(投稿者:トーリス・ガリ)
ある日の早朝、日が昇るちょっと前、拙者はいつも通り街の裏山で手裏剣の練習をしてた。
木と木の間を飛び回りながらバンバン投げる。
今日は特に調子がいい。そこかしこの木に付けた的に次々と命中する。
ところが、最後の的に投げた手裏剣が凄い勢いで拙者の方に戻ってきた。
右頬ギリギリを飛んで後ろの木に深く突き刺さった。
咄嗟によけたからよかったものの、反応が遅れてたら絶対人中に入ってた。
「あ……危なかったでゴザル」
なんで戻ってきたかとビックリするより先に、ギリギリよけた事に安心した。
でもまだ終わりじゃなかった。
今度は前方斜め上からダダダダッと7つ続け様に飛んで来た。とはいえ拙者もメードの端くれ、これくらいよける。
流石に拙者もバカじゃないので、曲者がいることに気付いて愛用のクナイ、射周氣善郎を取り出して構える。
「誰でゴザルか!?」
聞いてみたけど返事無し。ていうか敵に誰だと聞かれて名乗るわけがない。
試しに最後に手裏剣が飛んできた方向に癇癪玉を投げ込んでみるけど、玉が弾けた音以外何も無し。
敵が見えない以上、無闇に動くと危険。まずは周りをよーく見るけど、見た感じ誰もいない。
見た感じ誰もいなくても手裏剣だけ飛んでくる。今度は拙者を追いかけるように連続で10発。
ギリギリ全部よけきったと思ったら……
「う……」
後ろに人の気配がして、同時に拙者の喉に短刀の刃が止まる。
この刃が動けばたちまち凄惨な殺人現場になるだろう。
敵の姿も見られずに惨敗でゴザル。かっこわるい……。
ていうか、こんなところで死んじゃったら姫様泣くかなぁ……。
拙者がいないと何かあったときに守れないでゴザル。
いや、ていうかこんな頼りないままじゃそばにいても守れないでゴザルよ。
「お前が……」
なんてことを意外に冷静に考えてると、後ろから男の人の声。
しかも殺さずに短刀を拙者の喉から離す。
返せ! さっき走馬灯のように次々と浮かんでは消えた思い出を返せでゴザル!
心の中で叫びながらもとんぼ返りで反転して間合いを取りつつ敵の姿を確認。
でもいない。
「守護者の任は重荷か……」
真上から声。
手裏剣で応戦したものの、またも姿は見えない。
その見えない方向から手裏剣がたくさん同時に飛んでくる。
飛び退いてギリギリでよけきる……ごめんなさい、ウソでゴザル。右手と左足にかすったでゴザル。
手裏剣に毒を塗ってあったら終わってたでゴザル。
それでもなんとか体勢を立て直すために、かっぱーふぃーるど君から取り出した煙球で目くらましを試みる。
そのはずだったのに……
煙が晴れると、風になびいているような髪型、マスクと右目の眼帯、左目の傷、赤いマフラーの背の高い男の人が腕を組んで真っ直ぐ立ってた。
拙者はというと、鉤縄でぐるぐる巻きで木の枝に逆さ吊りにされてミノムシ状態。
「か……完敗でゴザル……」
流石に落ち込むでゴザル。
こっちからなんにもできなくて、一方的に攻められて、背後を取られて、王手までかけられて……。
「嘆かわしい……」
その人は呆れたように俯いてそう言った。
後で聞けば、ギリギリで避けてた手裏剣も実は避けられる程度に軽く投げてて、当てようと思えば最初に跳ね返ってきた一発目で首に命中させられたらしい。
キラキラと眩しい太陽が昇り始めるのとは逆に、拙者の気分は沈んでいった。
「かざまちゃんのお師匠さん?」
あれからさっきの男の人、
ジンナイ師匠と二人で挨拶回りに行って、これが最後。時計は四時丁度。
ここは九条院家、姫様こと
九条院愛理香様のお部屋。ホントにお姫様なわけじゃないけど、普通の人よりいくらか裕福。
ちょっと広めの部屋で拙者と師匠が姫様と向かい合うように並んで正座。
ウサギのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめてソファに座ってる姿が女の子の目から見ても可愛い。
……可愛いんだけど、なんとなく顔が引きつってる気がする。
「そうでゴザル。これから拙者にいろんなことを教えてくれるでゴザルよ」
「宜しくお願いする……」
「そっか……」
何も無い床に視線を落とす姫様。明らかにいつものテンションじゃない。
姫様ならきっと喜んで応援してくれると思ってたけど、ちょっと様子が変。
微妙に嫌な間が空いた後、師匠が口を開く。
「大げさな言い方ではあるが、国を背負う者としてこのままではいけないと、自衛隊からの要請だった」
姫様、眉の位置がちょっと下がってる。眉間に皺が寄るか寄らないか。つまりあんまりいい気分じゃないみたいだ。
また微妙に嫌な間が、さっきよりも長く続く。
なんとか明るい方向に話を持っていきたいけど、雰囲気に飲み込まれて口が開かない。
ちらっと左に目線をずらすと、師匠は至って涼しい顔。
どうしようどうしようどうしよう……。
となんにもできずにいた拙者の様子を姫様が伺うように見た後、師匠に口を開いた。
「かざまちゃんの事、どういう風に思ってますか?」
「……会ったばかりだが、話に聞く限り印象は悪くない」
「………………そう」
今、姫様の眉間に皺が寄った。褒められたのに。
話の内容は至って普通なのに、空気が凄く重々しい。
「……かざまちゃん」
「は、ははははいっ!」
いきなり呼ばれたのでびっくりして声が裏返った。
でも姫様は相変わらず怖い顔。
「かざまちゃんはどう思ってるの?」
「え、えっと……」
多分、その後拙者、かなり声が震えてたと思う。
でもその場凌ぎの嘘とかは姫様相手につきたくなかったし、元々そういうのは苦手だったので、正直に話した。
「さっきここに来る前、師匠の不意打ちにあってボロ負けしたでゴザルよ……」
それを聞いて姫様の顔が師匠の方を向いた。
驚いた感じで、目の敵を見るような表情だったと思う。
それでも師匠は顔色一つ変えなくて、それが姫様の気を逆なでしたのか、その様子を見た姫様の息遣いが少し荒くなったように感じて、言わなきゃ良かったかなと一瞬思った。
でもやっぱり拙者はバカ正直なので、ありのままを伝えた。
「拙者、このままじゃ誰も守れないと思ったでゴザルよ。だから単純に強くなりたいでゴザル……」
「かざまちゃん……」
姫様の怖い顔が少し和らいだ。それでも真剣な表情は変わらない。
拙者の答えが終わってすぐに師匠の口が開く。
なんていうか、ちょっと空気を読んでない気がするけど考えすぎでゴザルか?
姫様の表情がまた怖い顔に戻る。「え、この人何様のつもり?」みたいな顔をしてる。
でも師匠の言うことだし、ここでいきなり反抗したら後が怖そうな感じ。
なので、なんとなく心配だけどここは素直に言うことを聞く。
拙者を抜きにして話すようなことなら、どうでもいいことじゃないはず。
とにかく居間に行って待ってることにした。
姫様の部屋は二階、拙者は部屋を出ると、後ろを気にしつつ階段を下りた。
「かざま、少し席を外してくれ……」
この時私ははっきり言って、このジンナイさんという人に好感が持てませんでした。
突然現れたと思ったら、かざまちゃんの頑張りを否定するようなことを散々言い始めたんですから。
師匠だとか厳しくするなんて言うけど、それって自分のやり方を押し付けてるだけじゃない?
しかもさも決定事項だみたいに勝手に話を進めて、私の気持ちを考えてないんです。
「………………」
「………………」
私もジンナイさんもしばらく無言。
マスクをしてはいるけど、どんな表情をしてるか大体見て取れます。ポーカーフェイス。
痺れを切らして私から口を開くと、先にジンナイさんから声が出ました。
「……かざまの事はどう思っている?」
さっき私がジンナイさんに聞いた事をそのまま私に投げ返しました。
馬鹿にされているようで腹が立ちます。
でもこういうのは感情的になってしまったら負け。
なんのつもりか心の中では探りつつ、ひとまずは正直に答えます。
「凄く大切に思ってます」
「そうか……」
相変わらずポーカーフェイス。その顔のまま軽く溜息をつくジンナイさん。
かざまちゃんを追い出して私と二人で話す事が何か、やっぱりかざまちゃんの話。
でもどういう話なんでしょう? 今は相手の出方を見ます。
と思って言葉を待つまでも無く、次の質問が来ました。
「かざまとは頻繁に会うのか?」
なんとなく予想してた言葉の一つが、そのマスクに覆われた口から発せられました。
この人は多分……
だから私は、ちょっと自慢げに言いました。
「はい、ほとんど毎日会います」
そこからまたしばらく無言。
考えるだけの時間はあります。とは言っても、考えるまでもないんですけど。
「どう思っているのか」と「頻繁に会うのか」という質問が来れば、思い当たるのは大体見当がつきます。
今度は私が質問します。少しだけ遠まわしに。
「……なんでそんなこと聞くんですか?」
「…………ぶしつけだが、頼み事がある」
「頼み事?」と思わずオウム返し。頼み事って何かしら?
突然言われてしまって、どういうつもりなのかわからなくなりました。
でも、どんな頼みでも簡単に引き受けるつもりはありません。
もしかしたらこの人がかざまちゃんを遠ざける人になるかもしれないから。
「私が厳しく指導していく分、君がかざまを支えて欲しい」
「任せてください」
思わず即答してしまいました。私の誤解だったみたいです。
ジンナイさんは悪い人じゃなさそう。ちょっと怪しいし顔も怖いけど。
ただ、かざまちゃんに厳しくするという言葉が不安です。
かざまちゃんが私を守ってくれるのは凄く嬉しいけど、そのためにかざまちゃんが毎日苦しい思いをするのは私が耐えられません。
……正直、厳しくするという言葉じゃなくて、これからかざまちゃんを支え切れるのかが不安なんです。
でも、かざまちゃんだって不安なのは同じはず。
それでも頑張ると言ってる以上、私もそれに応えてあげないと。
かざまちゃんは私の一番の子なんだから。
「こういう事はあまり本人の前で言いたくなかった……話は終わりだ、かざまを呼んで来る」
「あ、私が行きます」
なので、こういうところは当然譲らない私なのでしたっ。
「あ、私が行きます」
「そうか……」
愛理香が階段を下りていく音が聞こえる。
何故か急に機嫌が良くなったようだ。
「…………」
多少大袈裟だが、これから何かと世話になるであろうかざまの知り合いには挨拶しておかねばと、何軒か回ってきた。
その中でも、かざまにとってこの最後の家の娘は無二の親友なのだそうだ。
一度彼女の両親と彼女の三人に挨拶をした後で、改めて彼女と話をすることになった。
会ったときから異様な空気を感じていたが、この少女は何やら私に対して敵意を持っているようだった。
だから、かざまの修行の一環を背負わせるようなこの頼みを断られるのではと思っていた。
まさかあれが一転して食い付くように賛同するとは……。
「………………」
それにしても、年頃の女性の部屋に入ったことは無かったので、非常に落ち着かない。
白状すると、出来るだけ早く部屋を出たいと思っている。
清潔感のある匂いは匂い袋だろうか。時計の音までも可憐な音に聞こえてしまう。無論後者は気のせいだ。
何気ないものが異様に気になってしまうも、あまり見回すのも気が引ける。
我ながら情けない。完全に雑念に支配されてしまった。
ここが戦場ならばどうなっていただろうか……。
とはいえ私も鬼子、所謂メードとして生まれた以上、ある程度の危機は乗り越えていけるつもりである。
人の子とは違い基本的に実存主義の通らない我々は、その程度の自信を持たないと生きていけない。鬼子の宿命である。
……と、無理矢理くだらない事を考えてその場を凌いでいると、足音が複数近づいてきた。
「意外に早かったでゴザル。もうちょっと待つと思ってたのに」
言葉の通り、意外だという顔をしたかざま。
当然だろうが、私の体感時間とは大きな差異があるようだ。
大した事は話していなかったから、恐らく五分もかかったかどうかといったところか。
修行の内容や私の自己紹介等、伝えるべきは先に伝えてしまっていた。
この時点で私から話す事はもう無く、一応質問を受け付けた。
愛理香もかざまも特別聞きたいことなどは無い様子。
ただ、要望はあるらしい。
「かざまちゃんの修行してるところ、見に行きたいんです」
「駄目だ」
「なんでですか」と、あからさまに不満を顔に出す愛理香。
当然だ。これは学生の部活動などとは訳が違う。巨大な虫の怪物、若しくは人間の息の根を止める技を伝授する危険なものなのである。
飛び道具や火薬・毒薬も多用する。かざまにはまだ早いものも少なからずありはするだろうが。
まして、聞けば彼女の身体は難病に侵されているという。ならば尚の事。
一番は彼女の身の安全であるが、一般人にそばにいられるだけで非常にやりにくいというのも大きい。
率直に言うと、邪魔なのである。
「危険だからだ」
だが、ストレートに「お前は邪魔だ」などとは言えない。
行動中の同士ならば話は別だが、相手が相手だ。
が、彼女は納得いかないようだ。
かざまの事を想っているのは理解するが、聞き分けがよくないのはいけない。
「かざまちゃんの手にかかるなら本望です!」
聞き分けがよくないというよりも盲目的といった方がいいだろうか。
命よりもかざまが大事なのか。本人はそれでいいだろうが、かざまがよく思わないだろう。
だが、想われているかざまが羨ましくもある。
「かざま、お前からも言え」
「……姫様、気持ちは嬉しいけど、ホントに危ないから……」
その想われている本人から直々に言われれば素直になるだろう。
渋々その言葉を受け入れる愛理香。
簡単な事だが、卑怯でもある。許せ。
「師匠! 今日から改めて、宜しくお願いするでゴザル!」
「ん……」
三日後の早朝五時、裏山にて。
かざまの寝床となる簡単な小屋、木の枝に九つ吊られた傷だらけの短い丸太、一際太い木の幹に巻きつけられたボロボロの綱。
かざまの確かな努力の跡にジンナイは改めて感心した。だが、それらは全て結果に繋がらないと戦場で意味を成さない。
本格的な修行を始める前に、ストレッチ、走り込み、筋力トレーニング、ヨガなどを行う。
最後に座禅で改めて精神統一を図り、始めてからは苦手な分野の訓練から消化していく。
……が、そんなことをする前に
「嫌な予感はしていたが………………それで隠れたつもりか?」
「へ?」
愛理香が草むらからジンナイとかざまの様子を伺っている。
どこから持ってきたのか、機動隊の大楯に木の枝葉をペタペタとくっつけてそれに隠れている。
カモフラージュのつもりなのだろうが、明らかに葉の種類が違うため、寧ろ目立つ。
「今更息を殺しても無駄だ、呼吸が荒いぞ」
少し間が空き、諦めたのか草むらから出てきた。
学校指定の水色ジャージに白い運動靴、紺の靴下という、用意周到な服装。
人の通る程度の道があるとはいえ、ここは山の中腹。
身体の弱い上楯装備の愛理香には相当きつかったらしく、汗だくでかなり息が荒い。
ジンナイは呆れ返っていたが、一応想定してはいたらしい。
それほど困った様子も動揺した様子も見せず、あくまで冷静。
一方かざまは驚いたような嬉しいような困ったような、複雑な表情。
「ひ、姫様、来ちゃったでゴザルか……」
「かざまちゃんが頑張るなら……私も同じくらい頑張らなきゃって……」
息遣いに危ういものを感じる。これだけは流石のジンナイも少し気になった。
軽く辺りを見回しながら突然ぽつりと言う。
「だろうな……かざま、マネージャーの腰掛が必要になったぞ」
「ま、マネージャー……?」
かざまはてっきりジンナイが愛理香を追い出すものだとばかり思っていたので、この発言には非常に驚いた。
愛理香もそれは同じだった様子。同時に嬉しいという感情が惜しげもなく顔に出ていた。
そんな愛理香に「ただし」と付け加えてジンナイが改めて向き直る。
「毒、煙、飛び道具、破片その他が来る場合もある。安全のためにも、ここにいる限りは私の言葉を絶対と思え」
「は、はい……」
愛理香の顔が一転して引きつる。
脅しでないことはジンナイとかざまの表情から見て取れる。
だが愛理香とて、そんなことはわかった上で来ている。
そしてジンナイもまたそれを察しているのか、向き合ったままで一言。
「……巻き込む形にはなってしまったが」
マスクの上からも分かる申し訳無さそうな表情。
だが愛理香は全く気にしていない様子。寧ろ「ありがとうございます、巻き込んでくれて」などと冗談を飛ばす。
横でかざまも笑っている。ただし苦笑い。
そんなこんなで、これからかざまとジンナイ、それに結局というかやはりというか、マネージャーの愛理香も加わった修行の日々が始まる。
「差し入れも持ってきたから、みんな……で……食べ……て」
だがその前に、愛理香が疲れて倒れたので暫く小屋で看てあげるかざまなのだった。
そしてジンナイは入れないので独りで手裏剣を投げて気を紛らわしていた。
おまけ
手裏剣投げ
かざま:手裏剣! とー!
愛理香:やったー! 真ん中っ、満点!
ジンナイ:刺さりが甘い、40点
かざま:毒を塗ってればかすっただけで……
ジンナイ:G相手にそんな物は通用せん
かざま:ぐぅ……
吊り下げ丸太避け
かざま:これくらいならまだまだ当たらないでゴザルよー!
愛理香:かざまちゃんかっこいー♪
ゴチン!!
かざま:あぃたっ!?
愛理香:かざまちゃん!! なんで変な所で石投げるんですかジンナイさん!
ジンナイ:飛んでくるのが丸太だけと思うな
かざま:ぐぅ……
吊り下げ丸太サンドバッグ
かざま:右、左後、前、左、前と右後、次は……
愛理香:かざまちゃん危ない!!
バキバキドガバゴコバカボーンノパパー!!
かざま:……ごほ
愛理香:よりによって木を倒すなんて、いくらなんでも酷すぎるわ!
ジンナイ:……今のは私ではないぞ
かざま:何でこんな目に……
ジンナイ:幹の状態を見て判断しろ。その木は腐っていた
かざま:ぐぅ……
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最終更新:2009年02月03日 23:33