(投稿者:エルス)
私は我が民族と祖国に常に忠誠を尽くし史実に使え、勇敢で従順な兵士として如何なる時もこの神聖なる宣誓をもって我が身を捧げることを誓います。
1933年12月1日のワイマール共和国軍新宣誓文(1934年8月2日改定)
折れた左腕、武装は無し、ヘルメット以外に防具も無し。
銃を突きつけられ、教会の上から狙撃銃で狙われているだろう。
それでも、ツィツェーリアには諦められない理由があった。
何が何でも、この状況を打破し、敵戦力を撃退、若しくは殲滅せねばらなない。
何故ならば、それが任務であり、帰還すべき為に果たさねばらならない事であり、そして帝国に害を及ぼすであろう障害を排除すべきだと、
ツィツェーリアの兵士の部分がそう叫んでいるからだ。民族と祖国に忠誠を誓った兵士の部分が、絶叫しているのだ。
「おいおい、どうしたよ? ええ? 怖いんですか? ビビッてんですか?」
「……知っているか? 臆病な犬は、噛むよりも猛烈に吠えるんだ」
セレスタンの口元がにぃっと持ち上がるのをツィツェーリアは見た。
そして人差指に0.8キログラムの力がかかり、トリガーが引かれる。
撃針が雷管を叩き、発射薬が着火。
弾丸が発射され、あっと言う間に着弾。
「けふっ……!!」
撃たれると分かっていたつもりでも、肺から叩き出される息が声帯を震わせて出てしまった声を抑えることは出来ない。
人間でいえば左側の肺を撃ち抜かれ、ツィツェーリアは殴られたような感覚と痛みのような曖昧な感覚を感じた後、
気が遠くなるほどの激痛に目を潤ませて歯を食い縛ったが、まだ望みを捨ててはいない。
むしろ、この痛みの報復として目の前の腐れ外道を吹き飛ばす方法を考えるのに勢いがついた。
潤んだ視界と激情に駆られて暴走寸前の思考回路。考え、考え、そして、考えつく。
前方、たったの三メートル先にセレクターをフルオートにしたままのM712が落ちている筈だ。
それを掴み、相撃ち覚悟でセレスタンに向かっていけば、どうにかなるだろう。
といっても、それを掴むまでの時間をどう稼ぐかはまだ良い考えが浮かばずにいる。
「苦しいだろ? なあ? メードでも肺撃たれっと苦しいんだよなあ……。人間じゃねえのにおっもしれえよな?
あとな、太股撃たれると大抵の奴は歩けなくなるんだぜ? どうだよおい、考え直してこっちにこねえか? え?」
「……誰、が……。そ、んな、こと……」
「そうそう、そうこなきゃなあ? 俺が楽しめないからさあ!!」
自分の楽しみの為だけに他人を見下すセレスタンに軽蔑の視線を浴びせ、ツィツェーリアは忘れかけていた現状で自分が持つ唯一の武装に気がついた。
腰に吊るされているそれは、MAID用手榴散弾StiS39という代物だ。
しかし、この状況で作動させることは不可能だし、何より作動に成功したとしても、
炸裂したTNT爆薬の強烈な爆風で飛び散る殺傷能力を持つ約350個の鉄球がツィツェーリア自身を襲う可能性も捨てきれない。
「んでぇ、お前らは何しにここにきたの? ピクニックじゃあねえよな?」
一々鼻につく高慢な物言いに、ツィツェーリアは自分の思考が掻き乱されるのを感じ、すぐに冷静になる。
そして、一つだけこの腐れ外道を地獄に送る方法を思いついた。
「そう、ピクニックなどでは、ない」
「おおい、なんでそんな素直になってんですか? 虐めがいがねえじゃん? ったくよう……。もうちょっと頑張っちゃっても良いんだぜ? え?」
一気にやる気を失い、集中力を欠いたセレスタンの態度を見て、ツィツェーリアは切り札を出すことを決めた。
肺に血が入ってきているのか、激痛と息苦しさで涙を流しながら、ツィツェーリアは肺に溜まった血を吐き出すと、
「死に場所を、求めて、だ」
不気味な笑みを浮かべ、腰に固定されていたStiS39を引っ掴み、そのままセレスタンの上空目掛けてぶん投げた。
4.92キログラムもあるStiS39をまともに投げられたのは、ツィツェーリアがメードであったからだ。
まず、普通の人間は約5キログラム程の物体を満足に投擲出来ない。
それどころか、無理に投げようとしてしまえば投擲する際に使用する腕・肩・腰などを痛め、それ以降の生活に支障が出る可能性もある。
「な、があっ!?」
そういうわけで、自分がメードであることを感謝しつつ、ツィツェーリアは血を吐き出したことで軽くなった肺に一時的に安堵し、足に力を込めた。
そして物が物だけあって、セレスタンは無駄と知りながらも草原に伏せた。
3秒後。ツィツェーリアはM712を手にして、その銃口をセレスタンに向けていた。
しばしの間、銃口を見て目をぱちくりさせたセレスタンだが、状況を理解したらしく、諦めの笑顔を顔に浮かばせ、
「……点火してねえのかよ。んだよこのアマ、ハッタリかましやがって」
「少し黙っていろ。腐れ外道」
パァンと、乾いた発砲音が響いた。
7.63mm弾が一切の容赦なく、セレスタンの胸を穿ち、全ての権利を刈り取った。
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最終更新:2010年09月13日 00:55