(投稿者:ふみ)
※キャラ崩壊注意
エントリヒ帝国王宮。
その中で最も厳格な空間たる謁見の間において、最奥の玉座に深く腰を下ろす男。
彼こそがエントリヒの国家元首であり国軍最高司令官、神懸かり的カリスマで多くの国民の支持を得ている
マクシムム・ジ・ヴィクトリア・ヴォーダント・フォン・エントリヒ69世その人である。
ただ座しているだけでもバックにドドドという効果音が出てきそうな強烈な威圧感を湛える皇帝と対面しているのは驚く事に年端もいかない銀髪の少女であった。
しかし彼女もただの少女ではない、彼女こそ突如現れた人類の脅威に対抗するべく生まれた決選兵器「MAID」であり
エントリヒ帝国の最高戦力、ジークフリートなのだ。
今、彼女が皇帝に対面しているのは出陣前に戦果を約束するためである。もう一通りの儀礼は済ませ、あとは出陣するだけなのだが…
「それでは陛下、行って参ります…」
ジークフリートは最後の挨拶を済ませようとした、が
「まぁてジークよ…」
そこで皇帝が口を開いた。
「はっ…」
ジークは驚いたように顔を上げ、皇帝の方を見やる。
「ワシを陛ぃ下と呼ぶでない…」
これでやっと緊張から解放されると思ってたのにいきなり妙な事を言い出した皇帝に一瞬あっけに取られたジーク。
頭の上に疑問符を浮かべながらジークは返事を返した。
「はっ…では何とお呼びすれば…」
沈黙が場を支配する…が、皇帝の後ろから発せられるオーラの勢いがさらに増してきたのでどうみても静かではない。
そして皇帝は、おもむろに口を開いた。
「パぁパと 呼ヴぇ。」
ジークフリートは一瞬思考が停止し、次の瞬間には数えきれない疑問が一気に湧き出してきた。
わざわざ出陣前にそんなことを?というか何でパパ?あの人にパパと呼べなんて言われたことなんてないのに?
あらゆる思いが浮かんでは消えたが、これは皇帝の命令。断るわけにはいかない。
「…で、では」
「その…」
「…パぁ…………………ぱ……………」
「うむッ!!!」
恥ずかしいやら何やらでみるみる顔を硬直させながら言葉を絞りだすジークを見、皇帝は口元に笑みを浮かべながら心の中で叫んだ。
(俺(ワシ)に良し!!!)
ダキュゥン!
乾いた発泡音が謁見の間内に響き、皇帝の頭より高い背もたれに小さな穴が穿たれた。
ジークフリートはすぐさま剣を抜き銃声のした方向へ身構えたが、そこに居たのは見知った顔だった。
「チッ…しくじったか」
ジークフリートと皇帝の視線の先で硝煙をくゆらす拳銃を握り、心底憎たらしそうに小声でつぶやいたのは
エントリヒ帝国の宰相にて皇帝の実子、ギーレン・ジ・エントリヒだった。
皇帝は自分の息子に発砲され、頬の筋から血を垂らしても微動だにしない…と、思われたが―
「一体ぬわんのつもりだギーレン!? ワシを殺す気か!?」
怒り心頭で玉座から立ち上がりバックの威圧感を何倍も増幅させギーレンを睨みつけた。
実の息子に真正面から謀殺されかかった、というのもあるが何より楽しみをブチ壊されたのが許せなかったのだろう。
「スンマセンねぇ、職務濫用してパワハラかましてくれた変態がいたんでちょっくら射殺してやろうかと思いまして」
そんな皇帝の行為すら真正面から変態扱いするギーレン。だが皇帝も負けじとさらにつっかかる。
「貴様ぁ!実の親に向かって変態とは何だ! エントリヒ帝国の皇帝だぞ!一国の王ぞ!仮に変態だとしても変態という名の紳士であるぞ!!」
「よかったじゃないですか、そーすりゃ俺が新皇帝だ」
どさくさに紛れて変態紳士宣言する皇帝を意に介さず自分の野心を暴露するギーレン。
皇帝も自らの地位を狙われると知っては黙っていないだろう、特に自分の息子に対しては。
「この愚か者メガ! 貴様のような人心を惹く力をもてぬ男が簡単にエントリヒ大帝国を背負えると思っているのか!?」
「ぁあ? 勘違いしてんじゃねーよクソ親父。テメーが視察だなんだ言って他の国行ってた間にテメーの雁首狙ってる連中始末すんのにどんだけ俺が苦労したと思ってんだ?
俺のコネ使えばテメーに頼らなくてもこの国は支配できるが…テメーにはこの国の象徴としてまだ生きてもらわなくちゃなんないんでね」
「っていうかお前も今さっきワシを殺そうとしていたではなぬわぃか!」
「もうテメーの酔狂の後始末させられんのはうんざりなんだよ!!これ以上俺の髪の毛を減らすマネすんな!!」
おそらくここに他の誰かがいたら盛大にずっこけてたところかもしれない。
当然であろう。全世界で五本指に入る大国の国家元首を、その上実の父親を殺す理由が自分の毛髪だと言うのだ。
「貴様のよぅな青二才に余が殺せると思うてかぁ!!少なくともあとひゃぁくねんは生きてぇやるわ!!」
「るせぇ!やっぱ今ここで始末してやる!!」
「ふははははははは!!やれるものならやあってみるがいい!!」
がなりながら拳銃を撃つ息子と無駄に美しく翻りながら銃弾を避ける父親。
あまりにも滑稽な親子喧嘩を繰り広げながら二人は部屋の向こうへと消えていった。
ただ一人取り残されたジークフリートは一人寂しく―否、独りだからこそ言えたのかもしれない―呟いたであった。
「もうやだ…このエントリヒ家」
最終更新:2008年10月18日 22:01