか、未だに整理はつかないけれど。
とりあえず、難しいことは棚上げして、必要な情報だけを咀嚼する。
名簿に記されたビリーバーの人間名が、クラスメイトであったことも——今は、考えない。
とりあえず、難しいことは棚上げして、必要な情報だけを咀嚼する。
名簿に記されたビリーバーの人間名が、クラスメイトであったことも——今は、考えない。
(向こうは私に気づいていない……。当然だ。今の私は変身していないし、何より彼女たちと私は初対面なんだから)
オオカワウソは、イカレている。
マンション、エレベーターの死闘を思い出す。
襲いかかったのは自分とはいえ、チェーンソーで斬り刻まれながらも笑っていた彼女たち。
異常者だ。
ハニーハント以上に、怪物だ。——ホラー映画でも、きっと主役を張れる。
マンション、エレベーターの死闘を思い出す。
襲いかかったのは自分とはいえ、チェーンソーで斬り刻まれながらも笑っていた彼女たち。
異常者だ。
ハニーハント以上に、怪物だ。——ホラー映画でも、きっと主役を張れる。
(クィーンのために、排除しなきゃいけない存在……)
多少目立つことになっても、オオカワウソはこのゲームから根絶させなければならない。
(よし、殺そう)
恋蜜はオオカワウソに気づかれないように、そっとその場を離れる。
往来で変身すると、ホッケーマスクの怪人の正体が、桃髪ギャルだとバレてしまう。
往来で変身すると、ホッケーマスクの怪人の正体が、桃髪ギャルだとバレてしまう。
(これじゃ、ホラー映画じゃなくて、ヒーロー映画だ……)
コンビニのトイレに入る。
そして、恋蜜は、ハニーハントへと姿を変える。
そして、恋蜜は、ハニーハントへと姿を変える。
(害獣駆除の時間だ……)
コーホー、とホッケーマスクの下で息を吐いた。