(投稿者:Cet)
「僕だったら、黙って泉に降りていくのにな」
- 星の王子さま
◇
ギーレンの執務室には、今三人の人間がいた。
一人は金髪の少女、一人は金髪の壮健な男、そして
ギーレン・ジ・エントリヒ。
執務机で書類にサインをしていくギーレンの横に少女は佇み、正面に、『休め』の姿勢で男は立っている。
「
オービエ」
「は」
淀みなく動き続ける筆先は些かも鈍らないまま、呼応が響いた。
「信仰とは何だ」
「現実を現実たらしめる行いでございます」
素早い返答の次に、沈黙が降りる。
さらさら、と筆が書類の上を流れる。
特徴的な書式の文章が、紙面に記されている。
「信仰が現実逃避であるという声も多いが」
「そのような批判は正確ではありませぬ、信仰とは、意味無き人生に意味を生み、意義無き世界に意義を生む、つまり、現実を現実足り得させる行為なのです」
「意味の無い人生も、意義の無い世界も、夢のようなものということか」
神父の成りをした男は、満足そうな笑みを浮かべる。
「その通りです、我々は自らの根源たる泉に降りなければなりません、その泉こそが、我々を我々たらしめます。
もっとも、我々はその泉を手放すことができないし、その泉と関係を持たざるをも得ないのですが」
「いずれにしても、現実は現実であるということだな」
「プロセスを把握しておくことが肝要なのです」
筆が止まる。
ギーレンが視線を上げる。
暫く視線が交錯し、再びギーレンが紙面に目を落とす、僅かな間紙面に視線を注ぎ、そして彼は書類を手に立ち上がる。
「
スィルトネート、同伴しろ」
「は」
少女が恭しく答える。
「オービエ、お前もだ」
「は」
歩き出す二人に、男も続く。
最終更新:2011年05月05日 13:52