(投稿者:エルス)
A.D.1944年 6月14日 アルトメリア西部戦線 平原地帯
「仰角0!横角0!てぇっ!」
少尉の声がE-トランクの車内で反響し、私とエイミーが居る車外へ吐き出された。
こんな馬鹿でかい声を近くで聞いている部下は、大変だと思う。
そんな事を私が思っているうちに、主砲が物凄い音をたてて砲弾を吐き出した。
エイミーの肩がビクリと震え、ビックリした顔で私を見た。
「驚いた?」
言われる前に、私が先制攻撃する。
小さな首が縦に動き、長い金色の髪が派手に舞う。
「びっくりした」
「やっぱり、凄い音だったからね」
「うん、すごいおとだった」
だよね、と相槌をうってみるが、正直私は緊張しすぎて、どうしたらいいのやら。
前にも話したと思うが、私は子供が苦手なのだ。男女関係無く、平等に。
適当に私が笑っていると、少尉がハッチを開け、E-トランクから這い出てきた。
こちらを見ると、満足そうに微笑む。
「仲が宜しいようでなによりだ。あぁ、主砲なんだが、やや右側に照準がずれてんな」
「そうなんですか?上には報告しますが、改修までは長い事かかってしまいます、それまでは少尉の勘で合わせてください」
私がそう言うと、少尉はキョトンとした顔で「俺の勘」と小さく(本当に小さく)呟いた。
その後、散発的に笑い声を出し始め、最後には腹を抱え、大声で笑い出した。あの獰猛な悪者っぽい笑い声である。
「このオヤジの勘か!?ハハハッ、前に言ったろ?G相手に勘なんぞきかねぇのさ!それを勘で合わせろってよぉ、よっぽど俺を信用してるみてぇだな!」
「え、ぁ、そのぉ……まぁ…」
ここで私の得意分野である気迫負けである。こればっかりはどうしようもないのだろうか。
「ハハ……ハァ、涙が出てきやがる。技術屋!主砲のテスト一回目は終ったぞ!」
「あ、はいぃ、次は連続発射で砲身が熱を持った時のテストです。今日はそれで終了にしましょう」
「よし、ジェイムズ!おめぇの馬鹿力見せてやれ!」
「おぉよ!」
その後、何かとジェイムズ上等兵が頑張ったおかげなのか、砲身の熱による照準誤差は大きく上に逸れる事が分かった。
いや、それが当然なのか、それとも特別なのかすら判別できない私が無能な事を再認識させられた方が、精神的な意味でキツイのだが。
ともあれ、テスト経過は順調だ。私も少尉やその部下達と話すことが少しづつ楽しくなってきた。
エイミーとは、まぁ、その内どうにかなるだろう。
少尉が合間を持ってくれれば、上手くいく。私の持っているメードのイメージが、間違ったものだという事を気付かせてくれるかもしれない。
そんな事を思いながら、私は
補給基地までの道のり、E-トランクの車体の上で静かに眠った。
後で聞かされたところによると、私が眠った後、エイミーが私の頭を撫でて笑っていたらしい。
どうやら、少尉が合間を持たなくても、上手くいきそうな気がしてきた。
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基地に帰って早々、嫌な指令を受けた。あのミイラ野郎が直々に俺の所に来た時から予感はしてたんだ、何かあるってな。
案の定、防衛線を抜けた少数のGをあの世送りにする作戦に参加しろときやがった。まだ、あの戦車に慣れきってねぇのによ。ざけんなクソ。
オーデコロンの臭いが、砂の臭いと不協和音を出して鼻を突く、気持ちが悪いったらありゃしねぇ。
「明日、小規模だがこの近辺で駆逐作戦が行われると報告があった。ついては、"猛々しい"貴君らに、参加してもらう事になった。んまぁ、あのガキと古臭い勘があれば、楽な仕事だろうがなぁブルーノー少尉」
「了解であります大尉殿、我々は"大尉のように部屋で書類を捲る事"には不向きでありますので、今回の作戦参加命令は、"大変"ありがたく思います」
ミイラ顔が引きつる。ざまぁみろ、俺の勝ちだ。
腹立たしげに司令所に引き返すミイラの背中に中指を立て、さっさとエイミーの所に帰る。
そういや、エイミーは技術屋とうまく話せてるだろうか。
どうせ、あの野郎は評価試験が終ったらさっさと帰っちまうんだ。それまで、笑い合ってたほうが後味が良い。
そうさ、人生笑ってりゃ楽しいのさ。
最終更新:2009年02月11日 23:33