(投稿者:エルス)
月光がそれを照らしていた。長い銀髪に立派な
ドレスを纏っている少女と、執事のような少年の誓いを。
少年は跪き、少女はそれを見下していた。苦虫を噛み殺したように少年が呟く。
「私はお嬢様の命令とあらば、何でもいたします」
「本当?」
「えぇ」
クス、と少女が笑う。そしてクルリと回り、銀髪が月光に反射し、キラキラと光る。
正に妖美。見たものを引き付け、触れられない神聖さ。
少年は跪いたまま、ギリリと歯を食い縛る。
腰には、エストックが吊るされている。
「私の役目は、お嬢様の命令に従うこと、どのような事であろうとも遂行して見せます」
「なら、私を殺してくれる?」
少年は問いたかった。何故このような事を私にさせるのかと、忠に尽くした筈なのに何故?
少女は彼を愛していた。何時も忠を尽くしてくれる彼が大好きだった。
二人は世界が嫌いだった。何もかもナニカに支配されたこの世界が嫌いだった。
少年が涙し、言霊が吐き出される。
「Oui Mon Seigneur」
エストックが抜かれる。月光に光り、吸い込むかのような輝きを放つ。
それは狂気と凶器。存在自体が間違いなのかもしれない。人心を穿つ鋼鉄の剣。
少年は少女にソレを向ける。
「何故・・・笑っておられるのですか?」
「分からない、だってもうどうでもいいことだから」
少年は涙を流した。護ると決めた存在を、この手で殺める。
どんな
カタストロフだろうか?どんなグランギニョルだろうか?
これ以上の悲しみが、この世にあるのか?
「なら何故・・・何故死にたがるのですか?」
「もう嫌だから、この世界が嫌だから」
少女は笑顔で涙を流した。大好きな彼に殺められる。
それはどんな幸福?人としての最期の幸福。彼が私のデウス・エクス・マキナ。
これ以上の我が侭が、この世にあるのだろうか?
少年は構える。突き、穿つ為に特化した構えだ。
少女は目を閉じる。涙は乾いた。流すものなど何も無い。
そう思っていても、涙は流れた。
紅が舞い、赤が床に堕ちる。エストックが少女の心臓を穿ち、命を吸い取った。
少年は剣から手を離し、また跪く。
赤に染まったその穢れた服を着たままで、忠誠を誓い、愛した彼女に告げた。
「アデュー・フラヴィ・・・」
涙は枯れ切った。
枯れる前に何か、一言だけ、彼女から聞きたかった。
それが何なのか、分からなかった。
涙は枯れ切った。
でも涙は流れていた。
その"剣"で異形を切り裂き、その"球"を射出し、異形を蹴散らす。
その"盾"で人を護り、人類に忠を尽くす。
シリルは両手に剣を精製し、Gの群集へ突っ込んでいった。
滅茶苦茶に、それでいて精確にGを切り裂き、"彼女"の元へ急ぐ。
何時も"彼女"は前に居る。護ってやらなければと、心中思う。
Gを蹴散らし、視界が晴れる。
蒼白く、白銀に輝く大剣を構えたメードが居た。
その隣に付き、肩で息をしながら、シリルは正直になれずに言う。
「前に出んじゃねぇよ、死んじまうぜ?」
ヘルが前に向けた視線を変えずに呟く。
「前にでないと、人、死ぬ」
少しキョトンとした後、シリルが右手で頭を掻きながら、照れ臭そうに言った。
「安心しろ、お前も人間も、俺が護るから」
前だけを向いていたヘルが首だけをシリルに向け、微笑んだ。
「ありがとう」
思わず、シリルは赤くなった顔を逸らした。
「行くよ」
ヘルの剣――ティルフィングが眩いほどに輝きだす。
シリルはそれに答えるようにエストックを抜く。
「あぁ」
前に広がるのは地獄。耐えても天国へは逝けない。
それでも戦おう。護る為に。
生きる理由は、それだけで十分なのだから。
関連項目
最終更新:2009年03月05日 00:47