戦闘準備

その日、ある部隊の格納庫は慌しかった。
そこに鎮座するは40mm機関砲、105mm榴弾砲、57mm対戦車砲と人間では扱いきれない程の重量を誇る武装の山。
しかし、それだけではなかった。
エクスプレスとも称される程に大型なトラック。それが3台もその格納庫には厳重に保管されているのだ。
補給部隊と言うには物々しい程であり小規模である。
そもそもそれらの装備には防盾などは装備されておらず、それどころか即席の照準まで装備されていた。

「急げ、出撃準備だ!」
「弾薬はトラックに詰める分だけ持って行け、撃ちつくすよりはマシだ!」

兵士達が膨大な量の弾薬を3台のトラックに詰めていく。
その種類は雑多で、膨大な量であったが共通する事柄が一つ存在した。
それは、どれも重火器の弾薬と言った所だ。
徹甲弾、焼夷弾、成型炸薬弾、榴弾、VT信管搭載型…と多種多様な弾薬を備え付けられている所、何に使うのかもはっきりしないだろう。
そのような不可解な作業を行っている中、その格納庫の奥では、異様な光景が繰り広げられていた。

「特殊義肢接続開始!」
「了解、………痛いかもしれないけど我慢してくれよ。」

その光景の真ん中には眼の光を無くした少女が一人。
手足は無く、眼も片目しか機能していない。そう、作業の数時間前まで車椅子に座っていた少女である。
名前はマリア
マリアを取り囲むように配置されたクレーンや兵士が蠢く。
マリアの意思など気にせず、兵士達はある作業を行っていた。
クレーンによって保持された無骨な鋼鉄な手足、それの動作を行わせるエンジンなどのパーツを装着する作業だ。
マリアの背中に背負うように中型エンジンが背負われ、それに繋げるかのように鋼鉄のパイプがエンジンに装着される。
そして少女の体に無骨な鋼鉄の塊が繋がっていく。
むき出しのパイプや油圧作動のアクチュエーターがふんだんに使用されたそれは、少女の身体には不釣合いなものだった。
アルトメリア陸軍が研究を進めている戦傷メード復員計画「リサイクル計画」に基づいて製作された装備の一つでもある。
尤も、この装備はそれらの計画中でも存在が疑問視されているものであるが。
簡単な話である。このアクチュエーターを以ってしても歩行する事は難しく、結局駆動させるにはエターナルコアによるアシストが必要となってくる。
それによってメードの寿命と言うものは減っていく事が多いのだ。

計画進行当時は悪魔の研究とまで囁かれた計画ではあるが、
それによってアルトメリアの実働メード数は他国よりも減少し辛くなっている事も考えれば些細な事だろう。
メードはいまや対G戦闘において必要不可欠な存在であるからだ。
しかし、そうだからと言って好き勝手させる道理なども無い。
特に統制から外れたメードはそのような計画においては考慮されてはいなかった。
また、この計画によって生じた装備を改造して一般兵士にも運用できるようにしようとする動きも有るが、まだまだ先の話であるようだ。

「装着完了、よくがんばったな。」

そうして、マリアの戦闘準備も終了した。
鋼鉄の手足を得たマリアは、身長2mもの巨体となっていた。
マリアはゆっくりとトラックの荷台に身体を預ける。
詳しく言えば、それでもマリアは急いでいる方なのである。
機動力の欠如、それもこの身体の欠点である。
マリアの手足を兵士が固定する。
そうして、出撃に掛かる手続き云々も済ませたトニーがトラックに乗り込むまでの間に全ての工程が終了。
後は戦場へ向かうだけであった。
少女は何も言わずに眼を閉じて、戦いに備えようとする。
彼女なりの、精神を整える方法であった。


走り始めるトラック。
その荷台には兵士と弾薬と巨大なメードを乗せて。
目的地は基地より西部数十キロメートル。
既にGに攻撃された都市だった。
そしてそこは嘗てある少女が奮戦し、その身体を散らせた場所だった。
そう、第4回目の奪還作戦が、今繰り広がれようとしていたのだ。
最終更新:2008年10月23日 01:51
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