「…………?」
ブレイズドラゴンは、空を飛んでいた。
繁華街のビルを見下ろしながら、ブレイズドラゴンは疑問を覚える。
(……儂、いつから飛んどった?)
『気が飛ぶ』……燃費は悪いがブレイズドラゴンは一時的に飛行能力を獲得することが出来る。自分が空中に居ること自体は、そうおかしなことではない。
問題は、ブレイズドラゴンには「飛んだ」記憶が無いこと。
ハニーハントが逃げ込んだ建物を燃やし尽くした所までは覚えている。
さて、次はどうするかと思案し——空に居た。
おかしい。
記憶が断絶している。
もしや召されたのかとも考えたが、肉体はちゃんとある。
——衝撃と痛みが、全身に広がっている。
(これは……)
薄々、気づく。
自分は飛んでいるのではない。
自分は飛んでいるのではない。
飛ばされているのだ。
何者かに——殴り飛ばされた。
殴り飛ばされた衝撃で、数百m上空まで打ち上げられた。
(……誰かわからんが、面白いのう)
致命傷を負っているとはいえ、自分に一撃を与え、一時的に意識を飛ばすとは。
ティターニアに匹敵する強敵の予感。
ティターニアに匹敵する強敵の予感。
(カカカ……地上に戻り、第二ラウンドと行こうかの)
殴り飛ばした相手は、勝ったと勘違いしているかもしれない。
ダメージは大きいが、未だブレイズドラゴンは健在だ。まだまだ、まだまだまだ戦闘は可能である。
戦いはこれからだ。
この攻撃を何度も浴びていては身が持たないが、だからこそ戦闘のしがいがある。
この攻撃を何度も浴びていては身が持たないが、だからこそ戦闘のしがいがある。
ブレイズドラゴンは空中で姿勢を制御し、下手人を探す。
果たして、新たなる強敵はどんな魔法少女なのか。
果たして、新たなる強敵はどんな魔法少女なのか。
「おい」
と、声は——上から聞こえた。
苛々していることが声色だけで分かる、年若い少女の声。
ブレイズドラゴンは、見上げた。
天の上に、少女が浮いている。
天の上に、少女が浮いている。
「桐生の娘……」
エジプト衣装に身を包んだ、猫をモチーフとした魔法少女。
桐生ヨシネ、魔法少女名『バーストハート』。
今しがたブレイズドラゴンが殺したはずの、死者。
桐生ヨシネ、魔法少女名『バーストハート』。
今しがたブレイズドラゴンが殺したはずの、死者。
(違う……)
姿かたちは同じでも、これは、『バーストハート』ではない。
「誰じゃ貴様……」
「——魔法少女」
それ以降の名乗りは無かった。
そんなものは無用だとでも言うように、バーストハートと同じ姿の魔法少女は拳を握り、無造作に振り下ろす。
そんなものは無用だとでも言うように、バーストハートと同じ姿の魔法少女は拳を握り、無造作に振り下ろす。
あまりにも稚拙。
格闘技に熟達していたバーストハートと比較して、あまりにも未熟な動作。
素人丸出しの、児戯のようなパンチ。
当然、ブレイズドラゴンは難なく躱す。
空中で身動きが取れないという常識は、彼女には通用しない。
否、もしブレイズドラゴンが飛行能力を有していなくても、単純な体捌きでこの攻撃は回避できるだろう。
格闘技に熟達していたバーストハートと比較して、あまりにも未熟な動作。
素人丸出しの、児戯のようなパンチ。
当然、ブレイズドラゴンは難なく躱す。
空中で身動きが取れないという常識は、彼女には通用しない。
否、もしブレイズドラゴンが飛行能力を有していなくても、単純な体捌きでこの攻撃は回避できるだろう。
それでもブレイズドラゴンが大袈裟に回避したのは、致命傷を負って弱っていたからではなく、拳が纏う気配に奇妙な違和感があったからだ。
その違和感を言語化する前に、ブレイズドラゴンは本能に従って回避した。
当然のように、拳は空を切る。
——衝撃が、世界を揺らした。
ビルや建物の群れ、道路や駐車場、鮮やかな看板。
繁華街を構成していた数多の要素。
それらが——消滅する。
繁華街を構成していた数多の要素。
それらが——消滅する。
謎の少女が打ち込んだ拳の真下——およそ直径100mの範囲が、一瞬で、粉微塵に破壊される。
巨大なクレーターが形成され、打ち上げられた残骸が、雨の様に地上に降り注ぐ。
(何じゃ、その威力は……)
ブレイズドラゴンは戦慄した。
もし、受けていれば、ブレイズドラゴンのドラゴン由来の頑強さをもってしても、一撃で終わっていた。
そう理解させる程の威力。
もし、受けていれば、ブレイズドラゴンのドラゴン由来の頑強さをもってしても、一撃で終わっていた。
そう理解させる程の威力。
ティターニアの全力ストラッシュ、あるいは天城千郷の渾身の一撃に等しい大破壊を前にして、しかし、ブレイズドラゴンは不敵に笑った。
(大した魔法じゃ……しかし未熟なり!)
どれだけ強力な魔法があっても、それだけでは片手落ち。
事実、一撃を放った少女は隙だらけであり、ブレイズドラゴンは容赦なく攻撃を当てることが出来る。
事実、一撃を放った少女は隙だらけであり、ブレイズドラゴンは容赦なく攻撃を当てることが出来る。
(この後はティターニアも控えておる、さっさと終わらせようぞ)
「『絶招』」
相手の物理攻撃耐性を無効化し、ブレイズドラゴンの一撃をそのまま通す、ブレイズドラゴンの必殺技。
攻防もなく、駆け引きもなく、あっさりと、ブレイズドラゴンの拳は、少女の心臓へと突き刺さる。
既にバーストハートはこの技で殺したはずである。
何故生きているのか。
何故生きているのか。
(死体の皮を被る魔法、死体を使役する魔法、他者の姿を真似る魔法……いくらでも仮説が思いつくわ。大破壊の魔法と死体に干渉する魔法、どちらかが支給されたアイテム由来ならば、納得もできる)
(威力は凄いが、技術が未熟。他の魔法少女と連携を取っているならともかく、単体ではあまり大したことのない魔法少女であったのう)
落胆と共に放たれた一撃は、少女を一撃で変身解除させ、死体を落下させ——。
「……何じゃと?」
何も起こらない。
物理耐性を無効化している以上、例えこの少女が防御系の魔法を有していようと、貫通するはずである。
何も起こらないことなど、ありえない。
物理耐性を無効化している以上、例えこの少女が防御系の魔法を有していようと、貫通するはずである。
何も起こらないことなど、ありえない。
技の不発? 失敗? ブレイズドラゴンに限ってそんなミスは無い。
無敵の魔法? ——それを突破する魔法である。
無敵の魔法? ——それを突破する魔法である。
しかし、現に少女は一切の痛みを感じていないように見える。
エジプト衣装が解除される気配も無い。
原理は不明だが——ブレイズドラゴンの魔法は、少女に一切通用していない。
いくら龍が天を目指しても、その外側に辿り着くことは無いように。
「ドラゴンがのさばることは……」
再び少女が拳を握る。
「魔法少女が許さないよ」
二度目の大破壊が、繁華街を襲った。