(投稿者:犇)
※オルサ様のIfシナリオを前提とした描写がございます。ご注意ください。
「ロンズデール」
「──アイスマン」
「何をしている。無闇にここに入るな」
「なぜ?」
「その質問は返す。ここに──、いや、この時間に何の用がある」
「石を数えていたの」
「出ていけ」
「暇なのよ。あなたたちと違って。飢えも眠りもしないもの」
「既に数万年の時間を体験したお前に時間感覚などあるのか?」
「慣れはしても薄れはしないものだわ」
「不幸自慢をしにこの時間に来たのか。自称守護女神」
「まさか」
「ならばさっさと用件を言え。そしてここから去ね」
「せっかちなこと」
「お前と違って忙しい身なのでな」
「芳しくはない。性能に問題はないが」
「人格が?」
「ああ」
「それは必要悪よ。アイスマン。他者と一線を画す最良の手段とは、狂うことだもの」
「最良であり、最悪の手段だな」
「状況の遂行を第一義と謳うのであれば、観念的かつ社会的な善悪など無意味なことではない?」
「お前を議論の相手に選んではな」
「結構よ。……子細を伺いましょう」
「発現は確認した。お前が言った通りの結果だ。未だ半信半疑ではあるが」
「疑り深いのね」
「当然だ。時間を停めるなど、易々と信じてやれるものか」
「詩人ね。熱量を奪うだけのこと。それが時間の停止だなんて空想だわ。幼稚な疑似問題」
「お前の言う話も、熱量のない世界というものが存在することを前提とした疑似問題ではないのか?」
「私が幽霊にでも見えるのかしら」
「外的要因による変化の一切を拒絶する存在を、そう呼ぶのであれば。その黒服といい、お前には墓場が似合いだな」
「こんな脆い石と一緒くたにされるのは心外だわ」
「信用がならんという意味だよ」
「私が一度でもあなたに嘘をついたことがあるのかしら」
「それがジルコニアかダイヤモンドか、明らかにする手段がないのでな」
「事実を前にしたこの期に及んで、難儀な人」
「第一が、お前の目的だよ。ロンズデール。俺にはそれが全くもって理解できない」
「既に話した気がするのだけど。来る時間を間違えたかしら」
「その話が理解できんと言うのだ。なぜ今になって来た。何を思い、あの異能を俺に託す。守護女神。お前の守る世界など、とうに滅んで久しいだろうに」
「滅んではいないわ。先が無くなっただけ」
「観測ができない以上、同じことだ。じっと終わりを待つだけの世界に、今更爪を立てる意味などあるまい」
「──完成されているからこそ、その完成度を知りたいのよ」
「完成度」
「私は私の世界を、その完璧な白さを、愛しているわ」
「…………」
「だから信じたい。どんな数奇をもってしても、私の運命は砕けない。守りたいのではないわ。確かめたいの。私の信じる永遠の強度を」
「嫉妬心か」
「どう受け取ってもらっても結構」
「そこに自ら爪を立て、26482回の滅絶と再誕を遂行してなお、……健気なことだ」
「ええ。何回でも」
「永遠を証明する術は、永遠に試行を続けるほかないとしても?」
「今日が永遠であるのなら、それが答えよ。明日が砕けるその日までは」
「蒙昧だな」
「そういうあなたは、どう思っているの?」
「どう、とは。自傷行為に感想の持ち合わせなどないが」
「目的よ。……抹殺を標榜する割には、地面の下でこんな風に石を並べてみたりして。矛盾しているもの」
「俺の目的か」
「ええ。聞かせて」
「──……貴様を砕くことだ」
「まあ」
「お前の嘯く永遠とやら。実に気に食わん。虫酸が走る。吐き気がする。俺の目的は、永遠の信仰者どもの面に否定をぶちまけてやることだ」
「その名のままに、──というわけかしら。協力者を相手に剛毅なことね」
「お前に協力を仰いだ覚えなどないが」
「独り寝が恋しいかと思って」
「それはお前の方ではないのか」
「一晩いさせてくれるのかしら?」
「消え失せろ」
「残念」
「冗談を言っているのではない。これ以上ここに留まるというなら──」
「ふふ。どうするの。私をどうにかできるなんて、まさか思ってはいないのでしょう」
「ああ。その代わりだ。一晩かけて熱量消滅に関する否定的観測について講習をしてやる」
「それは怖いわ。泣きそうよ」
「失せろ」
「石を数え終えたら、そうするわ」
「好きにするがいい」
「ええ。未来で逢いましょう」
「それが遠い場所であることを願おう」
「氷塊風情が、さて──、どれほどの強度かしら」
■ロンズデール
最強最後の守護女神。宝石女。
あらゆる熱量と時間の概念を拒絶し変化を嫌う、旧世界の砕けぬ亡霊。
最終更新:2010年08月30日 03:56