ウェンディゴは、何もしていなかった。
目の前でブレイズドラゴンとネコサンダーが戦っている。
ウェンディゴは、逃げることもせず、戦うこともせず、ただぼんやりと佇んでいた。
(どちらを選んでも、無駄なことだ)
逃げようとしても——ブレイズドラゴンが、ウェンディゴを逃がすはずがない。
今起きている戦いそのものが、ウェンディゴの魔法によって引き起こされた可能性があるからだ。
今起きている戦いそのものが、ウェンディゴの魔法によって引き起こされた可能性があるからだ。
この場の魔法少女が皆殺しにされたとしても、きっとウェンディゴだけは殺されない。
誘蛾灯として、使われ続ける。
かといって、ブレイズドラゴンに抗うことは出来ない。
ウェンディゴに、戦闘スキルは無い。
人間相手なら基礎スペックで圧倒できるが、対魔法少女で出来ることは、何もない。
だからウェンディゴは何もせず、自分のせいで巻き込んでしまったネコサンダーの奮戦を、ぼんやりと眺めていた。
(彼女、思ったより強いな。大抵の相手なら、襲われても返り討ちに出来たのかもしれない。
ああ、だからブレイズドラゴンと戦う破目になったのか。
多少強いくらいじゃ——生き延びることが出来ない相手だ)
ああ、だからブレイズドラゴンと戦う破目になったのか。
多少強いくらいじゃ——生き延びることが出来ない相手だ)
ネコサンダーは、雷を飛ばしている。
近接戦闘に特化したタイプに、『雷魔法』は相性が良い。
拳が当たらない距離から攻撃できるし、雷より速く動ける魔法少女はそういない。
そして、当たれば一撃でノックアウトできる。
一方的に完封することさえ出来る程の、相性差。
けれどそれは、相手がブレイズドラゴンでなければの話だ。
横方向に伸びる雷が、ブレイズドラゴンに襲いかかる。
カカカ、と独特な笑い声が響き。
ブレイズドラゴンの掌から——気弾が放たれる。
放たれた気弾は、雷と衝突し、相殺された。
(何でもありだな……なんて理不尽)
恐らく、やっていることは魔力をそのまま発射しているだけだ。
そう難しい技能ではない。
炎や雷を発しているのとはわけが違う。
そう難しい技能ではない。
炎や雷を発しているのとはわけが違う。
(もっとも、ゴリゴリの近接型がやるのはだいぶおかしいけれど)
雷と気弾は何度もぶつかり、対消滅を繰り返す。
時々、雷が勝ち、ブレイズドラゴンの身体を掠めるが、有効打になっていない。
頑丈なのか、電気に耐性があるのか、何らかのからくりがあるのか。
(ジャックなら分かるのかな? 戦闘素人の私では、何も分からないけれど……)
ウェンディゴの見立てでは、ネコサンダーの雷攻撃と、ブレイズドラゴンの気弾攻撃。
出力は、ネコサンダーの方が上である。
事実、雷が勝つことはあっても、気弾側が勝つことはない。
出力は、ネコサンダーの方が上である。
事実、雷が勝つことはあっても、気弾側が勝つことはない。
問題は、勝っても意味がないことだ。
威力を削がれた雷では、ブレイズドラゴンを倒せない。
威力を削がれた雷では、ブレイズドラゴンを倒せない。
積み重ねればいつかは倒せるかもしれないが、その前にネコサンダーの魔力が尽きるだろう。
現に、ネコサンダーの顔には、短時間で疲労の色が浮かんでいた。
現に、ネコサンダーの顔には、短時間で疲労の色が浮かんでいた。
その時、チェーンソーの振動音が響いた。
ウェンディゴはそちらに顔を向ける。
ウェンディゴはそちらに顔を向ける。
ホッケーマスクの怪人軍団が、徒党を組んでブレイズドラゴンに迫っていた。
全員の手には、巨大なチェーンソーが握られている。
全員の手には、巨大なチェーンソーが握られている。
(まるで悪夢だな)
ペストマスクを被っている自分を棚上げして、そんな風に思う。
ブレイズドラゴンも、ホッケーマスクの集団に気づいたのか、嬉しそうにカカカ……と笑う。
いくらブレイズドラゴンが格闘能力に優れていても、10を超えるチェーンソーには対抗できないのだろうか。
気弾を飛ばすことなく、刃が届く距離までハニーハントの集団を迎え入れたブレイズドラゴンは、無造作に拳を振るった。
一番近くにいたハニーハントの、首から上が消滅した。
「脆いのう」
残念そうにブレイズドラゴンは呟くと、そのまま立て続けに拳を振るい、首無しハニーハントの数を1から4に増やす。
だが、背後に回り込んだハニーハントの一人が、ブレイズドラゴンの背中に刃を振り下ろす。
だが、背後に回り込んだハニーハントの一人が、ブレイズドラゴンの背中に刃を振り下ろす。
ぴたり、と回転する刃がブレイズドラゴンの指に挟まれて、静止する。
そして、板チョコを割るように、刃は根本からへし折られた。
「滅入るのう」
憂鬱げに呟く。
同時に、残っていたハニーハントが全て爆散する。
分身ハニーハントは、人間程度のフィジカルしか持っていない。
ブレイズドラゴンの一撃を浴びれば、粘土細工のように壊れてしまう。
ブレイズドラゴンの一撃を浴びれば、粘土細工のように壊れてしまう。
すかさず、新たに10体のハニーハントが作られた。
先ほどまでと同じように、チェーンソーを鳴らしながら、ブレイズドラゴンへと向かう。
先ほどまでと同じように、チェーンソーを鳴らしながら、ブレイズドラゴンへと向かう。
巣に近づいた外敵を追い払う、蜂のように。
本物のハニーハントは、少し離れた場所から、分身とブレイズドラゴンの死闘を見据えていた。
立て続けの分身制作は、多大な疲労を強いていた。
それでも、メリィの指示通り、時間を稼がねば。
立て続けの分身制作は、多大な疲労を強いていた。
それでも、メリィの指示通り、時間を稼がねば。
「——お待たせなのだ」
へけっ、とブレイズドラゴンに勝ると劣らない口調の魔法少女が、ハニーハントに声をかけた。
「……随分と、早いですね」
「メリィ史上一番焦ったダイブだったのだ」
ホッケーマスク越しでも、メリィが疲弊していることは分かった。
米軍のセキュリティが……とか、翻訳するの一々手間なのだ……と愚痴を垂れる姿は、鉄火場にいるとは思えない程余裕に満ちたもので。
「弱点が、あったんですね」
ハニーハントの問いかけに、メリィは笑いかけた。
「——無かったのだ。
ブレイズドラゴンは——無敵の魔法少女なのだ」
ブレイズドラゴンは——無敵の魔法少女なのだ」
「……はぁ?」
ハニーハントの呆れとも絶望ともつかぬ声が、繁華街に響いた。