魔法少女の覆面性について、ネコサンダーは考えたことがある。
基本的に、魔法少女の外見は、人間態と大きく異なる。
ネコサンダーも、変身するとネコミミとしっぽが生え、ぼさぼさとした髪型も溌溂とする。眼鏡をかけなくてもいいくらい、視力も向上する。
顔も地味な猫耳のものから、クラスの1軍女子そっくりの美少女に変身する。
誰もネコサンダーを見て、轟猫耳だとは思わない。
魔法少女の活動中に人間名を名乗ることはなく、猫耳の時に自分はネコサンダーだと明かさないからだ。
時々現れるという悪い魔法少女は、覆面ゆえに箍が外れたのかもしれないと、ネコサンダーは思う。
自分だって、ネコサンダーというアバターを被らなければ、コスプレ写真撮影をしていなかっただろうし、裏垢でちょっと過激な写真を投稿して凍結されたこともある。
基本的に、魔法少女の外見は、人間態と大きく異なる。
ネコサンダーも、変身するとネコミミとしっぽが生え、ぼさぼさとした髪型も溌溂とする。眼鏡をかけなくてもいいくらい、視力も向上する。
顔も地味な猫耳のものから、クラスの1軍女子そっくりの美少女に変身する。
誰もネコサンダーを見て、轟猫耳だとは思わない。
魔法少女の活動中に人間名を名乗ることはなく、猫耳の時に自分はネコサンダーだと明かさないからだ。
時々現れるという悪い魔法少女は、覆面ゆえに箍が外れたのかもしれないと、ネコサンダーは思う。
自分だって、ネコサンダーというアバターを被らなければ、コスプレ写真撮影をしていなかっただろうし、裏垢でちょっと過激な写真を投稿して凍結されたこともある。
何が言いたいかというと、ネコサンダーは自分が轟猫耳だとバレる可能性をまったく想定していなかった。
それもクラスメイトに。
【清原稞美/ウェンディゴ】
【轟猫耳/ネコサンダー】
名簿には、しっかりとそう書かれていた。
それもクラスメイトに。
【清原稞美/ウェンディゴ】
【轟猫耳/ネコサンダー】
名簿には、しっかりとそう書かれていた。
「え、清原さん……?」
語尾にニャを付けることも忘れ、ネコサンダーはウェンディゴと名乗ったペストマスクの魔法少女に、恐る恐る声をかけた。
清原稞美。不登校のクラスメイト。一度も顔を合わせたことは無いが、名前だけは知っている。
「…………ああ、君、私のクラスメイトだったんだね」
ウェンディゴはあまりそのことに興味がないようだった。
(し、知られた……私が魔法少女だって……ネコサンダーが轟猫耳だって……クラスメイトに……)
突如検索履歴をクラスのグループLINEに張り付けられたような羞恥が、ネコサンダーを襲っていた。
まだ、まだウェンディゴ(清原稞美)はいい。教室で気配を消している猫耳のことは知らないのだから、ネコサンダー=轟猫耳とバレてもあまり問題は無い。
クリックベイト(佐々利こぼね)も、いい。彼女は猫耳がネコサンダーだと知っている。性格のギャップがエグイと指摘されたことはあったけれど、
だが、名簿には他にも幾つかのクラスメイトの名前が載っていた。これは問題だ。
クレアボヤンス(桐崎香澄)、山田浅悧、アレヰ・スタア(玉柳水華)。
現状三名のクラスメイトに、ネコサンダーが轟猫耳だとバレたことになる。
魔法少女としての交流は無いが、今後、ネコサンダーとして振る舞う姿を見せる度に
まだ、まだウェンディゴ(清原稞美)はいい。教室で気配を消している猫耳のことは知らないのだから、ネコサンダー=轟猫耳とバレてもあまり問題は無い。
クリックベイト(佐々利こぼね)も、いい。彼女は猫耳がネコサンダーだと知っている。性格のギャップがエグイと指摘されたことはあったけれど、
だが、名簿には他にも幾つかのクラスメイトの名前が載っていた。これは問題だ。
クレアボヤンス(桐崎香澄)、山田浅悧、アレヰ・スタア(玉柳水華)。
現状三名のクラスメイトに、ネコサンダーが轟猫耳だとバレたことになる。
魔法少女としての交流は無いが、今後、ネコサンダーとして振る舞う姿を見せる度に
(お前魔法少女だとバリ喋るやん)
と思われるのだ。
辛い、耐えられない、学校行きたくない。
辛い、耐えられない、学校行きたくない。
(いや、いや、大丈夫……問題ない、問題ないよ、ネコサンダー。
桐崎さんも私と同じ大人しい性格だし、山田さんも真面目でいい人だし、玉柳さんも……あ)
桐崎さんも私と同じ大人しい性格だし、山田さんも真面目でいい人だし、玉柳さんも……あ)
名簿に目を落とす。
玉柳水華——アレヰ・スタアは、既に亡くなっている。
玉柳水華——アレヰ・スタアは、既に亡くなっている。
(クラスメイトが、死んじゃったんだ……)
なんだか、実感が沸かなかった。
美人で、勤勉で、弱い人や困っている人のために奔走している、そんな、魔法少女(ヒーロー)みたいな人だった。
美人で、勤勉で、弱い人や困っている人のために奔走している、そんな、魔法少女(ヒーロー)みたいな人だった。
特別に親しかったわけではない。
けれど、明日から学校に通っても、挙手の時にすらっと伸びた白い手や、友人に囲まれて明るく笑う彼女の姿が見れないと思うと、とても寂しい気分になった。
けれど、明日から学校に通っても、挙手の時にすらっと伸びた白い手や、友人に囲まれて明るく笑う彼女の姿が見れないと思うと、とても寂しい気分になった。
(殺し合い、本当にやってるんだ……)
この六時間あまり、ウェンディゴ・ブレイズドラゴンと出会って以降、ネコサンダーたちは他の魔法少女と遭遇していない。
それ故に、生死を賭けた緊張感が、ネコサンダーから抜け落ちていた。
現実を突きつけられる。今、自分たちは殺し合いをしていると。
それ故に、生死を賭けた緊張感が、ネコサンダーから抜け落ちていた。
現実を突きつけられる。今、自分たちは殺し合いをしていると。
「きよは……ウェンディゴ、ブレイズドラゴンさん、二人は知り合いが巻き込まれていたのかニャ?」
「好きに呼びなよネコサンダー。そして僕の知り合いは……会ったこともないクラスメイトを除けば、『ジャック・ザ・リッパー』だけだよ」
「ほう、随分と物騒な名前じゃのう」
「名は体を表す……事実、彼女は殺人鬼さ。十分に注意することだ」
「カカカ、殺人鬼の魔法少女とは、面白いのう」
(ブレイズドラゴンさん、私たち子どもを安心させるために……)
大人の余裕を示してくれたことに感謝をしつつ、ネコサンダーは初対面のクラスメイトに情報の確認を求める。
「ウェンディゴ、その殺人鬼というのは、文字通りの意味なのかニャ?
ペンネームとかハンドルネームとか、もしくはホラー映画オタクという意味ではなく?」
ペンネームとかハンドルネームとか、もしくはホラー映画オタクという意味ではなく?」
「ああ、彼女はれっきとした殺人鬼さ。
自らの快楽のために命を弄ぶ外道だよ。
知り合いとして断言するけど、ネコサンダー、彼女には決して近づかない方がいい。
君が彼女の好みかは分からないけれど、その素養はある気がする」
自らの快楽のために命を弄ぶ外道だよ。
知り合いとして断言するけど、ネコサンダー、彼女には決して近づかない方がいい。
君が彼女の好みかは分からないけれど、その素養はある気がする」
(だったらなんでウェンディゴは殺されていないの?)
どうにも信じられない。
殺人鬼は、実在する。
魔法少女の殺人鬼も、探せばいるのだろう。
けれど、不登校の少女と知り合いで、自らが殺人鬼だと明かす殺人鬼魔法少女、なんて、どうにも非現実的。
まるでライトノベルの登場人物だ、とラノオタのネコサンダーは思った。
面と向かっては言わないが、ウェンディゴの妄想なのでは、とすら思う。
ネコサンダーも悪魔が友達だと言い張っていた時期があったし。
殺人鬼は、実在する。
魔法少女の殺人鬼も、探せばいるのだろう。
けれど、不登校の少女と知り合いで、自らが殺人鬼だと明かす殺人鬼魔法少女、なんて、どうにも非現実的。
まるでライトノベルの登場人物だ、とラノオタのネコサンダーは思った。
面と向かっては言わないが、ウェンディゴの妄想なのでは、とすら思う。
ネコサンダーも悪魔が友達だと言い張っていた時期があったし。
「儂の知り合いは、ハイエンドとヒートハウンド、そしてティターニアよ」
「え、ティターニアと知り合いニャんですか?」
ますます頼もしい。
ネコサンダーでも知っている、あにまん市最強の魔法少女。
……名簿を見ると、三年の現社担当教師の名前が書いてあったけれど。
試験の訂正で校舎を奔走していたり、没収したゲームを休み時間に熱中しているような、生徒からも「残念な人」と評判の妃咲先生が、最強魔法少女というのも、中々信じられない。
ネコサンダーでも知っている、あにまん市最強の魔法少女。
……名簿を見ると、三年の現社担当教師の名前が書いてあったけれど。
試験の訂正で校舎を奔走していたり、没収したゲームを休み時間に熱中しているような、生徒からも「残念な人」と評判の妃咲先生が、最強魔法少女というのも、中々信じられない。
「ハイエンドは儂の弟子、ヒートハウンドは弟子の飼っている犬じゃ。
ん、ああ、忘れとった。
ブラックブレイド、バーストハートは弟子の友達じゃな。
抜刀金は、抜刀道場の娘じゃな。中々良い居合を使う」
ん、ああ、忘れとった。
ブラックブレイド、バーストハートは弟子の友達じゃな。
抜刀金は、抜刀道場の娘じゃな。中々良い居合を使う」
ブラックブレイドの名は放送で呼ばれていた。
だが、知り合いであるブレイズドラゴンが悲し気な様子を見せないため、ネコサンダーもそれに触れようとは思わなかった。
悲しむだけの繋がりが無かったのか、あるいは、ネコサンダーやウェンディゴを心配させないためか。
だが、知り合いであるブレイズドラゴンが悲し気な様子を見せないため、ネコサンダーもそれに触れようとは思わなかった。
悲しむだけの繋がりが無かったのか、あるいは、ネコサンダーやウェンディゴを心配させないためか。
「ティターニアとは、どういう知り合いなんですかニャ?」
昔チームを組んでいたと言われても驚かない程、ブレイズドラゴンからはベテランの風格を感じる。
「ああ、10年程前に、殺し合った」
「………………んん?」
「陣営が敵味方に分かれてのう。
抗争の中で三度戦ったが、一度目と二度目は向こうが消極的で物足りなくてのう。
じゃが、三度目は良かった。どうも儂があやつの友人……確かグッドコミュじゃったか、こやつも強かった……を始末したらしくてな、本気でかかってきてくれたのじゃ。
互いに生死の淵を彷徨う程の死闘となってなぁ、結局儂の陣営のボスが逃げ出して抗争そのものは儂らの負けになってしまったんじゃが……。
ティターニアとの決着は、まだついておらんのよ」
抗争の中で三度戦ったが、一度目と二度目は向こうが消極的で物足りなくてのう。
じゃが、三度目は良かった。どうも儂があやつの友人……確かグッドコミュじゃったか、こやつも強かった……を始末したらしくてな、本気でかかってきてくれたのじゃ。
互いに生死の淵を彷徨う程の死闘となってなぁ、結局儂の陣営のボスが逃げ出して抗争そのものは儂らの負けになってしまったんじゃが……。
ティターニアとの決着は、まだついておらんのよ」
「……えーと」
何処までが冗談?
ネコサンダーは助けを求めるように、ウェンディゴに視線を向けた。
ウェンディゴはブレイズドラゴンの話を聞いていなかったのか、ぼんやりと立っている。
どうやら、大人からの無茶ぶりは、ネコサンダーだけで対応しなければいけないようだった。
ネコサンダーは助けを求めるように、ウェンディゴに視線を向けた。
ウェンディゴはブレイズドラゴンの話を聞いていなかったのか、ぼんやりと立っている。
どうやら、大人からの無茶ぶりは、ネコサンダーだけで対応しなければいけないようだった。
「…………ブレイズドラゴンさんって、お強いんですねっ!」
正直、今この場で話すには悪趣味だし、全然面白いとは思えない冗談だったけれど。
ネコサンダーは、年長者の顔を立てることにした。
ネコサンダーは、年長者の顔を立てることにした。
……本当のはずがない。
今の話が本当なら、ブレイズドラゴンはド級の危険人物だ。
ジャック何某が殺人鬼の魔法少女なら、ブレイズドラゴンは傭兵の魔法少女。
だが、傭兵が何の報酬も払っていないネコサンダーやウェンディゴを保護するだろうか。
心優しい傭兵というハリウッド映画のような人物なのかもしれないが、その割には人を殺したり殺し合ったりすることを喜々として語ったりする。
今の話が本当なら、ブレイズドラゴンはド級の危険人物だ。
ジャック何某が殺人鬼の魔法少女なら、ブレイズドラゴンは傭兵の魔法少女。
だが、傭兵が何の報酬も払っていないネコサンダーやウェンディゴを保護するだろうか。
心優しい傭兵というハリウッド映画のような人物なのかもしれないが、その割には人を殺したり殺し合ったりすることを喜々として語ったりする。
エキセントリックな性格の傭兵魔法少女と考えるより、ちょっとギャグセンスがズレている大人魔法少女と考える方が、現実的だ。
(フルメタのガウルンみたいな魔法少女、いるわけないし……)
創作と現実は違う。
魔法少女は、あくまで現実の延長線上に存在する。
魔法少女は、あくまで現実の延長線上に存在する。
冷や汗を流しながら愛想笑いをするネコサンダーを、ウェンディゴはじっと見つめた。
「ごめんね……」
既に——ネコサンダーは、ウェンディゴの魔法の虜になっている。
ブレイズドラゴンの異常性・危険性に気づけなくなっている。
遠からず、ネコサンダーは死ぬだろう。
ブレイズドラゴンも死ぬ。
顔も知らぬクラスメイトたちも、ゲームに巻き込まれた魔法少女も、死んでいくのだろう。
ブレイズドラゴンの異常性・危険性に気づけなくなっている。
遠からず、ネコサンダーは死ぬだろう。
ブレイズドラゴンも死ぬ。
顔も知らぬクラスメイトたちも、ゲームに巻き込まれた魔法少女も、死んでいくのだろう。
「本当に、ごめんね……」
不幸中の幸いなのは、とウェンディゴはペストマスクの下で皮肉気に微笑んだ。
ウェンディゴを招いてしまった魔法王とその臣下もまた——ウェンディゴの魔法の、範囲内ということだ。
「私のせいで——全員死ぬ」