FRONT of MAID  Short Short Story 004

(投稿者:クラリス・アクナ)

休日に持つ手帖


アズワドがいつもより意気込んでいる。
小さい化粧椅子におとなしく座る少女の髪をとかしながら、語るのだ。

「少しでも白く、美しくしないとね」
「しろ・・・く?」
「そう。灰色なんて中途半端な色より、あなたはもっと白くないといけないのよ。雪のように」
「ゆ・・・き」

ピクッと身体が反応したのを私は見逃さなかった。
車椅子に座りながら二人の様子を手帖に記して日記を書く私でもわかるほどに。

「痛かった? 引っ張りすぎたわね」
「・・・だいじょうぶ」

いつアズワドがファッションについて研究していたかは分からない。
ただ、今回はどうしても私に試したいことがあるらしく、その実験のためキノにデコレーションを手伝ってもらっている。
普段から痣や痛々しい傷があるキノの肌は街の人間に見てもらうようなものではない。
“仕事着”も季節を跨いで長袖を着せており、見える部分の大半は包帯に包む。
義肢と接続するためのフェルムジャックも至る所に埋め込まれ、さながらアインシュタインの怪物のような姿。
肉体が継ぎ接ぎだらけの彼女を、アズワドは綺麗にしてみせると断言する。

「包帯とるわね」
「うん」

右目を覆う包帯をゆっくり外し、それをゴミ箱へ放り投げる。
黒く楠んだ血の跡があった。
まだ完全に回復し切れないキノの身体は、腐敗と再生を繰り返す生きた屍となっている。
痛くないと本人は言うけれど、本当はとても痛いのでしょう。

そういえばと、この娘がある日に泣いていた事を思い出した。
義肢の試験が終わって、それぞれの部屋に戻ったとき。
書類の整理が夜遅くになって、担当者にとどけようとあの娘の部屋の前に来た時。
ひたすら
「イタイ、イタイ」
と泣いていた。

キノが此処に来た理由は知らない。
アズワドや、むしろ私も、どういった経緯でここに来て、メードという道に入ったかは知らない。
いえ、これはタブーなのよね。
なぜメードなのかは。

「ここにも傷があるのね・・・治せる?」
「お腹へっちゃう・・・」
「外に出たときレストランへ行くからその時たくさん食べさせてあげるわ」
「うぅぅ・・・」
「我慢もしなくちゃダメでしょキノ」
「わかったよアズワドお姉ちゃん」

項に何かの破片で傷つけられた跡を見つけた。
あまり深くはないが、傷口を中心に壊死した皮膚の色が支配している。
アズワドがその部分を指で軽く押さえて治す場所を指示してやると、紫色となっていた皮膚は瞬く間に白色となり、大量の垢としてバラバラと落ちて行く。
ついでに傷が浅い所と薄い痣が消えていき、色味が肌色に戻っていった。

「よくできました。はい、チョコレートよ。もうちょっとだけ我慢してて」
「うん。キノがんばるよ」

力なく返事をするキノは、唇が青いままアズワドからもらったチョコを口に運ぶ。
義肢がないと元気になれない少女。
身体的にも、精神的にも義肢に支えられている彼女にとって、我慢すると言う行動はとても勇気が必要なこと。
アズワドはそんなキノを褒めたのだ。

どうしても治りきらない傷は、白い塗り薬を使って脱脂綿と包帯を使い、包んで行く。
それをレースの帯でさらに巻いていき、外から包帯があると気づかせないようにした。

「なるほどね」

「どうデウス? 中々良いものを見つけたの」

「とても可愛くなって来たじゃない。素敵よキノ」

「ありがとう!」

「まだ終わってないよ。次は下着と、メインがあるから」

一度滅菌服を脱がせ、元々身につけていた下着も包帯も全て脱ぎ、包帯は新しくデコレートし直し、下着は白で統一されたショーツとスリップを着させる。
これはアズワドの性格から来るものだろう。
キノは白が良いと私も思うのだけれど、やや色気がありすぎる気もする。
子供用としてはローライズなショーツがちょっとした違和感だった。

巻き直した包帯もレース付きで、やや色気がきつくなってきた。
後はメインとなる外着がなんなのか。

「滅菌服着てるより、ずっとこっちが良いわ」

「それは・・・」

「そう、ソフィアのフォーマルドレス。ちゃんとサイズも合わせた特注品」
「とくちゅうひん?」
「キノ、あなただけのために作った専用の洋服よ。これでいつでも外へ行けるようになるわ」
「わぁ♪」

「アズワド・・・」

「いいじゃない。私たちにある自由は自由に使うのよ」

最近のアズワドに何があったのか。
そこに多少なりの不安が残る。
でも、彼女が言うように、自由を自由に使って良いのも正しいこと。
私たちは他のメード達とは根本的に違う所を持っていて、その娘達とは一緒に行動出来無い。
だからなのか、“色的”に中性なキノを白くしようと思っているのは。

「デウスお姉ちゃんほど真っ白に綺麗になろうキノ。雪のように白く、白銀と呼ばれるように」
「うん・・・」

雪と聞くとどうしてもテンションが下がるキノ。
何か記憶でもあるのか、ただ寒いのが嫌だからそれを連装しているのか。
様子を記す日記と、デコレーションが同時に進み、キノが可愛らしい少女へとなっていく。
まるで人形のように。

大きなスカイブルーのリボンとグリーンのグラスをはめ込んだブローチがトレードマークの胸元。腰にも同様に大きなリボンとレースが飾られ、フォーマルでは

あるが、ややゴシックドレス調のあるものに仕上がっている。
花びらが開いたように広がるスカートは膝上5cmほどにあり、柔らかみのあるブルーグレーチェック。
キノの外見年齢より落ち着いたお嬢様なイメージを与えるデザインとなる。

「最後はこれを」

応急的につけられた目の脱脂綿を外し、次は厚みが薄い脱脂綿を右目に当てて眼帯をつけた。蝶の羽をモチーフにした眼帯だった。

「あら、可愛い」

「でしょ。実はこれを見つけてからこのデザインにしたのよ」

「なるほどね」

全てはその眼帯に合わせたデザインと言えば納得できる。
とは言いつつ、自分自身ファッションには疎い。なにしろメードとして生まれてからは仕事着とその簡易服しか来たことが無い。
周りのメード達から得た情報でも羨ましいとは思うことはあっても、自分で着たいという願望には繋がりにくかった。

アズワドは、私に何か着せたくて仕方がなかったのだろうと思う。
彼女もここに居るメードとして仕事着が普段の格好となるけど、その仕事着が気に入らないのであれば変身願望も自然と湧く。
足りない知識を頑張って勉強し、研究して、それを実践するためにキノをドレスアップさせた。

彼女が私に与えてくれた感情はとても大きくて良いものばかり。
二人の事を手帖に綴っていくことで、二人の気持ちや関係、私との関係がよく見えるようになった。
鏡を改めて見て、驚くキノと自信ありげに笑うアズワド。そして私。

戦うこと以外に幸せになれるとしたら、きっとこういうことなのだろうと。

「さて、次はデウス。貴方の番」

「よろしくお願いします」

「嫌よデウス。貴方が私に改まって・・・。愛する貴方のために、私がどれだけ・・・」

「ありがとうアズワド。私は嬉しいのよ。みんな笑って、楽しくしていられるこの瞬間が」

「だいじょうぶ」

「キノ?」

「みんな、ズット一緒に笑うと楽しいカラ、瞬間じゃない・・・ヨ」

キノが笑った。
小さい子が笑うように、無邪気に笑ってみせた。
今日はキノについて色々知ることが出来そう。
この娘の誕生日のお祝いに出来そう。





登場キャラ:キノ アズワド デウス










最終更新:2010年02月15日 02:55
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。