CRAZY

(投稿者:エルス)





 私は冷静になろうとする。冷静さを失ってしまえば、確実に頭に銃弾を受ける事になる。
 それは唯一開放されている私という希望が無駄に消えることを意味していて、つまりは犬死だ。
 私は一度深呼吸して、心の中の不安や恐怖を全て空気中に吐き出した。いや、吐き出したつもりになった。
 そうしなければ、内面から私という人格は銃声という音と共に崩壊し、死に至るだろう。
 それだけは、自滅と言う最悪の最期だけは避けなければいけないのだ。
 スミス大尉は、口を開きかけ、そこで止めた。そして少し黙り込むと、今度こそ口を開き、言葉を吐き出した。

「考えが代わった。そうだな、アルフレッド君」
「な…何だ」

 スミス大尉は立ち上がり、ホルスターからコルトンM1911A1を取り出しながら私に尋ねた。
 顔に表情は無く、完全な無表情でスミス大尉は私を見据えていた。

「付いて来て貰いたい、良い機会だ。私にも我慢の限界と言う物がある」
「我慢?」

 そう言い捨てると、スミス大尉は私の真横を通り過ぎ、そのまま何処かへ行ってしまった。
 私が状況を冷静に捉えられず、放心状態になっていると、拳銃特有の軽い発砲音が響き、男の悲鳴が空に突き抜けた。
 それが旧兵舎の方向からしたのだと気付くまで、私は突っ立っていた。
 何故だか、通り過ぎる瞬間に見たスミス大尉の目が、私には今までで一番恐ろしいものに見えたのだ。


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 看守となっていただらしのない男をヘッドショットで仕留め、部屋の中で行為中だった三人の内二人の喉を撃ち抜き、一人の右太股を撃った。
 喉から空気と血を噴出し、床で苦しむ男二人と涙を流し、激痛に悲鳴を上げる男一人。それを見下しながら、私はその少女を見た。
 壊れた瞳で虚空を見据え、小さな視点で世界を見上げ、汚れの無い無垢な精神でものを見る。子供と言うのは、存外、大人よりも賢いのかもしれない。
 汚れきった精神で、清純を求め、欲を出してそれを見極めようとした自分の小ささが、ここまで来てようやく分かった。いや、分かってしまった。
 殺された部下や無能だと責められた自分を、ここまで来て捨てる気は無い・・・・・・が、考えてみれば下準備は既に終っている。
 私の役割は、もう無い。あとは第二第三の私が、なんとかするだろう。
 最後の最後に来て、随分と適当な自分に顰笑しつつ、そろそろ目障りになってきた三人に鉛弾を撃ち込む。
 血がコンクリートに広がり、少女が血に濡れる。

「何をやってるんだろうな・・・・・・私は・・・」

 苦悩故か、はたまた単なる気紛れか、すでに麻痺した精神で感じられるものではない。
 ただ嗅ぎ慣れた血の臭いが、私の昔を思い出させ、手に握る力の意味を思い出させる。
 これは自分の為に、私の道を切り開く為にある力。人の物ではなく、ただ私の物だ。
 それを、こんな形で行使するとは、思っても見なかった。

「化け物・・・・・・か」

 私はそう言った。確かに、そう言ったのだ。
 では、何を根拠に?ただ自分の利益が欲しかっただけではないのか?
 私利私欲の為に、力を行使するのがどんなに愚かな事なのか、頭では分かっていた筈だ。
 それを犯すとは、やはり大人とは劣等なモノらしい。劣化した思想では、未来すら掴めないのか。

「それもこれも・・・・・・自分のせいだと言うのに、全く」

 少し微笑んでみると、激痛が左腕を突き抜けた。反射的に腰を低くし、振り向け様にコルトンM1911A1を撃ち、リロード、廊下で人の倒れた音がした。
 どうやら、M3半自動小銃を持ち出したらしい。運良く左腕を掠っただけの.30-06バイトレザーフィールド弾は、コルトンM1911A1の.45ACP弾よりも貫通力がある。
 大体にして拳銃と小銃では、比べようの無い性能差がある・・・・・・が、閉鎖空間に全長の長い小銃は不利だ。
 ジンジンと脈動する左腕の痛みを無視しつつ、私はドアまで前進した。
 廊下を覗き込めば、M3半自動小銃とビール腹の男の死体が倒れていた。
 それを確認して、私はまた前進した。廊下を半分ほど行った所で、異変に気付いた。
 基地内が静か過ぎる。
 そう思った瞬間、いきなり廊下に人影が現れた。それは2m近く、反射的に胸部に銃弾を撃ったが、弾かれる。
 ウォーリアだと思ったが、違うらしい。唖然としていた私は次の瞬間には右人差し指と中指を粉砕され、武装解除されていた。
 激痛に顔を歪ませながら、その影を見ると、鉄の装甲を纏い、オートドーナンスM1で武装した屈強な兵士がそこに居た。

最終更新:2009年05月03日 00:19
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