(投稿者:エルス)
タンカーの頭が消し飛ぶ瞬間は見ているだけで胃袋から食った物が逆流しそうなほどグロテスクなものだったが、ブルーノーは微笑んでいた。
ざまぁ見ろ、唇がそう動いた次には指揮と唾を飛ばし、通信機に吼えていた。
「全車に通達!次弾焼夷弾!連続2連射!その後200m後退!」
『Sir!Yes,Sir!』
「E-トランク!次弾HVAP!仰角ちょい上げ!横角そのまま!」
装填手のジェイムズが慌ただしく動き、デイモンは照準スコープに押し付けていた顔を更に押し付ける。
一番車と二番車の75mm対戦車砲がほぼ同時に火を噴き、炎を迂回しようとしていた
ワモンの集団に直撃し、噴出した炎が炙るようにワモンに襲い掛かり、その堅牢な甲殻を焼く。
続いて三番者がその退路を塞ぐかのように焼夷弾を撃ち込み、炎の檻にワモンは閉じ込められる。
「なかなかやるじゃねぇか、ヒヨコ野朗」
ブルーノーが呟き、そして数秒の間も置かずに吼えた。
「主砲っ!てぇっ!!!」
また重々しい発射音が響き渡り、数秒後に高速徹甲弾(HVAP)がタンカーの死骸に止めを刺した。
遅れて四番車が炎に焼かれているワモンに直接焼夷弾を命中させ、20匹程度が誰も食いたくないバグ・ステーキになった。
上々だな、とブルーノーが心中に思い、また一番車と二番車が焼夷弾をワモンに撃ち込む。
そしてM4シェイマンの450馬力ガソリンエンジンが回り、一番車と二番車は後退していく。
すかさずブルーノーが指揮を飛ばす。
「一番車と二番車は後退後、通常砲弾で砲撃、次の指揮があるまで続行!!」
『Sir!Yes,Sir!』
通信が終ったと同時に三番車の砲口が火を吹き出し、焼夷弾が前進するワモンの前に着弾する。
ブルーノーがまた吼える。
「三番車!後退して通常砲弾で砲撃してろ!!!」
『はいぃ!』
「返事が違うぞこのボケェ!!」
『Sir!Yes,Sir!』
急ぎで後退する三番車を見た後、ブルーノーは顔を車内に入れ、アレックスに後退を指示した。
同時にエイミーに主砲強化を止めさせ、今度はエンジンを強化するように言った。
「上手く出来たらココアを作ってやるからな」
「さぁーいぇっさー、おいちゃんだいすき」
「そら、さっさと行け!」
「うん!」
悪人笑顔でブルーノーはエイミーを見ていたが、次の瞬間には鬼少尉の顔でジェイムズに怒声を響かせていた。
「次弾通常弾!狙いは適当で構わねぇ!牽制球だ!」
「うっしゃぁ!!」
「馬鹿がうつったかジェイムズ!!返事が違――」
「Sir!!Yes!!Sir!!!」
「うるせぇ筋肉スノーマン!!」
車内で大声を出され、右耳を抑えながら車外に顔を出すと、遅れに遅れて四番車が焼夷弾を発射したところだった。
しかも狙いが逸れたのか、ワモンがいる所から20m離れた岩に直撃した。相当に焦っているらしい。
「おい!四番車!さっさと後退しろ!」
そこでブルーノーが気付いた。四番車が、動かない。
悲痛な声が通信機から流れる。
『少尉ぃ!!エンジンが噴き上がりません!!!』
「んだとぉ!?」
ブルーノーは四番車を見た後、ワモンの小群を見た。
先制攻撃のお蔭で数を随分と減らし、既に10匹前後となったその群は非情にも速度を落とさずに四番車に向かっている。
距離にして90m程、危険な範囲だ。E-トランクがスペックを大きく上回る速度で後退し始める。
だが、四番車は動かない。
一番車と二番車が、後退し終わり、停車してから連続で砲弾を発射する。
三番者は後退しながら撃っているが、牽制にしかならない。
散発的な砲弾を決死の突撃によってワモンは四番車に迫っていく。四番車の機関銃と主砲が火を吹く。
距離30m。手遅れだ、とブルーノーが呟く。
『少尉!!ブルーノー少尉ぃ!!助けてください!奴らが、アイツらがあぁぁ!!!』
『此方二番車!少尉!突撃の許可を!!』
『三番車も同感であります!!突撃許可を!!』
『少尉!一番車も同感―――』
ブルーノーの拳がE-トランクの上部装甲を左手で思い切り叩いた。
ガンッ、と言う音に、バキリと嫌な音が重なる。
「てめぇらは黙ってろ!!指揮を出すのはこの俺だ!!!」
四番車とワモンの距離が縮まる。一番車と二番車からの砲撃が止み、三番車も後退を忘れ、その光景を見るしかなかった。
もがくように機関銃を乱射し、主砲を撃つ四番車を。
距離10m。
『少尉いぃ!!!!助けてぇ!助けてえぇ!!!助け―――』
ワモンと四番車が重なり、通信機から金属を引き裂く独特の音が流れ出し、グシャグシャと気味の悪い音と断末魔が重なった。
確かM4シェイマンの搭乗員数は五名だったか、ブルーノーは歯を食い縛った。
『ラルフ!!!』『レイモンド!!』
『オリヴァー!』『コリン!!』『ゲイリー!!!!』
通信機から各車の悲痛な声が聞こえてくる。四番車はワモンに集られ、その搭乗員共々解体されている。
ブルーノーは決断した。心に槍が突き刺さる気分だった。
「E-トランク後退止め!全車!照準四番車!」
『しかし少尉――!!』
「黙れッ!!指揮するのはこの俺だ!!!」
E-トランクがその重厚な巨体を旋回させ、昼食中のワモンに狙いを付ける。
一番車も渋々といった調子で照準を合わせ、二番車と三番車も倣った。
小指の折れている左手を右手で押さえながら、ブルーノーは湿った怒声を出す。
「全車あぁ!!てえぇっ!!!」
一つにしか聞こえない四つの轟音が、緑の無い丘陵地帯に響き渡った。
最終更新:2009年03月07日 14:04