獣が怯えている。
霊都エメラルド、魔法王の城。中央部、渡り廊下にて。
運営魔法少女の一人、『狩人』パトリシアは会場を映すモニターを眺めていた。
運営魔法少女の一人、『狩人』パトリシアは会場を映すモニターを眺めていた。
運営側魔法少女は城内ならば自由にモニターを展開、鑑賞が出来る。
殺し合いそのものには興味が無いが、参加者は誰もがパトリシアの狩りの対象に成り得る。実戦の前に少しでも情報は入手しておきたい。
殺し合いそのものには興味が無いが、参加者は誰もがパトリシアの狩りの対象に成り得る。実戦の前に少しでも情報は入手しておきたい。
特に、ティターニア、スピードランサー、テンガイ、ブレイズドラゴンの四人は、無策で挑むのは危険だと判断している。
山林部ならともかく、リングのような場所で戦えば、勝つことは難しいだろう。
山林部ならともかく、リングのような場所で戦えば、勝つことは難しいだろう。
故に、強者の一人、ブレイズドラゴンの戦闘をパトリシアはじっくりと観察することにした。
(やはり、遠距離戦が有利か? って、うわ、火とか吹くのか……。ならば戦闘の場を森とするのは悪手か……)
ブレイズドラゴンの戦闘を観察しながら、パトリシアは彼女の本質を掴む。
(あれは、獣だ)
魔法少女には、動物モチーフの者が多い。
変身者が少女である以上、身近の可愛いものを変身イメージに加えるからか、あるいはコスチューム作成者、オートクチュールの趣味の偏りによるものか。
変身者が少女である以上、身近の可愛いものを変身イメージに加えるからか、あるいはコスチューム作成者、オートクチュールの趣味の偏りによるものか。
参加者にも犬モチーフ、猫モチーフが多数参加しており、ブレイズドラゴンと交戦したネコサンダーやバーストハートはこれに該当する。
だが、それはあくまでモチーフに過ぎない。
パトリシアの価値観では、魔法少女は「人」と「獣」に区分される。
パトリシアの価値観では、魔法少女は「人」と「獣」に区分される。
人の倫理で動くものと、獣の道理で動くもの。
ネコサンダー、バーストハートは「人」なのだろう。
運営側で言えば、グレンデルも「人」だ。悪人だが。
運営側で言えば、グレンデルも「人」だ。悪人だが。
オオカワウソは「獣」。
ブレイズドラゴンもまた、「獣」。
ブレイズドラゴンもまた、「獣」。
そして、「彼女」も……。
「パラサイトドール」
と、パトリシアは同じモニターを眺める運営魔法少女に声をかけた。
「貴様もブレイズドラゴンが気になるのか?」
「うーん……まぁね……」
怠そうな、ギャル。
経歴も得意な魔法もよく知らぬ、パトシリアと同じ、途中参加組。
経歴も得意な魔法もよく知らぬ、パトシリアと同じ、途中参加組。
よくも悪くも目立つトート・アリアやグレンデルと比較し、影が薄い魔法少女。
だが、パトリシアの狩人としての本能が、パラサイトドールのガワの中に隠された、本質を嗅ぎ取っていた。
(こいつは……獣だ)
人の皮を被った獣。
狩人として最悪の相手。
狩人として最悪の相手。
件の彼女は、面倒そうな表情でモニターを見ている。
外見は、今時の無気力なギャルにしか見えない。
中身は、何を想っているのか。
外見は、今時の無気力なギャルにしか見えない。
中身は、何を想っているのか。
モニター内で、動きがあった。
バーストハートの蘇生。
空中に打ち上げられるブレイズドラゴン。
隕石でも落下したかのように破壊される繁華街。
巻き戻すかのように修復される繁華街。
ネコサンダーの蘇生。
バーストハートの蘇生。
空中に打ち上げられるブレイズドラゴン。
隕石でも落下したかのように破壊される繁華街。
巻き戻すかのように修復される繁華街。
ネコサンダーの蘇生。
「何だ……これは……」
パトリシアの常識では考えられないような、奇跡の連続。
あれが——魔法少女?
パトリシアが純粋な戦闘力なら自らより格上と考えているブレイズドラゴンを一方的に蹂躙し、拳の一振りで街を消し飛ばす。
あれが——魔法少女?
パトリシアが純粋な戦闘力なら自らより格上と考えているブレイズドラゴンを一方的に蹂躙し、拳の一振りで街を消し飛ばす。
(あんなものが、この世に存在していいのか?)
世界観(スケール)が違う。
ブレイズドラゴン級ならまだやりようはあるが、あんなものを狩れと言われてもパトリシアには無理だ。
純粋火力なら魔法国最強——アグネア・ミストリルが匹敵するかもしれないが、破壊した街を一瞬で元通りにし、死んだ者を生き返らせる芸当は、彼女にだって不可能だ。
ブレイズドラゴン級ならまだやりようはあるが、あんなものを狩れと言われてもパトリシアには無理だ。
純粋火力なら魔法国最強——アグネア・ミストリルが匹敵するかもしれないが、破壊した街を一瞬で元通りにし、死んだ者を生き返らせる芸当は、彼女にだって不可能だ。
「もしこれが我々の所に攻め込んで来たら——対処は不可能だ。
パラサイトドール、君はどう思う……っ!?」
パラサイトドール、君はどう思う……っ!?」
カタカタカタカタ……。
パラサイトドールは震えていた。
顔は血の気を無くし、目には涙を溜め、口元を手で覆っている。
常に怠そうな、マイペースを貫いてきた彼女とは思えないほどの醜態。
顔は血の気を無くし、目には涙を溜め、口元を手で覆っている。
常に怠そうな、マイペースを貫いてきた彼女とは思えないほどの醜態。
「大丈夫……絶対、大丈夫……何とかなる……同じ『天上』だし……あの時とは条件違うし……あの時だってトータル私の方が優勢だったし……一番幸運値高い個体厳選したし……」
「お前……あれを知っているのか?」
パトリシアの問いかけに、パラサイトドールは、彼女の存在を今思い出したかのように二度見した。
そして、ハンカチで目元を拭うと、皮肉気に笑う。
そして、ハンカチで目元を拭うと、皮肉気に笑う。
「たぶん……君も知ってるんじゃないかな……うん、魔法の国の住民ならみんな知ってると思うよ……」
知らない。あんなものをもし知っていたら、意識しないはずがない。
だが、パトリシアの脳裏に、一つの固有名詞が浮かび上がった。
知り合いではない。仮想敵でもなければ、尊敬の対象でもない。
ただ、一般常識として、その存在を知っている。
前提として、教養として、押さえている。
知り合いではない。仮想敵でもなければ、尊敬の対象でもない。
ただ、一般常識として、その存在を知っている。
前提として、教養として、押さえている。
神に匹敵する魔法少女。即ちそれは、伝説であり、王権の由来でもある。
「まさか……そんなことがあり得るのか?
あれは……」
あれは……」
かつて、妖精の世界は黒い龍が支配した。
妖精たちは支配され、殺し合いをさせられた。
だが、暗黒の時代を追わらせた、救世主が現れる。
人間の世界からやって来た、一人の少女。
黒竜を打倒し、新たな時代の魁となり、王権の由来となった英雄。
妖精たちは支配され、殺し合いをさせられた。
だが、暗黒の時代を追わらせた、救世主が現れる。
人間の世界からやって来た、一人の少女。
黒竜を打倒し、新たな時代の魁となり、王権の由来となった英雄。
真名不明。魔法少女名、無し。
故に後世の人々は、彼女をこう呼称する——。
『始まりの魔法少女』と。