FRONT of MAID  WILD WORLD WORK 001

(投稿者:クラリス・アクナ)

きまぐれと罰と


この世の中はあらゆるパーツで出来ていて、それをバラし、あるいは組み上げることで新しいものを作り出して行く。
それらパーツの素材というものは基本的にどんなものであっても変わり無く、素材の価値もすべて一定。
時代とともに品物の価値が変わり、重要性も変わることがあるが、“ブツ”としては変りない。
例えば銃とか。

価値は重要性とともに変化するが、変動率というものは必ずしも比例しない。大半の品物は比例したかのように価値の変動を見せるが、その品物が本来持つ機能というものは必ず一定の価値があり、一定の素材から構成されたパーツである。
銃は古い型ほどその価値を下げるが、撃てば人を殺せるという機能が生きていれば一定の価値が与えられる。銃という品物に殺傷機能という価値があるから。
こういったわかりやすい“価値のある品物”は、商売を少しかじった者であれば簡単に売買ができる。
値段設定が難しいところだが、その値段と呼ばれるのは利益が存在し、自分がもっとお金が欲しければ値段を高く設定するのだ。
多くの人々はこの“利益分”も含めて“価値のあるもの”と捉える。

自分ではどうしても入手出来無い品物を、素材価値と機能価値から割高に設定された利益という部分に“時間価値”という要素を添付することで、より品物をそれらしく見ようとした。
実際、銃一丁作るのに使われる時間は、一個人の生活サイクルを確実に変えなくては作れないし、他にも作る場所や器材も必要だ。
他人が使った時間を自分が金で買い、それを使う。売った側はその金を別の所で使って他人の時間を買う。

こう考えると、銃に限らず、人の手によって作られた品物すべてに相応の価値が自然と見いだせる。
最初に物々交換としていた時代から金による為替ができたことで、すべての品物に価値が作られていき、生産という時間性がもたらす産業に潤いを与えて行く。
よく計算すればボッタクリな感じがする過程でも、生産内容によっては破格の安さだったり、逆に高すぎることもある。
これを適正価格と呼ぶ。
まぁ、この適正価格ほど信用出来無いものはない。
全て人間の感覚による、ただのきまぐれなのだから。

根も葉もない。
誰も“本当の価値”というものを知らないし。
これを明確な数値で表すとすれば、全ての商人が夜逃げしなくてはならないだろう。
その品物がどんなにクズで役立たずなクソッタレであっても、理不尽になるほど価値が上がる価格というものがある。
それは・・・



(よくよく考えれば損しただけか)

アルトメリアの西海洋に面した港町アネディで仕事を終えたセンティアは、右手に持つ大きな“パッケージ”を見つめて思った。
何らかのでかいものが入っていると思われる頑丈な金属製のパッケージだが、これに入っているブツに関して言うと、今回の遠出ほど価値のあるものではない。
ただし、やらねばならない事でもあった。
これ以上信用という価値を下げることもないからだ。
損こそしたが、大損という程じゃない。商売としてはまだまだ修正が効く範囲である。

(それにしても、なんでこんなものを・・・。アルトメリアの軍に喧嘩でも売るつもりなのかしら連中)

パッケージの手持ち部分に刻印された<13.5mm試作型対Gライフル>という文字。
アルトメリアでもよく見るアルファベットで刻印されたものなので、読めないハズはないが、これが一体どういったものなのか分からなかったのか。
この世のクズの考えは理解できないと、不思議そうな顔だけして考えるのをやめる。不満は残るが仕方がない。

「“高くて安い仕事”ね」

ライフルのパッケージを街中で晒して平然と歩き続ける訳には行かないのでやや早足で港まで移動する。
地元警察の目に触れるといくら合法的処置であっても厄介ごとになるのは間違いないからだ。
しかし、他にもある。
例えば、身の程知らずな連中とか。
丁度、目の前に迫ってきた3人の雑魚のことである。

「へへへ・・・」
「こいつぁすげぇな・・・」
「ああ・・・ひひひ」

路地の角から急に現れたこの3人。いや、“3匹”はセンティアの身なりから判断したのか、どこぞの家出お嬢様と勘違いしたようである。如何にもいやらしい笑が耳に入る。
服装は路地裏のチンピラでもあまり見かけない皮のジャケットと、何処からか盗んで来たのであろう真新しいジーンズ。加えて目につくのは鎖やトゲ付きの肩パットといった金属製の悪趣味アクセが全身いたるところに装着されている。
見た目がまだ子供っぽいセンティアの体格差は約30cmと、躯体はそれなりに良い。腹筋も程よく割れた筋肉質なので、それなりの喧嘩はしているらしい。

3匹はそれぞれデブ、ガリ、普通とかなりバランスがとれたトリオの形態をとっており、恐らく普通な方がこれらのリーダーなのだろう。
顔も合わせず、特に驚くような素振りもしないセンティアは目を一回横に流すだけで推測する。
仕事柄、こういう遭遇に慣れきっているため、呆れた表情しか出ない。
はぁ・・・。 とため息を一つついて初めて相手と目を合わせた。

(!?)

なんということでしょう。
そこには彼女が今まで見てきたあらゆる事象が吹き飛んだような衝撃にとらわれたのです。
頭の中が真っ白になって思考ができなくなり、あまつさえ目の前の現実が嘘ではないかと疑うことも許されないほどの強い衝撃だったのです。

「へへへ、ビビってやがるぜこのお嬢ちゃん」
「お兄さん達が面倒を見てやるぜ?」
「身体の隅々まで綺麗になぁ いひひひ」

街を歩く人々もいつもの光景だと思って無視し、厄介ごとに巻き込まれたくないと思い逃げていき、お気の毒にと思った人物はそのままボッタクリタクシーに乗り込んだ。
彼らの卑猥な声は近くに居た人間によく聞こえたが、センティアには全く聞こえなかった。

「どこから来たんだいお嬢ちゃん? 家出かな?」
「家出はよくないぞ? ママとパパが心配するぞ?」
「まぁ俺たちは返すつもりはないがなぁ!」

一歩一歩センティアに歩み寄り、彼女は一歩一歩下がっていく。
瞳を大きく開いてずっと驚いている彼女はまだ整理がついてない。ただ、空が覚え込んだ危機回避の本能だけで身体を下がらせる。
まぁ全然危険ではないのだが。

胸ポケットからナイフを取り出し、センティアの頬へ近づけるとゆっくり刃の部分で撫でていく。切れ味自体は最悪らしく、頬の弾力が勝り血は出ない。
そこから首筋に移動して胸元まで来るとネクタイリボンを斬ろうとして刃を立てた。
その時である。彼女が初めて声を出したのは。

「く・・・」

「ん~? なんだ、何か言いたいのかぁ?」
「誰も助けてはくれねぇぜ?」
「ここはなぁ、全部マフィル家の縄張りなんだ。いろんな悪いことがここでは合法なんだぜ? ひひひ」

「くく・・・ぷわぁははははは!」

「うぉ!?」

とっさに身構える3匹は、急に笑い出した彼女に驚く。
小奇麗な髪が笑い声と一緒に揺れて、手に持つ荷物をそのままに腹を抱えて笑った。

「ちょっと・・・くくくはははははは! いやっ、これって・・・んははははは!」

「?」
「なんだ?」
「何笑ってやがるこいつ・・・」

大爆笑中。
街でも変な子扱い的な目で見られているセンティアが、周りを気にせずひたすら笑い続ける態度に、3匹がキレ始めた。

「テメェ・・・調子に乗ってると本当に帰れないぞ」

「ちょっ、調子にの・・・んははは! 乗ってるのアンタたちじゃない! くくくはははは!」

「何がおかしいんだえぇオラァ!?」

「何がって・・・んはははははは!」

現代で言えば必ずwの芝が大量に生えるだろうセンティアの大爆笑は一向に止まる気配がない。
目に涙を浮かべて口が大きく開き、お嬢様な感じは微塵も感じなくなっていた。

「んだぁ!? 言ってみろやオラァ!!」

「・・・あたま」

「あ?」

「・・・なにその・・・・ふへへへ、ヘアスタ・・・イル・・・んはははは!」

「!?」

3匹に二度目の衝撃が伝わる。
彼らの先進的なスタイルが、価値観をまるで分かってない小娘に馬鹿にされたのだ。指を指されて。

「なんで頭のてっぺんだけ生えてんのよんははははは! サイドがハゲてるとか・・・くはははははは!! ひぃーくるしい!」

「こ、こいつ・・・」
「兄者、こいつモヒカンスタイルしらねぇぜ・・・」
「分かってねぇやつだ」

「わかるわけがない!」

呼吸の合間合間に返事をするセンティア。
彼らの頭頂部にそびえ立つカラフルなモヒカンスタイルは、この時代においてあまりにも先進的なファッションであろう。実際このスタイルが流行りだすのは75年頃で、元々のネタとしてはかつてこのアルトメリア大陸に住んでいた先住民の紋章であり、モヒカンスタイルが許されたのは戦士だけだった。
彼らがモヒカンを愛したのはその意味からで、実はと言うと彼らはその種族の子孫であったりする。

そんなわけで、彼らの戦士の紋章が真っ向から否定されてしまい、怒りが爆発する。3匹が彼女に向けてナイフで刺そうとしたとき、車のブレーキ音が聞こえた。
センティアのやや後ろだ。

「リーダー、あの娘だ。間違いない」
「あの小娘か・・・」

「あ、兄者あれは」
「リーダーですぜ」
「なぜリーダーがこちらに・・・。リ、リーダー!」

やっと視線が逸らせられると思い、後ろを振り向くと、さっきお世話になった仕事先の従業員達だった。
真っ黒なスーツに真っ黒な車と、如何にも悪い人ですと言ってるような格好でこちらを睨みつけてくる。どうやらすぐにバレたらしい。

「あんな小娘にウチのボスが・・・か」
「はい・・・」
「ん? 小娘の後ろに居るのは確か昨日入れた雑用係か。おい、お前たち。その小娘を羽交い締めにして捕まえろ!」

「わ、わかりやした!」

ぐいっと脇から腕を突っ込んで後ろからセンティアを抱える。両肩をガッチリと締め、足を浮かせる。身長の差を利用した拘束方法だ。

「意外と抵抗しないなテメェは。諦めたか」

「おいデブ。その荷物をこっちへ持って来い」
「へいただいま!」

先程まで片手に持っていた荷物はいつの間にか足元に降ろされており、不思議なほど抵抗しないセンティアの隣へ行く。
このとき初めて彼女が何を持っていたのか、デブは知った。

(13.5mm試作型対Gライフル・・・!?)

急に寒気が背筋を襲う。
俺たちは何かとんでもない人間にちょっかいを出したのではないかと。
対Gライフルの意味は分からないが、手持ち部分に刻印された兵器の文字は今までボスやリーダー達が扱ってきた小銃のようなものではないことを思わせるに十分だった。
何より、重さが違う。

(こいつは・・・っ! なんて重さだ、片手で持てねぇぞ・・・)

弾薬とスコープなどのオプションが付いたフルセットのパッケージである。
普通では手に入れられない試作型で、これ自体数は多くない。
そもそもなぜこんなものがマフィル家にあるのか、デブは深い思考の渦に入っていくと同時に早く逃げ出したい衝動に駆れていた。

「よし、置いてあっちに行ってろ」
「へい・・・」

結局言われるがままの行動しかできなかったデブは、兄者の後ろへと回りこむように隠れる。隠れきれていないは仕方ない。

「さて、ご苦労だった諸君。ゆっくりしたまえ」

「え?」

リーダーがそう声をかけたとき、総勢10人の黒服達が銃を向けてきた。
センティアを自分達ごと消すつもりだ。

「待ってくださいリーダー俺たちは・・・」
「これを見ては遅い。だが、君たちはよく働いた良い部下だったよ。惜しいな」
「そ、そんな・・・」

逃げられない。このままこの娘を放して逃げてもダメだろう。どうすれば良いのかわからず、腕の力が抜けかけたとき、センティアが言った。

「災難ね。ちゃんと支えてなさい」
「何?」
「このまま支えてなさい」

予想以上に力が強い彼女の腕が自分の腕の中で暴れ、振りほどかされそうになる。

「死ね」
「嫌よ」

彼女が何をしたのか分からない。だが、彼女の両腕が前に出ており、手には何か握られている。見たこともないものだ。
そして、見たこともない光景が目の前で起きる。
リーダーの部下たちが放つマシンガンやら拳銃やらの鉛玉が眩い光の中で消えてなくなっていく、その光の正体はセンティアの持つ何かから放たれていた。
ありったけの銃弾を叩き込むが、その全て光に防がれて風だけが向かってくる。

「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「もう終わりかしら」
「!?」

不思議な光で全ての弾が防ぎられて困惑するリーダー。

「あなた、撃ち合ってる間に色々思い出したんだけど、最近軍の装備を横流ししてあくどい儲けしているピッチー氏ね」
「し、しらねぇよそんなヤバイやつ! 俺の名前はマイルド・ミッチーだよ!」

鉛の焼ける匂いと煙からセンティアが現れてリーダーに近づいてくる。

「あら人違いならごめんなさい。でも、私に歯向かった分、おつりを上げるわ」
「ひっ!?」
「対G連に銃を向けたんだから、仕方ないわねワイルド・ピッチーさん」
「なんで、バレて・・・」

バン

「悪いけど、対G連に関する情報をただのチンピラが得ることは罰なの。つまり、その場で死んでもらう事になるの」
「対G連・・・まさかあの・・・」

部下のひとりが思い出したかのように口を開いた。彼の言ったことは一般にも知れ渡っているよくある情報の範囲だった。だが、この黒服の男たちが行った行為そのものは決して許されるものではない。

「そう。そして、よく宣伝されている私が“有名な”メードよ。クソッタレ」

ガッ と、その男の頭を手持ちの武器で殴り倒した。出血しているがたぶん大丈夫であろう。
センティアはその場でひれ伏している黒服の男たちを一箇所に集めると、おもむろにモヒカンの3匹に向かって手招きをする。逃げるに逃げられず、ただその場で唖然と様子を見ていただけの3匹は、俺たちもかと思い、センティアに近づいていった。

「くくく、やっぱあんた達って面白いわ」

「・・・あぁいやそのぉ」

「何をビビってるの? アンタ達はこれから私の会社の社員になるのよ?」

「・・・え?」

何を言われたか分からなかった。俺たちもG連という所に連行され、罰を受けるはずではないのか。

「今から私の部下よ。待遇はそれなりに約束してあげるから、しっかり働きなさい。身をわきまえてね」

「・・・・・」

顔が崩れながらも、3匹を自分の部下として扱うセンティアの存在が急に気になり始めた。
メードであったり、対G連であったり、会社であったり。一体なんなのかと。

「あんたは・・・あぁいや、お、お嬢様は一体何者ですか?」

「私? 私はお嬢様よ。ザハーラに居を構えるバル・ウェポン社のね」

「ザハーラのバル・・・」

「身分は営業と販売だけどね。パパが社長よ」

「ということは、ご令嬢・・・」

「えぇ。センティア・ラウス・バル。あなた達の上司となるメードよ。よろしく」




価値とは値段の設定だけで決まるものではない。
値段を設定出来無いものはないが、価値を設定することは出来無い。
本当の価値とは全部あとからついてくるものだ。

だから良く言うのだ。
<タダほど高いものはない>と。
大半はこれを損の意味としとるがやや説明不足だ。確かに損ではあるが、逆に価値を引き上げる意味も持っている。
センティアは常にこの考えを胸に世界を渡り歩く。

<タダほど価値が高いものはない>と。












最終更新:2010年02月08日 01:08
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。