(投稿者:Cet)
歩く。
ベージュの絨毯が敷かれた廊下を歩いていく。閲覧者は、今のところ俺以外に誰一人としていない。俺が今目指している場所はしっかりと決まっていて、その書架と書架の間を通り抜ける中で、それほど時間も掛からずに俺はその書物の置かれた場所へと辿り着くことができている。
俺はその書架に収められた、本の群れを眺めた。
そして、身長よりも少し高い位置にあるその一冊の、赤い背表紙の本に手を伸ばし、指をかけた。
傾けるようにして引っ張り出す。
頁は幾分黄ばんでいて、その記載の内容が今から十年以上前のことであるのを俺に思い出させている。俺は、その書物をぱらぱらとめくっていく。そして、暫くして俺は、自分の求めていた部分へと辿り着くことができる。
そこには、こう記されている。
ルフトバッフェ兵士列伝。
さらに頁を繰っていくと、とある項に辿り着くことになる。俺はその、他の項に比べれば少しばかり簡潔に過ぎる印象のある内容に、ゆっくりと目を通していく。
所属開始は、1941年。
主な所属先は、支援戦闘小隊。
俺は、その項を眺めていく中で、一度として表情を変えることはない。そこで今更になって、その空間に満ちている沈黙というものがひどく自分の耳を突き刺していることに気付く。平日の昼間の、しかもこのようなニッチな情報を扱う場所において、当然ながら人で賑わうことなどあろうはずもないのだ。”――が戦闘の中で頭角を現し始めたのは1947年の半ばを過ぎた頃であり、熾烈な戦闘によってルフトバッフェ構成員の多数が入れ替わりを余儀なくされる中、再編成された部隊の指揮官としての役割を果たし始めた頃である――”
俺はそこまで読んで、パタン、とその本を閉じてしまう。
そして視線を上げる。
その本の群れの、一角にぽっかりと空いた穴を見つめて、暫くじっとしている。やがて、俺はその空白へと、手に持っていた本を戻した。
最終更新:2013年11月09日 18:11