クリックベイトは経験豊富な魔法少女だ。顔が広く、スピードランサーとコンビを組んで、魔法の国のあちこちを冒険したこともある。
そんな彼女でも、目の前で起きている戦いには立ち尽くすしかなかった。
繁華街は消失している。
建物も道路も信号機も車も看板も、何もかもが瓦礫の山と化している。
空中で二人の魔法少女が戦い、一秒にも満たない攻防で、これだけの被害が出る。
空中で二人の魔法少女が戦い、一秒にも満たない攻防で、これだけの被害が出る。
それは、クリックベイトの常識を超越した出来事だった。
スピードランサーも、今しがた戦っていたブレイズドラゴンも、あのティターニアにしたって、ここまで出鱈目ではないはずだ。
スピードランサーも、今しがた戦っていたブレイズドラゴンも、あのティターニアにしたって、ここまで出鱈目ではないはずだ。
「いったい、何が起こっているんだ……」
ブレイズドラゴンの隙を突くため身を隠していたが、もはやそんなことは言っていられない。
戦闘の余波で死にかねない。
隠れる場所がもう少しズレていれば今頃建物と一緒に消えていた。
戦闘の余波で死にかねない。
隠れる場所がもう少しズレていれば今頃建物と一緒に消えていた。
まるで、魔法少女の戦いに巻き込まれた一般人の気分だった。
「あれは、バーストハート……なのか?」
姿かたちは確かにバーストハートそのものだ。
クリックベイトが知らないだけで、バーストハートはこれ程の実力者だったのか。
あるいは、何らかの条件を揃えることで発動できる奥の手……なのだろうか。
クリックベイトが知らないだけで、バーストハートはこれ程の実力者だったのか。
あるいは、何らかの条件を揃えることで発動できる奥の手……なのだろうか。
「違う……」
本気を出すには遅すぎる。
奥の手を切るにしても、タイミングが妙だ。
奥の手を切るにしても、タイミングが妙だ。
それに、魔法少女と呼ぶには奇妙な空気を、バーストハートは纏っていた。
クリックベイトたちとは存在を逸するような、そんな奇妙な雰囲気。
クリックベイトたちとは存在を逸するような、そんな奇妙な雰囲気。
件のバーストハートが、地上に降りてくる。
その体にも、衣装にも、傷ひとつ、汚れひとつない。
バーストハートは、クリックベイトを視界にも居れずに、平らになった繁華街を一瞥する。
その体にも、衣装にも、傷ひとつ、汚れひとつない。
バーストハートは、クリックベイトを視界にも居れずに、平らになった繁華街を一瞥する。
そして、指をぱちんと鳴らした。
——奇跡が起きる。
瓦礫と化した繁華街は、再生してゆく。
時間を巻き戻すかのように、建物はもとの形へ、道路も車も看板も、あるべき姿に戻っていく。
時間を巻き戻すかのように、建物はもとの形へ、道路も車も看板も、あるべき姿に戻っていく。
(……魔法少女じゃない)
クリックベイトは、確信する。
彼女は、魔法少女ではない。もっと別の、もっと上位の存在だ。
あまりにも——規格外過ぎる。
正しく——神。
彼女は、魔法少女ではない。もっと別の、もっと上位の存在だ。
あまりにも——規格外過ぎる。
正しく——神。
クリックベイトの心に、希望が浮かんだ。
夢物語だ。この世の摂理を捻じ曲げる行為だ。しかし、彼女なら。
夢物語だ。この世の摂理を捻じ曲げる行為だ。しかし、彼女なら。
「な、なぁ……」
声をかけた後で、彼女の名が分からないことに気づいた。
バーストハート、でいいのだろうか。
それとも、別の名を持つのか。
バーストハート、でいいのだろうか。
それとも、別の名を持つのか。
クリックベイトの言葉を無視するかのようにバーストハートはきょろきょろと周囲を窺っている。
眉間に皺を寄せ、目は戦意と怒りで滾っている。
野良猫のような雰囲気のかつてのバーストハートとは、やはり纏う雰囲気が違う。
眉間に皺を寄せ、目は戦意と怒りで滾っている。
野良猫のような雰囲気のかつてのバーストハートとは、やはり纏う雰囲気が違う。
「君に頼みがあるんだけど」
「ドラゴン……どこに隠れた?」
クリックベイトの言葉は、この少女に届いていない。
存在の格が違い過ぎるのか。
何らかの制約なのか。
あるいは、怒りで周囲の声が届いていないのか。
存在の格が違い過ぎるのか。
何らかの制約なのか。
あるいは、怒りで周囲の声が届いていないのか。
「……向こうで私の友達が死んでいるんだ。君なら、治せるんじゃないか?
頼む、助けてくれ……」
頼む、助けてくれ……」
クリックベイトの痛切な願いも、少女には届かない。
「隠れた……逃げたか? 臆病者め、醜い蜥蜴め、絶対に逃がさない……」
ぶつぶつと、呪詛のように恨み言を垂れる。
常軌を逸しているのは、魔法の規模だけではないのか。
常軌を逸しているのは、魔法の規模だけではないのか。
「君なら、出来るんだろ!?
自分を治したみたいに、街を治したみたいに、ネコサンダーを治すことだってできるはずだろ!?」
自分を治したみたいに、街を治したみたいに、ネコサンダーを治すことだってできるはずだろ!?」
クリックベイトらしからぬ、悲鳴にも似た言葉を、少女は黙殺した。
届いていない。
どれだけ祈っても、願っても、少女には届かない。
彼女は決して、人の願いを叶える慈愛なる神ではないのだから。
届いていない。
どれだけ祈っても、願っても、少女には届かない。
彼女は決して、人の願いを叶える慈愛なる神ではないのだから。
「頼む……友達なんだ……僕の目の前であいつに、ブレイズドラゴンにやられて……」
「今、ドラゴンにやられたって言った?」
「え?」
唐突に反応を返され、クリックベイトは面食らう。
バーストハートは、初めてクリックベイトの存在に気づいたかのように、彼女を凝視している。
緊張のあまり、クリックベイトは唾を呑み込んだ。
バーストハートは、初めてクリックベイトの存在に気づいたかのように、彼女を凝視している。
緊張のあまり、クリックベイトは唾を呑み込んだ。
「ドラゴンにやられたのは誰?」
「私の友達のネコサンダー、魔法少女だ。そこに倒れてる……」
クリックベイトが指差した方向に、バーストハートは視線を向ける。
「ドラゴンめ……」
ぱちり、と再びバーストハートは指を鳴らした。
街を治したときと同じように。
いてもたってもいられず、クリックベイトは走り出した。
人の形を保っていなかったネコサンダーの死体のもとへと。
人の形を保っていなかったネコサンダーの死体のもとへと。
「ネコサンダー……」
そこには、そばかすにボサボサな髪、眼鏡をかけた垢ぬけない少女——轟 猫耳が無傷で横たわっていた。
クリックベイトは猫耳を抱き寄せる。
鼓動はある。脈もある。呼吸もある。
鼓動はある。脈もある。呼吸もある。
生きている。
「良かった、本当に良かった……」
クリックベイトはバーストハートの方に向き、感謝の言葉を述べようとして。
——バーストハートの顔に、ブレイズドラゴンの蹴りが刺さっていた。