妄想メード戦記 2

 様子がおかしい。
 そうアレッシオが気付いたのはG出現の報告をしてきたヴォ連の小規模な国境沿いの都市まで残り十キロと無い地点だった。

「G?」

 停車するように言ったアレッシオにエメリアは素直に従い、周りを見渡しながら簡潔に聞く。
 何も答えないアレッシオ。
 耳をすまし、自身の感覚を最大限に広げられるように目を閉じ、呼吸すら止める。
 少し迷ってエメリアも車のエンジンを止め、スーツの懐から自動拳銃を取り出す。

 周辺は日光が届きにくい背の高い林。
 暗がりにGが潜んでいるとも限らない。

 エンジンを止めた事で急には逃げる事は出来ないが、今は何よりもアレッシオが“何”に違和感を持ったのか。それを突き止めてもらう事が優先である。
 四年という時間を共に過ごして、彼女がこういった事で間違いを起こさないのをエメリアは知っている。全幅の信頼を寄せても何ら構わないとさえ思っている。こと作戦時に置いてなら、彼女が何を要求しても、それに従う覚悟がある。そして、それは正しい事だという確信も持っている。
 もちろん、そんな事は絶対に本人には話さないが。

「人?アンブッシュ。見られてる。分隊規模。武装は……」

 突然に断続的な単語を口走るアレッシオ。
 それが彼女自身の感覚器によってもたらされた情報である事にエメリアは即座に気付いた。
 人間と比べると、コアエネルギーの恩恵によりメードの五感は比べ物にならないくらい優れている。
 それらを駆使すれば、周囲の音や匂いで情報を収集する、リアクティブソナーのような芸当もできる。もちろん、相応の訓練が必要だが、その点は戦歴が長いアレッシオには問題はない。

「外に出ます。武装解除してください」
「お?ええ?」

 困惑するエメリアをよそに自身の小銃を掴み、アレッシオは車の外に出る。
 小銃から弾倉を外し、片手で弾の入っていない銃を軽く掲げると、息を吸う。

「G-GHQ所属、対G用生体兵器メード。固有名称アレッシオ。未明の救援要請に応じて、本日派遣されました。貴君らはヴォストルージア社会主義共和国連邦の軍関係者だとお見受けします。どうかお話をさせてもらえないでしょうか?!」

 林道中に響き渡る音量で、アレッシオは声を上げる。
 だが、彼女が望む反応はすぐに返されない。
 林は静まりかえり、端からはそこに人がいるとはとても思えない。
 肌が痛くなるほどの、冷たい沈黙。

 車外に出るタイミングを逃したエメリアが緊張に耐えかねて息をのむ。

 三分という、彼女たちにとってとても長い時間が流れた頃、暗く沈んだ林の中から数名の迷彩服を着た兵士達が現れた。
 アレッシオと同様に銃を頭上に掲げ、敵意が無い事を示す。

「ヴォストルージア社会主義共和国連邦国境軍第31空挺中隊所属、セイゲル・マルコヴィッチ軍曹です」

 森林迷彩が施された装具を揺らし、アレッシオの前まで歩み出た部隊長だと思われる兵士が自己紹介をする。

「アレッシオです。彼女はエメリア、G-GHQ情報部の現地派遣員です」
「エメリア・イスメリア少尉。メードのおもりをしています」

 言う場面を確実に間違えているだろうエメリアの軽口は、物の見事に無視された。
 特に後悔が無いあたり、エメリアの剛胆さ、もとい考えの無さが知れる。

「早速ですが、私達の拠点に来ていただきたい。詳しい事はそこでお話ししましょう。この林を抜けた先の盆地にあります」

 兵士が指し示したのは国境都市とは正反対の方向であった。
 それに気付いたアレッシオ達に一抹の不安が過ぎる。

「基地、ではなく?」

 おそるおそるエメリアが聞く。
 国境都市にあるはずの、ヴォ連軍が駐留している基地。
 G発見の報告はそこからされ、今回はその現地戦力との共同作戦になるとアレッシオは聞いていた。

「……壊滅しました。都市も含めて」

 歯を食いしばりながら、兵士はそうとだけ答えた。



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最終更新:2009年11月30日 19:32
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