(投稿者:Cet)
ラブレターの書き方
1.誰かのことを好きになります
2.その想い人のことを思い浮かべ、一篇の詩でも書くような心づもりで紙に言葉をめぐらせましょう
3.それを自分の机の中に入れるか、破りましょう
少年は恋をした。
それが全てだった。
少年は恋をした。一人の少女に恋をした。
戦場を駆け巡る一人の少女に恋をした。陸線メードである少女に恋をした。
ライフルを撃ちながら戦場を駆け巡る中で、同じ塹壕から飛び出した少女に恋をした。顔を覚えた、名前はどこかから伝え聞いた。
少女の名前は、綺麗な花の名前だった。
もっとも、少年はその花を見たことが無かったので、想像するしかなかったけれど。
少女の名前は
カトレアと言った。
それはそれは大層綺麗な花なのだろう。
少年はそう信じた。
少年もメードだった。メールだった。
こんな運命はない、と思った。
少女も特別で、少年も特別な存在だった。少年は生まれて初めて、自らの運命を歓迎した。
少年は休暇を得て、それを機会に少女を誘った。
ひどく真剣な顔で語る少年の態度に、少女は顔を赤らめた。
いいよ、どこでも、と少女は言った。
少年は喜びを抑えながら、じゃあ、綺麗な風景を見に行こうと言った。
どこに? 少女の問いに対して、少年は考える。
基地から南に五キロくらいいったところに、川の下流に面した湿地があると、彼は人間の下士官から聞いていた。彼をいつも揶揄ってばかりいる下士官であった。
少女は微笑んだ。微かに青の混じった綺麗な瞳で、少年を見つめた。
約束だから。と少女は念押しする。
もちろん、と少年は応えた。
二人は休日に、二人して、兵舎を後にした。
彼らは歩く、五キロという道のりが大分と遠いことに暫くして気付いたが、とにかく歩いた。
水辺さえ見えればいい、と幾つかの丘を登って、結局そこで昼ごはんを食べることにした。
川のことはもういいや、と二人で笑った。
少女が作ってきた弁当を食べた。少女の持ってきた二人分の水筒からお茶を飲んだ。
少女は笑っていた。少年も笑っていた。
その日、二人は初めて接吻をした。
少年は恋文を書いた。
一篇の詩を織るつもりで、少女のことを思い浮かべながら、机に向かっていた。
今さらになって恋文を書くことに意味はあるのかと自問したが、しかしそれはそれで楽しかった。少年は一篇の詩を書き上げた。
少年は少年だけの恋文を机に仕舞った。いつか少女に渡そうと。
下士官はしばらくの間少年と口を効かなかった。
それを不審に思った少年が尋ねると、下士官は応えた。からかってほしいのか?
そんなことはない、と答える少年に、そうだろう、と下士官は応えた。
下士官は笑っていた。
それから暫くの間、下士官は少年に話しかけることはなかった。
それから少女は、少年の前から姿を消した。
少年は待った。ずっと待った。
一年を待って、そして、彼女が他の戦場に行っていたことを知った。
この基地に戻ることも知った。
少年は真っ先に、恋文のことを思い出した。彼女に会ったら渡そうと考えていた。
そして少年は、少女を目にした。
カトレアという名の少女は、全てが変わっていた。
綺麗な金髪、少年よりも少し高い背丈。
カトレア、と呼びかけると、少女は振り向いた。
担当官の傍らに立っていた少女は、誰? と答えた。
翡翠色の瞳は、幼い光を少年に向けて映していた。
少女は、担当官の呼び声とともに、少年への興味を失って、その場を去っていった。
少年は部屋に戻って、恋文を開けて読んで、そしてそれから、カトレアの名前にきつく黒いインクを塗りたくって、それから破り捨てて、一晩中泣いた。
少年はカトレアの、その綺麗な石を壊した。
そのとき下士官は、遠い戦場で戦っていた。
それから一年経って、少年は戦場に戻ってきた。
最終更新:2009年12月14日 22:44